第56話 亡き父の影を追うGK
チャンピオンズリーグ決勝後半です
一方その頃、バルセロス市内では、産まれたばかりの娘を抱き、龍永の妻、絵梨香がテレビ観戦している。夫が初のチャンピオンズリーグ決勝を戦っているが観に行けない。だが、この愛娘が将来絵梨香の夢を叶える。その夢とは
「ニホンオオカミの血筋を受け継いだ子供達がワールドカップで優勝する」
ことである。試合3日前まで京香がバルセロスを訪れ、初孫を抱いた。京香はまだ40代なのだが、この愛娘を抱き大いに喜んだ。そして
「絵梨香ちゃんとこの子の分まで応援してくるからね。」
とこのアルテミオ・フランコに来ていた。敬助がプレーした最後のクラブ、フィレンターナの本拠地で、息子が大活躍している。ここまで2-2のスコア。互いに譲れないベストバウトとなったこの試合で両陣営が動く。
メッツ監督率いるバルセロスは、前半終了間際に負傷したクライファーツに代わりファン・ペルツ、ガビンに代わりテュランを入れる。京香がケビン・ファン・ペルツに
「あの子、オタクの息子さんですか?」
と尋ねると
「ええ、まあ。」
と照れながら話す。京香は
「一緒に応援しましょうよ!」
と誘う。かつてワールドカップで敬助と衝突してしまったケビン・ファン・ペルツ。そして、龍永の師となり、現在は息子とチームメイト。もう京香にはわだかまりは完全に無くなっていた。そしてケビン・ファン・ペルツが
「後半、バルセロスが全員本当のオオカミになることを期待してるんです。俺達のJrじゃなく、ワールドカップで龍永が吠えたようにね。」
とレジェンドを代表して話す。すると、パトリック・クライファーツは
「・・・ウチのは交代しちゃったからなあ。」
と漏らすと京香が
「いえ、バルセロスが勝てば全員オオカミになれます!応援しましょう!」
とインドネシア代表監督を激励する。このシーズン直後に息子とアウェー戦を戦う監督とは思わず、1人の親として話した。
一方バイエリンはクリスチャン・ロドリゴ監督が動く。前半で負傷したナビリに代え、ムシアロを投入。そして
「バルセロスは初動だ!ズダンが引っ込んだからってそこが起点じゃないぞ。セカンドボールをことごとく拾うかブロックしろ!爪先でパスを触るだけでもいい。とにかく流さないようにするんだ!」
とドイツ人の特性を活かした指示を飛ばしていた。
後半、バルセロスボールでキックオフ。すると、バイエリンイレブンがバルセロス同様ラインを一気に押し上げる。バルセロスはお構いなしに前線のスペースへボールを送るが、そこにいたのは何とキーパーのロイアー。側にいた池田へパスを送り、そのまま右サイドに展開。越後が追いつきダイレクトでグラウンダーのセンタリング。これに合わせたムシアロのシュートがゴールに突き刺さり、立ち上がりに逆転されてしまう。
「バイエリンが前半と違うぞ!」
「俺達のやり方をパクりやがったな!」
と泡を食ったバルセロスイレブン。
バルセロスが試合再開すると、再びラインを上げるバイエリンだが、一旦ボランチに入ったマルケディーニに渡す。すると、激しいプレッシングで詰め寄るバイエリンイレブン。ゴレツコ、キミッフ、越後、ムシアロの4人が群がる。マルケディーニが中央のハーラルトへフィードを送ると、待ち受けていたのはまたもロイアー。ペナルティエリアを大きく飛び出し再びカウンター。このボールをケリーが抜けだしスタルコビッチと1対1。シュートは抜けたかと思いきやクバルシュがヘッドでクリア。左サイドバックのファン・ペルツが拾いインサイドキックの浮き球パスが発動。交代で入ったテュラン、ジャマールと繋ぎ、ペナルティーエリア前中央に走り込んでいるハーラルトへグラウンダーのセンタリング。ここに待ち構えていたウパムカネと競り合った際、ハーラルトの顔面に肘を入れられる。すかさずレフェリーの笛が鳴るも、ウパムカネにイエローカードが提示される。うずくまり立てないハーラルト。バルセロスイレブンが
