第60話 カタルーニャのオオカミ達
龍永が栄光の重さと命の重さを同時に味わいます
「ちきしょー!もう少しで見えたのに!」
龍永は三冠を手に入れた事より、新大神ゾーンを最後まで見切れなかった悔しさを滲ませた。メッツ監督が
「ちゃんと代表戦で見せろよ。それに代表ウィークが終わり次第ジャパンツアーがある。お前にはまだまだチャンスはある!これから見せてみろ。ワールドカップまであと1年あるんだ。お前ら日本代表は次の2試合で決まるんだろ?ならその後はチームに専念出来るんだ。時間はたっぷりある。今日の試合を忘れるな。お前が今日感じた事は間違ってねー。このダブルハットトリックが証明だろ?あれでいいんだ。お前はFWなんだから点を取りに行け!これからもっと厳しく行くからな!」
と龍永を嗜める。そして
「ほら!輪に入って来い!今日のMVPはお前だ!」
と背中を押すが、龍永は
「オメーら!先ず監督を胴上げだろ?集まれよ!」
と号令をかける。バルセロスイレブンに胴上げされるメッツ監督。監督としてようやくスタートを切れたとメッツ監督は喜ぶ。龍永達バルセロスイレブンは
(監督ってこんなに軽かったのか・・・)
とそれぞれ思ってしまう。あの王様メッシを実際持ち上げたカタルーニャのオオカミ達は拍子抜けしてしまった。彼らはフィジカルトレーニングで100kgを持ち上げているのだから無理もないだろう。
一方で座り込んでいたバレンシアーノイレブン。目の前で優勝を決められた阿部に龍永が
「再来週代表で合流だぞ。今度は俺達がワールドカップ行き決めて太田監督を胴上げするんだ。だから立てよ。」
と阿部を引き上げる。阿部は
「放されたなんて思ってねーぞ!次は勝つからな!今度は俺がダブルハットかましてやる!オメーにだけはぜってー負けねーからな!」
と言って走り去っていった。龍永は
「・・・今度やったらマジで狙ってくるだろーな。あいつといい、斎藤といい、椎原といい、負けず嫌いばっかだからな。ウチの世代は。」
と気を引き締める。
そして優勝インタビュー。メッツ監督が就任して3年目。ようやく掴んだ三冠達成にメッツ監督は涙を滲ませ答える。
「本当に良くやってくれた。今季このバルセロスに集結した世界中のオオカミJr達が、ようやく本物のオオカミに成長した。この名門バルセロスという千尋の谷から誰一人欠けることなく這い上がってきた。だからこそ達成出来た。今季このカタルーニャのオオカミ達の中から必ずバロンドールが選ばれると私は確信している。彼らはいつもバロンドールという獲物を狙いプレーしてきた。貪欲なオオカミ達がいつも口癖にしていたんだ。」
「あんたが降りた玉座を俺が必ず獲る!」
「それを合い言葉に全員プレーしてきた。そして国王杯、チャンピオンズリーグ、そしてこの試合を制しスペインリーグを制覇出来た。貪欲なまでの勝利の執念は、我が祖国アルゼンチン代表にも匹敵する。それを体現できた最高の1年だった。」
と振り返る。
そして、今日の試合ダブルハットトリック、途中からキャプテンを任された龍永に回ってくる。
インタビュー「優勝おめでとうございます。」
龍永「有り難うございます。」
インタビュー「チャンピオンズリーグ決勝でのハットトリックに引き続き、今日はダブルハットトリックです。今の心境は?」
龍永「えーっと・・・得点王はまたもウチのハーラルトに持ってかれまして悔しいです。後半途中から・・・多分4点目決めた後からなんですが、ウチのオフェンス陣が気使ってくれて高いラインを形成してくれたのが決め手でした。5点目、6点目は蹴れば入る!と思ってシュート撃てたのが大きかったですね。」
インタビュー「ストライカーとしての嗅覚が身についたという事でしょうか?」
龍永「そうですね・・・ほんとにもう少しでその感覚が掴めそうって所で試合が終わってしまって・・・シーズン中に怪我もありましたし、もっと時間が欲しかったのが正直な感想です。」
インタビュー「スペインリーグでは日本人初の三冠ですが?」
