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異世界で『鍵使い』のハズレを引いたけど、極上メシを作ったら最強の剣士が弟子入りしてきた〜料理とハッキングで快適スローライフ〜  作者: 月神世一


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EP 4

新要素解禁! 幻覚接待植物と完全合法の脱税システム

 ポポロ村の広場に、招かれざる不快なトラフィック(来訪者)が押し寄せていた。

「おい、村長を出せ! ルナミス帝国、アバロン魔皇国、レオンハート獣人王国の三国共同監視局から『特別巡回』に来てやったぞ!」

 下品な怒声とともに現れたのは、三カ国の軍服をだらしなく着崩した、いかにもガラの悪い役人(ならず者)たち数名だった。

 彼らはポポロ村が「三国間の緩衝地帯」というグレーゾーンであることをいいことに、定期的に難癖をつけては村から物資を巻き上げる、いわゆる汚職役人たちである。

「お、お疲れ様ですぅ……。あの、村長のキャルルですが、今日はどのようなご用件で……?」

 キャルルがウサギ耳をペタンと寝かせ、おずおずと前に出る。

「決まってるだろ! 特別警備税の徴収だ! この村は最近、怪しい青いポポロ・マーメイドを売ったり、アイドル興行とかで儲けてるらしいじゃねえか。その売上の五割を税金として納めてもらうぜ!」

「ご、五割!? そ、そんな暴利、払えませんぅ!」

「払えねえなら、現物支給でもいいんだぜ? 極上の酒と、美味い飯。それから……」

 役人の一人が、いやらしい目でキャルルや、その後ろに隠れているリーザ、アマネをねめ回した。

「そこの上玉のねーちゃんたちに、俺たちの『おもてなし』をたっぷりしてもらおうじゃねえか。へへへっ!」

 下劣な笑い声が響く。

「……てめぇら。誰に向かって口を利いてるか、分かってんのか」

 ゴゴゴゴゴ……ッ!

 広場の空気が、一瞬にして凍りついた。

 キャルルたちの背後で丸太を運んでいたレオンハート特務部隊の隊長・ガルフ将軍が、巨大な戦斧を握りしめ、圧倒的な闘気を立ち昇らせていたのだ。

「俺たちの命より大切な姉御(村長)と、俺たちの推し(リーザ様)に手を出そうってのか。……今すぐその汚え首を叩き斬って、肥溜めに沈めてやるっす!!」

「ひぃぃっ!? な、なんだこの獣人は! 俺たち三国役人に手を出せば、どうなるか分かってるんだろうな! 国際問題になるぞ!」

 役人たちが腰を抜かしながらも、威丈高に叫ぶ。

「おい、ガルフ! 斧を収めろ! システムに物理的なダメージを与えるな!」

 俺は慌ててガルフの前に立ち塞がった。

 ガルフの言う通り、こいつらを叩き斬るのは簡単だ。だが、こいつらは腐っても三国の正規の役人。ここで暴力エラーを起こせば、ポポロ村の「中立地帯」という政治的立場が崩壊し、村が軍事介入を受ける口実を作ってしまう。

(……最悪のバグだ。物理攻撃はNG。かといって、リーザたちが稼いだキャッシュ(税金)を素直に渡すわけにもいかない。どうやってこの状況をデバッグする……?)

 俺がPMとして胃を痛めながら解決策ワークアラウンドを思案していた、その時だった。

「あらあら。お仕事でお疲れの殿方たち。なんだかとてもストレスが溜まっていらっしゃるみたいですわね」

 コツ、コツ、と優雅な足音を立てて、ふんわりとしたお嬢様ドレスのエルフ——ルナ・シンフォニアが進み出た。

「あぁん? なんだお前。エルフのねーちゃんか? お前が俺たちの相手をしてくれるって——」

「ええ♡ ポポロ村を代表して、私が最高のおもてなし(接待)をご用意いたしますわ」

 ルナがニコッと、純度百パーセントの天使のような笑顔を見せた。

 俺の背筋に、尋常ではない悪寒が走った。

 森を丸ごと消し炭にし、無限臓器売買を提案したこのコンプラ破壊エルフが、「最高のおもてなし」などというワードを口にしたのだ。まともな処理コードが返ってくるはずがない。

「さあ、おいでなさい。——『ハッピー・ドリーム』♡」

 ルナが優雅に指を弾いた。

 ドボゥッ!!

