↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界を征く兄妹 ―異能力者は竜と対峙する―  作者: 四方
第六章:集いと別れ
111/197

第九十六話:覚えていないことは無いことも同然 では、覚えていることは?<竜の仔の正体>

 まずは謝罪を。

 当日更新できなくなるくらいなら!

、とかなり無茶な状態のまま投稿しており――さらに、文章が中途で途切れております。

 遅刻云々の問題でなく、私の力量と見通し不足の結果です。

 明日投稿文分に続きを載せる他、後日、読みやすいように訂正させて頂きます。 

 まことに、申し訳ございません。

 薫と別れた紅は、訓練所職員の案内に従い、その後二年間――実際は四年間の大半を過ごすことになる施設に足を踏み入れた。

 胸元に握った拳を不安で震わせながらも、その瞳は、絶対に自分を律する力を手に入れてみせるという決意で、凛とした光を放っていた。

 

 自分と同じく、突然異能に覚醒し、日常から離れたところでの暮らしを余儀なくされた者達が一時とはいえ滞在し、身を寄せ合って暮らしている場所。

 いったいどんな場所なのだろうか。

 いったいどんな人達が待っているのだろうか。

 紅が、新たな環境やそこで出会うだろう者達に対し、全く不安を覚えなかったと言えば嘘になる。

 けれど、それ以上に当時の紅は、強い覚悟を決めていた。

 自分が異能を制御できるようになるためには、どんな辛い思いにだって耐えて見せると。


 初めて足を踏み入れた訓練施設の居住区で、そこにたむろして新人の少女を見定めようと集まっていた先輩達に向け、紅は、笑顔で挨拶の言葉を始めた。

 声を張り、後ろで余り興味なさそうに寝そべっている者達などにも聞こえるように心がけながら。


「はじめまして、皆さん。今日からここでお世話になる竜崎紅です。自分の力を制御するため、死ぬ気で頑張るつもりです。どんなことがあっても、諦めるつもりはありません。先輩にあたる皆さん方には、そのために多大な迷惑をかけるかもしれません。代わりに、私が皆さんに対してできることは何でもします。料理当番、掃除、洗濯、裁縫、何だって任せてください。だから皆さん、私を助けてください。導いてください。私は絶対に、ここから出て会わなくちゃいけない人がいるんです。どうか、よろしくお願いします!」


 最後の方は、少々感情的になってしまった。

 輪になって周囲を取り囲む”先輩”方に向け、勢いよく頭を下げ、言葉を締めくくる。

 それを見た輪の中の一人が、すっと立ち上がってにこりと笑みを見せた。


「……掃除や洗濯は、みんな交代制よ。顔を上げて、お嬢ちゃん。気持ちだけ受け取らせてもらうわ。料理はこのごろ毎日病院食みたいな味気無いのばっかりだから、調理好きの子が入ってくれたっていうのは朗報ね。せっかくだから、三島さんと一緒に今夜の夕食を作ってもらいましょうか、ねえ、みんな?」


 立ち上がった背の高い女性が周りの者達に同意を求めると、そこかしこから明るい声と共に、手が挙げられた。


「なら、私も手伝いましょうか? 花嫁修業途中でこんなところ来させられたから、大したことはできないけど、皮むきくらいなら……」

「なあに、お姉さん? だらしないなあ。僕なんか7歳の頃から母親と一緒に台所に立ってるよ? 料理のレパートリーだって結構なもんさ。そこらの一人暮らし大学生よりずっと自炊能力には自信があるよ」

「……君の作る料理は、料理と呼んでいいものなのか? 以前君から貰ったプリンは石鹸水にレモンを溶かしこんだようなグロテスクな味がしたんだが」

「あら、みんな意外と料理スキル持ってるのね。せっかくの女所帯だし、今日の夕食くらいは台所と食材をを借りて、みんなで作りましょうか。新人さんの歓迎祝いっていえば、一日くらい貸してくれるでしょ。まさか『貴様らに包丁など持たせられるか』なんて言われないでしょうし」


