第73話 アンダルシアの星空
日本代表が2度目の決勝に挑みます
遂に日本代表は2大会連続の決勝戦へ駒を進めた。相手は前回ベスト4のスペイン。完全アウェーで迎えるこの一戦は、龍永の所属するバルセロスの本拠地ガンプ・ノーでも、ライバルのリアル・マドレーの本拠地サンティアゴ・ベルナベルでもなく、アンダルシアのベニト・ビジャマリナ。フーリガン対策と、両チームの民族性的熱狂を考慮してこのスタジアムが決勝の舞台となった。この最後の一戦を前に日本代表は落ち着いていた。
「向こうは他民族だ。まとまりがねー。だが俺達は世界一の団結力がある!」
と自負していた。
スペインにはバルセロスでのチームメイト、オルモス、クバルシュ、ガビン、ペドリーニョ、フェルモン等龍永のチームメイト達がずらりと顔を揃える。スペインの秘策はズバリ
「出浦潰し。」
である。だが日本もそれは読んでおり、準決勝同様パンチのある内田、越後、中西で相手を弱らせる作戦と、後半青木を入れ、ワイバーンでスペインゴール前に相手を閉じ込める作戦である。龍永はこの試合に臨むにあたり
「特にスペインDFの穴を突くことと、流麗なパスコースを見極めること。」
という2つの課題が与えられていた。その際チームミーティングで
「あのパスサッカーを会得してるのはお前だけだ。お前ならどうする?」
と聞かれていたが龍永は
「・・・言葉にするの難しいですね。提案なんですけど、前半俺を中盤に置いて貰えないっすか?先ず身体であいつらの出鼻叩いときたい。その後後半田嶋さんや青木さんと引き継ぎたい。あいつら毎日身体で覚えてるんで対策なんてそれくらいしか思いつかない。おそらくマッチアップはガビンとペドリーニョだから・・・あいつらは俺なら止められる。前は内田さんで行ける筈。」
とチームや監督に直訴し、この試合はセンターハーフ或いはボランチからスタートする。この注目の決勝は夕暮れから始まり、ほぼナイトゲームとなる。スターティングメンバーは
1番GK佐藤、5番DF鳥海、16番DF下川(ZAアルクマール)、22番DF田中、26番DF小林、6番MF岡野海、10番MF越後、21番MF 出浦(バルセロス、)11番FW工藤、13番FW中西、18番CF内田(ASミラン)
控えメンバーは12番GK西久保、23番GK宮澤、2番DF 杉山、3番DF池田、4番DF阪倉、25番DF結城(AS ミラン)、7番MF三浦、9番MF桑原、14番MF岡野航(ASミラン)、15番MF青木、17番MF田嶋、24番MF阿部、19番FW椎原、20番FW斎藤
この試合では鳥海がスタメン復帰。池田や阪倉は結局最後まで完治せず、メンターとしてこの試合に臨み、準々決勝でレッドカードをもらった前田は、トレーニングパートナーとして帯同している若手の市原や井上とスタンド観戦。キャプテン工藤は
「絶対にワールドカップをまた日本に持ち帰るぞ!気合い入れろ!」
と試合前に鼓舞する。
両チーム選手が入場してくる。龍永にとって4年前とは大きく異なる事がある。
「今回は母さんも、そして奥さんと娘も始めからここにいる。俺の家族がずっと目の前で応援してくれている。もう家族の心配をする事はない。今じゃ3人の女神に支えられてここにいる。だから今日も3点取って勝つ!」
と気合い十分に、君が代を静かに歌う。
そして注目の一戦の火蓋が切って落とされた。この試合は先のチャンピオンズリーグ決勝、バルセロスVSバイエリンのような構図である。バルセロスの選手を多く輩出しているスペインと、ドイツ・リーグに大勢所属している日本。スペインボールから始まった。龍永馴染みのガビンやぺドリーニョを中心にボールがダイレクトトラップパスであっという間に日本ゴール前と行きたいところだが、ボランチに下がった龍永がことごとくスペースを潰す。
「ちっ!あの野郎俺達のコースを読んでやがる!これならどうだ?」
と右サイドジャマールに振ると、対面の小林がマッチアップ。間合いを読みながら距離を縮める小林だったが、ジャマールの個人技に股抜きされてしまう。しかしここにボランチに下がった龍永がフォローし、一気に逆サイドに大きく展開。右サイド工藤にボールが渡ると、ここにバルデスが付く。工藤は無理をせず、簡単にスペインゴール前へダイレクトパスすると内田が反応。だが、クバルシュに読まれてカットされる。その後も両チーム鍔迫り合いの攻防に前半はスコアレスドローで終わる。
ロッカールームに戻ると、日本代表は既に疲弊していた。集中を切らさずスペイン独特のパスサッカーに何とか付いて行った感があった。太田監督に
「龍永、後半前線にポジション上げるぞ。俺達と田嶋、青木、岡野航でパスコースは確認し合った。後半は青木をボランチに入れる。そろそろ先制点が欲しい。」
と交代案を提示すると
