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ミナト女バージョン

――2月、インターンシップ初日――


「あの、H大学の佐々本ですけど、インターンシップにきました」


「佐々本様ですね。名簿を確認しますので、お待ちください」


 地元にあるIT会社の受付。俺はこれからIT企業のインターンシップに参加する。期間は1ヶ月と長期間である。初めて袖を通したスーツ。なんだか、動きづらい。

 ちなみに、毎日しているペアリングは外してきた。会社にもよるが、こういう場で指輪といったアクセサリー類を身につけてくるのは基本的にNGとどこかの就活サイトで見た。


「確認取れました。仮社員証をお渡ししておきますね。案内しますのでこちらへどうぞ。」


 仮社員証を首からぶら下げ、受付のお姉さんの後をついて行く。仮社員証とはいえ、なんだか会社員になったような気分だ。


「こちらの部屋でお待ちください」


 入った部屋は少し広めの会議室のような部屋。長いテーブルが2列になって並んでおり、1列につき3つほど配置してある。そして、1つのテーブルにはパイプ椅子が3つ並ぶ。あたりを見回すと、学生がまばらになって座っている。

 俺は人口密度の低そうな通路側のテーブルの壁側に座り、ボーッとする。


――


 インターンシップのオリエンテーションが始まった。俺はメモを取りながら話を聞いていた。すると――


 カシャン。


 俺の前の席に座っていた人のペンが落ちる。そのペンは、俺の足元に転がる。俺は思わずペンを拾い、前の人に手渡した。

 前に座っていたのは女の子だ。少し明るい髪色だが、後ろで一本にまとめている。化粧のせいか、目はパッチリとしており、頬はふっくらとしている。体格は太すぎず、細すぎず。程よくモチモチ感がある。

 女の子は、笑顔でペンを受け取った。


「ありがとうございます!」


 小声だが、はつらつとした聞き取りやすい声でお礼を言う。


――夕方――


「はあ。今日は疲れたなぁ……」


 インターンシップの初日を終えた俺は会社から出た後、ため息をついた。

 あ、そうだ。香澄に終わった連絡いれとこ。スマホを取り出そうとすると――


「佐々本くーん!」


 俺を呼ぶ声が聞こえた。俺は声のする方を向いた。声の主は、オリエンテーションで俺の前の席にいた女の子だった。


桂木(かつらぎ)さん」


 彼女は桂木(かつらぎ) (まい)。S女子大の3年。

 オリエンテーションが終わった後、4人1グループに分かれてシステム開発の職業訓練を受けた。桂木さんは俺と同じグループだった。その時、お互いの名前を知った。


「ねえ、一緒に帰らない?せっかく同じグループで仲良くなったんだし。家は近く?」


 明るく、元気な発声で俺に話しかける。


「そんなに近くはないよ。これから1ヶ月は電車通いだよ」


「ああ、そうなんだ!じゃあ、駅まで一緒に帰ろうよ。アタシも自分の家まで電車だから!」


 桂木さんはひまわりのような笑顔でハキハキと話す。この子、元気だな……まるで女になったミナトと話してるようだ。


――


「佐々本くんってさ、何の学部に入ってるの?」


「理工学部の情報科学科だよ。桂木さんは?」


「偶然!アタシも理系だよ!理学部なの!理学部の情報科学!!」


 俺は桂木さんに親近感が湧いてきた。二人でおしゃべりしながら歩いていると、あっという間に駅に着く。


「じゃあ、ここまでだね。またね!佐々本くん!明日も来るんでしょ?」


「ああ、また明日」


 俺は桂木さんと別れた。桂木さん……大学で学んでいる事や好きな漫画やラノベやゲームや……考え方が俺に近いと感じた。何年も友人やっているような感覚だ。話しててすごく楽しかった。

 ……て、ちょっと待て!俺!そうだ!桂木さんはあくまでも会社の同期!!俺には香澄がいるんだ!!

 俺は香澄に終わったメッセージを送った後、電車に一人乗り込んだ。



――2月、インターンシップ4日目――


「佐々本くん。アタシの書いたプログラム動かないんだけど、何が悪いのかなあ……」


「ああ、ここは……カッコが一つ足りないんじゃない? ホラ」


「すごい! 動いた! ありがとう!!」


 午後の開発演習の時間。同じグループの桂木さんとのやり取りが増えた。

 いや、しょうがないでしょ! 同じ会社で同じグループにいるんだから……やり取り必要でしょ!?


