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異世界で『鍵使い』のハズレを引いたけど、極上メシを作ったら最強の剣士が弟子入りしてきた〜料理とハッキングで快適スローライフ〜  作者: 月神世一


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EP 9

オタ芸防衛システムと、絶対無敵の防壁アイドル・エコノミー

 その夜、ポポロ村の広場は、かつてない異常な熱気と物理的な振動に包まれていた。

 村の収穫と平穏を祝う『ポポロ村大感謝祭』。そのメインイベントとして、広場の中央にデプロイされた特設ステージには、無数の松明と魔法石による色とりどりのスポットライトが集中していた。

「うおおおおおっ! リーザちゃぁぁぁぁぁんっ!」

「俺たちのキャッシュを、全部持っていってくれぇぇぇっ!」

 ステージを囲むのは、ルナミス帝国、アバロン魔皇国、レオンハート獣人王国の三国駐留所から非番を総動員して集結した、数百名を超える屈強な兵士たちである。

 彼らは国境という壁を越え、皆一様にアマネが錬成した『ピンク色の手製ハッピ』を身に纏い、手には真鍮貨(五円玉)の詰まった麻袋とペンライトを握りしめている。

「さあ皆様! 今夜は私に、貴方たちのすべてを捧げてくださいませ! 絶対無敵のスパチャアイドル、リーザのスペシャルライブ、スタートですわーっ!」

 オリーブ色の芋ジャージに、なぜか百円ショップの概念でデコレーションされたキラキラのラインストーンを貼り付けたリーザが、健康サンダルを高らかに鳴らしてステージに飛び出した。

 瞬間、広場のボルテージが爆発した。

『All:愛!アイ!愛!アイ!ラ〜ブラブ!』

『All:(Fu Fu!)』

『All:マネー!マネ!ローン!ダーリン!グ!』

『All:(Yeah!!)』

 限界オタク聖女・アマネを筆頭とする兵士たちの完璧なコールが、夜空を劈く。

 リーザが歌うのは、彼女の最大出力ソング『Love & Money』。

 人魚姫の放つ『強欲のドレイン魔力』が全開となり、聴く者の時間、思考、そして現金のすべてを容赦無く吸い上げにかかる。

『朝に目覚ましがなったわ♪』

『(ジリリリ!)』

『私はまだ眠いわ♪』

『(おはよー!)』

『朝シャンしなきゃ♪(Fu!) 朝メニュー食べなきゃ♪(パクパク!)』

『鏡の前でメイクをしなきゃ♪』

『(魔法をかけて〜!)』

 信じられない光景だった。

 日頃は厳しい軍事教練に耐え、血で血を洗う戦場を駆け抜けてきた三国のエリート兵士たちが、アマネの指揮の下、一糸乱れぬ完璧な統率フォーメーションでオタ芸を打っているのだ。

「——総員、ロマンスの構え! 推しへの愛を、光の軌跡に変えるんですぅ!」

「了解であります、聖女(TO)殿ぉっ!!」

 ガルフ将軍をはじめとする筋骨隆々の獣人たちが、ピンクのペンライトを両手に持ち、凄まじいスピードとキレで腕を振り回す。

 それはもはや踊りではない。闘気を極限まで練り上げた、軍事レベルの近接戦闘アルゴリズムの平和的転用だった。

『さぁショーの始まりよ♪(It’s Show Time!)』

『のんびりな私は 1LDKに置いて行くわ♪(バイバイ!)』

『扉を開ければ 私が主人公♪』

『(オ・レ・の! アイドルー!)』

「……おいおいおい、ちょっとマズいことになってないか、これ」

 ステージの後方、音響機材代わりの魔導石の裏で腕を組んでいた俺は、冷や汗を流して空を見上げた。

 数百人の兵士たちが一斉に放つ「闘気」と「魔力」、そしてリーザの人魚姫としての「ドレイン魔力」。それらが局地的に交わり、増幅を繰り返した結果、広場の上空の大気が物理的に歪み、バチバチと紫色の放電現象スパークを起こし始めていたのだ。