「おい!今のレッドだろ?」
とレフェリーに詰め寄るバルセロスイレブン。龍永はハーラルトに
「おい!大丈夫か?」
とハーラルトに詰め寄る。意識はあるが、目が朦朧としているハーラルトは担架で運び出される。未だにレフェリーに詰め寄るバルセロスイレブンに龍永が
「止めとけオメーら!今度はオメーらにカード出るぞ!」
と言いつつ
「・・・用はまた1点決めりゃいいんだ。ハーラルトの事はその後だ!」
と呟く。このプレー中断の間、メッツ監督は龍永を呼び出す。
「今のロイアーのプレー覚えてねーか?ありゃお前の親父のプレーだ。」
そしてメッツ監督が
「お前をCFに回す。あいつからハットトリックを奪え!それが出来た時、お前は親父さんを超えられる。」
負傷したハーラルトは途中交代。代わってシメオニが入り、テュランが左サイドに入る。ここで龍永が
「・・・前半1点取ったけどよ。ここからあと3点だ!」
とロイアーを睨み付ける。
バルセロスボールのフリーキック。キッカーはファン・ペルツ、マルケディーニ、オルモスが並ぶ。壁の中に龍永が割り込み、その背後をジャマールとシメオニが狙い、テュランがファーサイドで構える。3人一斉に助走し、ファン・ペルツが跨ぎオルモスがチョンと足裏で後ろへ流したボールをマルケディーニが無回転シュート。このボールをロイアーが弾くが、ジャマールが反応。だが池田がいたためトラップしてドリブルに切り替えようとすると、ロイアーがジャマールの足を狩るかの如く襲いかかりキャッチ。そして大きくロングスロー。このボールはバルセロス陣内奥深くまで届く。龍永は
(・・・父ちゃん?)
(いや!ロイアーだ!)
と敬助のプレーを彷彿とさせるこのプレーに一瞬見とれてしまったが、切り替える。このボールにケリーと残っていたレダンドが競る。激しくぶつかる2人にボールがルーズになり、先に追いついたファン・ペルツがキープ。ここで龍永が吠える。
「シャティール!ワイバーンだ!」
このコーチングに直ぐさま反応したファン・ペルツはそのまま中央をドリブル。オリーゼとムシアロが詰めてくる瞬間、左に開いたシメオニにロングフィード。龍永が
「DFはそのまま戻るな!ゴール前からぜってー出すんじゃねー!」
と指示を送ると、フリーキックで残っていたクバルシュとヘスキー、マルケディーニがペナルティーエリア外に構える。シメオニからダイレクトでシュート性の強烈なパスに反応した龍永がシュートしようとすると、ロイアーに両脚ごと狩られてしまう。だが、ルーズボールを拾ったラルマーがクリアしようとすると、クバルシュがブロックしゴール前へ戻す。このボールをジャマールが拾ってシュート。ゴールの中にいた池田が大きく弾き返すと、今度はヘスキーがオーバーヘッドでゴールを狙う。そのシュートは勢いが弱く、途中でテュランが軌道を変えるが、今度はウパムカネが大きくクリア。しかし、マルケディーニがジャンプし強引にキープ。左サイドから走り込んだシメオニにグラウンダーのパスを送りシュート。今度はゴールポストに当たった所を龍永がダイレクトボレーしようとすると、ロイアーが
(ここだ!)
