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第59話 ピレネーの頂

龍永が三冠に挑みます

 スペインリーグ最終節バレンシアーノ戦。前節遂に首位を奪還したバルセロス。2位リアル・マドレーとの勝ち点差は僅か1。絶対に負けは許されない中、ホームのガンプ・ノーは超満員。相手のバレンシアーノには五輪の10番阿部が所属していた。


「ぜってー目の前で優勝させねーからな!」


とこの一戦に燃える阿部。龍永は


「俺にはバロンドールもかかってんだ!こけてたまっかよ!」


と言いつつ試合前にがっちり握手を交わす2人。阿部と初めて出会ったのは、互いに高校生。U16アジア杯まで遡る。あの時龍永は、試合中に右足前十字靱帯損傷し、全治8~10ヶ月の大怪我を負っており、また、大会も新型ウィルス蔓延の影響で中止となっていた。あれから共に五輪で金メダルを取り、これまで研鑽を積んできた2人がようやく初対決となる。龍永が欧州のクラブで同年代の日本代表と戦うのはこれが初めて。前節は龍永がワールドカップ予選の怪我で出られずにいた。


 この試合は、先のチャンピオンズリーグ決勝で負傷したハーラルト、ズダン、クライファーツは無念の欠場。その前に負傷したフェルマンも間に合わず、スターティングメンバーは


1番GKスタンコビッチ(セルビア)27番DFヘスキー(イングランド)5番クバルシュ(スペイン)19番レダンド(アルゼンチン)3番バルテズ(スペイン)、29番DHマルケディーニ(イタリア)CH6番ガビン(スペイン)11番オルモス(スペイン)SW10番ジャマール(スペイン)15番テュラン(フランス)21番CF出浦(日本)


控え13番GKホアン・ガルシア(スペイン)2番DFエンリケ・ガルシア(スペイン)、22番ベルナルド(スペイン)26番ファン・ペルツ(オランダ)24番コンテイソン(ポルトガル)14番MFシメオニ(アルゼンチン)8番ペドリーニョ(スペイン)25番ハジム(ルーマニア)、28番ラウドルッペ(デンマーク)7番FWラルソン(スウェーデン)、20番キエリーザ(イタリア)、33番ウェア(アメリカ)


先発CFには龍永が起用される。メッツ監督は


「今季獲得して一番伸びた選手。」


と太鼓判を押す。全員疲労は溜まっているが、バルセロスには三冠がかかっており、また、実際にバロンドール候補者が何名か控えている。バルセロスイレブンは


「俺がバロンドールを獲る!」


と豪語する者が大勢おり、龍永もその1人だ。日本では


「こいつ、馬鹿だろ?」


と思っている者が多いが、龍永は大マジである。メッツ監督も


「文句ならこの試合終わってからにしろ!」


とメディアに投げかけた。妻の絵梨香は


「ひょっとしたらマジかも。」


と今季の龍永を観て信じている。絵梨香は龍永が渡欧前から欧州と龍永のサッカーを熟知しており、今季の龍永のプレーを観て


「いつもより絶対伸びてる。個人としてもチームとしても。」


と期待を寄せていた。


 試合はバレンシアーノボールでキックオフ。バルセロスはいつもより激しいハイプレスを仕掛ける。皆この試合にかけていた。あっという間にボールをかっさらうバルセロスイレブン。オルモス、ジャマールと繋いで逆サイドのテュランがゴール。開始僅か30秒。今季のバルセロスを象徴する電光石火の攻撃が早くも炸裂した。


「まだ始まったばかりだ!どんどん決めるぞ!」


と手拍子をする龍永を阿部が睨み付ける。


 試合再開直後にギジャモス、アルメダと繋ぎ右サイドの阿部が仕掛けるも、レダンドがストップ。大きく逆サイドのテュランへロングフィードすると、テュランがゴール前中央へマイナスへシュート性のダイレクトパス。これを龍永が左足でど真ん中にシュート。キーパーのドミトレスキがキャッチしようとするも、ファンブル。強烈なシュートに吹っ飛ぶ様はチャンピオンズリーグ決勝と同様で、龍永もこれを狙っていた。すかさず戻って来たボールを龍永が右隅に決めて2点目。


