表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界で『鍵使い』のハズレを引いたけど、極上メシを作ったら最強の剣士が弟子入りしてきた〜料理とハッキングで快適スローライフ〜  作者: 月神世一


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/38

EP 14

廃屋リノベーションと、最強の配管工

「お前の家、床下がシロアリじゃなくて『死蟲機ネクロバグの残骸』だらけだったぞ」

「……なんでそんなもんが湧いてるんだよ!」

ポポロ村の正式な住人として歓迎された翌日。村長から提供された空き家の前に立った俺は、その惨状に頭を抱えていた。

屋根は傾き、壁には隙間風が吹き込み、ドアの蝶番は赤錆の塊になっている。控えめに言っても、お化け屋敷のロケ地にしか見えない廃屋だった。

「まあまあカナタ。雨風がしのげるだけマシだろ? 俺なんていつも野宿か、教会のソファで寝かされてるんだからな」

「それはお前がいびきで教会の窓ガラスを割るからだろ。アマネ、村に大工や職人はいないのか?」

「うぅ……村の若い人たちはみんな都市に出稼ぎに行っちゃって、お爺ちゃんお婆ちゃんしかいないんですぅ」

しょんぼりするアマネを見て、俺は短くため息をついた。

俺はブラック企業でPCの画面ばかり見ていた元SEだ。日曜大工の経験などない。だが、目の前にあるのはただの『壊れたシステム(家)』だ。

バグ(破損)の原因を特定し、パッチを当てて正常な挙動に戻す。それは俺の専門分野だった。

「仕方ない。俺が直す。二人とも手伝え」

「えっ? カナタさん、大工仕事もできるんですか?」

「コードを書き換えるだけだ。フェイト、まずはその傾いた大黒柱を真っ直ぐに押し戻せ」

俺は指示を出し、フェイトが「よっこいしょ」と闘気を込めて太い柱を垂直に押し戻した。だが、長年歪んでいた木材は、手を離せばまた元に戻ろうとする。

そこで俺は、スラックスから『アパートの鍵』を取り出し、大黒柱に押し当てた。

「システム・オーバーライド。対象、木材内部の『残留応力』。……『ロック解除アンロック』!」

カチャリ。

鍵の音が響いた瞬間、ミシミシと軋んでいた柱がピタリと沈黙した。曲がろうとする繊維のストレス(応力)を解除し、完全に真っ直ぐな状態へとリセットしたのだ。

「よし、フェイト。手を離していいぞ」

「おおっ! 嘘だろ、柱がピシッと自立してやがる!」

続いて、俺は赤錆で固着したドアの蝶番に鍵を当てた。

「対象、酸化鉄と金属の分子結合。……『アンロック』!」

カチャリ。

パラパラと赤い砂のように錆が剥がれ落ち、蝶番は新品同様の銀色の輝きを取り戻した。ドアを引くと、キィという不快な音もなく、スムーズに開閉する。

「す、すごいですカナタさん! 魔法の修理屋さんみたいです!」

「ただのデバッグだよ。次は水回りだ」

裏手に回ると、村の井戸から引かれているはずの水道管が完全に詰まっていた。

「ここは数年間誰も住んでいなかったから、泥や水垢が固まっちゃってるんです……」

アマネが申し訳なさそうに言うが、配管の詰まりなど、SEの俺からすれば『不要なキャッシュデータの蓄積』にすぎない。

俺は水道管のバルブに鍵を当てた。

「システム・オーバーライド。対象、管内部の汚泥と壁面の結合。——『ロック解除』!」

さらに、水道管内の水圧のベクトルを調整する。

「対象、水流の運動エネルギー。——『ロック(全開固定)』!」

ガゴゴゴゴゴゴッ!!

水道管が激しく脈打ったかと思うと、蛇口から「ドッバァァァァン!!」と凄まじい勢いで黒い泥水が噴き出した。

管の内部にこびりついていた汚れの結合が完全に解かれ、固定された水圧によって一気に押し流されたのだ。

数秒後には、透き通った冷たい地下水が勢いよく流れ出し始めた。

「完璧だ。これで快適なバスルームも作れるな」

俺が満足げに頷くと、泥水を頭から被ったフェイトが「俺を標的にするな!」と叫んでいた。

   ◆

数時間後。

廃屋だった空き家は、歪みのない真っ直ぐな壁、スムーズに動くドア、そしていつでも新鮮な水が出る、ポポロ村で一番快適な現代風ロッジへと変貌を遂げていた。

「すごい……新築みたいですぅ!」

「カナタ、これなら俺も一緒に住んでいいか!? 極上メシがいつでも食えるし!」

「お前は自分のテントで寝ろ。いびきで家が倒壊する」

フェイトの図々しい提案を即座に却下し、俺は縁側に腰を下ろして冷たい井戸水を飲んだ。

労働の後の水は美味い。自分で直した家というのも、悪くないものだ。

アマネが隣に座り、フェイトが庭で木剣の素振りを始める。

まるで、最初からこうなることが決まっていたかのような、穏やかな疑似家族の風景。

「……やっと、スローライフの基盤ができたな」

俺が平和な夕暮れの空を見上げながら呟いた、その時だった。

「カナタさんっ! 大変です!」

村長が、血相を変えて俺の家に転がり込んできた。

「今度はなんだ? また魔物の群れか?」

「ち、違います! ルナミス帝国の国境警備隊が、突然村にやってきたんです! 『ポポロ村は帝国に保護されているのだから、相応の税を納めろ』と……!」

俺は手にしたコップを置き、フェイトと顔を見合わせた。

どうやら、この異世界は俺に平穏な休日を与える気はないらしい。

魔物の次は、人間の軍隊クレーマーのお出ましだ。

お読みいただきありがとうございます!


評価・ブックマークで応援いただけると励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