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第61話 強力な台風21号

ワールドカップ最終予選がいよいよ佳境を迎えます

 スペインリーグ優勝から息つく暇のなく、日本代表に合流した龍永。相手はアウェーのインドネシア戦。前試合ではホームで9-0と一蹴したものの、インドネシアはあれから好調を維持して現在3位。勝ち点差は日本と開いているものの、2位サウジアラビアとの差は3。この日本戦に勝てば2位に上がるチャンスを持っている為気合い十分。監督は、先のチャンピオンズリーグ決勝を視察していたクライファーツ。油断のならない相手である。更に、この時期のインドネシアは雨季であり、風も強く練習が進まない。玉のような雨が連日降っていた。


太田監督は


「グラウンダーのパスは繋がりにくい。浮き球で勝負しよう。この試合はピッチが荒れてるから、選手交代も慎重に行く。怪我しそうな時は正直に申告してくれ。本番に間に合わなかったらシャレにならねーからな。」


とチームミーティングで話す。三浦や阿部が


「ドリブルは仕掛けていいんですか?」


「浮き球ならセンタリングは必須だと思うのですが?」


と意見を出すと


「そこは任せる。ただし、ボールから放してスピードで勝負するのは怪我に繋がるから、なるべくタッチを細かくした方がいい。」


と伝えた。


スターティングメンバーは


GK佐藤、DF右から阪倉、下川、田中、池田、ボランチに前田、岡野海、右サイド越後、左サイド三浦、トップ下に工藤、CF内田


ベンチにGK西久保、戸島、DF杉山、蓑口、小林、MF田嶋、青木、岡野航、阿部、中西、桑原、結城、FW椎原、斎藤、出浦


北爪に代わりベテランの蓑口が復帰。ほぼ中国戦と同じメンバーである。今日の左サイドバックは池田。中央は下川と田中の新コンビで臨む。また、龍永はチャンピオンズリーグとスペインリーグと連戦の疲労が取れず、ベンチスタートとなった。


 日本ボールで試合開始。すると、インドネシアイレブンがハイプレスを仕掛けてくる。更に、試合開始直後から猛烈な大雨。視界も見えないままボールを奪われた日本は立ち上がりに先制点を献上する。FWピチライが放ったシュートが、キーパー佐藤の手から滑り落ち、日本ゴールに入ってしまった。更に前半22分。今度はピッチに足を取られた右サイドの阪倉が滑り、ヘルプに行ったCBの下川の空けたスペースをウォルシュに使われ0-2。日本攻撃陣は得意のパスワークとドリブルが上手く機能せず、前半が終わってしまう。


 ロッカールームでは選手達は意外と冷静だった。そして、選手交代。前半足を取られて怪我をした阪倉に代わり結城。田中を右サイドバックに移し、CBに池田をずらす。更に内田に代えて龍永。


「お前、疲労は取れてるか?」


と太田監督が尋ねるが


「大丈夫です。それに前半引っ込んでたから分析も出来ています。」


と明るく返す。


 一方その頃、大雨と共に強風が吹き荒れるスタジアム。龍永は


(これから俺が特大の台風21号を吹かせてやるよ。)


と意気揚々にピッチに入る。


 後半はインドネシアボールから。龍永は


「プレスに行くな!誘い込め!」


と指示を送る。これは、前半羽生コーチと話して決めていた事だ。攻撃陣はむやみに行かず、走りを最小限にし、ゾーンに誘い出す作戦だった。相手の右サイド、ヤランガとソフヤンとのワンツーをゾーンを組んだ池田、岡野海、三浦、工藤が囲み、岡野海がカット。そのまま三浦に預けるが、まだインドネシアゴールまでは距離がある。ドリブルを仕掛けようとする三浦だったが、龍永が指で何か指示している。歓声と大雨で声が届かなかったが、龍永はペナルティエリアの直ぐ外を指差し、三浦が大きくフィードを送るが、少し伸びすぎてペナルティエリア内ギリギリのラインでボールがぬかるんだピッチで止まってしまう。だが、龍永は


(多分この辺のスペースなら)


