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異世界で『鍵使い』のハズレを引いたけど、極上メシを作ったら最強の剣士が弟子入りしてきた〜料理とハッキングで快適スローライフ〜  作者: 月神世一


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EP 5

特設アイドルステージのデプロイと、伝説のプロデューサー誕生

「おい、そこ! 導線(アクセス経路)の確保が甘いぞ! ステージと観客席の間に十分なバッファ(緩衝地帯)を設けろ! 熱狂したオタクの圧力トラフィックで物理的にステージが崩壊するリスクがある!」

「了解しやした、カナタの兄貴! 野郎ども、兄貴の指示通りに基礎の杭を倍に増やせぇっ!」

 ポポロ村の中央広場。

 雲一つない青空の下、昨晩まで完全武装で村を強襲しようとしていたレオンハート獣人王国の特務部隊が、泥と汗にまみれながら木材を運んでいた。

 彼らの隊長であるガルフ将軍は、上半身裸になって丸太を担ぎ上げ、満面の笑みで俺に報告してくる。キャルルの『満月の無限ヤキ入れ』によって脳の報酬系を完全に書き換えられた彼らは、今やポポロ村の極めて従順で強靭な建設リソース(労働力)となっていた。

「兄貴! 骨組みは組み上がりやしたが、釘と金具の数が足りねえっす! これじゃあ激しいダンスに耐えきれねえかもしれやせん!」

「資材のショートか。だが、工期スケジュールは遅らせられない。……俺が直にデバッグする。退いてろ」

 俺はスラックスのポケットから『アパートの鍵』を取り出し、組み上がったばかりの巨大な木造ステージの土台へと歩み寄った。

 みかん箱のような脆弱なセキュリティ(音響・導線)では、リーザの放つ『強欲のドレイン魔力』を効率的に拡散・集金することはできない。村の経済を回すためには、ファンを安全に熱狂させ、確実にお金を落とさせるための堅牢なサーバー(本番環境)が必要不可欠だ。

 俺は鍵の先端を、木材の接合部に押し当てた。

「システム・オーバーライド。対象、木材同士の接触面における『摩擦係数』および『分子間引力』」

 釘がないなら、木材そのものを物理的・概念的に同化させてしまえばいい。俺は管理者権限でコマンドを叩き込んだ。

「——『完全結合ロック(フリーズ)』!」

 カチャリ。

 透き通るような解錠(施錠)音が響き渡った瞬間。

 ギシギシと軋んでいた木材の接合部が、まるで一本の巨大な大樹から削り出されたかのように完全に一体化した。どれだけ揺らそうが、物理的な破壊行動を行おうが、決して外れることのない絶対強度のステージベースが完成したのだ。

「う、うおおおおっ……! 一瞬にして、釘一本使わずにステージを完全固定しやがった! 兄貴の魔法、いや神業……恐るべしっ!」

「さっすが兄貴! 俺たち、一生ついていきやすっ!」

 獣人兵たちが大げさにひれ伏し、感涙を流している。

「魔法じゃない、ただの仕様変更だ。よし、これで本番環境ステージのデプロイは完了した」

 俺が額の汗を拭っていると、背後から「わぁぁぁぁっ!」という歓喜の悲鳴が上がった。

「す、すごいですの! これ、本当に私だけのステージなんですの!?」

 オリーブ色の芋ジャージに健康サンダルという、相変わらずの致命的なバグ外装(見た目)を纏ったリーザが、目をキラキラと輝かせながら真新しいステージの床に飛び乗った。

「みかん箱とは比べ物にならない安定感……! これなら、どんなに激しいステップを踏んでも転びませんわ! ありがとうございます、カナタ・プロデューサー様ぁっ!」

 リーザがステージの上でぴょんぴょんと飛び跳ねる。ジャージの擦れるシャカシャカという音が虚しく響くが、本人は至極満足そうだ。

「お前の集客力トラフィックを最大限に引き出すための設備投資だ。きっちり外貨(五円玉)を稼いで、村長宅のエンゲル係数を下げてもらうからな」

「お任せくださいませ! 私の歌で、この村の皆様の心を残さずドレイン(魅了)してみせますわ!」

 そして、ステージの最前列——通称『最前管理エリア』には、すでに陣取っている者がいた。

「スゥゥゥ……ハァァァ……ッ!」

 ピンク色の手製ハッピを身に纏い、両手にランダムボックスで召喚した地球のペンライトを握りしめ、尋常ではない発汗量で深呼吸を繰り返している聖女——アマネ・カギタである。

「い、いつでもいけますぅ……! 私のコールの準備は、完璧ですぅ……!」

「お前、そのテンションで本気で聖女の末裔なのか……? まあいい、お前には『サクラ(起爆剤)』としてのタスクを任せる。観客の熱量をコントロールして、スパチャのハードルを下げろ」

「サクラだなんて失礼ですぅ! 私は純粋な、リーザちゃんの世界で一番の理解者トップオタですぅ!」

 アマネが血走った目でペンライトをカチカチと点灯させる。

 夕闇が迫るポポロ村の広場には、獣人兵たちが設営した松明の火が煌々と焚かれ始めていた。

 その非日常的な雰囲気に誘われ、農作業を終えた村人たちや、非番の自警団員たちが、何事かと広場に集まり始めていた。

「……よし。トラフィック(観客)が十分に集まったな。リーザ、ライブ開始だ」

 俺の合図とともに、リーザがステージの中央に進み出た。

 芋ジャージ姿であるにもかかわらず、松明の光を浴びた彼女のプラチナブロンドの髪が、まるで深海の真珠のように幻想的な輝きを放つ。人魚姫という種族が本来持つ、絶大なカリスマと美貌のオーラが広場全体を包み込んだ。

