運動不足
――5月初旬、GW――
「はあ。掃除機掛け終わったな」
祝日の朝10時。俺は朝早くから家の掃除をしていた。
今日の11時に香澄が家に来る。ちゃんと綺麗にしておかんと。
「ふあぁ。おはよう。ゆうちゃん。朝ごはんは?」
母さんが寝ぼけ眼で起きる。寝ぐせが激しく、よれよれのTシャツにジャージを穿いている。なんてひどい姿だ。
香澄は以前、母さんの事をモデルみたいとか言ってたが、こんな姿の母さんを見てもモデルみたいと言えるだろうか?
「顔洗って、着替えてこいよ。朝ごはんなら食パン焼いて適当に食べろ」
母さんの朝ごはんの準備なんて面倒だ。食パンで勘弁しろ。
「はーい」
――
朝ごはんを食べた母さんは、どこかへ出かける準備をしている。
母さん? 今日、香澄が来るって言ったはずなんだが……俺、家にいろって言ったはずだよな。
「あ、ゆうちゃん。今日、緊急で手術入っちゃたの。だから母さん、これから病院行ってくるわ」
「……は?」
「聞こえなかった? 今日、緊急で手術入っちゃたの。だから母さん、これから病院行ってくるわ」
いやいや! 聞こえた! 全く同じ事2回も言うな! 何故、今日に限って緊急で手術が入るんだ!? わざとなのか!? これからとなると……夜遅くまで帰って来ないだろう。
「母さん、他の先生じゃダメなのか?」
「それがねぇ、今、先生が足りないらしいのよ。だから今一番暇してる私が行くしかないの」
「な……な……――母さんは俺と手術どっちが大事なんだ!?」
「手術に決まってるでしょうが! 患者の命がかかってるんだから! バカな事言うんじゃないよ!」
ぐぐ! 確かにそうだ。俺も将来、医師になるつもりの人間だ。だから、これがいかにバカバカしい質問かわかっている。
しかし、今日は香澄が来る日だ。
香澄が大地と付き合っている事は重々承知している――が、家で香澄と2人きりというのは俺が辛い!
あ、近くのレストランに行くのもありか。だが、話の内容を他の人に聞かれたくない。
「ゆうちゃーん」
母さんがにやけながら俺に近づいてくる。
「今日は頑張んなさいよ」
母さんは俺の肩にポン、と手を置く。
――母さん? やっぱりわざとか!?
「あのね……医師の結婚相手探しって結構苦労するのよ」
医師の結婚相手……か。
「医師はね、医師っていうだけで異性が群がるのよ。その医師がどんな人柄であろうとね」
「だから、そのお相手が信用できるかどうか……厳しい目で見なくてはいけないわ。お相手のせいで家庭が崩壊するのは勘弁願いたいわ」
「特にゆうちゃんの場合、+αで見た目もいいんだから。相手選びに苦労してるんじゃない?」
そうだな。女性関係はろくな思い出がない。
「香澄ちゃんは、小さい頃からずっとゆうちゃんを見てるし、ゆうちゃんのクセのある性格をよく理解しているみたいだし、学校の先生として頑張っていると聞いたわ。香澄ちゃんにとって学校の先生は天職なのかもしれないわね」
母さんは穏やかな表情で俺の目を真っ直ぐに見る。
「ちょーっとだけ年は離れてるけど、香澄ちゃんなら安心できるわ」
「母さん。香澄は一応、結婚を約束している相手がいるんだが」
母さんは呆気に取られる。
「は? 香澄ちゃん既に他の人のものだったの!? 何やってんのよ! ゆうちゃんのバカ!」
ば、バカって……
「とは言っても……実は、香澄の相手に少し問題がありそうなんだ。今日はその話をするつもりだ」
「問題?」
「うん。どうも最近、香澄の様子がおかしくてな。ちょっと心配なんだ」
「それは大変じゃない! ゆうちゃん! しっかりと香澄ちゃんを守るのよ!」
母さんの目がギラギラ輝いている。
「あの。ひとつ言っておくが……俺、そもそも結婚するつもりはないんだけど」
「まあ、どうして?」
「香澄は他の――同い年から30代くらいのしっかりした人の方がいいだろうし、俺は俺で女性関係で面倒なことに巻き込まれたくない」
「まあああ! この親不孝者! 孫の顔が見れないなんてぇぇ!」
母さんが泣きついてきた。
母さん。香澄と一緒になる資格なんて、俺にはないぞ。
俺が香澄のそばにいられるのは香澄の幸せを見届けるまでだ。
――午後12時――
おかしい。香澄は今日の11時頃に俺の家に来ると言っていた。なのに、約束の時間から1時間も過ぎている。何かあったのかもしれない。
俺は香澄に電話する。しかし、香澄は電話に出ない。何度も電話するが、電話に出る気配がない。
「クソ!」
俺は香澄のアパートに向かって、自転車を全力で走らせた。ぐぐ……自転車で全力疾走は疲れる!
運転免許は取ったけど、車がない!マイカーが欲しい。