「カナタさん! なんか、空の空気がビカビカ光ってて、息が苦しいですぅ!」

 隣でウサギ耳を塞ぎながら、キャルルが怯えたように俺のジャージの裾を引っ張る。

熱暴走オーバーヒートだ。あの馬鹿どもの過剰なトラフィック(オタ芸と闘気)のせいで、空間の魔力許容量の限界を超えてるんだ。このままじゃ、行き場を失ったエネルギーが爆発して、村の広場ごと吹き飛ぶぞ」

 前世のシステムエンジニア時代、サーバー室の冷却装置がイカれて、数千万の機材が熱でクラッシュしそうになった時の絶望的な光景が、俺の脳裏をよぎった。

(……排熱処理が追いつかないなら、その『無駄な排熱エネルギー』を、別の巨大なシステムにバイパス(迂回)して食わせてやればいい)

 俺はスラックスのポケットから『アパートの鍵』を引き抜き、村の地面——ポポロ村全体を覆う『防御魔法障壁』の基点となる魔導陣へと駆け寄った。

『今日も私の為に世界が動く♪(まわって!まわって!)』

『全て上手くいくわ♪(絶対!)』

『愛も富も一つの物♪(どっちもちょーだい!)』

『ダイヤが欲しい♪ 土地も欲しい♪(Want You! Want You!)』

『貴方の(とキャッシュ)で生きていける♪(Fuuu〜!)』

「よっしゃ、貢げぇぇぇっ! 俺たちの愛(金)で、女王様を輝かせるんだっ!」

 チャリンチャリンチャリンッ! ドサァァァッ!

 サビに入った瞬間、狂乱状態の兵士たちから、ステージ上の空き箱に向かって滝のようなスパチャ(五円玉)が投げ込まれる。

 空間の熱量エネルギーが、臨界点に達しようとしていた。

 俺は魔導陣の基点に鍵を突き立て、叫んだ。

「システム・オーバーライド! 対象、広場上空に滞留している兵士の『闘気』および、リーザの『ドレイン魔力』の余剰排熱!」

 鍵を右に強く回す。

「その行き場のない過剰トラフィックを、ポポロ村の『防御魔法障壁のエネルギー源』として直接ルーティング(経路変更)する! ——『熱源バイパス・ロック』!」

 カチャァァァァァァンッ!!

 金属音が広場に響き渡った、その瞬間。

 上空で爆発寸前だった紫色の魔力と闘気の塊が、まるで巨大な掃除機に吸い込まれるように、村を囲む防御障壁のネットワークへと一気に流れ込んだ。

「なっ……おおおおっ!?」

 観客たちがどよめく。

 ポポロ村の周囲を覆う透明な魔法のドームが、突如として眩いばかりの『ピンクゴールドの光』を放ち始めたのだ。

 兵士たちがオタロマンスを打てば打つほど。リーザに向かって「オ・レ・の!」と愛を叫べば叫ぶほど。そして、ステージに五円玉が投げ込まれるたびに、その熱量と信仰心がリアルタイムで防壁のエネルギーへと変換され、障壁の強度が物理的に分厚くなっていく。

「み、見てください将軍! 俺たちのペンライトの動きに合わせて、村のバリアがピカピカ光ってやす!」

「うおおおおっ! 俺たちの推しへの愛(オタ芸)が、そのままリーザ様を守る無敵の盾になっているということか! なんという奇跡のシステムだ!」

 兵士たちの間に、劇的な勘違い(バグ)が走った。

「——総員、オタ芸の出力を一二〇パーセントに引き上げろぉぉぉっ! 俺たちの愛で、この村とリーザ様を完璧に守り抜くんだぁぁぁっ!」

「「「イエッサー!! オ・レ・の! リィィィザァァァッ!!」」」

 死の恐怖すら超越した、限界オタクたちの底力。

 本来なら魔石を大量に消費して維持しなければならない高コストな軍事防壁が、兵士たちの『無償の愛(オタ芸の熱量)』によって、無限に自己修復と強化を繰り返す永久機関へと変貌を遂げたのだ。

