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バレちゃった。

 俺は柳木優一。今、大学休学中だ。


 父さん(アイツ)は賄賂罪で逮捕された。母さん(あの女)は今、何をしているのかわからない。俺は全てを失った。


――5月半ば――


「何だ。優一か」


 拘置所の面会室。俺が対面しているのは、父さん。実の息子にかける第一声が『何だ』か。アンタが捕まっている間、俺が弁護士の手配したりと色々してやってたのに。


「随分と落ちぶれたね。家庭を顧みないで他の女の所ばかり行ってるから罰でもあたったんじゃない? アンタの今の姿を姉さんに見せてやりたいよ」


「父親に向かってなんて事言うんだ! 今まで何不自由なく暮らせてきたのは誰のお陰だと思ってんだ!!」


 このクソ野郎は都合が悪くなると父親を出す。息子に労いの言葉も謝罪の言葉も心配の言葉もない。無駄な時間を過ごした。


「じゃあな。俺は行くよ。せいぜい塀の中で反省してろよ」


 俺は椅子から立ち上がり、父親に背を向けた。


「おお、そうだ。優一。知り合いの医師の娘さんとはうまくいってるのか? いっそ籍でも入れたらどうだ? 向こうのご両親ならお前の面倒見れるだろうし、お前も無事に医師になれるかもしれん。そしたら、俺の面倒も見てくれるな?」


 コイツ……こんな時に何ふざけた事言ってんだ。


「アンタ、脳の手術でもしてもらえば?」


――


「ゆうちゃん、どこ行ってたの?」


 俺が家に着くと、身なりの派手な年老いたデカい女が俺に近寄ってくる。この下品な女は、母さん。父さんの不倫癖を理由に、外で遊びまわっているらしい。子供と家の事を放置して、だ。父さん不在の今もどこで何をしているのやら……

 香澄ともども……俺を『ゆうちゃん』て呼ぶな。俺をいくつだと思ってんだ。


「拘置所だ。父さんと面会してきた」


 俺は必要最低限の事だけを母さんに伝えて、自分の部屋に戻ろうとする。


「ねえ、ゆうちゃん。私ね、あの人と離婚しようと思うの」


 ――だろうな。俺の父と母には愛が無い。何故、この二人は結婚したのか……意味がわからない。


「それでね、離婚した後に再婚するつもりなの。お母さんね、この間、プロポーズされたのよ」


 はあ!? 俺が父さんの不祥事の後始末をしている中、母さんは再婚相手と遊んでいたのかよ! なんて女だ……なんて汚い……吐き気がする。


「母さん、再婚相手はどんな人?」


「お相手はね、大学病院のお医者様よ。母さんのことを『愛してる』て言ってくれたのよ。あの人と違ってね」


 呆れた。一体どこで出会ったんだか。

 それ、結婚詐欺に引っ掛かってるんじゃないか? 50歳過ぎた派手な女と結婚してくれるお医者様なんて信用できるかよ。


「ゆうちゃん。母さんと一緒に来ない? お相手の方もゆうちゃんの面倒見てくれるって言ってるのよ。そしたら、ゆうちゃんお医者さんになれるわね」


 この女……こんな時に何ふざけた事言ってんだ。


「アンタ、脳の手術でもしてもらえば?」


 この時の母さんの表情は――無表情だった。


――


 自分の部屋に着いた俺は電気もつけずに、自分のベッドに転がり込む。まったく持ってふざけたヤツらだ。今まで俺と姉さんに見向きもしなかったのに、自身の身が危うくなると子供頼みときた。もう付き合いきれん。


 そういえば姉さんの葬式の時も……アイツらはふざけた事ぬかしてたな。


◆◆◆


――12年前――


「姉ちゃん! 姉ちゃーーーん!」


 俺は姉さんの棺桶にしがみついて大泣きしていた。


「まったく。下品な娼婦の娘がようやく死んでくれたわ。汚らわしい」


 母さんの声。ヒステリックに嬉しそうに話す。姉さんは不倫相手の子供だ。母さんからすると姉さんに愛情は持てないだろう……しかし、だからと言って人が亡くなったっていうのに、その言い方はないだろ。俺にとっては心許せるたった一人の姉だ。