龍永「ええ、それはほんと嬉しいです。ただ、これで終わりだとは微塵も思ってません。このチーム全員が狙っているバロンドールもまだですし、来年はクラブワールドカップも控えていますし、まだこれからです。」
インタビュー「2週間後にはワールドカップ最終予選インドネシア戦、サウジアラビア戦が控えています。」
龍永「今回の予選は苦戦してるので、スパッと勝って決めたいと思います。次の目標はズバリワールドカップ連覇です。それに向けてこれからも頑張って行きますので応援よろしくお願いします。」
と締めくくった。
ここガンプ・ノーは既にフィールドにサポーターが押し寄せごった返していた。龍永達バルセロスイレブンは、各自インタビューに答えながらも彼らと喜びを分かち合っていた。
「こんな光景、日本じゃ味わえねーよな。」
と龍永もグラウンドを回りながらアリーナの観客と記念撮影を行う等ファンサービスを楽しんでいた。フィールドに降りてきた大柄なサポーター達が龍永を持ち上げ、肩車しようとしていたが、巨体の龍永を乗せられず
「ヘイ!ニホンオオカミ!君は巨人じゃないのか?」
と漏らすと
「・・・今更かよ。あんたの身長と比べてみろ。これでも193cmあんだぞ?」
と突っ込みを入れる。皆公式プロフィールをサバ読んでいたものと思っていた。
「つーか。あんたらウチの近所に住んでんだろ?気付けよ!」
よく見れば彼らは龍永の近所に住むおじさん達であった。龍永もこのバルセロスの街に溶け込んでいたはずなのだが、ピッチにいる龍永と、普段過ごしている龍永とでは全然別人に見えるらしい。普段の龍永はジャージにサンダル履きのただ背の高い兄ちゃんにしか見えてなかったのだ。
長い優勝セレモニーが終わると、ロッカールームで皆ぐったりしていた。龍永は
「これが三冠達成した重みか・・・マジで疲れたシーズンだったわ。この後代表戦もあるんだよな。あれはスパッとやらねーとマジでやべーよな。」
と喜ぶ暇もなく帰路に着いた。
帰宅したのが大分遅くなり、夜中になっていたが
「お帰りなさい。疲れたでしょ?先にお風呂入ってらっしゃい。」
と絵梨香はいつものように出迎える。チャンピオンズリーグ優勝を決めてから、龍永が疲れていると察し、いつも通り振る舞っていた。だが、風呂から上がると、冷えたビールが用意されていた。絵梨香が
「あなたいつも我慢してるでしょ?今日くらい一緒に飲もうよ。」
とささやかに祝ってくれた。絵梨香は
「・・・今日の5点目と6点目、絶対入ると思ってたでしょ?」
と尋ねると、龍永が
「何でわかったの?」
と質問を返すと
「ほら、いつもならDFラインを背にしてるじゃない?でも今日は中盤2人とウィング2人を背にしてた様に見えて・・・」
それを聞いた龍永は
「そう!そーなんだよ!あれがよかったんだよ!よくわかったな!スゲー!」
と生き生き話す。絵梨香は
「・・・やっぱりあなたサッカー馬鹿なのね。でもそれがいいのよ。インドネシア戦は行けないけど、最後のサウジアラビア戦は梨々香連れて観に行くからね。ホームだから梨々香も観れるでしょ?」
と話していると、ベビーベッドで梨々香が泣いている。絵梨香が抱っこしてあやすと、龍永を見てピタッと泣き止む。何か言いたげにじっと龍永を見つめる梨々香。
「よし。父ちゃんが抱っこしてやるぞ!」
と交代しようとすると、梨々香が床に座り込む。しばらくすると、梨々香が側にあった椅子にしがみつき、立とうとする。そして、何とか立った梨々香は龍永と絵梨香のいる所まで歩こうとしていた。龍永が思わず
「こっちだ。梨々香。頑張れ。」
と声をかけると、梨々香が2m離れた所から自力で歩いてきた。
「よーし!よくやったぞ!梨々香!偉いぞ!」
と愛娘を抱き締める。絵梨香が
「これってもうワールドカップ行き決まる前触れじゃないの?あなた最近運が付きすぎてるよ。」
と話すと
「これは違うよ。梨々香が頑張ったからだよ。よし!父ちゃん次も絶対勝つぞ!再来年のワールドカップは絶対ママと観に来るんだぞー!」
と三冠の喜びも忘れて梨々香を高く持ち上げた。それはメッツ監督を胴上げした時より別の意味で重く感じていた。
龍永の子供はこれからも丁寧に書いていこうと思います




