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ピンキリ

――12月24日 午後――


「うわ! 可愛い!」


 今日はクリスマスイブ。

 冬特有の冷たい空気に包まれた町はまさにクリスマスモード絶頂であり、シャンシャンと流れる音楽はそれをより盛り上げる。

 俺と香澄は町のデパートの1階にある生活用品売り場にいた。


「見て! このやかん! 猫のイラストが可愛い!」


 香澄は小さなやかんを見て、興奮している。そんなにやかんが欲しかったのか?


「あの……香澄……クリスマスプレゼントは……」


「あ! ごめんなさい。私ったら……そうね。初めてのクリスマスプレゼントにやかんは無いよね……」


 香澄は顔を赤くしながら、やかんを元の場所に戻しながら俺を見る。

 良かった。さすがの香澄もクリスマスプレゼントにやかんは無いと思っていたようだ。


「じゃあ、やかんはまた今度ね」


 えー!? やっぱり欲しかったのか!?


――


 生活用品売り場を離れた俺たちが次辿り着いた場所は――2階のアクセサリー売り場。


「あら。ここはアクセサリー売り場ね」


 香澄はキョロキョロと辺りを見回す。


「香澄。こっち」


 俺は香澄の手を引っ張り、香澄を指輪のコーナーへといざなう。


「あら指輪ね……あ、もしかしてペアリング?」


 香澄は目を大きくさせ、指輪を眺める。


「ああ。ホントはサプライズで贈りたかったんだけど……指輪のサイズとか、香澄がどういうの好きかとか……正直わからないから好きなの選んで欲しいんだ」


 こういうのは香澄自身で選んでもらうのが一番いいと思う。香澄が喜んでくれるのであれば、俺もうれしい。


「まあ」


 香澄は笑顔で指輪を見渡した。


「ねえ、大地。私、これがいいな」


 香澄が指差した先は……小さな石の入ったシルバーの指輪。光に反射して光り輝く石は、小さいながらも存在感を示している。


「どれも素敵だけど……これが一番素敵」


 香澄の選んだものは1万2000円。ちなみにその隣にある指輪は10万円。俺からするとどちらも同じ指輪にしか見えないんだが……とりあえず、隣の10万円じゃなくて良かった……

 もし隣の指輪を選んでたら――分割払いにするしかないよ。学生って分割払いできたっけ?


「そうか。じゃあ、これで」


――


「えへへ」


 香澄はニコニコしながら左手の薬指の指輪を見つめている。香澄はすごく喜んでいるようだ。良かった。


「香澄、ちゃんと前見て歩けよ。人にぶつかるよ」

「あ、ごめんなさい。嬉しくてつい……」


 香澄の左手の指輪がキラリと光った。なんか結婚指輪みたいで、俺は心の中で密かにニヤついた。


――夕方――


 デパートを出た俺たちはイルミネーションの並ぶ通りを歩いている。薄暗くなった町をイルミネーションが鮮やかに光輝いている。


「香澄ぃ。俺、腹減った」


 俺はクリスマスムードを壊すような一言を放つ。空腹は人間の生理現象だ。こればかりはどうしようもない。


「そうね。私もお腹ペコペコ。今日はクリスマスイブだし、ご飯奮発しちゃう」


 香澄は太陽のように明るい笑顔で俺に言う。昨日の不穏な表情とは大違いだった。元の香澄に戻って良かったと思う。


「え? いいよ。俺、その辺のラーメン屋でいいし……」


「もう! 何言ってんの! せっかくのクリスマスイブなんだからたまにはいいじゃない」


 香澄は俺の手を引っ張る。


「わっ! ちょ! 香澄!」


 俺は香澄の誘導に身を任せ、クリスマスディナーを堪能した。

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