 役人たちの足元の地面が突如として爆発し、地中から『それ』が姿を現した。

「なっ……なんじゃこりゃあぁぁぁっ!?」

 役人たちが絶叫した。

 それは、巨大なラフレシアとウツボカズラを掛け合わせたような、極彩色に毒々しく変色した『巨大な魔導植物』だった。

 花弁の中心には、ギザギザの牙がびっしりと生えた口のような器官があり、そこから紫色に発光する怪しげな粘液ヨダレをダラダラと垂れ流している。どう見てもバイオハザード指定されるべき、禁忌の化け物だ。

「ひぃぃぃっ! く、食われるぅぅっ!」

「あら? 逃げないでくださいな。今から極上のサービスが始まりますのよ♡」

 シュババババッ!!

 ハッピー・ドリームの根本から、無数の鋭い『触手』がマッハの速度で射出された。

「ぎゃあぁぁぁぁっ——!」

 触手は逃げ惑う役人たちの首筋や背中に、容赦無く深々と突き刺さった。

 ——終わった。役人を殺害した。ポポロ村は終わりだ。

 俺が絶望して天を仰ごうとした、次の瞬間。

「……あひゃ……あひゃひゃひゃひゃ……♡」

 触手を刺された役人たちの叫び声が、ピタリと止んだ。

 彼らは白目を剥き、口からだらしないヨダレを垂らしながら、その場にふらふらと立ち尽くした。

 そして、空中をまさぐりながら、完全にイカれた笑顔で虚空に向かって喋り始めたのである。

「うひょぉぉっ! こりゃあ極上のワインだぜぇ……ぐびぐびっ。たまんねぇ!」

「おいおい、そんなにすり寄ってくるなよぉ、キャルルちゃんにリーザちゃ〜ん……へへへっ、両手に花とはこのことだぜぇ……でへへへっ♡」

「おおっ! 金だ! 特別警備税、確かに金貨百枚受け取ったぜぇ! これで俺も大金持ちだぁ……うひゃひゃひゃひゃっ!」

「…………は?」

 俺は、あまりの異様な光景に思考がフリーズした。

 役人たちは何もない空間を抱きしめ、空っぽのグラスを飲む真似をし、存在しない金貨の重みに歓喜の涙を流している。

「ル、ルナ様……。この人たち、一体どうなっちゃったんですぅ……?」

 キャルルがドン引きしながら尋ねると、ルナは「ふふっ♡」と誇らしげに胸を張った。

「この子は『ハッピー・ドリーム』。対象の脳波を読み取って、その人が一番望んでいる『欲望』を、脳内に直接幻覚(夢)として見せてあげる、とっても優しい植物さんなんですのよ♡」

「脳内幻覚……だと?」

「ええ! 触手から分泌される特別な快楽成分ヨダレを直接神経に注入することで、現実と全く区別のつかない『疑似体験』をさせてあげるんですの。もちろん、お酒の味も、女の子の感触も、お金をもらったという記憶も、脳の海馬に完璧に上書き(セーブ)されますわ♡」

 ルナの説明を聞いて、俺のSEとしての理解が瞬時に追いついた。

(つまりこれは……対象の五感の入出力ポートを完全にハッキングして、脳内にローカルな『完全没入型VR空間』を展開するシステムってことか!)