と言わんばかりにキャッチ。一瞬身体が吹っ飛ぶロイアーと、ボレーを失敗し倒れる龍永。超特大ロングスローを投げた後、ロイアーが
「俺が親父に見えるか?当たり前だ!俺のプレーはお前の親父に影響されたモンだ!プロになって20年、お前の親父のプレーを観て育ってきたんだ!」
そして
「お前にゃ親父に勝てねーよ?Jr君。」
と龍永を挑発する。
(ここにもオオカミJrがいたんか・・・上等じゃねーか!ああ!わかったよ!今すぐテメーの守るゴールぶち抜いてやるよ!ハットトリックだ!)
このロイアーのロングスローに反応したケリー、越後、ムシアロ、オリーザが怒濤のカウンターを仕掛けるが、レダンド、ファン・ペルツがたった2人でブロックを敷く。4人の猛攻にじりじりと下がっていく2人。この時、背後から脱兎の如く走ってくる選手がいた。ヘスキーである。シーズン前にCBにコンバートされ不満に思っていた男がここで生きた。ヘスキーは4人を追い越しボールをカット。キーパーのスタルコビッチにバックパスを送ると、右に開いていたジャマールにパス。両軍フォーメーションが乱れていた為ティキタカが使えず単身で切り込んでいくジャマール。だが、ゴールから大きく飛び出したロイアーがクリア。再びカウンターを食らうが、スタルコビッチが飛び出しタッチラインに逃れる。
ここでメッツ監督は勝負に出る。オルモスに代えてキエリーザを投入。そのオルモスからキャプテンマークを受け継ぐ龍永。
「ここからはお前が仕切れ。新大神ゾーン観させてもらうぞ!」
と激励するオルモス。スタンドにいた京香、そして日本の首脳陣から
「あのバルセロスのキャプテンを龍永が付けるのか・・・」
と驚くが、代表の太田監督が
「あいつ・・・喜んでやがる。こっからやりますよあいつは!なんせ龍永にとってキャプテンマークはパワーアップアイテムの様ですからね。」
と五輪時代を振り返る。
後半も残り僅かとなった。スコアは2-3。ロイアーの守備範囲の広い飛び出しと、元祖ニホンオオカミ敬助さながらのボールを足ごと狩る様なセービングとロングスローに手を焼いていたバルセロス。ゴール前でパスを受けた龍永が左にシュートすると、ロイアーがファインセーブ。コーナーキックになると、ロイアーが苦悶の表情を浮かべる。それに気付いた龍永。どうやら左脇腹を気付かれないように押さえている。コーナーキックを蹴る前、龍永が
「おい、あのキーパー、左脇傷めてるぞ。左狙おう。もう1回ワイバーンだ!徹底的に左狙え!」
とバルセロスイレブンに語りかける。キッカーはファン・ペルツ。後半はアディショナルタイムに入る。ハーラルトの負傷で中断し残り7分。ここでバルセロスが畳みかける。ショートコーナーから始まったボールはテンポ良くゴール前へ到達。ニアで構えていたテュランが反転し、走り込んできたヘスキーが左隅を狙うと、ロイアーが弾く。こぼれ球をジャマールが再び左隅にシュート。これもロイアーが弾く。一旦ファーに流し、シメオニがダイレクトで狭い隙間を通すと、龍永はDFの邪魔をして走り込んできたマルケディーニが左隅に豪快にシュート。三度ロイアーが防ぎ、スタシッチが大きくクリアすると、ペナルティーエリア前で今度はレダンドが顔面ブロック。ゴール前へトンと落ちたボールを龍永が
(あっ!入る!)
とゴール右隅にシュート。ボールはワンバウンドしてバイエリンゴールに突き刺さる。この時アディショナルタイムはジャスト。
「ゴールだ!」
と主張するバルセロスイレブンと
「ノーゴールだ!試合終了だ!」
と主張するバイエリンイレブン。
ここでレフェリーはゴールの判定。龍永の得点が認められ、直後に後半終了のホイッスルが吹かれた。勝負は延長戦に持ち込まれた。
ドイツのキーパーは敬助のモデルになった1人であったため、この決勝で登場させました




