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第70話 赤い悪魔へのリベンジ

日本代表が恐怖の赤い悪魔に挑みます

 決勝トーナメント1回戦を制した日本代表は、ベスト16でベルギーと対戦する。あれは12年前、現日本代表コーチを務める羽生と鷲田が後半アディショナルタイムでコーナーキックをキャッチされ、たったの14秒で当時の日本代表に止めを刺したあの赤い悪魔達との因縁の対決である。そんな羽生と鷲田だったが、この一戦を龍永達後輩に託す。


「俺達の二の舞になるなよ。実際あの当時のほとんどが未だに代表に居座っている。」


と話すと龍永が


「任せてください。あのジジイ共は今日限りで引退してもらいます。」


キャプテン工藤も


「俺達チームミーティングで話し合いました。絶対勝ちますよ。何せ俺らはディフェンディングチャンピオンだ。絶対負けられない。つーか、勝つイメージしか思い浮かばない。」


と頼もしい言葉を残す。鷲田は


「あいつも最初は生意気なガキだったけど、ちゃんとキャプテンやれてるなあ。」


と感心し、羽生も


「全く頼もしい限りだよ。」


と同調する。


 そして舞台は再びモロッコのカサブランカ。先発メンバーは


 1番GK佐藤(アストン・ブル)、5番DF鳥海(クリストパレス)、16番DF下川(ZAアルクマール)、22番DF田中(フベントルス)、26番DF小林(フレンクフルト)、6番MF岡野海(リバプレト)、8番MF前田(フベントルス)、11番MF工藤(アトレティック・マドレー)、13番FW中西(リオン)、21番FW出浦(バルセロス)18番CF内田(ASミラン)


控えメンバーは12番GK西久保(パルム)、23番GK宮澤(エンペロープ)、2番DF杉山(カリアーニ)、3番DF池田(バイエリン)、4番DF阪倉(ドルトミュンスター)、25番DF結城(ASミラン)、7番MF三浦(ブライアン)、10番MF越後(バイエリン)、9番MF桑原(フライブルゲン)、14番MF岡野航(ASミラン)、15番DF青木(フベントルス)、17番MF田嶋(リッズ)、24番MF阿部(バレンシアーノ)、19番FW 椎原(ヴォルフガンク)、20番FW斎藤(フレンクフルト)


ウルグアイ戦後に右脚に違和感を訴えた阪倉がベンチに下がり、代わって鳥海が先発。そして前節抜けた下川と小林がスタメンに復帰。更に今日は先発で内田をCFに投入。この意図は


「ベテランGKのクルトフをパンチ力のある3人のFWで疲弊させる事。」


であった。積極的にシュートを放つ中西と、シュートの破壊力は龍永以上の内田、そしてGKを吹っ飛ばす程強力なシュートを放ち、且つスペイン・リーグでクルトフを熟知している龍永で前半にベルギーをパワーでねじ伏せ、後半からシュート力の高い越後やスピードのある阿部を投入させる構図である。


 だが、試合が始まり前半14分、ベルギーのテレマンスの放ったクロスが直接日本ゴールに入り0-1。更に前半19分、佐藤がパンチングを相手正面に弾いてしまい、0-2とされてしまう。だが、ここから日本が怒濤の攻撃に入り、龍永、内田、工藤、中西、小林、岡野海と立て続けにシュートを放ちまくるも、キーパークルトフのファインセーブに阻まれ2点リードされたまま前半が終わる。龍永は去り際に


