第69話 偏西風の暴れ桜
龍永がスペインリーグでのライバルと戦います
「久し振りにローリングフォーメーション使いませんか?」
ウルグアイ戦前の事前練習で日本代表は、アジア最終予選ウズベキスタン戦で見せたオフェンス陣5人が前線で回転するようなポジションチェンジをもう一度やろうと監督やコーチ陣と話していた。前線の3人とセンターハーフ2人がポジションチェンジする際にずれるように回転する攻撃をこの一戦でやろうと提案したのだ。
ウルグアイにはリバプレトのアラウージョやリアル・マドレーのバルベルド等曲者揃いであり、ブロックで固めてくるのは明白だった。このローリングフォーメーションで敵のブロックを攪乱させようと話し合っていた。
そして迎えた決勝トーナメント1回戦ウルグアイ戦。先発メンバーは
1番GK佐藤、2番DF杉山、4番DF阪倉、22番DF田中、15番DF青木、6番MF岡野海、8番MF前田、14番MF岡野航(ASミラン)、11番FW工藤、13番FW中西、21番CF出浦
控えメンバーは12番GK西久保、23番GK宮澤、3番DF池田、5番DF鳥海、16番DF下川(ZAアルクマール)、25番DF結城(ASミラン)、26番DF小林、7番MF三浦、10番MF越後、9番MF桑原、17番MF田嶋、24番MF阿部、19番FW 椎原、18番FW内田(ASミラン)、20番FW斎藤
今日は運動量の豊富な田嶋に代わり、攻撃的な岡野航を先発で起用。兄の岡野海も先発で、ワールドカップ日本代表初兄弟での先発起用となった。また、グループリーグ3戦先発で疲労の取れない下川と小林に代わり、田中と本来ボランチの青木が左サイドバックを務める。
ウルグアイボールからキックオフ。相変わらず日本はハイプレスをかけようと前に出るが、ボランチのバルベルドが早くも前線へフィード。ヌネス、ペリストール、アラスクエタの3人が前線へ一直線に走り中盤を飛ばす。だが、岡野海がゴールに向かってカットし後ろ向きでハイボールを送るとそのままバルベルドがオーバーラップ。田中と阪倉がブロックに行くが間に合わずシュートを撃たれウルグアイが先制。キーパー佐藤も反応はしていたが触れず。開始3分で先制点を献上する。ここで太田監督が
「まだ時間はある!お前らは先制された方が点取れるんだ!今までもそうだっただろう?」
とベンチから声を出す。
日本ボールで試合再開。一旦キーパーまで戻すと今度は佐藤がバルベルドのお株を奪うようなロングフィード。右サイドには龍永、後ろに工藤、中央に中西、左サイドに岡野兄弟が時計回りにポジションチェンジして構えており、右サイドの龍永がヘッドで工藤に落とすと、ダイレクトで左に張っていた岡野海へサイドチェンジ。快足を飛ばす岡野海だったがここで捕まり、後方の弟へパスすると、自ら中へ切り込んでシュート。キーパーのメロが反応するが、直前で中央の中西が爪先で軌道を代えウルグアイゴールに突き刺さり同点。試合を振り出しに戻す。序盤からがっぷり4つの展開にポルトのエスタディオ・ドラゴが熱狂する。
その後は一進一退の膠着状態に陥り、両軍ともシュートを外しまくり前半が終了する。
ベンチに戻る際、エスタディオ・ドラゴ西側から強風が吹いてきた。太田監督が
「後半は追い風になる。必ず好機は訪れる。ただし、こっちもシュートが伸びやすくなるから吹かすなよ。」
と指示を送る中、工藤が
「もっと大胆に回転しねーか?1段ずつは前半で読まれてる。もう1段ズレてみよう。」
と提案すると
「そんならサイドに斎藤入れてください。こいつはボランチも出来る。」
と龍永が訴える。皆でホワイトボードで確認し、龍永は右サイド、岡野航に代わり斎藤が左サイド、CFに工藤、中西が中へ絞り、岡野海はそのままセンターハーフに位置しながら両サイドとCFに入れ替わる事が確認された。更にオーバーラップが効いていなかった為、右サイドバックに鳥海を投入。後半開始から2人入れ替える作戦に出た。鳥海と青木はアンカーの前田を追い越し回転に加わるよう指示された。
後半日本ボールからキックオフ。ウルグアイは相変わらずブロックを敷いているが、サイドのケアを忘れていない狡猾ぶりを持って後半を臨んでいた。アンカーの前田にパスが送られると、急にハイプレスに切り替えるウルグアイ。前田がボールをロストすると、バルベルドがカット。直ぐさま前線のヌネス、ペリストール、アラスクエタの3人にパスが送られるが、寸前で田中がカットしそのまま左サイドの斎藤へロングフィード。だがここに斎藤はいない。パスを受けたのは左サイドバックを務める青木だった。斎藤は既にゴール前におり、左には前方のスペースに岡野海、後方に右サイドの龍永が直ぐさまフォロー。逆サイドに工藤と中西が2つポジションをずらし構えている。青木はそのままドリブルで切り崩すが、ウルグアイのアラウージョがゴール前から釣られると、後方の龍永にパス。龍永はダイレクトで真横に走る岡野海へダイレクトでトラップパス。脱兎の如く走り込んだ岡野海がシュートと見せかけて右にパス。このパスに反応したのは右サイドバックから上がってきた鳥海。豪快にシュートするが、モウチーニョにブロックされると、工藤が拾いそのままドリブル。貯めたところで中西にパスするとシュート一閃。しかし、ゴールポストに思い切り弾かれウルグアイのカウンター。ヌネス、ペリストール、アラスクエタの3人と前田、阪倉、田中の3人が対峙。この時、キーパー佐藤が前に出ていたのを見計らってペリストールがループシュート。佐藤が懸命に追いつき指に触れるが、ボールはネットに吸い込まれる。1-2と再び突き放される。
