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ギャー! 絶叫男

――土曜日――


 大地()たちは優一の強引な誘いにより、俺の住むアパートから1時間ほどの距離にある遊園地にやってきた。

 天気は晴れており、気持ちは開放感で満たされる。


「わっほーい! 香澄! ジェットコースター乗ろうぜ!」


「まあ! いいわね!」


 メンバーは俺と香澄、優一と桂木さん、そして……


「大地! 俺も! 絵梨奈(えりな)も行こうぜ!」


「はい。ミナトくん」


 ミナトと彼女の絵梨奈さんも一緒だ。移動手段は、俺と香澄、ミナトと絵梨奈さんは香澄の車。優一と桂木さんの2人は電車だ。


「おい、大地」


 優一が俺の後ろ襟をぎゅっと掴んだ。


「ぐぇ! 何だよ? 優一」


「何故、青倉もいる?」


「いいじゃねぇか。俺とミナトはあと1年すりゃ、大学卒業だぜ? 今のうちに思い出作っとかないと」


「はあ。バカが2人も……」


 優一は眉間に人差し指を押し当てる。


「ねえ、ゆうちゃんと桂木さんもジェットコースター乗る? ゆうちゃん、昔よく乗ってたもんね」


 え? 優一、絶叫系好きだったのか? 絶叫で『ギャー!』て楽しそうに叫ぶのか?


