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異世界で『鍵使い』のハズレを引いたけど、極上メシを作ったら最強の剣士が弟子入りしてきた〜料理とハッキングで快適スローライフ〜  作者: 月神世一


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EP 10

特大イチゴパフェと、商人の影

洗脳された獣人たちの怪力は、凄まじい労働力リソースだった。

「姉御ォォ! 広場の整地と、大宴会用のテーブル設営、たった今完了しやしたっ!」

昨晩まで命を狙ってきたレオンハート特務部隊が、今は満面の笑みでノコギリと金槌を振るい、大工顔負けの速度でポポロ村のインフラを整備している。

「あ、ありがとうございます……! 皆さん、無理しないでくださいねぇっ!」

キャルルがウサギ耳をペタンと寝かせ、大量の冷たいお茶を運びながらペコペコとお辞儀をしている。

マッハの破壊神と恐れられた昨晩の姿は見る影もなく、すっかり「気の良いポンコツ村長」に戻っていた。

「よし、会場のセットアップは完了だな。あとはメインコンテンツ(飯)のデプロイだ」

俺は厨房で、大量の野イチゴとシープミルクを前に腕まくりをした。

今日の宴会のメインは、キャルルがルナミス帝国で愛してやまなかったという『ルナキン風・特大イチゴパフェ』だ。だが、村人全員と獣人部隊の分の生クリームを、手作業で泡立てるのは物理的に不可能に近い。

俺はボウルに満たされたシープミルクに、スラックスから取り出した『アパートの鍵』を押し当てた。

「生クリームが泡立つのは、液体中の脂肪球が物理的な刺激で結合(乳化)するからだ。なら、そのプロセスを省略してシステムを書き換える」

コマンドを入力する。

「システム・オーバーライド。対象、シープミルクの脂肪球の分子結合。——『ロック(強制結合)』!」

ガチンッ。

鍵の音が響いた瞬間、ボウルの中の液体が自律的に蠢き、一瞬にしてツノが立つほどの極上ホイップクリームへと変貌を遂げた。

「す、すごいですカナタさん! 一秒も混ぜてないのに、完璧なクリームができましたぅ!」

横で見ていたアマネが目を丸くする。

「ただのデバッグだよ。さあ、パフェグラス(木のジョッキ)に盛り付けるぞ」

砕いた氷菓子の上に、甘酸っぱい野イチゴをたっぷり乗せ、その上から俺のシステム改変によって生まれた濃厚な生クリームを塔のように絞り出す。仕上げにハニーかぼちゃの蜜とイチゴの果汁で作った特製ソースをかければ、ルナキン風イチゴパフェの完成だ。

「完成だ。ポポロ村特製、特大イチゴパフェ!」

俺が広場にパフェの乗ったお盆を運ぶと、村人たちと獣人たちから地鳴りのような歓声が上がった。

「うおおおおおっ! なんだこの白くてフワフワした甘ぇ食い物は!」

フェイトがいの一番にパフェをスプーンで掬い、目をひん剥いた。

「甘酸っぱいイチゴと、この暴力的なまでに濃厚なクリーム! それが冷たい氷菓子と混ざり合って、脳天に直接快感を叩き込んできやがる! 美味すぎるぜ!」

「姉御! このパフェ、最高っす! 俺たち、レオンハートに帰ってもこんな美味いモン食えねえっす!」

ガルフ将軍をはじめとする獣人たちも、顔中をクリームまみれにして涙を流している。

そして、広場の中央。

キャルルは自分の分のイチゴパフェを一口食べると、ポロポロとルビー色の瞳から大粒の涙をこぼした。

「……おいひぃ。ルナキンで食べてたパフェより、ずっと、ずっと美味しいですぅ……!」

彼女は人参柄のハンカチで目元を拭いながら、俺とアマネを見上げた。

「私、ずっと『籠の鳥』で……どこにも自分の居場所なんてないって思ってました。でも……カナタさんがいて、アマネちゃんがいて、フェイトさんがいて。この村の皆が、私を村長として受け入れてくれて……」

キャルルはパフェのグラスを両手で包み込み、花が咲いたような最高の笑顔を見せた。

「私、このポポロ村に来て、本当によかったです! ここが、私の『帰る場所』です!」

村人たちから温かい拍手が沸き起こる。

俺はコーヒーを啜りながら、小さく息を吐いた。

色々とバグだらけのウサギだが、この笑顔を守るためなら、PMとしての厄介なタスクも悪くないと思える。

(これでようやく、第二フェーズも無事にクローズだな)

そう思って、平和な宴会の景色を眺めていた、その時だった。

「ほお……この『ぱふぇ』とやらは、でら美味いぎゃあ。氷室もなしにこれほど冷たく、そして濃厚なクリームを作るとは。こりゃあ王都の貴族どもが、金貨を山ほど積んで欲しがる味だで」

背後から、場違いなほど派手なスーツを着た初老の男が、いつの間にか俺の隣に座り、俺が作ったパフェを美味そうに平らげていた。

蛇のような細い目をしたその男は、葉巻の煙をくゆらせながら、俺に向かってニヤリと笑った。

「おみゃあさんが、ウサギを手懐けた凄腕のPM……高木夏那太サンだな?」

「あんた、誰だ。村の人間じゃないな」

俺の問いに、男は懐から一枚の豪奢な名刺を取り出し、俺の胸ポケットにスッと差し込んだ。

「ワシはルナミス帝国最大の商会、ゴルド商会の会長……オロチだぎゃあ。どうだ、高木サン。ワシと一つ、世界を揺るがす『デカいビジネス(商談)』をせんか?」

オロチの蛇の瞳が、俺を値踏みするように怪しく光る。

ポポロ村の価値が、ただの緩衝地帯から「莫大な富を生む経済拠点」へと変貌した瞬間だった。

ウサギの暴走による防衛戦が終わり、俺の次なるプロジェクト(デスマーチ)は、どうやら『大陸最大の商人との経済戦争』になるらしい。

満月の夜空の下、俺の平穏なスローライフは、またしても新たな騒動に向けて回り始めたのである。

お読みいただきありがとうございます!


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