「わかりました。クバルシュとキーパーのエメルは俺が何とかします。奴らは頻繁にサイドチェンジしてくる。だから鳥海さんと小林はそれに釣られないように。ボランチの青木さんと海舟さんでブロック作って下さい。そうすれば安易にゴール前には入れませんから。ただし奴らはミドルシュートもあるから、そこは佐藤さんと田中さんと下川が備えて。」
と確認し合った。更に太田監督は
「万が一先制されたら早めに三浦を入れる。あと45分でワールドカップに届くんだ。全力で行け!」
と選手を送り出した。後半開始前に内田に代わって青木が投入される。だが、後半立ち上がりからスペインが猛攻を仕掛ける。ガビン、オルモスと繋いでゴール前のオラルサバスに田中が付くが、後方のフェルモンに渡ると龍永が
「そいつはミドルで来るぞ!備えろ!」
と指示を送るが、そのフェルモンが針の穴を通すようなミドルシュートが日本ゴール右隅に決まりスペイン先制。ベニト・ビジャマリナのスペインサポーターは大興奮。更にこのスタジアムに入れなかったサポーター達も場外でスペインを後押しするが、龍永が
「とっととボールよこせ!直ぐ返してやる!」
とチームを鼓舞する。ベンチでは既に三浦がスタンバイしていたが
「監督!もうワンプレー待って下さい。直ぐ同点にしますから!」
と選手交代を止めると
「・・・あいつ何か企んでるな。」
と龍永のアプローチに乗ることにした。その龍永が工藤、中西、越後を集めて
「開始直ぐ俺がボールキープする。だからその間3人でゴール前に真っ直ぐ走ってシュート連発してもらえますか?こぼれ球を俺と青木さんで狙います。」
と提案した。日本ボールからリスタートすると、龍永にボールが渡り、越後、工藤、中西の3人が言われたとおりにスペインゴール前に一直線に走ると、龍永は中盤でボールをキープし離さない。ガビン、ペドリーニョ、オルモスが囲むが取られない。
(もう2人来い!)
と誘っているようだ。更にロドリゲスとフェルモンが囲み5人になりそうになった瞬間
(今だ!)
と言わんばかりに右サイド、工藤にパスを送ると
「そのまま撃てえ!」
と龍永の怒号が飛ぶ。工藤はワントラップしシュート。前半のフェルモンのシュートとほぼ同じ角度だったが、キーパーエメルが弾くと、ヘディングで中西がプッシュする。するとゴール前にクバルシュが残っておりオーバーヘッドで大きくクリアするが、ここに待ち構えていたのがスペインの中盤5人を引き摺る龍永だった。龍永がこのオーバーヘッドを自らブロックすると、スペインDF陣の配列が乱れており、走り込んだ加速で中央から強烈なシュート。キーパーエメルは1歩も動けず日本同点。
「あと3点だ!絶対獲るぞ!ワールドカップ!」
と大きな声で怒鳴り散らす。京香は
「ほんとあの子、立派になって・・・」
とこぼすと絵梨香が
「お母さんがここにいるからですよ。今日も必ずハットトリック決めて優勝してくれますよ。」
と励ます。
ここで日本が中西に代わり三浦、越後に代わって田嶋を投入。だが、スペインはキックオフ直後から再びティキタカで日本を翻弄。龍永は
「ブロック敷け!そこで止まる!ミドルだけ気をつけろ!」
と檄を飛ばすが、ジャマールの個人技にやられ再び引き離される。
「大丈夫だ!俺があと3点取って試合決めてやる!」
と励まし日本は一目散にボールをセンターサークルに戻す。
「今日のあいつは本物だ。せってー3点取ってくれる筈だ。」
と日本ベンチも動き出し、今日は比較的下がり目のポジションを取っている龍永のサポートとしてDF鳥海に代えて斎藤を投入。右サイドバックに岡野海をずらし、斎藤には
「お前が龍永の位置にCFとして張ってろ。機を見てお前が龍永のフォローをするんだ。お前ならボランチでも出来るだろ?隙を見て龍永とポジションチェンジをかませ。」
と送り出される。この采配がズバリ当たり、後半30分。再び中央でボールをキープする龍永にまたもや5人が競りに行くと、横から
「こっちだ!」
と斎藤がすかさずフォロー。今日本のCFの位置に誰もいないが、斎藤はダイレクトでスペインゴール前やや左にパスを送ると、交代出場した三浦がバルデス、エンリケ・ガルシアを難なく抜き去ると、キックフェイントを混ぜて右サイドから中央へ絞ってきた工藤がダイレクトシュート。キーパーエメルがファインセーブするが、このボールをまたもや5人を引き摺ってきた龍永が、重戦車の如く突っ込んできてクバルシュと1対1。同じく並走していた斎藤とワンツーで交わそうとすると、クバルシュが脚を伸ばし止めるが、逸れたボールを龍永が強引にキープし、ゴールを背に向けそのまま一回転。出浦手裏剣からのボールを隠したシュートにキーパーエメルが反応仕切れずスペインゴールに突き刺さる。龍永はクバルシュに
「オメーが俺のクセを知ってるように、俺もオメーのクセは知り尽くしてるんだよ!」
と雄叫びを上げる。日本のボルテージは最高潮に達したが龍永は
「まだ同点だ!絶対気を抜くな!」
と喝を入れる。その後試合は一進一退の攻防が続きこのまま2-2のスコアで延長戦に入った。
この試合で龍永をどう使うか相当悩みました




