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その1ページを破り捨てたい

――2月、インターンシップ6日目――


「はあ、早く土曜日にならないかなぁ」


 俺、佐々本大地。今、インターンシップ中だ。今週の土曜日、香澄が手作りのバレンタインチョコを持って来るということがあり、テンション爆上がり中だ。

 週が変わり、グループ替えが行われた。俺は桂木さんとは違うグループになった。先週の件で、かなり気まずい雰囲気だから正直助かった。


 ……気のせいだろうか。周囲の俺を見る目が――冷たい。その上、俺を見てヒソヒソ何やら話しているような……――まあ、いっか。早く土曜日来い。


――


「あのさ、ここの仕様なんだけど……」


 今週から始まったシステム開発の演習の時間。要件から設計書を起こし開発する、といった演習だ。俺は隣の席に座っている男子学生に声をかける。


「……ええと、知らない」


 その人は俺と関わりたくない、といった様子に見えた。俺は周囲を見渡すと、周りの人たちは俺と目を合わさないように視線を落とす。


「……何だ?」


――夕方


「一体、どうなってるんだよ……誰も俺に口聞いてくれないなんて、おかしいだろ」


 俺はブツブツつぶやきながら、帰り支度をしていると――


「佐々本くん、ちょっといいかな」


 誰かが俺を呼ぶ。俺は声の方に顔を向けた。

 その人は、中肉中背で肌の白い、メガネをかけた男であった。年は30歳くらい。名前は米田(よねだ) 圭吾(けいご)。インターンシップのシステム開発演習の講師である。



――


 小さな会議室にて。俺と米田さんは向かい合って座る。


「帰ろうとしているところ、すまないね。実は……佐々本くんの良くない噂が社内に広まっているみたいなんだよ」


 米田さんは険しい表情で冷静に話した。

 俺の良くない噂? 俺、何もしてないのに。


「佐々本くんが桂木さんを散々弄んで、捨てたって」


「はあああ!?」


 俺は驚きのあまり大声を出した。俺、そんな事してないぞ!


「桂木さんが周囲に広めているみたいなんだ。しかも涙目になりながら。僕のところにも来た」


 今週からのインターンシップは居心地が悪くなると、優一は言っていた。こういう事だったのか。


「俺、そんな事しませんよ! 何故なら俺は香澄一筋ですから! 聞きますか!? 俺の香澄に対する愛情の深さを!」


 俺は精一杯力説する。


「……まあ、佐々本くんのプライベートはいいとして……」


 米田さんはメガネをクイっと上げる。


「さっき、桂木さんに注意したんだ。ここは学校じゃないんだから、プライベートな事で社内をかき乱すのは遠慮して欲しいと」


「佐々本くんもだ。行動に気をつけて欲しい。桂木さんの言った事が真実かどうか不明だが――先週、君と桂木さんが二人で行動しているのを目撃されているのは事実だから」


「……すみません」


 俺は米田さんから注意を受けた。

 確かに先週、桂木さんと二人で行動する事が多かった。だから、誤解されるのはしょうがないかも、とは思う。だからといって、こんなデタラメを広げるのはやりすぎではないか?



――夜


 俺は家のベッドで寝転がりながら、スマホでネットを見ていた。明日も会社で孤立するんだろうなぁ、と思うと憂鬱になってきた。すると――香澄から電話がかかってきた。


「もしもし」


 俺の女神様! 憂鬱な時に電話してくれるなんて! もしかして、香澄は俺の憂鬱な心をテレパシーで感じ取ってるのか!?