「そんな事言うなよ。月子は洋子さんに似てとても美人だったのになぁ。おお、よしよし月子。これから触れ合えなくなると思うと、お父さん寂しいぞ」


 父さんの声。まるで恋人が亡くなったかのような言い方。本当に気持ち悪い。コイツ……姉さんを……想像したくない。


◆◆◆


――ブルルル、ブルルル


 スマホのバイブが鳴る。SNSの音声通話の着信だ。発信先は――大地だ。


「もしもし? 優一か? 俺だよ! 俺!」


「……残念ながら俺は老人ではない。オレオレ詐欺するなら他をあたってくれ」


「ちょっと待って! 違うって! 切らないで!」


「何か用か? 大地」


「え? あー……ほら、お前の親父、大変な事になってるだろ。その……心配で連絡してみたんだ」


「それだけか?」


「あ! 明日暇か? 話があるんだ。いつもの喫茶店来れるか?」


「……行けるぞ」


「じゃあ、明日の午後に! 絶対来いよ!」


 電話が切れた。話って何だ? ――香澄の事か? 俺が香澄に贈った合体写真……『お前のせいで香澄に嫌われたー!』って文句でも言いたいのか?


 ククっ。ああ、楽しくなってきた。明日が待ち遠しい。



――翌日――


「待たせたな。優一。久しぶりだな」


「去年の冬以来か。その時は父さんの件でバタバタして、休学届け出したからな」


 大学の近くのいつもの喫茶店。俺と大地はいつもの席で向かい合って座っている。他に客はいない。


「優一、お前少しやつれたな。少しでもいいからご飯はちゃんと食べろよ。自分の体を大事にな」


 父さんが逮捕されて以来――俺への心配の言葉を初めて聞いた気がする――しかも、最初に俺を心配したのがこのバカ(コイツ)とはな……


「で、話って何だ?」


 俺が話題を振ると、大地の顔が険しくなる。いつもは緊張感のない間抜けな顔だが、今日は違う。


「香澄から聞いた。お前、香澄とは子供の頃からの知り合いだって。俺の……その……浮気の写真。お前から貰ったって」


 やはりその質問か。


「そうだ。俺が香澄にあげたんだ。香澄になんか言われたか?」


 大地は表情を崩さない。


「香澄はあの写真を見ていない」


「は?」


 写真を見ていない? 香澄……見ていないってどういうことだよ。興味本位で見ろよ。まったく。


「俺が香澄の部屋に行った時にその写真の入っている封筒を見かけた。封はほぼ開いてなかったよ。あの中を見たのは俺だけだ」


「香澄の部屋に行ったのか?」


「桃園さんが教えてくれたんだよ。香澄がストーカーされてるかもしれないってな。そんで俺、いてもたってもいられなくて香澄の部屋に押しかけたんだ」


 桃園……大地を誘惑しろと俺が脅した女だ。例え時間がかかっても、桃園レベルの女なら大体の男はお持ち帰りするか、あわよくば乗り換えるもんだと思ってたが。


「それに――桃園さんが脅されている事も。俺をたぶらかすようにって事もな」


「へぇ。桃園がな――アイツ、見た目に反して気が弱いヤツだと思ってたな。桃園の事、少し見くびってたよ」


「優一……お前……」


「桃園は俺が大学1年の時の彼女だった女だ。見た目だけならいい女だっただろ? だけど中身はダメだ。だってアイツは高校の時に万引きしてたからな」


 俺は桃園に裏切られた腹いせに桃園の秘密を暴露した。


「お前! それは過去の話だろ!」


 大地の顔がより険しくなる。ああ、愉快だ。


「アイツ、親から虐待を受けてたらしくてな。それで心が病んでしまって、ついうっかり、な。どうしようもないヤツだろ」


「クソ……!」


 大地は俺を睨む。ここらへんにしとくか。殴られそうだからな。


「まあ、桃園の異変に気づいた香澄が桃園に義理の両親を紹介してくれたんだがな。一筋縄ではいかなかったみたいだけど」


 大地の睨みが和らいだ。ホントわかりやすいヤツだ。


「それ以来、桃園は万引きしなくなり、俺とも別れたとさ。めでたしめでたし」


 はあ、香澄の株を上げてしまったな。桃園の暴露なんかするんじゃなかった。


「優一」


 大地は真剣な表情のままだ。次の話題は何だ?


