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おやすみなさい

 俺は柳木優一。大学4年だ。


 遊園地の件以来……大地とはちょくちょくいつもの喫茶店で会っている。大地はいつも通りである。

 俺は平穏な大学生活を過ごしている。


――4月中旬、月曜日――


「はあ……」


 時刻は深夜12時。俺は、自分の部屋の机にてスマホを眺めていた。

 机の上には、麻酔科学の教科書とノート、完成したレポートが置いてある。


「香澄の連絡先を聞いたのはいいが――メッセージ、なんて送ったらいいんだ」


 毎日深夜12時頃になると、俺は香澄へのメッセージ第一号を考えていた。

 俺はまだ香澄へ連絡していなかった。今まで、女から言い寄られる事は多かったが、よほどのことがない限り自分から女に連絡した事がない。だから、何を送っていいのかわからなかった。


 くっ、相手は所詮、香澄ではないか。今更何を躊躇しているんだ……そうだ、過去の事を思い出せ。そうすれば、何かいいメッセージが浮かぶかもしれん。



◆◆◆


――14年前――


 俺が小2の時、香澄が中学2年の時。


「ゆうちゃん! おにぎり作ってきたよー! 今日こそは美味しいって言わせてみせるわ!」


 香澄が不恰好なおにぎりを大量に作ってきた。ちなみに海苔はグチャグチャだ。俺は嫌な予感しかしなかった。


「うげ……ブスの香澄の作ったブサイクな料理……」


「こら! 優一! 女の子にブスって言わない! 何度言えばわかるの!」


 姉さんに相変わらず怒られる。

 俺はブサイクなおにぎりを恐る恐る一口食べた。


「――――ッッッッ!!!」


「ゆうちゃん、どう?美味しい?」


「うあーー! クソまず!」


 俺はブサイクなおにぎりを香澄に突き返した。


「何だよこれ! 塩じゃなくて砂糖が大量に入ってるじゃないか! 俺を糖尿病で殺す気かよ!? しかもなんで砂糖がおにぎりの中心に寄ってんの!? どういう握り方してんだよ!」


「ゆうちゃん! 糖尿病なんて難しい言葉、どこで覚えてきたの!?」


「そんなの香澄に関係ないでしょ! ブスの作る料理は味も最悪だ!」


「優一! なんて事言うの!」


◆◆◆



 ……だめだ。あの時のクソまずおにぎりの味を思い出して、吐きそうになってきた。うぷ。

 はあ。思い出なんて参考にならんな。何せあの時の俺はまだ子供だったしなぁ。

 とりあえず、何でもいいから適当に送ってみるか。『こんばんは』とか。


 ――その時。俺宛にメッセージが届いた。

 誰だ? 俺はメッセージの送り主を確認する。――香澄からだ。何故俺の連絡先を? 俺はメッセージを読んだ。


<夜遅くにごめんなさい

<聞きたい事があるの


 聞きたい事……もしかして、大地の事だろうか?

 俺はとりあえずSNS通話で香澄に電話をかけた。


「ゆうちゃん? ごめんなさい。こんな時間に……」


「そんな事は気にするな。どうして俺の連絡先を?」


「遊園地の帰りのラブホに行った時――トイレで桂木さんに教えてもらったの。『優一さんの連絡先もついでに教えとくね!何か困った事があったら優一さんが相談に乗ってくれるって!』て……」


 桂木さん! 香澄に俺の連絡先を教えたなんて、俺は聞いてないぞ! 俺に伝え忘れたな!? ……まあ、過ぎてしまった事はしょうがない。


「それで、俺に聞きたい事って?」


「あの……大地とは会ってる?」


「ああ、大学近くの喫茶店で会ってる」


「大地に何か変わった事とかない? 特に遊園地に行った時期とか……最近でもいいんだけど」


「アイツはいつも通りだ。遊園地に行った時期だろうが何だろうが――ずーっと単細胞バカだ」


「そう……ありがとう。じゃあ、切るね」


「待て。俺からも聞きたい事がある」


 香澄が通話を切ろうとするところを、俺は引き止める。


「何?」


「遊園地の帰りのラブホに泊まった日。何かあったのか?」


「え? な、何もないわ」


「ラブホに泊まった次の日の朝、香澄の様子、おかしかっただろ。何かあったとしか思えないな」


「ゆうちゃんたちがラブホに入ったから、少し落ち込んだの。大地も言ってたじゃない」


 それはあくまでも大地の言った事だ。香澄の言った事ではない。


「わかった。じゃあ、もう一つ。桂木さんを家まで送ったあと、香澄が震えていたのは何故だ?」


「それは……体調がすぐれなかったのよ」


「体調が悪いなら、すぐ帰れば良かったのに。どうしてお昼ご飯を食べに行ったんだ?」


「あ……」


「香澄は嘘が下手くそだな」


 俺はため息をついた。


「ゆうちゃんったら……」


 香澄の声のトーンが落ちていく。


「言いづらい事か?」


「あまり気分のいい話じゃなくて……ごめんなさい」


 香澄は1人で抱えている。桜田の時と同じだ。まったく。


「言いたくないなら、今は聞かない。ただ、これだけは約束してくれ。何かあったら俺に言え。必ずだ」


「うん。ありがとう、ゆうちゃん」


 俺は知ってる。こんな口約束をしたところで、香澄は簡単に口を割らない。さて、どうしたもんかな。ハリセンボンでも釣ってくるか? もし香澄が約束破ったらハリセンボン飲ますぞ! ってな。

 遊園地行って以来、香澄とは会ってない。電話でもメッセージでもなく、直接話したほうがいいかもな。


「香澄。どこかの日曜日空いてるか? 大地の事で話がしたい。土曜日は大地とデートだろ?」


「4月は忙しいから……5月のGWなら空いてるわ。その頃に大地が実家に帰るって」


 5月のGWか……まあいいか。


「じゃあ、GWの赤い日に俺ん家来い。母さんにも家にいるように言っておく」


「……わかったわ。あ、月子ちゃんにお線香をあげないとね」


 香澄の声のトーンが少しだけ明るくなった。


「香澄。通話切ったら、俺に関する情報――連絡先と通話履歴、メッセージを香澄のスマホから消しておけ。俺と香澄が連絡取り合っているの、大地が嫌がるだろうし、見つかったら大変だからな。俺のスマホには香澄の連絡先を残しておく」


「うん」


「あと、連絡していい時間帯を教えてくれ」


「平日と日曜の夜12時以降なら……」


「了解。また明日、そのくらいに俺から連絡するよ」


「わかったわ。ゆうちゃん。おやすみなさい」


 おやすみなさい、か。


「……おやすみ」


 通話の切れる音が俺の耳に入る。

 おやすみなんて、久しぶりに言ったな。

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