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異世界で『鍵使い』のハズレを引いたけど、極上メシを作ったら最強の剣士が弟子入りしてきた〜料理とハッキングで快適スローライフ〜  作者: 月神世一


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EP 15

コンプライアンス違反と、ポポロ村の独立

新居の縁側で飲む冷たい井戸水は、至高の休日の始まりを予感させる味がした。

ズドァァァァンッ!!

だが、鼓膜を劈くような銃声が広場の平和を粉砕し、俺の視界には魔導ライフルを構えた傲慢な帝国兵たちの姿が映り込んだ。

「静かにしろ辺境の田舎者ども! 我々はルナミス帝国・国境警備隊だ!」

村の広場に土足で踏み込んできたのは、軍服に身を包んだ十数人の兵士たちだった。

先頭に立つ小太りの将校が、日本軍の九九式小銃をベースにした『魔導ライフル』の銃口から煙を上げながら、村長を怒鳴りつけている。

「いいか! 我がルナミス帝国がこのポポロ村を保護してやっているからこそ、貴様らは平和に暮らせているのだ! 先日、この付近に死蟲機の大群が現れたそうだな! よって、特別危険手当として『金貨百枚』をただちに徴収する!」

「き、金貨百枚!? そんな無茶な! それに魔物の群れは、カナタさんが一人で……帝国軍は何もしてくださっていないではありませんか!」

「口答えをするな! これは帝国と交わした『契約』なのだ!」

村長が泣きつくが、将校は聞く耳を持たない。

金貨百枚。庶民の年収の三分の一に相当する大金を、こんな小さな村が即座に払えるわけがない。払えなければ、村人たちは強制労働や奴隷として連行されるだろう。

「……おいカナタ。俺があいつらを全員、峰打ちで叩き斬ってきていいか?」

縁側で立ち上がったフェイトが、静かな怒りを含んだ声で剣の柄に手をかけた。

「やめろ。お前が帝国兵を攻撃すれば、それは『国家への反逆』になる。次は一個大隊が村を焼きにくるぞ」

「じゃあどうするんだ! あんな横暴を許すのか!」

武力バグで解決できない問題は、法と論理ルールでデバッグするんだよ」

俺はスラックスのポケットに手をつっこみ、ゆっくりと広場へと歩み出た。

「おい、そこの責任者。契約書を見せてみろ」

俺が声をかけると、小太りの将校が鼻で笑って振り返った。

「あぁ? なんだ貴様。俺は徴税官のゼクス大尉だ。部外者はすっこんでいろ」

「村の防衛を担当しているPMプロジェクトマネージャーだ。カネを要求するなら、エビデンス(証拠)を出せと言っている」

ゼクス大尉は舌打ちをすると、懐から羊皮紙の巻物を取り出して見せつけた。

「読めるか平民? ここだ。『第8条第4項:ポポロ村周辺に特級魔獣が出現した場合、帝国は事後処理の特別税を課すことができる』! しかもこの契約書には、村長と帝国の『魔法血判』が押されている。魔法で書かれた契約は、絶対に破棄も改ざんもできないのだ!」

なるほど。たしかに羊皮紙には、禍々しい赤い光を放つ魔法のインクで文字が記されている。

だが、俺のSEとしての目は、その羊皮紙に隠された『違和感』を即座に見抜いていた。

「……ゼクス大尉。あんた、コンプライアンス(法令遵守)の教育を受けてないな」

「なに?」

「第8条第4項のその文章だけ、インクの染み込み方が違う。元の文章を薬品か何かで薄く消し、その上から都合のいい条文を『上書き保存(不正改ざん)』したな?」

図星を突かれたのか、ゼクス大尉の顔がピクリと引きつった。

「ば、馬鹿なことを言うな! 魔法の血判が押されている以上、この契約は絶対だ! これ以上逆らうなら、反逆罪で射殺するぞ!」

ゼクス大尉が魔導ライフルを俺の眉間に突きつける。

周りでアマネや村人たちが悲鳴を上げた。

だが、俺は銃口から目を逸らすことなく、スラックスから取り出した『アパートの鍵』を、ゼクス大尉の手元の羊皮紙へと押し当てた。

「魔法だか何だか知らないが、インクで文字を書くという行為は、紙の繊維とインクの『化学的結合』にすぎない。なら、俺の管理者権限でロックを外せる」

「なにを訳の分からないことを——」

「システム・オーバーライド。対象、後から上書きされた魔法インクと羊皮紙の分子結合」

物理法則を無視した魔術契約だろうが、物質として存在する以上、そこには必ずシステム(構造)がある。俺は改ざんされた不正なレイヤー(層)だけを指定し、コマンドを入力した。

