第58話 誕生!真ニホンオオカミ!
チャンピオンズリーグ決勝エピローグです
メッツ監督、就任3年目にして初のチャンピオンズリーグ優勝。この快挙は優勝セレモニーとスペインのムニス、グアルディオル、オランダのクラッフ、ライカールツ、イタリアのトラパットーネ、アンテロッティ、そして会場に来ているジヌディーヌ・ズダンに続き史上8人目、アルゼンチン人監督では初であった。
インタビューが始まる。先ずはメッツ監督、キャプテンのオルモス、交代したズダン、代わって入ったマルケディーニ、ジャマール、顔面骨折したハーラルト、そして龍永の順で始まる。
インタビュー「優勝おめでとうございます。」
メッツ「ありがとうございます。」
インタビュー「監督に就任してようやく獲ったチャンピオンズリーグ優勝です。今の心境は?」
メッツ「彼らはこの試合に来場されている偉大なるレジェンド達の息子という事でしたが、同時に反目する野望と闘争心を持っていたのを確認し、育ててきました。練習と試合を重ねる度に想像以上のモノを魅せられて大変光栄に思います。そして彼らは本日をもって真オオカミに覚醒出来たとも言えるでしょう。」
インタビュー「今シーズンのメンバー表を見ると、ほとんど攻撃の選手で、純粋なDFを獲らなかった印象ですが、彼らは監督の意図的に獲得したのでしょうか?」
メッツ「あまり考えていませんでした。スカウティングと話をして、コンバートする選手はある程度決まっていて、練習前に本人達に伝えました。もちろん不満を持つ選手達は大勢いましたが、試合を重ねていく内に自覚が芽生え、この試合のように天職と思える選手も増えていきました。私は彼らに言っている事は「この位置から点を奪いに行け。」と一言だけ伝えてピッチに送り込み、それが結果として繋がったと思います。これからも精度を上げて更にレベルアップした美しいバルセロスのフットボールをお送りしたいと思いますので応援よろしくお願いします。」
と締めくくった。バルセロスイレブンはメッツ監督を
「技術だけでなく、きちんとやる気を起こさせる人心掌握術も兼ね備えている。」
と称する。今シーズン、DFに回された選手は数多い。ヘスキーにレダンド、クライファーツ、ファン・ペルツ、この試合に出れなかったファン・ボムメル、試合中にはテュランやマルケディーニも本来ウィングや攻撃の選手であるが、メッツ監督の
「この位置から点を奪いに行け!」
の一言で代わっていった。実際にこの試合でもDFラインは果敢に後ろからオーバーラップしてゴールに絡んできた。メッツ監督がコンバートした選手達は
「スタミナがある。」
「アップダウンが上手い。」
「ミスが少ない。」
「長距離のストロークが活きる。」
「献身性と野心を両方兼ね備えている。」
「前で張ってるより後ろから飛び出す方がゴールする確率が高い。」
といった特徴を持った選手達であった。その事に気付いた選手達が今シーズン大いに活躍し、今一歩届かなかった各国の代表入りも果たしたのだった。
そして、龍永に順番が回ってきた。
インタビュー「優勝おめでとうございます。」
龍永「有り難うございます。」
インタビュー「このチャンピオンズリーグ決勝でのハットトリック。途中からキャプテンマークも巻き勝利に導きました。今の心境は?」
龍永「えーっと・・・得点王はウチのハーラルトに持ってかれたので悔しいです。キャプテンマークはズダンとオルモス、それにガビンとか引っ込んだのもあって、消去法ですかね?」
インタビュー「この決勝戦、マン・オブ・ザ・マッチに選ばれましたが?」
龍永「そうですね・・・それより本来のポジションじゃない選手も大勢いたので、エースのジャマールも中盤で頑張ってましたし、ズダンやマルケディーニも後ろで踏ん張ってくれてましたし、第一まだ自分が考えているプレーにはまだまだ及んでいないと思います。特にCFに入ったときのプレーはまだハーラルトほどではないですね。もっと強くならないとと思いながらやってて、課題が多かった試合だと思います。」
相変わらず慢心がなく、次に進もうとする龍永。実際まだスペインリーグは残っており、更にワールドカップ予選も佳境に差し掛かっている。実際に「新大神ゾーン」を開眼はしたが完成はしていないのだ。このバルセロスでさえもその力に成りきれていなかった。更にインタビューは続く。
インタビュー「この試合で感じたことは?」
龍永「この試合のキーパーはまるでいつも録画で観ている死んだ父が乗り移ったかのようなプレーをしてきました。ウチの攻撃陣も何人かやられました。だからこそ絶対にゴールを奪いたいという感覚がありました。よく父と対戦した選手達、ウチの監督もそうだったんですが、足ごと狩られるような感覚?それを味わえたのは大きな収穫だったと思います。でも、その亡霊は俺の手で、あ、足か。足で仕留めてぶっ殺せたと思います。」