――夕方――


「佐々本くん、近くに喫茶店があるの。一緒に行かない?」


「ああ、いいぜ」


 俺と桂木さんは会社の近くの喫茶店に入ると、小さいテーブルにて向かい合って座る。


「アイスコーヒーください!」


「俺、オレンジジュース」


――


「桂木さん、ブローチの最新刊見た?」


「見た見た! 主人公が伝説の大根を引っこ抜くシーン、胸が熱くなったわぁ」


「俺も」


 桂木さんと一緒にいると楽しい。香澄と出会わなかったら、俺の理想の女性は桂木さんかもな……


 理想の女性? ……あれ? 理想の女性像が思い浮かばない……


 その後、俺はあの時の香澄が浮かんだ。4年前。俺の頬を引っ叩いたあの時の香澄。そんな香澄を見た俺に雷が落ちた。


 その雷は、俺の理想の女性像を粉々に壊してしまったんだ。


 ……


「ごめん、俺ちょっとトイレ行ってくるわ」


 俺は気持ちを落ち着けるためにトイレで手を洗った。


「ふう」


 桂木さんには悪いが、今後は距離を置かないと。紗英とか――昔からよく知っている友人ならともかく。何も知らない男女が2人きりで行動するのは良くないな。俺は香澄を大事にするって決めたんだから!

 トイレからテーブルに戻る途中、俺は今一番会いたくない人物を見かけた。


 ……優一?


 優一は小さいテーブルで一人、コーヒーを飲みながら本を読んでいた。優一は俺に気づくと、爽やかな笑顔を俺に向ける。優一ぃぃ! お前、俺のストーカー始めたのか!?


――


「お待たせ……」


「どうしたの? 佐々本くん、顔色悪いよ? 大丈夫?」


 そう言って桂木さんは俺のおでこに手を当てようとする。


「のわあ! 大丈夫だから!!」


 俺は頭を後ろに傾けた。


「え? ならいいけど」


 桂木さんはアイスコーヒーのストローに口をつけた。


――


「ねえ、そろそろ帰ろっか」


「桂木さんは先帰ってて。俺、用事があるのを思い出した。ここは俺が払っとくから」


「そう? じゃあ、また明日ね。佐々本くん」


 桂木さんは眩しい笑顔を俺に向けたあと、一人で喫茶店を出て行った。


「大地」


 しばらくすると、優一がコーヒーを持って俺と同じテーブルに向かい合って座った。店員さんに言って、席の移動を申し出たのだろう。


「はっはっは。ずいぶんと楽しそうだな。下手したら――香澄と一緒にいる時より楽しそうに見えたぞ」


 優一は笑顔で俺にスマホを向けた。俺と桂木さんのツーショット隠し撮りの画像がそこに収められていた。


「違うんだ! 桂木さんはその、俺と同じ会社にインターンシップで来てて、たまたま同じグループで仲良くなっただけで……――てゆーか、何でお前がここにいるんだよ!? 俺のストーカー始めたのかよ!?」


 優一はコーヒーをズズーっと飲んだ。


「2日前だったかな。とある人物からお前と桂木さんとやらが楽しそうに一緒に歩いているのを見かけたと、それはそれは楽しそうなタレコミが入ったんだ」


 とある人物?


「誰だよ、それ……」


 優一は頬杖をつく。


「桃園だ」


 桃園さん!? 何で桃園さんが……


「桃園の今の彼氏が、お前がインターンシップで通っている会社で働いてるんだと。彼氏を迎えに会社に向かってたら、お前たちが一緒に歩いてるのを見たんだと」


 ぐは。何という偶然。


「優一。桃園さんとまだ連絡取り合ってたのかよ……」


「そりゃあな。最近はお前の話題で特に盛り上がるからな」


 何だそりゃ。何の話してんだよ。


「桂木 舞。S女子大3年。理学部所属。1年の頃は吹奏楽サークルやっていたが、諸事情でやめる。2年の頃はダンスサークルに入ったものの、またまた諸事情でやめる。現在はテニスサークルやってるらしいぞ」


「そんな情報、どこで調べたんだよ……」


「桂木さんは桃園と同じ大学だからな」


 忘れてた! 桃園さんと同じ大学だった!


「大地。桂木さんと結婚すればいいんじゃないか? 彼女はまさしくお前の理想の女性に見えるし。よく見るとお似合いの夫婦だぞ。そして香澄の事は俺に任せればいい」


「うるさい! 違うってば! 俺は香澄だけだ!!」


 俺はテーブルをダン、と打ち付けた。


「そうか。あ、桃園から聞いたんだが――桂木さん、S女子大じゃ有名らしいぞ。明日の金曜日あたり何か動きがあるかもな」


 優一は不敵な笑みを浮かべながら、不穏なことを言い出した。優一は不敵な笑みの方が似合うわ。爽やかな微笑みとか気持ち悪い。


「あの……それ、どういう事?」


「その日になればわかるさ」


 やっぱり優一の笑みは、どんな笑みでも不気味であった。

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