「この2点差、高く付くぞ!」


と言って引き上げる。


 ロッカールームで工藤を中心にミーティングを行う様子を見ていた太田監督と羽生、鷲田両コーチが黙って見ている。中西が


「・・・俺達のシュートは確実にあのキーパーに効いてる。後半ぜってー俺達が逆転出来る。」


「内田はまだ交代しない方がいい。このボディブローでもうすぐあのキーパーは撃沈する。もっとシュート撃って弱らせてくれ。」


「龍永、オメーもだ。あいつをもっと弱らせろ。」


「問題は何処で越後を入れるかだな。もうちょっとパンチが欲しい。」


羽生コーチは


「ベンチではどう思った?」


とメンバーに尋ねると


「越後は早いほうがいい。後半頭からでも・・・」


という意見に太田監督が待ったをかける。


「先ず前半の修正だ。2点先取されてるのは事実だ。先ず前田に代わって青木、それから中西に代わって三浦。」


この指示に


「中西が交代?こいつのシュートは効いてますよ?」


と一同が反論するが


「シュートに急ぎすぎて攻撃が単調になってるんだ。だからカウンターでやられてる。こういう時こそ青木や三浦のようなトリックスターが活きるんだ。」


と説明すると、羽生や鷲田が


「ああ。納得。確かに俺達は前半持ったらシュートの1点張りだったな。」


キャプテン工藤も


「俺も頭に血が上りすぎた。もっと意見を言ってくれ。修正し直そう。」


とまとめ直す。もう15分経ったのだが日本イレブンは現れない。太田監督は


「大丈夫だ。お前らが出て来なきゃ試合は始まらねー。ここは巌流島の武蔵といこうじゃねーか。」


とベルギー陣営を極限までじらした。


 そしてようやく日本イレブンが姿を現す。先ず2人メンバー交代。中西に代えて青木、前田に代えて三浦。三浦はともかく青木はユーティリティープレーヤーであり、どのポジションでも可能。また、三浦がセンターハーフに入る事も考えられる。ベルギー陣営にまずこの2人を敢えて別のポジションで代えて混乱させる策を取る。実際にこの交代した2人はそのまま青木が左ウィング、三浦がなんとアンカーの位置に入る。ベルギー陣営や日本サポーターから


「あのウィンガーの三浦がアンカー?」


と初めて目にするポジションを取る三浦に驚く。


 キックオフの笛が鳴ると、そのまま2人は交代した2人のポジションに落ち着いてた。太田監督からは


「後半10分だけでいいからそのポジションで踏ん張ってくれ。それが過ぎたら2人とも元のポジションへスイッチしろ。ベルギーを完璧に騙すには岡野。お前のカバーが必要だ。やれるよな?」


と指示を受けていた。岡野海はその期待に応えて後半は水を得た魚の如く三浦の周囲を広範囲で走り回りカバーする。更にDF陣にも


「あの2点は忘れろ。こういう時こそ大胆さが必要なんだ。リスクを恐れず前に出ろ。8年前のスペイン戦での鷲田のプレーは覚えてるか?武藤がいなかったボランチの位置まで上がってカバーしてたろ?あれぐらいが丁度いいんだ。」


と言うと、その鷲田から


「後ろは俺しかいないなんて考えるな。お前らの前しかチャンスはねーと思ってやれ。」


と送り出されていた。


 そしてベルギーに押し込まれていた後半24分、遂に三浦と青木が適正ポジションに戻ると、その青木から右サイド内田へスルーパス。これに反応した内田がベルギーのペナルティーエリア外右から強烈なシュートをベルギーゴール右隅に決め、1-2と点差を詰める。内田が


「あと3点だ!」


と叫んだ直後に越後と交代。そしてDFに精彩を欠いた鳥海に代わり阿部を投入。岡野海が右サイドバックへ移動し、アンカーに青木、センターハーフに越後、右ウィングに阿部、CFに龍永が移動する。この激しいポジションチェンジにベルギー陣営は更に困惑する。


 そしてその僅か5分後、本来のポジションに戻った三浦が龍永のポストプレーからドリブルで抜け出し今度はベルギーのペナルティーエリア外左から強烈なシュートをベルギーゴール左隅に決め、2-2と同点とする。ここで最後の交代カード。この試合で大車輪の活躍をした岡野海に代わり結城を投入。この意図は、右サイドの阿部に後ろの安心感を持たせる為である。


 その後は一進一退の中、後半アディショナルタイムに入り日本のコーナーキック。スコアは2-2。12年前のあの試合と全く同じシチュエーション。蹴るのはエース工藤。だが、直接狙ったボールをベテランキーパークルトフが直接キャッチし、素早くロングスロー。即座にベルギー攻撃陣5人が反応し、走り出す。日本はキーパー佐藤を含め下川と小林のみが残され大ピンチ。ベンチにいた羽生、鷲田両コーチが


