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第53話 忍者サッカー

日本代表が相手のラフプレーを回避する策を練ります

 ウズベキスタンから帰還した日本代表は、Jビレッジでホームの中国戦に備える。この日も完全非公開。前節で勝ちはしたものの、3勝2分けでようやく首位に躍り出たが、2位サウジアラビアとの勝ち点差は僅か1。負けを許されない状況は変わらない。ウズベキスタン戦後、日本のチャーター機内でチームミーティングを行っていた日本代表。その時龍永が発した意見は


「あいつらが人を蹴るカンフーサッカーで来るなら、こっちは人の目の前から消える忍者サッカーと行こうか。」


という事だった。要するに、マークを受ける前にボールを素早く離す。または、マーカーから消える動きをするという考えだが


「それだけじゃ足りなくねーか?」


という意見も出ており、更にドリブルで素早く抜く。相手を瞬時に置き去りにする抜き方をするという事も付け足された。練習ではドリブラーの工藤、三浦、中西、越後、杉山が


「もっと早く!」


「まだ見えるぞ!」


「こっちが読める時間が長い!」


とDF陣やコーチ陣に厳しく指摘されていた。もうベテランの域に達している5人ではあるが、中国のラフプレーをドリブルで切り崩すには何かが足りなかった。


こうして迎えた中国戦。会場のさいたまスタディオンは超満員で、この日はナイトゲームとなった。スターティングメンバーは


GK佐藤、DF右から阪倉、下川、池田、岡野海、ボランチに前田、田嶋、右サイド越後、左サイド三浦、トップ下に工藤、CF出浦


ベンチにGK西久保、戸島、DF杉山、北爪、田中、小林、MF青木、岡野航、阿部、中西、桑原、結城、FW椎原、斎藤、内田


前節から工藤と龍永がポジションを戻したくらいで変わらないが、前回と違い4バックで挑む日本代表。果たして「人の目の前から消える」事は出来るのだろうか。


 中国ボールで試合開始。普段はただでさえ荒っぽいサポーターが集まるさいたまスタディオン。さながら前回の中国戦のような圧が中国イレブンに襲いかかる。左サイドからパスを回しながら切り込んでいく中国イレブン。阪倉は不用意に当たりに行かず、間合いを保っていると、ボランチの田嶋が死角からボールを奪う。直ぐさまCBの下川へ戻すと


「押し上げろ!」


と指示が飛ぶ。ドリブルしながらラインを上げる下川とディフェンスライン。中国イレブンがプレスをかけに来るが、ボランチの前田に預け、ここから日本の攻撃が始まる。案の定三浦や越後、工藤にはマンマークが付いているが、オフェンスラインを並べるために下がってきた龍永にパス。すると龍永が誰もいない左のスペースに力のないボールを転がすと、そこにマークを外した三浦が走ってくる。中央を固めながら三浦を追う中国イレブンだったが、ダイレクトで簡単にその手前のスペースにパス。このボールを工藤と中国のDFが拾いに行く。工藤は右の越後を見ながらパスしようとする素振りを見せてトラップ。そしてシュート。ゴール左隅のポスト内側に


《ガコーン!トーン》


という音と共に先制点を決める。中国イレブンは


「ライン割ってないぞ!」


と猛抗議するが、工藤は


「おい!さっさとしろ。今すぐ2点目を決められねーだろ?」


と睨みながら話しかける。このプレーは三浦が2人のマーカーから消えたことにより生まれたゴールだった。前半立ち上がりから頭に血が上った中国イレブンが猛攻を仕掛ける。ここでキーパー佐藤がDF陣に


「お前ら。シュート撃たせていいぞ。その方がオフェンス陣が消えやすい。」


と戦術の確認をする。つまり、シュートコースを限定させて撃たせろという事だった。佐藤は予選でほとんどボールが回ってこない。現在イングランドリーグで披露している足技をこの試合で活用しようとベンチの太田監督にも確認を取る。大きく頷く太田監督に佐藤は笑みを浮かべる。


 中国ボールで試合再開。パスを回して行くも、日本はプレスのかけ方を変えてきた。パスを回していく中国だったが、スタンドから観たら明らかに日本が誘導していた。それに気付かずにシュートを放った中国は、キーパー佐藤の守備範囲内に撃たされたという事になり、その佐藤がロングフィード。下川達DFラインが猛ダッシュでラインを上げる頃には越後、三浦、工藤、龍永、そしてボランチの田嶋が横並びに且つポジションチェンジしゴールへ走っている。また、走りながらフェイントを入れ、三浦と工藤が代わると思いきや、田嶋が左サイド深くに走っており、外側に岡野海がオーバーラップ。中国は即座に左に集まってしまい、田嶋が中央にいる越後へパス。その越後は左向きに走りながらヒールで逆サイドの龍永にダイレクトパス。慌てて後ろから龍永のシャツを引っ張ろうとする中国のボランチ孫だったが、龍永は足裏でボールをキープし、長い右脚を大きく後方へ剃らし回転。更に詰めていた中国DFを嘲笑うかのように再び今度は左足で後方へ大きく流しターン。


「忘れ去られた連続出浦手裏剣」


で交わしインサイドキックで落ち着いてパス。このボールを後方からオーバーラップした下川が豪快にシュート。2点目が決まる。龍永が


「よーやく初ゴールだな!このヤロー!」


と下川に覆い被さる。


「重いんだよオメー!」


と突っ込む下川。越後が中国イレブンに


「ほら、さっさとボール置け。こっちは前半で3点がノルマなんだよ!」


と挑発すると、中国イレブンが食ってかかり、越後が倒される。そしてレフェリーがDF1人にレッドカードを提示。退場させる。うずくまりながらしてやったりの表情を隠すベテラン越後。


(オメーら。このまま帰れると思うなよ?ピッチにいること、サッカーやってること事態恥ずかしく思える程ぶっ潰してやるわ!)