とオフサイドをかいくぐり、走り出して追いつこうとしていた。だが、相手DFフブナーとユリアントが龍永に追いつき、後ろからシャツを引っ張ろうとすると、龍永の身体が低く沈み、スライディングシュート。キーパーカルチコの手をかすめ、後半5分1-2に点差を縮める。まるで消え身の術の様な龍永のスライディングシュートだったが、インドネシアイレブンは


「あいつわざとキーパーに水飛沫かけたぞ!」


と抗議するが認められず、龍永はボールを拾いに行くのだが、工藤が


「お前は余計な力使わなくていーんだよ。こーいうのは俺らがやるから。それより後3点取るんだろ?」


とボールをセンターサークルに置く。


 この1点を取られ守勢に出てしまったインドネシアは、ボールをディフェンスラインへ戻し、ゆっくりパスを回す。左サイドアイボーイへ渡ると、今度は越後、田中、前田、工藤がゾーンプレスを敢行。慌ててクロスボールを入れたアイボーイだったが、下川が弾き返す。ここで太田監督が


「そのまま地面に付けるな!」


と指示を飛ばすと、楔に入った前田が右サイドの越後へダイレクトで浮き球のフィード。越後もトラップせずにヘディングで中央の工藤にパスすると、工藤がペナルティエリア直ぐ外でワントラップ。目の前にはフブナーとユリアントが身構えている。その2人の前に突如龍永が右に向かって走ると、工藤は左サイドから走り込んで来る三浦へインステップでボールを乗せた浮き球の軽いパス。このボールを三浦がワントラップで収め、シュート。2-2の同点に追いつく。


 このゴール後、更に雨足が強くなり、試合中断。その間に日本イレブンはフォーメーションの修正を図る。太田監督が


「走ってみてどうだ?奪い方はあれで大丈夫みたいだったが、攻撃の切り替えはどうだ?さっきは咄嗟に言ってしまったけど、あれもう一回出来るか?」


すると、前田と工藤が


「集中すれば行けます。出来ればパスする時誰か相手を邪魔するかブロックに来て欲しい。そうすればミートしやすい。」


「ゴール前だったらボール持てる。相手も嫌がってるぞ。ゴール前水たまりだからな。そこを利用したい。」


と何か考えている様子。太田監督は


「ならゴール前にフィード送るぞ。龍永だけじゃなく、後ろ3人も突っ込め。今日の試合は泥との勝負だ。綺麗なゴールはいらねーから泥臭く行こう。」


と声をかけると、審判団から試合再開の報告が入る。一旦ユニフォームとシューズを取り替えた両陣営。ピッチに入る前、三浦と越後が


「お前がチャンピオンズリーグでやってたあのトラップパスやってみよーぜ。」


「あれなら浮き球で出せる。」


と龍永に話していたが


「あれを?まだ引き分けなのにぶっつけ本番でですか?」


すると越後が


「俺達もチームで練習してたんだよ。出せるからやってみてーんだ。」


と聞く龍永。


「わかりました。その変わりあれは走ることになりますから怪我に注意して下さい。」


とだけ話した。インドネシアボールで試合再開。今度は点を取らなければいけないと前掛かりになってくる。相変わらず仮想オランダのようなサイド攻撃。右サイドバックのリドワンがウィングのシスウォヨを追い越しオーバーラップすると、池田がスライディングタックルでカット。すかさず下川が拾おうとすると、交代で入ったFWヌルディアンシャーが詰めてくる。下川が右サイドに張っていた田中へ大きくパス。すると、田中がダイレクトで右サイドの越後へ浮き球のダイレクトパス。越後から逆サイドの三浦へ、三浦から前線の龍永へ浮き球のダイレクトパス。見事に決まったバルセロス顔負けの浮き球のダイレクトパスを龍永がCBフブナーとユリアントを両腕で押さえながら、目の前にある水たまりの手前にヘッドで落とすと、工藤が走り込んでシュート。超低空のシュートが水飛沫と共にインドネシアゴールを急襲。キーパーカルチコが反応するも、ゴールポスト内側を叩きゴール。後半21分ようやく逆転に成功する。龍永


「凄いじゃないっすか!」


と駆け寄るも、工藤、越後、三浦は座り込んでしまう。龍永は


(やっぱギリギリのプレーだったか・・・)