「さあ、お役人様。税金もたっぷり受け取って、お酒も女の人も満喫して、大満足ですわよね?」

 ルナがにっこりと笑いかけると、白目を剥いた役人たちが一斉に激しく頷いた。

「あぁぁ……最高だぁ……。ポポロ村の接待、宇宙一だぜぇ……!」

「税金、確かに受け取ったって……領収書、切っとくからよぉ……」

 役人たちはふらふらと懐から紙とペンを取り出し、なんと『税金徴収完了』のハンコが押された正規の領収書を書き上げ、俺の足元にポイッと投げ捨てた。

「じゃあな……また来月も、頼むぜぇ……うひゃひゃひゃひゃっ♡」

 そして彼らは、完全にキマった笑顔のまま、ヨダレを垂らしながら千鳥足で村の出口へと帰っていったのだ。

 おキャッシュを1円も払わず。お酒も料理も一切消費せず。

 ただ植物の触手を刺して幻覚を見せただけで、彼らは「最高の接待を受けて、税金も満額回収した」という完璧な記憶を保持したまま、帰路についたのである。

「……す、すごいですわ! これなら、私の稼いだ五円玉スパチャを1円も税金で持っていかれずに済みますの!」

 一部始終を見ていたリーザが、目をギラギラと輝かせてハッピー・ドリームに駆け寄った。

「ルナ様! この植物、ノーコストで国税局を欺ける、最強の脱税ツールですわ! これでもう、役人に怯える必要はありませんのね!」

「そうですわね! 皆がハッピーになれる、素晴らしいソリューションですわ♡」

「いや……」

 キャッキャと喜ぶエルフと人魚姫をよそに、俺は顔を引きつらせて領収書を拾い上げた。

「相手の脳に直接快楽物質をブチ込んで、記憶を改ざんする植物? これ、どう控えめに見ても『違法薬物による幻覚接待』だろ。完全に麻薬カルテルのやり口じゃねえか!!」

 倫理観ガン無視。コンプライアンスは完全崩壊。

 もしこの事実が三国にバレれば、「ポポロ村は危険ドラッグ植物を使って役人を洗脳している反社テロリストの拠点」として、今度こそ正規軍の総攻撃を受けるだろう。

「カ、カナタさん……! この植物、燃やしましょう! すぐに燃やさないと、村が裏社会の拠点になってしまいますぅ!」

 キャルルがウサギ耳を震わせて提案してくる。

 確かに、これはデバッグ(焼却)すべき超絶危険なバグだ。

 だが——。

「……待てよ」

 俺は、足元に落ちている『税金徴収完了・領収書(正規書類)』を見つめた。

 先ほどの役人たちが素面で攻めてくれば、ガルフたち自警団が物理的に衝突するしかなかった。そうなれば、確実に怪我人が出るし、国際問題になる。

 だが、この『ハッピー・ドリーム』の幻覚VR接待システムを使えば……。

 血を流さず、金も一銭も減らさず、外の理不尽な圧力クレーマーをニコニコ顔で追い返すことができるのだ。

「……背に腹は、代えられない、か」

 俺は深く、重いため息を吐き出し、スラックスのポケットから手を抜いた。

「カナタさん……? まさか……」

「キャルル。村の入り口に、この『ハッピー・ドリーム』を設置する専用のVIP応接室(隔離サーバー)を建設しろ。今後、面倒な役人やヤクザが来たら、全部この部屋にルーティングして、ルナのVR接待で処理する」

「ええええええっ!? カナタさんまで、反社ビジネスに染まっちゃったんですかぁぁっ!?」

「システム運用において、最も重要なのは『リソースの保護(村の金と命を守ること)』だ。倫理という名のエラーログは、見なかったことにしてディレクトリの奥底に塩漬けにする」

 元ブラック企業のSEとしての、究極の妥協(闇落ち)。

 天然エルフのルナがもたらした『幻覚接待植物』は、こうしてポポロ村の「完全合法(?)の防衛・脱税システム」として正式採用されてしまった。

 俺の胃痛と引き換えに、村の経済圏はますます黒く、深く、アンダーグラウンドな領域へとアップデートされていくのだった。

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