と前回のラフプレーをリベンジするため内に秘めていた。


 その後も龍永、工藤、三浦、再び龍永と前半だけで6-0と点差を広げていく。中国イレブンは


「まるで忍者だ。行こうと思うと素早く消えやがる!行かなきゃ止めを刺される。」


「とにかくあの動きを止めないと!」


と焦りだしていた。


 後半は龍永、工藤、三浦が早々に交代。内田、阿部、中西が入る。この後半で日本は更にスピードがアップしていた。全員ダイレクトでパスを繋いでいき、あっという間に内田が追加点を奪う。


 この中国戦を前に龍永がバルセロスでやっているトラップパスを全員に伝授していた。チーム戦術は企業秘密だったが、せめてこの技術は今の日本代表なら出来るだろうと教えていたのだ。


 遡ること1週間前、機内でのチームミーティングにて


「龍永のあのトラップパスのコツを教えてくれ。」


とある選手が言い出すと、工藤が


「あれなら俺も出来るぞ。チャンピオンズリーグで使ってた。」


と話す。龍永が


「俺の場合なんすけど、早稲田さんのトラップを大胆に弾くって言うか、確かに頭では止めようとして受けるんですよ。でもパスコースがあったらトラップするような感覚でボールを弾くようにスペースに置く感じでやってます。ただ、あれをやるには技術だけじゃなくて、スペースを作るオフ・ザ・ボールが絶対必要なんすよ。出来なきゃただのトラップミスですからね。」


と説明する。そして練習のコンセプトを太田監督が落とし込み


「先ず前線はスペースをいくつか作る走りをする。」


「ボールの受け手は事前に前線の動きとスペースを確認する。」


「ボールを受けたらトラップするようなソフトなタッチでボールをスペースに置くように弾いてみる。」


そして、龍永が特にこだわったのは


「インサイドキックの精度。これが必須。ほんと小学生に戻った感じでやる。」


かつてアウトサイドキックや足裏のプレーが多かった龍永が、バルセロス入団1ヶ月で身につけたものがこれであった。だからこそ強豪バルセロスでスタメンを張れる選手に進化したのだ。そして今、日本代表にそれが波及している。技術で言えば工藤や三浦、越後は龍永より上である。更に龍永と同世代の斎藤、椎原、阿部、下川等は


「あいつが出来てるから俺も出来なきゃおかしい。」


と非公開練習の半分はインサイドキックの精度を高める練習に勤しんだ。更にチーム全体でポジション関係なく、


「出したいスペースを皆で作る」


事を考えると、自然にオフ・ザ・ボールで効率的に走り、且つ相手の裏を欠くプレーを模索していた。ウズベキスタン戦での前線4人の動きはまさにそれの試作段階と言えただろう。そこに思いっきりラインを上げたDF陣が加わればどうなるか。それは先程の下川や岡野海が証明した。そして、後半はそれを知り尽くしている龍永を下げてベンチから観てもらおうと太田監督は考えていた。


「お前もベンチから指示出していいからな。」


と監督に言われた龍永は、ベンチに座ることなく声を上げる。試合が止まる度に修正しにタッチラインまで行き説明しに行く龍永。コーチ陣の佐久間や細川も交え、細かく指摘していくと、追加点がどんどん生まれる。交代で入った中西、阿部、そして内田が2点目を奪い、9-0とすると、DF陣も選手交代。田中と青木を入れ、岡野海をボランチに戻す。ベンチに戻って来た、今日一番走っていた田嶋に龍永が


「今日は田嶋さんいなかったら成立しなかったっすよ。ウチのガビンとペドリーニョ張りでしたね。」


と賞賛するが、田嶋は


「もっとクレバーにやりたかった。」


と納得がいっていない様子。無駄に走りスタミナ切れで交代させられてたと思っていた。


 更に内田がハットトリックをかまし、終わってみれば10-0の完勝。中国イレブンは、日本からボールを奪えなかったと同時にファールもさせてもらえず、身体にすら触れなかった。まるで2次予選、北朝鮮戦を思わせるような試合展開にさいたまスタディオンの日本サポーターは大爆発。だが、誰一人として満足していなかった。


「もっと点が取れた。」


「もっといい走りが出来た筈だ。」


「完膚なきまでなんて質じゃない。」


と全員が反省していた。


 一方中国サポーター達が


「ウチのカンフーサッカーが日本の変幻自在な忍者サッカーに完膚なきまで叩き潰された。」


と称する。中国代表達も口々に


「ドリブルされては消え、マークしようとすればそれこそ一瞬で消え、出浦は手裏剣の様に回転して交わし、内田にはムササビの術で上から3発も仕留められた。すばしっこい工藤や田嶋、越後に三浦等、後半に入った選手さえ忍者のように捕らえきれない。このスタジアム全体が忍者屋敷のように思え、一刻も早く脱出したくてしょうがなかった。」


と完全に戦意を喪失した様子だった。


首位をキープした日本代表。残るはアウェーのインドネシア戦、そして上位対決のサウジアラビア戦を残すのみとなった。





龍永が絶対的にならないよう、敢えてベンチに引っ込めています。前回ワールドカップは後半からの出場が多かったので、逆のパターンで書いています。

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