と思い、直後にその3人が交代。右から阿部、桑原、中西が入る。龍永が


「俺がゴール前で落とすから、そこに走り込んで。」


と3人に話す。桑原が


「残り時間ロスタイム入れて30分くらいだからな。俺達であと3点取るぞ!」


と意気込む。


 試合再開後、ボランチのスダルソノ、パンガビーンと繋いで一気に交代出場のFWパルムンカスへパワープレーのフィードが入る。このボールを下川がダイレクトヘッドで左に散らすと、交代で入った結城が左脚でシュート性の速いパスを右サイドへ送る。前へ大きく逸れてしまったボールだったが、阿部がオーバーヘッドでゴール前の龍永へ送ると、龍永は再びCB2人を背負いながら逆サイドの中西へダイレクトパスで振る。中西が収めてシュートするも、キーパーカルチコがファインセーブ。だが、このこぼれ球を桑原がスライディングシュート。4-2へ点差を広げる。


「桑原さん!俺のパクりましたね!」


と龍永が手を差し伸べると


「お前のじゃねーだろ?ただ滑った方が確実だと思ったからな!」


と龍永の手を掴む。


 後が無くなったインドネシアは更にFWを1人追加。ヒダーヤトを投入。そして、パワープレーに出たインドネシアは、中盤のダルマディから一気にヒダーヤトへパスすると、下川が引っかけてしまいPKを献上。更にイエローカードをもらってしまう。これをヌルディアンシャーに決められ4-3と点差を詰め寄られる。龍永が


「まだ時間あるから俺によこせ!決めてきてやる!」


と檄を飛ばす。


 そして後半も残り僅か。点差は1点。ギリギリの勝負に決着を付ける時が来る。再び大雨が襲う中、前田にボールが渡ると、インドネシアイレブンが日本十八番のゾーンプレスで囲んできた。だが、前田の周囲を岡野海と下川、結城が前田を守るようにブロック。一瞬の隙を前田が前方の桑原へフィード。更に中へ絞っていた中西にダイレクトパスを送ると、これまたダイレクトで一番前に走っていた阿部へロングパス。何とか追いついた阿部だったが、対応していたユリアントと衝突。笛は鳴らず、こぼれ球をフブナーが拾おうとするが、龍永が猛烈な勢いでダッシュしフブナーと寸前で接触。


《トン!ポーン!》


と龍永はフブナーを嘲笑うかのようにボールを右のインフロントで高く浮かせ、身体を捻り左脚で豪快にシュート。ドライブ回転のかかったシュートはキーパーの頭上を越え、ゴールバーをかすめ、ラインを割る。


《カツッ!シュルルルル!コロン・・・》


このゴールが認められ、試合終了。5-3。かなり苦戦を強いられた日本代表だったが、何とか勝利を収めた。喜ぶ間もなくピッチから引き上げる日本代表。雨足は更に強くなり


「こんな中で試合してたのか・・・日本の台風よりやべーな。」


と一同振り返る。


 試合後クライファーツ監督が


「やっぱりあの21番にやられた。あの最後のゴールはまるで台風だ!台風21号だ!」


と興奮気味に話す。


龍永は試合後フブナーに


「何であんなこと出来るんだ?」


と質問されていた。彼は数年前までJリーグセレソン摂津に所属していた。龍永は


「あれは気迫だけだよ。身体が勝手にそー動いただけ。あんたにボール触らせないよーに必死でやっただけだよ。まぐれって言われてもおかしくねー。それよりあんたら次は中国だろ?あいつら大したことねーからよ。俺らはサウジだから一緒に勝ってワールドカップ行こうぜ!」


とインドネシアを激励した。この最終予選で中国とサウジアラビアのやり方に気に入らなかったからである。


 ホテルに戻り、休みに当てる日本代表。この悪天候で最終予選最終節、サウジアラビア戦へ向かうのはその3日後であった。


インドネシア代表は近年成長しているのでホームで強敵にしました。因みにファン・ペルシやフリット、ファン・ブロンクホルスト等実はインドネシア系だそうです。(フリットはスリナム系でもある)

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