『世界中が私の為に愛を叫ぶ♪(まわって!まわって!)』

『全部抱きしめるわ♪(最強!)』

『愛も富も同じ輝き♪(どっちも本物ー!)』

『ダイヤも株も♪ 土地も愛も♪(All Need! All Need!)』

『貴方の全て(人生)を背負って生きていける♪(Fuuu〜!)』

「だから私は 銀河の果てまで歌って行けるわ♪」

「だから、何処までもついて来てね♡」

「「「(一生ついていくよー!!)」」」

「ダーリン!」

「「「(チュッ♡)」」」

 ライブの最高潮。リーザの投げキッスとともに、村の防壁が太陽のような極光を放ち、周囲の闇を完全に吹き飛ばした。

 歓声と、絶叫と、スパチャの雨。

 ポポロ村の夜は、かつてない狂乱と光に包まれ、伝説のライブは幕を閉じた。

   ◆

 その頃。

 光り輝くポポロ村を、数キロ離れた山中の安全地帯から、高性能の魔導双眼鏡で見つめている男がいた。

「…………馬鹿な」

 ルナミス帝国最大の企業、ゴルド商会のオロチ会長は、震える手で咥えていた最高級の葉巻を取り落とした。

「軍事用防御魔法障壁……。あれほど高密度な光の盾を展開・維持するには、国家予算レベルの魔石が必要なはずだぎゃあ。それを、あの高木夏那太という男は……」

 オロチの蛇のような瞳が、恐怖と歓喜で収縮する。

「自軍の魔石を一切使わず、あろうことか『敵国を含めた三国駐留兵の熱狂(オタ芸)』をエネルギー源に変換して、防壁のシステムに直結させやがった……!」

 オロチはガタガタと震えながら、自身のスーツを掻き毟った。

「信じられん! アイドルのライブという『娯楽』を隠れ蓑にして、敵国の兵士からスパチャを搾取しつつ、その生体エネルギーを村の軍事防衛システムに無償で酷使させる永久機関……!」

 それは、大陸の商人たちが束になっても到底敵わない、究極の搾取と防衛のハイブリッド——『アイドル防衛経済圏』の完成を意味していた。

「……怪物だ。あの高木夏那太は、人間の心理と空間の物理法則をハッキングして、世界を盤上で弄ぶ『魔王以上の黒幕プロジェクトマネージャー』だぎゃあ……!」

 オロチ会長の脳内に、カナタに対する絶望的なまでの『過大評価バグ』が完全にインストールされた瞬間だった。

   ◆

「……ふぅ。とりあえず、熱暴走は免れたな」

 広場の隅で、俺はアパートの鍵をポケットにしまい、冷や汗を拭った。

「カナタさん! なんか村のバリアがピンク色にピカピカ光って、屈強な男の人たちが泣きながら踊り狂ってて……私、怖いですぅ……!」

 キャルルが俺の腕に抱きつきながら、ガタガタと震えている。

「気にするな。ただの無害な『熱源の再利用エコシステム』だ」

 俺はコーヒーを飲みながら、ステージで硬貨の山にダイブして「うひょぉぉっ!」と下品な奇声を上げている芋ジャージの人魚姫と、燃え尽きて白目を剥いている聖女を見つめた。

(これで、防壁の維持費用(魔石代)は実質タダになったな。兵士たちのオタ活が続く限り、村のセキュリティは盤石だ)

 自分が大陸の裏社会から「恐怖の天才黒幕」として戦慄されていることなど露知らず、元社畜の俺は、ただただ「経費削減コストカット」が成功したことだけを、心の中で密かに喜んでいたのである

お読みいただきありがとうございます!


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