第63話 凱旋
龍永が故郷に錦を飾り、旧友や恩師達と交流します
日本代表は何とかワールドカップ行きを決めた。龍永はそのまま日本に残り、翌月、短いオフを挟んで、スペインリーグと国王杯、チャンピオンズリーグの三冠を制したバルセロスと共に、チームはジャパンツアーの為日本に来日。龍永にとっては凱旋である。この日本でバルセロスは、龍永の古巣河崎と、現在J2で戦っている父、敬助の古巣市葉と対決する事になった。特に市葉は
「ほんとにウチとやってくれるの?」
とフロントが驚いていた様子。
ジェッツ市葉との対戦は、5-0でバルセロスの勝利。龍永は後半から出場し1得点をあげる。その試合終了後の事である。3人の人物が龍永に声をかける。ジェッツ市葉監督の小川、ヘッドコーチの藤本、フロントの加藤だった。小川は父、敬助の大学時代の先輩でキャプテンでもあり、藤本と加藤は元チームメイトであった。小林、加藤、藤本が
「俺と君のお父さんとは大学が一緒でね。」
「俺はガミさんとは同期だったんだ。」
「この後どっかで少し話さないか?」
と誘う3人。
「まあ、明日ならいいですけど。チームの連中は観光するみたいなんで。」
と了承する。
翌日、3人と食事に行った龍永。
「今は御覧の通りJ2だけど、君が生まれた年にこのチームはカップ戦で初優勝したんだ。あの時は君のお父さんに随分助けられてね。」
「俺達は君のお父さんに沢山助けられたからさ。今度は俺達が君に協力しようと思ってね。」
「ウチの中山から聞いてるよ。新大神ゾーンを完成させたいんだって?」
龍永は3人に
「はい。俺がバロンドールを獲るためにどうしてもモノにしなきゃ行けない事なんです。」
龍永から具体的な話しを聞く3人。まるで成長した我が子の話を聞く父のように。すると、藤本がDVDを何枚か持ち出し龍永に渡す。
「これは俺達なりに君のプレーを元に得点パターンをまとめて分析して編集した後、解説を入れたモノだ。良かったら参考にしてくれないか?」
龍永はびっくりし
「マジっすか?!めちゃめちゃ助かります!何で俺なんかの為に?」
3人は口を揃えて
「君には敬助を超えて欲しいんだよ。もうJrが取れたニホンオオカミになれたんだろ?俺達は敬助に散々助けられたからな。今度は俺達が借りを返す番だ。だからバロンドール本気で目指して欲しいんだ。これからも観てるから頑張ってくれよ。」
と激励された龍永。多くの人物に支えられている事を改めて認識し3人に深く礼を述べた。
「俺、現役中に絶対バロンドール獲ります!」
と彼らと約束した。
バルセロスは別途で育成年代のトライアウトも兼ねている。かつてこのトライアウトでバルセロスのカンテラに入った日本代表のキャプテン工藤と同じ逸材を探すためだ。このトライアウトに龍永が
「それ、是非俺も参加したい。日本にはいつでも帰れるから観光はいいや。」
とチームに志願した。また、試合が終わった後も自分でサッカークリニックを開きたいと恩師である早稲田に相談していた。早稲田は
「俺とやろうか?全国回ってるぞ。お前臨時コーチやってくれよ。」
と要請され
「やります!それスゲー興味あったんですよ。将来は監督目指してるんで。」
と乗り気であった。ワールドカップ、五輪、スペインリーグ、チャンピオンズリーグと最早ワールドクラスのFWに成長した龍永が指導したらどうなるかと早稲田も興実津々であった。それと並行しながら来シーズンの調整も行うつもりだ。
その前に古巣河崎と試合を行う。結果は4-1。バルセロスの勝利で終わる。スタンドでは、石森が等々力SSSの子供達と観戦していた。更に、少年時代龍永に
「一緒にやろうよ。」
と誘ってくれた旧友達まで駆けつけ、成長した龍永のプレーを食い入るように観ていた。彼らは
「あの龍永がねえ・・・見る度にどんどん凄くなってるよ。」
かつて同じグラウンド、同じチームでプレーしていた友達が、今は遠い存在に感じていたが、試合後龍永に
「後で飲みに行こーぜ!」
と誘われ
「えっ?いいのか?」
と返してしまうも
「当たり前だろ?お前らが誘ってくれなかったら俺はここにいなかったんだからよ!」
とピッチサイドで約束を交わした。
その日の試合後、龍永は久しぶりに石森コーチや旧友と親睦を深め、同窓会を開いた。
「やっぱオメーはスゲーよ。メッツに教えられて、ハーラルトやジャマールとプレーしてんだろ?」
と尋ねると、龍永が
「何言ってんだよ?お前らとやってた頃の方が楽しかったよ。プロに上がるとどーしても勝利至上になってさ。怪我とも付き合わなきゃ行けねーしよ。デカイ金も動くし窮屈でたまんねーよ。」
