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卒業式のプロポーズ

◆◆◆


――4年前、8月――


 海から帰った直後……金田たちが青倉の足をバットで折ったという、衝撃的な事件があった。

 事件の次の日。俺は香澄に呼び出された。


「ゆうちゃん! どうして青倉くんまで巻き込んだの!?」


 文芸部の部室。部室には、俺と香澄の二人だけ。香澄が俺を真っ直ぐに睨みながら怒鳴る。今までに見た事のない香澄の怒りにさすがの俺も少しビビった。


「うるさいなぁ。体育館の裏に青倉が来たのは俺も想定外なんだが」


 ついでに言うと、金田がバットで乱暴する事も想定外だった。


「自分たちが何したかわかってるの!? これは事件なのよ! ゆうちゃんも逮捕されるのよ!!」


 香澄は俺を真っ直ぐに睨む。香澄は本気で怒っている。その怒りからは憎しみが感じられない。桜田や青倉だけではなく、俺や金田たちを心配しているのが痛いほどに伝わってくる。


 ……こんな風に怒られたのは久しぶりだ。


 俺は何故か懐かしい気持ちで胸が温かくなった。同時に苦しくもなった。


「俺がやったっていう証拠はないよ? それに俺、金田たちと違って暴力振るわない真面目ちゃんだから――仮にアイツらが何か言ったところで信用に値しないよ。」


「まあ、金田は父親である校長を利用してやりたい放題やってきたんだから、学校も少しは平和になるんじゃない?」


「ゆうちゃん……」


 香澄は俺を真っ直ぐ見つめたまま、寂しい表情になる。


「やれやれ。しょうがないね。青倉の男気に免じて……もう、こんな事はやめてあげるよ。それと青倉の治療費と病室も用意してやる」


 俺は姉さんをいじめた女たちと再会したあと、ずっと考えていた。俺も彼女たちと同じだ。しかも桜田の場合、理由なんてあって無いようなもんだ。彼女たちのそれよりひどい。


「ホントね」


 香澄は少しだけ表情を和らげた。


「ホントだよ。あーあ、バットで殴られて苦痛で悶える香澄の顔、見たかったな。はは」


 こんなのは嘘だ。何故、桜田にも青倉にも香澄にも素直にごめんなさいと言えないのか。

 俺はそのまま部室を出て行った。


「…………」


 香澄は苦笑いを浮かべたが、無言だった。

 やっぱり、俺が素直になるのは難しい。まだ時間がかかりそうだ。



――4年前、9月――


 ある日の放課後。俺が職員室の前を通ると、香澄の声が聞こえた。


「あ、桜田さんのお宅ですか? 私、桜田くんの副担任の柊です。あ、いえ、あの……少しお話しを……あ!」


「また切られちゃった……」


 香澄は週に何回か桜田の家に電話をかけているが、まともに話をさせてくれないようだ。

 原因を作った俺が言うのも何だが――学校に来ない奴なんかほっとけばいいのに。その上、毎日夜遅くまで残っている。このままだと香澄が倒れるじゃないか



――4年前、10月――


 音楽の授業に出るため、俺は音楽室へ向かっていた。

 その途中、香澄がとある男子生徒に声をかけているのが目に入った。俺は廊下の窓側の壁に寄りかかり、様子を眺める。


「佐々本くん」


「……何? 柊先生」


 佐々本とか言う奴は香澄を睨んでいる。おおコワ。あれは香澄を嫌ってるね。


「えと……佐々本くんは桜田くんと小さい頃から仲が良かったって、桜田くんから聞いたんだけど…」


「先生、俺忙しいんだけど。早くしてくんない?」


「あ、その…桜田くん元気にしてるかなぁ――て思って。佐々本くんは何か知らないかな?」


「……知らない」


「え?」


「知らないって言ったんだよ! 俺は毎日放課後にアイツん家行ってるけど、俺が来ても……アイツは顔一つ見せないんだ!! 悟が元気にしてるかどうかなんて知らねぇよ!!」


 佐々本は桜田を登校拒否に追い込んだ学校を相当嫌ってんな。それで香澄に八つ当たりか。香澄の虚しい努力を知らないって怖いね。


「そう、ごめんね。あの……もし、桜田くんに会えたら……あまり無理しないで、て伝えて」


 佐々本の強い口調に全く応えてない様子の香澄はそう言うと、早々に佐々本から去って行った。


 香澄は俺の前を通り過ぎたが、俺に気づいていないようだった。久しぶりに香澄の顔を近くで見た。香澄の目の下にひどいクマができていたが、凛とした表情だった。


 それは桜田を救いたい香澄の意思の表れだ。


『私がゆうちゃんのお姉ちゃんになりたいのは、私の意志よ』


 昔から変わってない香澄を見た俺は胸が温かくなった。



――3年前、卒業式――


 式を終えた俺は卒業証書を片手に香澄を探していた。


 俺は香澄に一言、伝えたかった。俺の気持ちを。


 高校中を探し回ったが、見つからない。俺は隣の公園まで範囲を広げた。


「先生、俺と結婚してください!」


 誰かのプロポーズが聞こえた。俺は思わず桜の木の影に隠れ、声の主を確認する。


「アイツは……確か、桜田と一緒にいた……文芸部の副部長の佐々本だったか」


 プロポーズを受けた相手は香澄だ。

 いや! いやいや! 佐々本! お前、色々すっ飛ばしていきなり『結婚してください』は無いだろ! 見ろ! 香澄もアホ面になってるじゃないか!

 まさかの事態に俺は戸惑った。よりにもよって俺以外にも、香澄の事を思っているヤツがいたなんて……しかもそいつは、俺と同じ生徒の佐々本だ。


「ごめんなさい!」


 香澄は至極当たり前の返事を返した。そりゃそうだ。

 しかしその後、佐々本と香澄のバカバカしいやり取りが続いた。聞いてるこっちもバカになりそうだ。


 そして、香澄がある提案をする。


「えっと……それなら、まずはお友達から始めない? お互いをよく知らないまま結婚するなんて人生損だと思うの。だから……」


 その言葉を聞いた佐々本は、しばらく考えた後、大声で叫ぶ。


「先生! 俺たちは今日からお友達だ! 末永くよろしく!!」


「え、末永く……よ、よろしくね! 佐々本くん……」


 一部始終を見た俺はなんというか……ショックだった。あの佐々本とかいうヤツは、今まで香澄に寄り付いてきたろくでもない男たちと何かが違っていた。


 物心ついた時から香澄は姉さんと俺のそばにいた。

 俺から香澄を突き放した事実があった。

 香澄をあの女たちと同じくらい、いや……それ以上に許せない時期があった。

 だけど、今の俺にはもう、香澄しかいなかった。


 香澄も俺のそばから離れるのか……


「香澄を幸せにしてやらないよ」


 俺の心に湧いてきた黒い感情は、毒々しい殺気に変わっていた。


 その後、俺は佐々本に近づいた。探偵を使って調べても良かったのだが、俺からするとアイツのバカさ加減は未知の世界だった。


◆◆◆

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