 このゴールは一見龍永がコースを見てないように観られているが、試合前、ガビンとオルモスが


「お前の背負うラインを俺達2人で使って見せろ。」


と助言をもらっていた。これまではDFライン4人を代替えしていたが、今は2人。まだ新大神ゾーンは未完成のままだった。やはりライン2枚では感覚が乏しかった。龍永は


「今シーズン以内に見極めたい。」


と目標にしていたが、今のゴールで


「まだだ。もっと後ろに頼らないと。」


とゴールに納得していない。


この後、デンジュマのゴールで1点返されるが、直後にジャマールの個人技で3点目を決め、前半を折り返す。


 ロッカールームでメッツ監督が


「リュウエイ。もっと前見ろ。後ろばっか気にしてもしょーがーねーだろ?今日のお前はCFなんだぞ!もっと貪欲に行け!」


と檄を飛ばされる。ジャマールやオルモスも


「あんたがゴール決めねーでどーすんだよ?あと1点くらい決められたぞ!」


「周りに遠慮なんてすんな!今日はお前がエースなんだ!もっとエゴ見せろ!」


とどやされる。龍永は


「わかったよ。あと45分しかねーんだ。俺にガンガン回せ!全部決めてやる!」


と気を引き締める。この瞬間から龍永の頭にバロンドールの事以外なくなっていた。


「3-1か・・・9点まで取ってやる!今日の課題はダブルハットトリック、あと5点だ!」


と決意が固まった。メッツ監督は


「そーだよ。その目だ!ニホンオオカミ!ダブルハット決めたら吠えろ!」


と送り出す。


 後半立ち上がり早々バレンシアーノは守備を固めているが、バルセロスボールで始まった後半、ボランチのマルケディーニからいきなり中央の龍永にインサイドキックのグラウンダーパス。まだバレンシアーノ陣内中央の位置。CBのディアビとボランチのゲランが寄せるが、迷わずダイレクトで左脚を一閃。ゴール左隅に突き刺さり4点目、更にバレンシアーノの試合再開後に自らプレッシングをかけ強奪。ジャマールとのワンツーで崩し、今度はキーパーを釣り出すまで溜め、飛び出してきた所をキーパーの股を鋭く抜き、後半たった5分でハットトリック達成。だが


「まだだ!あと3点だ!」


と龍永は諦めない。バレンシアーノイレブンが


「この小僧が!」


とキレようとするも、阿部が


「あれがニホンオオカミの本性なんだ!今度はこっちの番だ!」


と意地を見せ、レダンド、ヘスキー、クバルシュを交わし、単騎で1点を返す。だが、今の龍永にはバロンドールの事しか頭にない。


「とっととボール持ってこい!あと3点決めてやる!」


と全く効いていない。ここでメンバーチェンジ。連戦の疲れが見えたジャマールとオルモスに代わり、シメオニとキエリーザを投入。テュランが右サイド、キエリーザが左サイド、シメオニはセンターハーフに入り


「とにかくお前のやりたいよーにやれ。俺達が合わせる。」


という一言で龍永が覚醒した。また、オルモスが下がった事でキャプテンマークを渡された龍永は、ここから怒濤の攻撃を始める。


 バルセロスボールから試合再開。すると、いつものバルセロスと位置取りが違う。このフォーメーションは4-1-4-1である。龍永1人がハイプレスをかけるが、簡単にいなされる。だが、龍永は背後からも食らいついていく。まるで欧州デビューしたオランダ、フェレンフェン時代を彷彿とさせるプレッシング。そして、この龍永の迫力と、後ろに構える4人のプレッシングに挟まれ、ガビンがカット。すかさず左サイドのキエリーザへ浮き球のダイレクトパス。このボールを追い越すように走ったキエリーザは後ろ足のインサイドキックでシメオニに預け、これまたダイレクトで中央を走る龍永にグラウンダーのパス。キーパーと1対1の状況で龍永が


《ビュン!》


と抜き去りシュート。空っぽのゴールに突き刺さりバルセロス6点目。それでもボールをセットするために走る龍永。


「今掴みそうなんだ!早く続けろ!」


とゴールを喜ぶ間もなくセットする。そして


「来い!」


と手招きする龍永。キレたバレンシアーノイレブンは猛反撃に出る。デンジュマ、オトルビー、阿部と立て続けにシュートするも、ヘスキー、クバルシュ、スタルコビッチがブロック。クリアボールをバルデスがダイレクトで右サイドに大きくパス。高いボールだったが、テュランがダイレクトでヘディングパス。中央はがら空き。ペナルティーエリア前で龍永と後方からCBのディアビとタレガーが龍永に食らいつくが、その前に龍永がシュート。


(あっ!入る!)


と振り抜いたシュートはゴール右隅に


《ビューン!ザシュッ!・・・ポーン。》


と勢いよく突き刺さり7点目。それでも


「早くしろ!もうちょいでわかるんだ!」


と再びボールを取りに行こうとする龍永に、相手キーパードミトレスキが静止。ボールを奪おうと両軍入り乱れ試合は中断。


 遠く離れた日本では


「何だ?この状況は?」

「カオスじゃねーか!」

「出浦は5点も決めてんのに何考えてんだ?」


とSNSはパニックに陥っているが、京香は


「全く・・・あの子ならあと1点は入れるだろうね。」


とテレビを眺めていた。


 そしてレフェリーがボールを回収し、バレンシアーノボールで試合再開。再び龍永が前線で遊ばれてるが、後方のテュラン、ガビン、シメオニ、キエリーザがラインを形成し、シメオニがカット。テレビで観ていた絵梨香が


「そっか!あの前線が龍永君のラインか!」


と気付いた。いつもはDFラインを目印にしている龍永の為に、ウィングの2人が敢えて下がり、高い位置でラインを形成している。と思っている間にシメオニからキエリーザへ縦パス。キエリーザは簡単にグラウンダーで中央へパスすると、龍永の左脚が再び火を吹き、キーパー、ドミトレスキの顔面横を通り過ぎ、ダブルハットトリック達成。龍永が


「見えてきた・・・段々見えてきた!ピレネー山脈の頂上が!もっとボール寄こせ!」


と騒いでる間にタイムアップ。バルセロスが国王杯、チャンピオンズリーグ、そしてスペインリーグ優勝を決めた。龍永のサッカー人生は今まさに絶頂期を迎えていた。

最近のバレンシアはいまいち調子が悪くて気になります

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