ここで日本がメンバーチェンジ。中西に代わり三浦、前田に代わり小林が投入。青木は前田のポジションへ移りアンカーになる。青木はユーティリティー性とパスセンスの兼ね備えた攻撃的なアンカーとして起用される。ここで太田監督が
「ポジションチェンジは上手くいってるから、もっと回転を素早くしろ!」
と指示が飛ぶ。左サイドバックに小林が投入されたことで両サイドバックのオーバーラップも活性化する。
日本ボールで試合再開。すると、青木にボールが渡るところで一斉にポジションがグルンと回転する。龍永と工藤がセンターハーフに、斎藤が右、小林が左、中央に三浦が走り込む。このフォーメーションにウルグアイイレブンは泡を食う。
「ドリブラーの三浦がCF?」
「出浦と工藤は前じゃねーのか?」
「6番はどこいった?」
と言ってる間に青木から斎藤へロングパスが送られ、右に張っていた斎藤からダイレクトヘッドで中央の三浦へパスが送られると、右脚一閃。西からの強風によりシュートが伸び、キーパーのメロの頭上目がけてゴールに突き刺さる。日本が同点に追いつく。この時岡野海がゴール前を走り回り攪乱していた。するとバルベルドがボールを拾いセンターサークルに置く。
「あいつらのペースに乗せるな!また叩き込んでやる!」
すると龍永が
「は?何言ってんの?俺はここから3点取ろうとしてんだよ!」
と睨み返す。互いにバルセロスとリアル・マドレーで嫌になるほどマッチアップしてきた両者がこの1点でようやくエンジンをかける。
ウルグアイボールで試合再開。早速バルベルドへ戻すと、工藤と三浦が激しいチェック。前方へフィードさせない。たまらずサイドへ散らそうとすると、そこに岡野海がもの凄い勢いでパスカット。このボールを青木が拾い、前線へフィード返し。既に日本のツインタワー斎藤と龍永がゴール前まで猛然とダッシュ。だが、アラウージョ、モウチーニョ、カセレス、ボランチのウガルティが2人にぴったり付くが、斎藤がヘッドで後方に走り込んでいる三浦へパスすると、三浦がダイレクトでトラップパス。このボールに龍永がすり抜け、アラウージョとモウチーニョのマークを背負いながらシュート。このボールは枠外へ逸れようとするが、左から小林が猛然と走り込みボールをインへ戻すと再び龍永が近距離から豪快なシュート。遂に逆転に成功する。
ここで日本は最後のメンバーチェンジ。DFの阪倉に代わりFWの内田を投入。CFに入れ、鳥海がCBにスライド。岡野海が右サイドバックへ移る。越後と迷った挙げ句、パワーの内田の起用である。更にセンターハーフに龍永と斎藤を置き、右に工藤、左に三浦が開く。ウルグアイイレブンは
「こいつらのポジションはどうなってんだ?」
と未だ困惑している。ウルグアイボールで試合再開すると、CFに入った内田が中央にいない。それに気付いたと同時に龍永と斎藤が巨体を活かしバルベルドに襲いかかると、ドリブルで抜きにかかる。2人を抜き去ったバルベルドが前方へパスを送ろうとした瞬間、2人の背後に隠れていた青木がボールをかっさらい、左サイドに移っていた内田へパス。だが
「そいつはドリブル出来ねー!さっさと潰せ!」
と言ってる間に内田が左サイド遠目からシュート。ゴール前では工藤、三浦、オーバラップした岡野海が旋回するようにウルグアイDFの邪魔をする走りをしている。その時この3人は
「うらあ!」
「テメーら!ぶっ殺すぞ!」
「俺の邪魔すんじゃねー!」
と日本語で威嚇しながらゴール前をグルグル走っている。この日本語は当然ウルグアイ陣営やレフェリーには通じていない。内田のパンチが効いた強烈なシュートはその間、強力な偏西風でゴール側へ流れていき、左隅に豪快に突き刺さった。4ー2。日本が土壇場で突き放した。
その後偏西風が荒れに荒れ、両軍共にシュートを枠に外しながら試合は終了した。龍永はこの試合1ゴールとなり、4試合連続ハットトリックはならなかったが、チームプレーに徹した結果、偏西風が日本に味方した。
試合後、ウルグアイ監督フォルリンが
「まるでピッチ上で大回転する暴れ桜のようだ。」
と日本のプレーを形容した。フォルリンはその昔、Jリーグセレソン摂津でプレーしていた。そのセレソン摂津のシンボルが桜ということでこのような表現で日本を称えた。
そして、バルベルドが
「このチームはお前さえ攻略すれば勝てたと思ったんだけどなあ。」
と龍永と話すと
「このチームは俺の力で勝ってんじゃねー。こいつらがいたから勝ち上がって来れたんだ!バルセロスだってそうだ。確かに個々の能力はお前らやリアル・マドレーの方が高い。だけどな、フットボールの原点は皆で楽しむことだろ?俺達日本は団結力だけは何処にも負けねーんだよ。だから勝てたんだ。」
と話し、バルベルドが
「優勝するんだろ?ニホンオオカミ!」
と最後に声をかけ
「当たり前だ!俺達は前回優勝してんだからな!ぜってー負けらんねーよ!」
と返した直後、龍永は
(ん?ニホンオオカミ?あいつ今Jrって言わなかったよな?)
と真のニホンオオカミにまた一歩近づいた実感が湧いた。
チャンピオンズリーグでJrが取れた龍永でしたが、言葉にされるのは初めてだったと言うことです