 下は紅より幼い7歳の幼女から、上は67歳の老婆まで、幅広い年代の異能者達が、困惑する紅の前で和気藹々と料理談義を始めた。


「お嬢ちゃん、お嬢ちゃん」


 固まってしまった紅の肩を、トントンと叩くものがあった。

 振り返った紅の目に映ったのは、にかっと良い笑みを浮かべたこの中では最高齢と思われる一人の老婆だった。


「は、はい……」

「そんに、緊張すんなや。わたしたちゃね、みーんなお仲間なんだ。いやいや、こんに老い先短いばばあにこんほどに良い仲間共(ども)ができるたあ、ついこん前まで、思いもせなんだ。あんたは立派やよ? わたしゃあてっきり(くっら)い死人みてえな顔した娘が来るかと思っとったに、まるで正反対だ。いやあ、驚いたね。びっくらこいたね。そん年でそんまで気丈に振舞えるなら、心配なんていらねよなあ? わたしらに教えられるこんなら何でも教えちゃる。子供は大人に迷惑をかけるのが仕事。好きなだけ迷惑かけてけや、な?」


 少々訛りが気にかかるものの、老いを感じさせない流暢な喋りがその皺くちゃの口から流れ出る。その言葉の奔流に気圧された紅は、返答も返せぬまま口をぽかんと開けてしまった。


「ああ。その婆さんな、通称”お節介ばばあ”なんて言われるくらいに節介焼くのが好きな人やから、(ベニ)ちゃんも、ほどほどに聞き流すのがええよ?」

「はん。お釈迦様の迎えが来るのを待っとる老人にできるんなんて、若者(わかもん)にお節介を焼くことくれえだろが。お前さんかて、今は若々しいけん、そんうち皺くちゃのばばあになんだ、わたしみてえにな?」

「……くすっ」


 小さな笑い声を漏らしながら、紅は思った。

 ここでなら、この人たちとなら――きっと上手くやっていけると。

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「あれ? あの……『本題』は?」

「本題の前に、”あの子”……貴女、リーティスさんが『ベニさん』と呼んでいるあの子が覚えている訓練期の四年間の記憶を教えておこうかと思ったのだけれど……話し始めたら止まらなくなっちゃったわねえ。少し端折らせていただきますわぁ」

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 最初の一年間――紅が訓練所で過ごした日々は、至極平和なものだった。

 良い仲間に恵まれ、精神的に疲弊するような訓練の後も、仲間と語らい、ストレスを解消できた。

 しかし、この訓練所に彼らが留まるのは基本的に一年。長くとも、二年以上いることはできない。

 いずれ、訓練所を出たら、共に仲間として、同僚として仕事をしようと約束を交わしながらも、入所した紅を温かく迎え入れてくれた者達は、一人、また一人と出所していく。幼い紅は、寂しさを覚えずにはいられなかった。

 新しくやってきた仲間はたいがい、”お節介ばばあ”言うところの”死んだ目をした腐った干物”状態であり、立ち直らせるために奮闘しても、決して心を開いてくれない者もいない訳ではなかった。

 そういった新人達の中でも特に尖った者等がやってくることも稀にあり――多くの苦労と心労を重ねさせられた。

 しかしそれでも、仲間達との生活は、中々に充実した、楽しいものだったと紅は記憶している。

 それが、10代初期の紅が経験した訓練所の朝、そして夜の生活だ。


 その一方で昼間の生活――訓練所の本分たる「力を律するための訓練」というのは、一筋縄でいくものではなかった。


 様々な方法で訓練者の精神を削り、叩いて鍛錬する鍛造剣のごとく異能者達を鍛える訓練(プログラム)が、そこでは行われていた。

 紅が訓練所で受けることになった教育・訓練は、他の者達と比較して、だいぶ異質なものだった。薫から事前に聞いていたようなものとも違っていた。


 その訓練は、「今の自身とは、別の性格を演じる」というものだった。

 紅の持つ強大な力に対し、その力を制御する紅の心は、あまりに幼く、弱すぎたのだ。

 紅からその訓練法を聞いた所内の仲間達は『そんなやり方でいいのか?』と首を傾げたが、紅自身は、それを良い方法だと思い、全力で取り組んだ。

 兄の薫が、尊敬する女隊長の言動や行動を真似て、段々と精神的な強さを身に着けていったことを知っていたからというのも大きかっただろう。持ち前の熱心さ、懸命さを全力で発揮した。