インタビュー「それでは最後に一言。」
龍永「今日のゴールはこのスタジアムに来てくれた母と、今スペインで待っている妻と産まれたばかりの娘に捧げます。母ちゃん!絵梨香さん!梨々香!父ちゃん優勝したぞー!」
最後にいつも通り母への感謝と、愛する妻、そして、そんな妻が命がけで産んでくれた娘に感謝の意を述べた。
優勝セレモニーで、大会のトロフィー「ビッグ・イヤー」がキャプテンマークを巻いた龍永に手渡され、大きく掲げた。これは日本人初の偉業である。優勝、決勝でのハットトリック、そしてキャプテンとしてトロフィーを掲げた日本サッカーの未来を象徴する、あのワールドカップ以来の快挙。得点王こそ逃したものの、この試合でのマン・オブ・ザ・マッチも獲得した。日本の子供達は今まさに「出浦龍永」に憧れ、龍永を目指すようになったのだ。
試合後のロッカールームで選手達がシャンパンをかけて祝っている。そこには負傷したズダンやクライファーツ、そしてハーラルトも混ざっていた。
「オメーら病院行かなくていいのかよ?」
と龍永が尋ねると、ズダンが
「オメーらが延長までタラタラやってたから戻って来られたんだよ!バーカ!」
と笑いながら皮肉る。彼らは前半、ハーラルトは後半最初の方で退場し、直接病院に運ばれ治療して戻って来たようだ。このチャンピオンズリーグで優勝する事等相当難しい事、これから2度と訪れないかもしれない一時を噛みしめようと帰ってきたのだ。特にハーラルトは顔面を骨折しておりシャンパンが飲めなかったが、誰かがストローを渡し
「これで飲めんだろ?得点王!」
と茶化し、ロッカールームの隅に座りストローでシャンパンを飲んでいるハーラルトを見て、メッツ監督も含め全員腹を抱えて大爆笑していた。龍永にとってサッカーを始めてから生まれて初めてチームメイトと他愛のない馬鹿をやった時間でもあった。代表戦ではいつも難しい顔をしてゴールに、あと3点にこだわり続け、笑顔を作る余裕もなかった龍永だったが、このチャンピオンズリーグ優勝を切っ掛けに余裕と自信を手に入れた。むしろ、そちらの方が大きかっただろう。龍永の人生はこれからも長く続くのだから。
その夜、妻の絵梨香と連絡を取る龍永。どうやら産まれたばかりの梨々香が泣き止まないと話すが、絵梨香は
「この子もオオカミなんだよね。大事に育てたい。」
と明るく話す。この娘は物語終盤で登場することになる。
次の日、優勝パーティーが行われた。次節まであと5日のため、早めに終わるのだが、試合を観戦していたレジェンド達や、日本の関係者も来賓した。半分ほどが選手の父親で、息子達に
「良くやったな!」
「お前は俺を超えたよ!」
「自慢の息子だ!」
「今度はワールドカップ優勝しろよ!」
等と褒められており、泣いている選手も大勢いた。彼らは誰からも褒められた事がなく、常に偉大な父と比べられ、辛酸を舐めてきたからであり、感情が爆発したのである。その気持ちは龍永に痛いほど伝わってきた。いつも死んだ父の話をされる龍永。だが、今日の試合で対峙した相手キーパーのロイアーという敬助に憧れ、そのプレーを宿した選手からハットトリックを決めたという事で、龍永の中ではある程度ケリが付いたようだ。そして、京香に
「母ちゃん。俺の娘見た?可愛いだろ?」
と話すと京香が
「うん。ほんとあんたそっくり。でも、あんたみたいになってほしくないわ。女の子だから。あんたもお父さんもほんとサッカー馬鹿だから、そーいうとこは真似させないでね。」
と忠告する。龍永は照れながら
「へへへ、でも父親になるってのも悪くねーなー。何か余計に気合い入ってきた。」
京香が
「そういうとこだよ。せっかくいいお友達がこんなにいるんだから、肩の力抜いてちゃんと皆に頼りなさいよ。1人でやろうとするとこがあんたの悪いクセなんだから。」
と言われる。龍永が
「・・・それ、このチームでも監督にも、代表でも言われてるよ。」
と話すと
「お母さんには何でもお見通しなんだからね!」
と叱られてる龍永を見ていた日本の太田監督、佐久間、中山等が
「また言われてんなオメー。お母さん。こいつはほんとそうなんですよ。肝心なとこはほんとガキなんだから。」
と茶化されドッと笑われていた。
その日の午後にバルセロスに戻り、調整に入る。まだスペインリーグは残っている。その1ヶ月後にはワールドカップ最終予選最後の2試合が控えている。優勝の余韻に浸る暇もないまま、スペインリーグ優勝を目指すのであった。
ワールドカップ決勝で3部作でしたが、それに比べかなり長くなってしまいました。世界選抜のような面子で書くと色々迷います