「お願いだ。もう香澄に関わるのはやめてくれ」

「嫌だね」


 俺は即答した。これは俺の素直な気持ちである。


「どうしてだ? 優一のお姉さんの件で香澄の事を恨んでるのか?」


「恨む? 違うな。香澄は俺のおもちゃだよ。香澄の惨めな姿は見てて飽きないね」


「……お願いだ。どうしたらやめてくれるんだ?」


 声を荒げるかと思ったが、大地は冷静な様子だった。

 カラン、とドアの開く音が聞こえた。誰か来たのか。俺は面白い事を思いついた。


「なら、ここでパンツ1枚になって土下座して『優一様。お願いします』と言ってみろ。そしたら、考えてやる」


 さあ、どんな面白い反応がくるかな。


「わかった。それで香澄に関わるのをやめてくれるんだな?」


 大地は顔色一つ変えずに俺を真っ直ぐに見つめ、即答した。

 少しは動揺しろ。パンツ1枚で土下座なんて――俺なら明日から外に出れないくらい、屈辱で恥ずかしいぞ。大地はシャツをめくりあげようとしたその時。


「やめて! ゆうちゃん!」


 女性が一人、俺たちの方に向かってくる。そして、大地の隣に立つ。


「香澄。どうしてここに?」


 大地が香澄の名を呼び、香澄を見る。


「大学から借りた本を返しに来たの。大地に会えるかと思って探してたら、たまたまミナトくんに会ったの。そしたら、ここにいるって」


「大地。ゆうちゃんの言う事聞く必要はないわ。ゆうちゃんが素直に約束を守るとは思えないもの」


 俺、香澄に信用されてないね。無理もないか。

 香澄は怒った顔を俺に向けると――


「ゆうちゃん。もう、私と大地には関わらないで」


「香澄、今なんて言った?」


「私と大地に関わらないで! やっていい事と悪い事の区別くらいできないの!? 悟くんやミナトくんだけじゃなくて、大地を傷つけるのなら、私が許さないんだからね!」


 俺は自分の耳を疑った。今まで、香澄は俺に拒否を示した事は一度も無かった。あの香澄が……強がりで慈悲深い香澄が……


「……くす」


 俺は思わず含み笑いをする。


「クックック――何だよ。香澄のくせに!」


 香澄のくせに。俺と決別宣言か。だけど、俺はこのままでは終わらない。香澄を幸せになんてさせるかよ。


「俺から卒業する香澄のために一つ、特大なプレゼントだ」


 俺はコイツらに破滅のプレゼントをくれてやる事にした。


「大地が香澄に隠してきた秘密を教えてやろう」


 大地は青ざめる。


「やめろ! 優一! それだけは言うな!!」


「どうしたの? 大地」


「大地はね、去年の6月から約半年間――浮気してたんだよ」


「え?」


 香澄は呆然と立っていた。大地は更に青ざめた後、頭を抱えて塞ぎ込んだ。



――


 最悪だ。香澄に知られた。しかも優一から暴露された……なんて事……浮気の証拠全部、処分したのに!