とプロで戦う厳しさを吐露する。旧友達も今は立派な社会人であり、毎日働いているが、龍永の試合は全部観ているという。石森も
「ウチの子供達もお前に会いたがってるんだよ。よく「ほんとに出浦選手はウチでやってたの?」って聞かれてな。」
すると龍永が
「しばらくオフだし、暇見て行きますよ。移籍もする気ないんで時間はありますから、子供達にサインあげますよ。」
と約束する。そして
「この娘、こないだ産まれたばっかなんだよ。」
と愛娘の梨々香の画像を見せる。石森が
「お前も父親になったんだな。幸せにしてやるんだぞ。」
と言われたとき、一瞬敬助の事を思い出してしまったが
「あ、当たり前じゃないっすか!は、ははは。」
と笑いが引きつってしまった。その後、旧友達と写真を撮りながら龍永が
「せっかくだからちょっとボール蹴らねーか?」
と旧友達を誘い、母校の校庭に皆で行く。旧友達が龍永のトラップパスを受け
「・・・スゲーな。これ。お前毎日これ蹴ってんだろ?」
と龍永に尋ねる。すると、龍永がパス回しを止め、校庭の鉄棒を見つめる。
「・・・確かあの辺だったな。俺がまだサッカー始める前にお前らとボール蹴って遊んでたとこ・・・」
と振り返る。龍永は彼らに感謝した瞬間であった。
「俺もお前らもメッツもハーラルトもジャマールも同じ人間なんだ。俺達みてーにあそこでボール蹴って遊んでたただのサッカー少年だったんだ・・・」
と第一線で共に活躍しているチームメイトを同じと話す。そして
「俺いつか必ずバロンドール獲るよ。笑われるかもしれねーけどよ。」
と龍永が話すと
「誰が笑うかよ!それまで応援するからな!諦めんじゃねーぞ!他にも俺達に出来る事あったら言えよ!」
と励まされ、解散した。
数日後、等々力SSSのグラウンドにひょっこり現れた龍永。ベンチで石森と
「みんなお前みてーな選手になりてーって毎日練習してるんだ。」
と話し、練習後に子供達を集める石森。ここで龍永が子供達に話す。
「僕ら日本代表もワールドカップ優勝するって言い続けて散々笑われた。だけど最後まで諦めなかったから優勝出来た。近道なんてないんだよ。毎日一生懸命練習して、何処の誰が相手だろうと勝つ!って気持ちが一番重要なんだ。」
「サッカーは極めるとほんと美しいスポーツだと思う。手を使わないでボールをゴールまで運んでいく。サッカーボール初めて触った時なんて、ただ前にドリブルする事すら難しいってのに、ドリブルやパスを繋いでゴールに結び付いた時の快感は最高のモノだと思います。だからこそ皆であんなに喜べる。仲間達と一緒だからまた格別なんだ。」
子供達はワールドカップやチャンピオンズリーグを制した龍永の話しを誰一人あくびをする事なく真剣なまなざしで聞いていた。そんな子供達から
「どうすれば出浦選手の様になれますか?」
と質問されると、龍永ははっきりと答える。
「先ずサッカーを誰よりも好きになること。次に誰よりも練習して試合に出続けること。自分の力と仲間、チームメイトや周りにいる皆を信用すること。絶対勝つことに対して諦めないこと。最後にどーやったらワールドカップに出て優勝出来るか考えること。この5つのことを今から実行すること。どれか1つでも欠けたらいけない。実際にサッカー下手でもこれをやって5回もワールドカップ出た選手もいるからさ。プレーだけじゃなくてそーいう気持ちも同じくらい大事だってことさ。みんなは出来るかな?」
と優しく問いかけると、子供達の瞳が輝きだした。
「俺、ぜってーワールドカップ行くんだ!」
「俺は得点王獲ってやる!」
「俺はMVPだ!」
「俺はベストイレブン獲る!」
龍永は石森に
「これで良かったのかな?」
と影で囁くと
「この子達見ればわかるだろ。やっぱお前が来てくれて良かったよ。こいつら普段は俺の指導はブーブー言ってるからな。」
と漏らすと、子供達に
「ちゃんと石森コーチの指導聞くんだぞ。それが近道だ。」
と子供達に釘を刺す。次の日から石森コーチは
「お前のおかげでやりやすくなった。ありがとな。今じゃ練習からガチで取り組んでるよ。」
と連絡を受けた龍永は
「いえいえ。本当のことじゃないっすか。俺は石森さんに基礎叩き込まれて今バルセロスでやっていけてるんですから。」
と謙遜しながら話す。
旧友や子供達に夢を与えられた龍永は、この後、バルセロスのトライアウトに参加した後、同じく恩師の早稲田のサッカークリニックに参加するため、日本各地を行脚することになる。
ジェッツの監督は、番外編に出ています。




