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大事な事ほどよく忘れる

 俺は佐々本大地。大学2年。俺は香澄の事、何も知らない。香澄は何故、自分の事を教えてくれないのだろう。


――11月末――


「うあ! やべぇ! 講義に遅れる!!」


 平日の朝。目を覚ました俺は顔を素早く上げる。

 ここは…教室? 2年A組――俺が高校の時にいたクラスだ。俺は窓際の1番前の席にいる。教室には誰もいないようで、とても静かだ。


「あれ? 何で俺、高校の教室にいるんだ?」


 俺は混乱する頭を整理するために両頬をパン、と叩く。


「俺…確か自分の部屋で寝てたよな……」


 ブツブツと独り言を呟いていると


「ねえ」


 後ろから吐息まじりの少女の声が耳に入る。

 俺は後ろを振り向くと、そこには――小学生くらいの髪の長い少女が席に座っていた。その少女は黒いワンピースを着ており、大人びた雰囲気を漂わせている。少しつり目が印象的でまるで日本人形のようだ。


「お前……確か……以前夢で見たような……」


「あら、覚えててくれたの?」


 そうだ、俺はこの少女を知っている。以前会った時は――5、6歳くらいの少女だった。


「なんでまたお前の夢を……」


「さあね。貴方、香澄の事で思い悩んでる事があるからじゃない? それにしても――貴方、少しだけ成長したのね。あ、少しだけだからね。ふふ」


 少女は無邪気な笑顔を俺に見せる。

 以前見た夢の続きをまた見るなんて……どうなってんだよ。


「そりゃどーも。……なあ、お前は一体誰なんだ? 香澄とはどういう関係だ?」


 俺は少女に視線を送る。夢の中の少女にこんな質問したところで、何の意味があるのかわからない。しかしこの少女――どこかで見た事があるような……どこだったかな……


「私は月子(つきこ)て言うの。香澄の友人、てとこかしら」


 香澄の友人か。香澄は自分の事をほとんど語らない。悟のいじめの事も……疑問が残ったままだ。どうして何も話さないのだろうか。


「香澄は何も話してくれないのね」


 少女は俺の考えをちくりと当てる。


「ああ。香澄の過去、友達や、悟の事……何か悩んでるなら、もちろん力になりたいんだけど……香澄は何も話さないから、俺にはどうする事もできないよ」


「香澄が何故話さないか……なんとなく予想できるわ」


 俺は少女の言葉に期待を膨らませる。


「香澄は貴方を完全に信用していない、といったところかしら」


 何だよそれ……バカバカしい答えが返ってきたな、と俺は拍子抜けした。


「今、『バカバカしい』と思ったでしょ。香澄の事情を知ったら、貴方はきっと無鉄砲に首を突っ込むでしょうし――それに、貴方が香澄の過去を知ったらどう思うかしら? 香澄の、貴方に対する信用なんてその程度のものよ」


 うぐ……香澄は一体、何を抱えている?


「香澄から信用されないとダメってことか。……でも俺、出来る事はたくさんしてきたつもりだよ? これ以上何をしたらいいのか――わからないよ」


 少女はやれやれ、と言わんばかりに頭を振る。


「なーに言ってんのよ。大事な事を忘れてるじゃない」


 大事な事? 何だろう? ……ダメだ、わからない。


「その答えは貴方が探す事ね」


 俺がこれから質問しようとしている事を察知したかのように、少女はピシャリと答えた。


「あ、お義父さん。お義父さんなら香澄について何か教えてくれるかな?」


「香澄のお父さんに聞いても無駄よ。自分の娘の致命的な秘密を赤の他人の貴方にそう易々と教えるかしらね」


 確かになぁ。俺も……例えばるりの秘密を悟に教えないだろう。そういうのは、るり本人から言った方がいいと思うからだ。


「貴方も香澄と同じくらいに手間がかかるわね。まあいいわ。ヒントくらいならあげる。私が前にした質問、覚えてる?」


――


『ねえ。貴方は香澄の事、好きなの?』

『その気持ちは本物? 貴方は本当に香澄の事、好きなの?』


――


「覚えてるよ。それがヒントか? 余計わかんないよ」


「しょうがないわね。おバカな貴方のためにオマケよ。その質問の意図がわかれば、自ずと答えがわかるわ」


「知ってる? バカって言った方がバカなんだぞ。俺が小学生の頃、良く言われてたぜ」


「じゃあ、バカに対してバカって言いたい場合はどうしたらいいのかしらね」


 少女は笑う。


「…………もうバカでいいよ」


 めんどくさくなった俺はため息をついた。


「あ、もう時間だわ」


 少女は窓を見る。


「今日はここまでね。もし、貴方が今後も香澄の事を想ってくれるのなら――また、ここで会えるかもね」


 少女は悲しそうな表情だった。風景がぐにゃりと歪む。俺はその歪みに飲み込まれる。


 そして、目の前が真っ暗になった。

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