「大地……ゆうちゃんの話、ホント?」


 大地()は恐る恐る香澄を見る。香澄は悲しそうな表情で俺を見つめている。


「香澄。優一の言う通りだ」


 俺は香澄から視線を逸らした。香澄の顔を見ることができなかった。優一の言った事は間違いない。嘘をついても良かったのかもしれないが、俺の中の罪悪感がそれを許さなかった。

 そんな俺たちを面白がるように優一は言い続ける。


「香澄。大地の浮気相手誰だと思う? 合コンで知り合った女の子だよ。しかもすごく可愛い女の子。あーあ、香澄が可哀相だね。香澄が大学4年の時にできた彼氏と同じだ」


 コイツ、よくもまあ楽しそうにベラベラと! でも、間違ってない……


「――!」


 香澄が喫茶店から出て行こうとする。


「香澄! 待って! これにはワケが……」


――カランカラン。


 香澄は喫茶店を出て行った。俺に残ったのは喪失感だけ。


「違うんだよ……俺は香澄だけだよ……」


 優一が憎たらしい笑顔で話しかける。


「ぷっ。大地。別にいいじゃないか。香澄以外にもいい子ならたくさんいるだろ。せっかくの大学生活、楽しまないと損だよ?」


 何言ってんだコイツ……クソ! ぶん殴ってやりたい!


「ああ、それでも香澄がいいなら早く追いかけなよ。ここの代金、払っとくからさ」


 優一の笑顔が憎たらしい。頭の中が真っ暗になってきた――ダメだ! 落ち着け! そうだ。俺は優一にどうしても渡したい物がある。まずはそれを渡してからだ。


「優一。最後にお前に渡したい物がある」


 優一は笑顔から無表情に変わる。


「何だ?」


 俺が優一に渡すものは最後の切り札のつもりだった。こんな事になるなら、最初から出せば良かった。俺はそれを自分の通学リュックサックから取り出し、テーブルに置いた。


「何だ? 黒い表紙に、茶色く変色した紙の……本?」


「お前のお姉さんの日記だ。ここにはお姉さんがいじめを受けていた日々が綴られている」


「姉さんの?」


 優一は日記を無表情で見つめる。

 何故俺がこれを持っているのか……香澄は『もう必要ないから』と日記をクローゼットにしまい込もうとしていたところ、必要ないなら俺に譲って欲しいと頼んだのだ。


 日記を優一に渡した後、俺は喫茶店を出た。


「姉さんの残した物……母さんが全て捨ててしまったと思ってた……」


 俺が喫茶店を出た後、優一は無表情のままポツリと呟いた。


――


「香澄! 香澄!」


 あたりを探し回ったが、香澄は見つからない。自分のスマホを取り出し、何度も電話したが香澄は出なかった。


「香澄ぃ。頼むよ。話させてくれよ……」


 俺は人生で一番情け無い声で独り言を呟いた。


――夜


 ――パタン。


 俺はアパートに帰ってきた。結局香澄とは話が出来なかった。このまま香澄との関係が終わったらどうしよう。不安で夜も眠れない。胸が張り裂ける思いってこんな気持ちなんだ……