「あ、もしもし? インターンシップお疲れ様です!」


「うええ、香澄ぃ」


 俺は思わず情けない声をあげてしまった。


「え、どうしたの? 何かあったの?」


 俺は今日の出来事を香澄に話した。もちろん、先週の事も。


「まあ、そんな事が……」


「そうなんだよ。俺、明日のインターンシップ行くの憂鬱でしょうがないよ」


「慰めになるかわからないけど……悟くんの事、覚えてる?」


「ああ。覚えてるよ。忘れるもんか」


 俺が高校2年の時の話だ。香澄は一人で悟をいじめから守っていた。


「私もあの時孤立してたのよ。一人で色々やって、正直言って心細かったの」


「そんな時、大地が私の前に現れて……私を助けてくれたわね。すごく頼もしかったわ」


「え? そんな……俺、あの時は香澄にひどい事たくさん言ったし」


「大地が気にする事はないのよ。大事な友達が傷つけられたんだもの。怒るのは当然よ」


 香澄もあの時――心細い思いをしてたんだな。でも、香澄は逃げなかった。俺は香澄の言葉を聞いて勇気をもらったような気がした。


「とりあえず――明日、頑張ってみたら? で、ダメそうなら次の会社に挑戦してみるとか。会社は一つじゃないんだから。ね?」


「うん。ありがとう。香澄。もう少し頑張ってみる」


 香澄としばらく話した後、俺は目覚ましをセットして眠りについた。香澄のお陰で、明日からまた頑張れそうだ。



――2月、インターンシップ7日目――


 午前はシステム開発の演習である。

 俺は昨日と同様、孤立状態で演習を受けている。俺は桂木さんのいる方向に視線を向けた。

 桂木さんは隣に座っている男子学生と仲良さそうに話をしている。先週の俺たちもあんな風に見えていたのかもな。



――


 お昼休み。俺はオリエンテーションが行われた会議室でコンビニ弁当を食べながら、考え事をしていた。桂木さん、俺が桂木さんを弄んだなんてデタラメを何故広めたんだろうな――どんな理由にせよ、デタラメを撤回するようにお願いしないと。


「佐々本くん、隣空いてる?」


 俺の隣の椅子に一人の男子学生が座る。コイツは確か……


「ええと、相川くん――だったっけ?空いてるぞ」


 彼は相川(あいかわ) (ゆずる)。A大学3年。俺とは違う大学に通っている。

 身長、体格は俺に似ており、顔立ちは面長でキリッとしている。髪は黒く、パーマがかかっているのか、毛が少しチリッとしている。ちなみにシステム開発演習では違うグループである。


 俺と相川くんは、お互い呼び捨てで呼び合うように、自己紹介が終わると――


「それで譲。俺に何か用?」


 俺は唐揚げを飲み込んだ後、質問する。


「……桂木さんを弄んで捨てた、ていう噂は嘘だよね?」


「ああ、あんなのデタラメだ」


「はあ、やっぱり……――実は僕も昔、桂木さんにデタラメを流された事があるんだ」


 何だって!?譲も被害者だったのか!世間は狭いな。俺は同士の譲が光り輝いて見えた。


「譲はどういう経緯でデタラメ流されたんだ?」


「あれは、僕が高校3年の頃、大学受験のため塾に通う事になって――桂木さんとは、その塾で出会ったんだ。第一印象は、元気ハツラツで楽しい子だったよ」


 桂木さんの第一印象は、俺も同じように思ってたな。


「親しくなって1週間ぐらいかな。桂木さんと一緒に図書館で勉強する約束をしたんだ。当時は彼女いなかったし、別にいいかな、て思ったんだ。――で、図書館で勉強した後、一緒に帰ったんだ」


 なんだか青春の1ページて感じだな。


「そして別れ間際に桂木さんから、封筒をもらったんだ。白い封筒でハートのシールが貼ってあって……帰ったら開けてください、て言われた」


 それって――ラブレター!?


「家に帰った僕はドキドキしながら、封筒を開けたんだけど――中に入っていたのは、僕の想像していたものではなかったんだ」


 『好きです』て書かれた手紙じゃないのか?


「中に入っていたのは……『好きです』と書かれた手紙と、桂木さんの……その……言いづらい部分のアップ写真数枚と、髪の毛が数十本……」


 え……――俺は衝撃というか、ドン引きというか、恐怖を感じた。


「僕、何だか怖くなっちゃって――次の日から桂木さんを避けるようになったんだ」


 だろうな。そんなモンもらったら――俺も避ける。


「そんで、桂木さんを避けるようになって数日後……『僕が桂木さんを弄んで、捨てた』――塾でそんな噂がたつようになったんだ。しかも噂を広めたのは桂木さんだったんだよ……」


 譲のテンションは段々と下がっていく。


「僕、段々塾に居づらくなって、しばらくして塾をやめたよ」


 譲は真っ青な表情だった。その恐怖はどれほどだったか……俺には想像できなかった。


「そういえばさ、桂木さん――俺に手作り弁当を作ってきた日があったんだ。俺は受け取らなかったけど。もしかして、その弁当って……」


 俺は桂木さんの手作り弁当を思い出した。何か恐ろしいものが入ってたんじゃ……背筋が凍った。


「恐らく何か入ってたと思うよ。受け取らなくて正解だよ」


「あと、先週――桂木さんから離れるよう大地に言いたかったんだけどさ……桂木さんが怖くて何も言えなかったんだ。ごめん」


「気にすんな。怖いもんはしょうがねぇよ」


 譲はとんでもないトラウマを植え付けられたな……桂木さんの弁当の中を見なかった俺はまだマシなのかもしれない。

 俺はそう思った。

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