「ヤバい!あの時と同じだ!」


と大声を出し立ち上がったのだが、ここでDFとして予選から君臨し、今や頼もしきDFリーダーに成長した下川が


「下がるな!そこで待ってろ!」


と鬼の形相で怒号を飛ばし、ベルギー攻撃陣をじっくり見定め間合いを取る。


「いつもは冷静沈着な下川が?」


と思った日本イレブンはそれぞれアイコンタクトで陣形を直し、オフサイドラインから猛スピードで戻りながら、とあるスペースを狙って後を下川と小林、キーパー佐藤へ託す。ベルギーの攻撃陣がたちまち日本のペナルティエリア前にたどり着くと、ベルギー陣営の誰もが


「もらった!」


と思ったその時だった。下川が何とボールをカットした勢いで直接ベルギー陣内中央へ大きなトラップパス。日本陣営は全員


「ぜってーこのスペースにボールが来る!」


とベルギー陣内中央のスペースを開けるように相手の邪魔をしていた。レフェリーは日本ゴール前に視線が行っており、この巧妙な動きに全く気付いていない。その下川から来た特大ロングトラップパスに反応した龍永が上手くすり抜け、プレーを切らないよう軽くワントラップしてペナルティーエリア外中央から強烈なシュート。泡を食ったキーパークルトフの両手を思いっきり


《バチーン!》


と弾き飛ばし、勢いよくベルギーゴールに突き刺した。


 土壇場での3ー2のスコア。直後にホイッスルが鳴り試合終了。日本の大逆転勝利。この激戦を制した日本が準々決勝へと駒を進めた。ガックリとうなだれるベルギーイレブン。一斉に下川の元へ走る日本陣営。龍永はベルギーゴール前で


「これでロストフの一件はチャラな!お前ら赤い悪魔なんだろ?俺達はダンダラの青い蒼狼なんだよ!ジジイは引退しろ!後が困る。」


と言い残し、自らも下川の元へ走り去った。下川の頭をぐしゃぐしゃにする龍永が


「オメー!隠してやがったな!あの局面で大した奴だぞ?」


と大喜びすると、下川が


「は?オメーに出来て俺に出来ねーわけねーだろーがよ!俺らの世代は全員そーだろーが!」


と返す。そして工藤や越後、三浦に


「下川。お前の最後のあのツラ、太田監督そっくりの鬼の形相だったな!」


「現役時代の監督もあんな感じだったんだろーな!」


「お前が敵じゃなくてマジでよかったわ!」


と一同にもみくちゃにされる下川を見て龍永は


(俺もいつまでもふんぞり返ってらんねーな。こいつがあんな大胆なトラップパス見せるなんて思わなかったよ。斎藤も椎原も次の試合辺りで見せるんだろーな。)


と思いながら勝利者インタビューに答える。


「今日は下川にほんと助けられた試合でした。それと、ウチの太田監督の試合巧者振りに恐れ入りました。今日は1得点しか上げられませんでしたが、次の試合も3点取って勝ちたいと思います。」


と言ってロッカールームに引き上げた。


 一方ベルギーイレブンは


「もう黄金世代に頼るのは酷ではないのか?」


という質問に対応しきれず、無言でピッチをあとにした。彼らのほとんどは翌日、本当に代表引退を宣言した。彼らは日本ベンチに座っている羽生、鷲田と同世代なのだから無理もないだろう。


ロッカールームで日本イレブンは


「やっぱり3点取らねーと勝てねーって事を痛感したよ。次も最低3点取って勝とう!だよな?龍永!」


と一同で締めくくった。日本代表は、元祖ニホンオオカミこと大神敬助の「あと3点」という言葉の意味を全員が完全に理解しモロッコを去った。

ロシアワールドカップのベルギー戦のゴールを前後半いじって書きました。本来は全部後半の得点でしたが、2点差の恐怖を際立たせるため前半リードされた状態にしています。

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