「こんばんは、ポポロ村の皆様! シーラン国からやってきた、絶対にあなたを笑顔にするアイドル! リーザですの!」

 マイクを持ったリーザが、完璧な角度でウインクと投げキッスを放つ。

 それだけで、集まったおじさんたちや獣人兵たちの心臓が物理的に跳ね上がったのが分かった。

「今日は皆様に、とびっきりの愛と……少しばかりの『御縁』を繋ぐ歌をお届けしますわ! 聞いてください! 『絶対無敵スパチャアイドル伝説!!』」

 リーザが軽やかなステップを踏み出し、透き通るようなソプラノボイスで歌い始めた。

あかでもない しろでもない♪』

『狙い打つのは 真鍮しんちゅうのゴールド!♪』

「ハイッ! ハイッ! オレの! リィィザァァァァッ!!」

 最前列で、アマネが鼓膜を破るような完璧なコールを叩き込む。その洗練されたオタ芸の動き(ロマンス)は、周囲の観客に一種のトランス状態を伝染させていく。

 リーザの歌声には、人魚姫特有の『原初の歌唱魔力』がたっぷりと乗っていた。

 聴く者の判断力を鈍らせ、「この尊い存在に対して、自分はお金を払わなければならない」という強迫観念にも似た『強欲のドレイン効果』が、広場全体に魔法陣のように展開されていく。

『スーパーのレジじゃ 嫌な顔(ヤメテ!)』

『お賽銭箱なら ドヤれるの(神様ー!)』

「う、おおおおっ……! なんだこの歌は! 魂が、魂が震えるっす!」

「俺の財布が……俺の財布が、勝手に熱くなっている!」

 ガルフ将軍をはじめとする獣人兵たちや、村の農家のおじさんたちの目が、完全に『アマネと同じガンギマリ』に染まり始めた。

 そして、サビに突入した瞬間だった。

『絶対無敵のスパチャアイドル!♪』

『五円が積もれば 山となる!♪』

「持っていけぇぇぇぇっ! 俺の今月の小遣い、全部くれてやるぅぅぅっ!」

「リーザちゃぁぁん! こっち向いてくれぇぇぇっ!」

 チャリン! ジャラジャラジャラッ!

 ステージの足元に設置された巨大な樽に向かって、観客たちから一斉に硬貨が投げ込まれ始めた。

 銅貨、銀貨、そしてこの世界における5円玉相当の真鍮貨。まるで雨あられのように、金属の雨がステージに向かって降り注ぐ。

 それはまさに、物理的なスパチャ(投げ銭)の弾幕だった。

「あはっ♡ 皆様、たくさんの御縁(お賽銭)、ありがとうごじゃいますのーっ!」

 リーザは降り注ぐ硬貨の雨を一切避けることなく、むしろその雨を全身で浴びながら、恍惚の表情で歌い続けた。芋ジャージ姿のまま、小銭の雨の中でターンを決めるその姿は、ある意味で神々しさすら感じさせた。

「……すさまじいな。完全に、広場全体を巻き込んだDDoS攻撃(サーバーへの過剰負荷)だ。観客の財布のキャッシュを、一瞬で枯渇させる気か」

 俺は少し離れた安全地帯から、腕を組んでその光景を眺めていた。

 キャルルは「すごいですぅ! リーザちゃんが光ってますぅ!」と無邪気に喜んでいるが、あの熱狂の中心にいる連中の明日の生活費がどうなるか、俺は知りたくもない。

 数十分後。

 熱狂のゲリラライブが終了した時、ステージの前には、ちょっとした小山ができるほどの硬貨が積み上がっていた。

「はぁ、はぁ……っ! 皆様、本当に、本当にありがとうごじゃいましたのぉぉっ!」

 リーザが硬貨の山にダイブし、頬擦りをしながら歓喜の涙を流している。

 最前列のアマネは、オタ芸のやりすぎで完全に燃え尽き、真っ白な灰のようになって倒れていた。

「ふむ。初期投資ゼロのゲリラライブ一回で、これだけの利益(ROI)が叩き出せるとは。これなら、村の経済特区化も夢じゃないな」

 俺が電卓代わりに頭の中で収益を計算していると、ふと、広場の隅にいる獣人兵たちの視線に気がついた。

 ガルフ将軍とその部下たちが、震える身体を寄せ合い、畏怖に満ちた眼差しで俺を見つめている。

「……おい、見たか。あのカナタの兄貴の冷静な顔を」

「ああ……。血を一切流すことなく、ただ『ステージ』と『一人の少女』を用意しただけで、あの大群衆の精神を完全に支配し、莫大な富を搾取しやがった……!」

「マッハのヤクザウサギの姉御だけでも恐ろしいってのに、あの兄貴は……人々の魂と経済を自在に操る、伝説の黒幕プロデューサーだ……っ!」

 ブルブルと震えながら、俺に向かって深々と一礼する獣人たち。さらにそれを見た村人たちまでが、「さ、さすがカナタさんだ……!」と拝み始めている。

「……おい。なんだその『恐ろしい悪の黒幕』を見るような目は。俺はただ、あいつが家の中で歌うと家計が破綻するから、外に追い出しただけだぞ」

 俺のボヤキなど、狂乱の余韻に包まれた広場には誰一人として届いていなかった。

 こうして、ポポロ村の特設ステージには『伝説のプロデューサー』の噂が新たにデプロイされ、俺の平穏な定時退社の夢は、また一歩遠のいていくのだった。

お読みいただきありがとうございます!


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