「あ、今日ペアリングつけるの忘れてた……」


 テーブルの上に置いてあるペアリングを左手の薬指につけた後、ベッドに横たわる。そしてスマホをボーッと眺めていた。思えば俺って勝手だよな。

 去年のクリスマスイブの前日。香澄と優一の関係にヤキモキしてイラついて――香澄に八つ当たりしてたもんな。はあ……

 しばらく考えていると、スマホに着信が入る。香澄から。


「もしもし!」


 俺は速攻で電話に出た。


「大地……今日はごめんなさい。その……突然の事で、頭が混乱して……どうしていいかわからなくなって、そのまま家に帰ってしまって……」


 香澄の声だ! 香澄の声を聞いて、少しだけ心が落ち着いた。


「いいんだ。気にしなくていいよ……」


 俺は何を話していいかわからなかった。


「あのね、大地。今週の土曜、会って話さない?」


「今週の土曜日? いいけど……」


 会って何を話すんだろう。不安が大きくなる。見損なったとか? 大嫌いとか? まさか別れるとか? そんな事言われたら――立ち直れない。


「それじゃ、土曜日の昼……いつもの待ち合わせ場所、大地のアパートの近くのコンビニで」


「うん……わかった」


 香澄の淡々としたしゃべりが俺の不安をより増幅させる。もしかして、俺に冷めたのかな……


「大地。最後に一言いいかしら?」


「……何?」


「私、大地を信じてるわ」


 信じてる? 信じてくれるの? 俺を? 香澄の一言は、不安に汚染された俺の心をあっという間に浄化してくれた。俺の涙腺が一瞬で緩んだ。


「香澄ぃ……今の……ホント?」


「クスっ。本当よ。じゃあ土曜日にね」


「ああ。じゃあ、また……」


 電話が切れた。


「香澄……」


 俺の目頭が熱くなった。



――土曜日の昼――


 俺は待ち合わせのコンビニの中で雑誌を立ち読みしていた。

 しばらくすると、香澄の車がコンビニの駐車場に到着するのが見えた。俺はコンビニを出て、香澄の車に向かう。そして俺は助手席のドアを開けると――


「……お邪魔します」


 香澄の車に『お邪魔します』なんて言ったのは久しぶりだ。なんか気まずい……


「どうぞ」


 香澄は笑顔で俺を迎えてくれた。今の俺にとって、その笑顔は太陽のように眩しくて爽やかだった。


――


 俺たちは車で30分ほど走った後、山の麓にある高原にたどり着いた。そこは家族連れやカップルが多く、子供たちが元気に走り回っている。高原には大人も楽しめるアスレチックが設置されており、カップルが楽しそうにはしゃいでいる。

 俺と香澄は高原の中にある小さなレストランで食事をしていた。


「香澄。俺の事を信じてるて言ってくれたけど……ごめん……その、俺、まだそれが信じ切れてないというか……」


 俺は気まずい気持ちを香澄に伝えると、香澄はクスっと笑う。


「そうよね。大地はまだ気持ちの整理できてないのよね。……ねえ、大地が浮気してた事――話してくれる? 正直に」


 香澄を見ると、香澄はどこか吹っ切れたような様子だ。


「……わかった」


 俺は合コンに行った経緯と桃園さんとの出会い、一線を越えた事――全部正直に話した。


「ふふ、そうだったのね。それはご愁傷様ね」


「もうさ、マジで勘弁して欲しいよ。毎日罪悪感で胸が押しつぶされそうだったんだから。もう合コンも浮気もコリゴリだよ。俺はムリ」


「クスクス。いつもの大地に戻ってきたわね。正直に話すとスッキリするでしょ? 私もそうだった。自分の過去を大地に吐き出したら、なんか心のモヤが全部取れた感じになったのよ」


「そういえば……確かに」


 話しているうちに、俺の心はいつの間にかすっと晴れていた。


「大地は私の事を信じてくれた。だから、私も大地を信じるわ」


 香澄は穏やかな表情で俺を見つめた。その姿は清々しくて誰よりも綺麗だった。


「香澄、ありがとう」


 俺は素直な気持ちを香澄に伝えた。香澄は気持ちに答えるように笑顔になった。


「桃園さん。彼女のことは覚えてるわ。彼女も辛かったのかもしれないわね。彼女の詳細はあまり言えないけど……彼女も苦労してきた生徒よ。その分、幸せになって欲しいわ」


 俺は優一から桃園さんの事をひととおり聞いたから知っている――が、言わない事にした。


「そうだな」


「あと、ゆうちゃんの事で気になる事があるの。私が大学の頃に付き合っていた彼氏の事、どうしてゆうちゃんは知っているのかしら? 私とゆうちゃんが再会したのって、私が高校の先生になってからよ。私が高校、大学に通っていた時は一度もゆうちゃんに会わなかったはずなのに……」


 マジか。香澄が大学4年の時にできた彼氏を合コンに誘い出し、他の女の子に振り向かせるようにけしかけたのは……もしかして、アイツの仕業か? 影で香澄の監視でもしてんのか? 陰湿なヤツだな。


 俺はふと、香澄が来た時の優一の様子を思い出した。香澄から『関わるな』と言われた後――優一はかすかに動揺していたように見えた。もしかして……優一は、香澄の幸せを呪っているのではなくって、香澄が自分から離れるのがイヤなだけなのか? 親から見放された子供のように……


 ……今は、うだうだ考えてもしょうがない。


「香澄。お腹いっぱいになったし、アスレチック行こうぜ」


「そうね」


 俺たちはアスレチックに向かい、遊び倒した。

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