 そして、教官に請われるまま、自身のイメージする「決して力に飲み込まれない、強い女」の性格を演じる努力を続けたのだ。


 しかし、その試みは思わぬ結果を生み出してしまった。

 あまりに強くイメージしすぎた”新たな人格”が本来の紅の性格とは別途に定着。分かりやすく言えば、二重人格のような状態になってしまったのである。

 ちなみにこの事実を知るものは薫や、当の紅も含め、殆ど存在しない。

 例外は、ごくわずか。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「その数少ない例外一人が、()――まさにその際生み出された、”もう一人の紅”の人格ですわぁ」

「――!? え? でも、おかしくありませんか? 貴女はさっき自分のことを『竜の仔』だって名乗っていましたよね?」

「そうですわよぉ? 私は”オリジナルから分かたれたもう一人の竜崎紅”にして、この世界で一度命を落とした”竜の仔”であり――、そしてもう一つ。”竜の怨念をその身に宿す者”でもある。……これが貴方が知りたかった答えの全て、ですわねえ」

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 紅の二重人格化を知った職員は慌てて上層部――ASP本部に連絡を取った。

 その後、本部から出向してきた精神系異能者の手で生まれてしまった二つめの人格は処置され、消えた。という事になっている。

 けれど、薫を含むASP職員の殆どが知らされていないその"処置"でさえ、正確な真実ではなかった。

 彼ら、出向してきたASP職員達が行ったのは、"人格消去"ではなく、むしろその逆。

 "人格利用"だった。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「何故、あちらの世界の人間が、こちらの世界に存在していた”竜の仔”の体を確保していて、さらに失われかけていた魂を完全なものにするために”竜崎紅の二つ目の人格”を融合させたのかは分かりませんわぁ。……いえ、知りはしませんけど、推測はできますわねえ。」

「……あちらの、カオルさん達の世界のASPという組織に、こちら側の――神を憎む側の存在が何らかの手段を用いて入り込んでいて、神を滅ぼす最終兵器たる”竜の仔”復活の器を探していた。そういう、ことですか?」


 リーティスの頭の中で、理解の歯車が噛みあった。

 何故目の前の少女は「こちらの世界」の話と「あちらの世界」の話を続けて語ったのか。

 それらの話は全て、繋がっていたのだ。

 竜崎紅という一人の少女を、その中心として。

 少ない材料で、正確な推量を組み立てたリーティスに、満足げに笑んだ竜の少女が頷きを返した。

 

「恐らくは、その通りよぉ。リーティスさん、何故私が――竜崎紅の一人格というだけの存在であり、竜の仔とはいえ、生後すぐに死を迎えただけであるところの私が、先ほどから説明したような知識を持っていたと思いますかしらぁ?」

「え? ……いえ、すいません。分かりません」


 それまで「この少女なら何でもありだ」と思っていたなどとは言い出せないリーティスが、申し訳なさそうに首を横に振った。


「あらら、流石にヒントが少なすぎたかしらねえ。さっき言った”竜の怨念をその身に宿す者”という言葉、覚えてるかしらぁ?」

「はい、一応」

「私の記憶――魂にはねえ。記録されているんですわぁ。今から数百年前に滅んだ竜達の記憶や、そこに込められた嘆きや憤り、神への憎しみといった感情がね」

「それは――」

「ええ、おそらく”竜崎紅”の体に”竜の仔”を寄生させた者の仕業でしょうねえ。こちらの世界に来た()を、明確な神殺しの兵器にするために、そうしたんでしょう。……それに気づいたから、私はあいつら(・・・・)とは手を切ったのよぉ。神殺しをしたいなら好きにすればいい、けど奴らの掌の上で踊らされるのは癪に障りますもの。もっとも、私だって神は気にくわないのですけれど。たとえそれが人から押し付けられた感情であるにしても、この胸の奥から沸き上がって来る神への反抗心は、確かに今この場に居る私自身の気持ちですもの」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。