「——『ロック解除アンロック』!」

カチャリ。

澄んだ解錠音が響いた瞬間。

羊皮紙に書かれていた「特別税を課すことができる」という禍々しい赤い文字だけが、まるで砂のようにサラサラと崩れ落ち、風に吹かれて消え去った。

「なっ……!? も、文字が、魔法の契約が消えた!?」

ゼクス大尉が目玉が飛び出んばかりに驚愕し、羊皮紙を取り落とす。

インクが剥がれ落ちた羊皮紙の表面には、かつて書かれていた『マスターデータ(真の条文)』が薄っすらと浮かび上がっていた。

「ほら見ろ。元の条文は『ポポロ村は緩衝地帯としての役割を担うため、一切の税を免除する』だ。……ゼクス大尉、あんた、自分の懐に入れる裏金スラッシュファンドを作るために、勝手に契約書を改ざんして村を脅迫したな?」

「ち、違う! これは……!」

「公文書偽造、並びに職権乱用による恐喝。帝国法でどれほどの重罪になるか知ってるか? ルナミス新聞社にこの事実と証拠の羊皮紙をリークされたら、あんたの首は物理的に飛ぶぞ」

俺が冷酷な声で詰め寄ると、ゼクス大尉は顔面を蒼白にし、ガチガチと歯の根を鳴らして震え始めた。

「ひぃぃっ! ば、化け物め……! 撤収! ただちに撤収しろぉっ!」

ゼクス大尉は魔導ライフルすら放り出し、部下たちを引き連れて、蜘蛛の子を散らすように村から逃げ出していった。

「……ふぅ。これでエラーの除去デバッグは完了だ」

俺が鍵をポケットにしまうと、静まり返っていた広場が、一瞬遅れて爆発的な歓声に包まれた。

「や、やったぁぁっ! 帝国軍が逃げていったぞ!」

「すごい、すごいですカナタさん! 剣も魔法も使わずに、あの恐ろしい軍隊を追い払っちゃうなんて!」

アマネが飛び跳ねて喜び、フェイトがバンバンと俺の背中を叩く。

「はっはっは! さすがは俺の専属料理人だ! 口喧嘩でも最強じゃねぇか!」

村長が涙を流しながら俺の手を握りしめた。

「ありがとうございます、カナタ殿……! これでポポロ村は、誰にも脅かされることのない本当の平和を手に入れました!」

その夜。

ポポロ村では、昨日にも勝る大宴会が開かれた。

村の広場には焚き火が焚かれ、俺が作った『巨大エビ天丼』の残りに加え、太陽芋から作られた『イモッカ』や、高級酒『サケスキー』の樽が次々と開けられていく。

「さあカナタ! 今日は朝まで飲むぞ!」

「アマネも、今日は特別にお酒飲んじゃいますぅ!」

酔っ払って肩を組んでくるフェイトと、顔を真っ赤にして笑うアマネ。

満天の星空の下、村人たちの温かい笑い声が響き渡る。

理不尽なブラック企業で命をすり減らしていた俺は、この異世界で、ポンコツだが最高な仲間たちと、守るべき『帰る場所』を手に入れたのだ。

(悪くない……いや、最高の人生プロジェクトじゃないか)

俺は手元のサケスキーのグラスを傾け、夜空に向かって静かに祝杯を上げた。

ポポロ村の平和な夜は、こうして更けていく——。

   ◆

——同時刻。

ルナミス帝国の首都、大陸屈指の大企業『ゴルド商会』の会長室。

「ほう……魔法の契約書をただの『鍵』で消し去り、帝国軍の徴税官を追い返した男、だぎゃあ?」

昭和のパチンコ屋の社長のような派手なスーツを着こなす初老の男——ゴルド商会会長、蛇目族のオロチは、葉巻の煙をくゆらせながら手元の報告書に目を落とした。

「ゲロオムレツを極上のメシに変え、死蟲機を素手で解体する謎の男……高木夏那太、か。こりゃあ、でら面白いビジネスの匂いがするぎゃあ」

蛇の瞳が、妖しく、そして楽しげに細められる。

平穏なスローライフを望む元社畜SEの運命の歯車は、大陸最大の商人を巻き込み、新たな騒動コメディに向けて再び回り始めようとしていた。

お読みいただきありがとうございます!


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