「あ、ああ……」


 優一が香澄に返事をしようとすると――


「優一さん! アタシ、絶叫系は苦手です!」


 桂木さんが優一の腕を引っ張る。


「そうか、すまんな。桂木さん……」


「じゃ、優一は桂木さんと2人で静かな乗り物を堪能してくればいいんじゃないか? 俺たちは絶叫で絶叫してくるから!」


 俺は優一の肩を叩いた。


「……そうだな。はあ」


 優一は大きなため息をついた。よほど絶叫系に乗りたかったんだな。


――


 優一たちと別れた大地()たちはジェットコースターの順番を待っている。俺とミナト、香澄と絵梨奈さんが横に並ぶ。

 香澄は絵梨奈さんと楽しそうに話している。


「あれ、大地。柳木と桂木さんだっけ? ジェットコースター乗らないのか?」


「ああ。桂木さんが絶叫系苦手なんだとさ」


「そうなんだ。しかし大地が柳木と仲良いなんて意外だな」


「そうか?」


「だってさ、柳木って俺らからすると、別世界の人間じゃん。なんか近寄りがたいっつーかさ」


 俺からすると、ミナトもかつて別世界の人間だったんだよな。野球で有名人だったし。


「ああ。確かに……でも、優一は結構寂しがり屋だぞ」


「え!? 何それ! 詳しく教えて!」


 ミナトの目がワクワクと言っているようだ。


「優一はな、俺がインターンシップしてた時、しょっちゅう俺に会いに来てたぞ」


「うわ! 柳木ってそんな可愛い一面があったのかよ!」


 本当は変態陰湿ストーカー野郎と言いたかったが、言わないでおいた。


「もう、大地ったら……確かにゆうちゃんは寂しがり屋だけど……」


 ここで香澄が割って入る。絵梨奈さんはクスクスと笑う。


「いいじゃないの。ミナトも言ってただろ? 優一は近寄りがたいって。少しでも親近感持ってくれれば、ミナトも話しやすいだろ?」


「まあ」


「柊先生って、柳木と知り合いなんですか? それにしても、ゆうちゃんって……柳木にそんなあだ名がついてたなんて……ププ」


 ミナトが香澄に質問する。そうだ、ミナトは全然知らないんだもんな。


「ええ。ゆうちゃんは小さい頃から知ってるわ。とても素直な子よ」


「ええ!? 柳木が素直って……いつも仏頂面の柳木が……ププププ」


 ミナトは笑いを堪えている。絵梨奈さんはそんなミナトを微笑ましいと思わんばかりに見つめている。


――


 大地たちと別れた優一()と桂木さんはメリーゴーランドの順番を待っている。


「優一さん、あの……」


「何だ?」


 俺は桂木さんの方に顔を向ける。


「香澄さんて人とはどんな関係なんですか? 香澄さんて佐々本くんの婚約者ですよね? 優一さんにも馴れ馴れしい感じがして……その……」


「ん? ああ、香澄は姉さんの友達だ。俺が小さい頃いつも遊んでもらってたからな。つい……」


 俺は桂木さんの心に悪い影響を与えないように答える。


「それだけですか?」


 女のカンてヤツが何か囁いてるんだろう。桂木さんは疑いの目を俺に向けてくる。


「それだけだよ」


 俺はとりあえず、ニッコリ微笑んだ。



――土曜日、昼――


 アトラクションを一通り遊んだ大地()たちは、遊園地の中にあるレストランでお昼ご飯を食べている。

 大きな丸いテーブルを6人で囲い、俺、香澄、絵里奈さん、ミナト、桂木さん、優一の順に並んで座る。


「なあ、柳木は何乗ったんだ?」


 ミナトはラーメンの麺をツルっと飲み込んだ後、優一に話しかける。


「メリーゴーランド、ティーカップ、観覧車だ」


 優一はハンバーグのかけらを一口飲み込んだ後、答える。


「いいよな! ティーカップ! 高速で回すのすっげぇ楽しいんだよな!」


「お前は小学生か。……そんで、青倉たちは何に乗ってきたんだ?」


「んーとな、まずジェットコースター2種類だろ? 後は……バイキングとタワーから落ちるヤツ? どれも楽しかったぞ!」


「朝っぱらから絶叫系ばかり乗るとは思わなかったぞ……そんな激しい乗り物ばかり乗って――青倉はよく元気でいられるな」


 優一の表情が曇る。俺らは午後もずっと絶叫系でもいいくらいだがな。


「そんな褒めるなよ! 照れるぜ! あ、ご飯食ったら一緒にジェットコースター乗ろうぜ! 柳木も乗りたかったんだろ?」


「……」


 優一が『あー、コイツめんどくせー』みたいな表情をしている。


「優一。桂木さんなら俺が面倒見るからジェットコースター乗って来いよ」


 俺は優一に小声で話しかけると、優一は俺に視線を向ける。


「じゃ、お言葉に甘えて」


 丸一日桂木さんに付き添うのは疲れるだろうし、優一には程よく休憩を与えないとな。ミナトたちを連れてきて正解だった。



――午後――


「はい、桂木さん。飲み物買ってきたよ」

「ありがとう! 佐々本くん」


 俺は桂木さんとジェットコースター乗り場の近くのベンチに座り、飲み物を飲む。

 俺は桂木さんの横顔を眺める。こうして見ると、桂木さんは至って普通の女の子だ。こんな桂木さんをパッと見、病気だなんて誰も思わないよな。


「佐々本くん……――あのね、アタシって変なのかな……」


 う……いきなり桂木さんの核心をつく質問がきた。


「えー……変というか……独特な価値観を持ってるなぁ、と思う時がたまにあるかな」


 俺は精一杯気遣って答える。桂木さんはクスっと笑う。


「優一さんがね、いい先生を紹介するから、早く病院に行った方がいいって言うの。このまま放置すると、他の病気が付加されていってアタシが壊れてしまうって。そうなると元に戻るのが難しくなるって」


 随分と直球に言われたな。


「へぇ。桂木さんはどうするつもりなんだ?」


「病院行くなんて……だって体の調子はいいし、病気の内容言われても意味不明だもの」


 桂木さんは伏し目がちに言う。こりゃ説得させるのに時間がかかりそうだな。

 俺らからすると、桂木さんのした事はかなりおかしいとは思うんだが、当の本人は全くわからないんだな。なるほど……


「ねえ、香澄さんて、佐々本くんの婚約者なんでしょ?」


「ああ、そうだけど」


「そんで、優一さん……香澄さんの事好きなんでしょ? 香澄さんは優一さんのお姉さんの友人で、優一さんが小さい頃から遊んでもらっていた、と聞いたわ」


 ぶっ! なんで優一の気持ちがわかるんだよ! これが『女のカン』てヤツなのか? 恐ろしい……


「えーと、優一は『今まで好きな人になった人はいない』て言ってたぜ」


「……ふーん」


 桂木さんは細目で俺を見る。

 以前、優一がそう言ってたんだから俺は嘘を言ってない。


「まあ、正直言うと……優一を振り向かせるのは難しいと思う」


 桂木さんは目を丸くする。俺は桂木さんに優一の事を教えようと考えた。もしかしたら、桂木さんは優一の事を本気で好きになりかけているのかもしれない。


「優一は、今まで辛くて苦しい人生を送ってきた。家庭やら学校やら……そのせいで簡単に人を信用できないんだ。優一にとって信用できる人は母親や、優一のお姉さん……そして、香澄だけ、て感じなのかもな。優一を振り向かせるためには――香澄以上の存在にならないと難しいと思う」


 さて、この話を聞いた上で、桂木さんはどうするんだろうか。

 桂木さんは胸が苦しそうな表情を浮かべる。


「優一さんが哀れだわ。香澄さんは佐々本くんの婚約者でしょ」


 優一が哀れ――俺もそう思う。

 桂木さんは病気を除けばとてもいい人だ。もういっそ優一と桂木さんでくっつけばいいんじゃないか? と、俺は考えてしまった。これは、自分にとって都合のいい、身勝手な考えだな……

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