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第52話 曇り空のシルクロード

ワールドカップ最終予選前半で苦戦した日本代表が折り返し地点に入ります

「龍永!子供産まれたんだってな!オメーも親父かよ?時が経つのも早いなあ。」


 アウェーのウズベキスタン戦を前に日本代表は、かつてのシルクロードの拠点、サマルカンドで事前合宿を行っていた。前回ホームで徹底的に日本のサッカーをコピーされた為、入念な準備が行われ、完全非公開で行われていた。新システムの構築を進める太田ジャパンは程よい緊張感を持ちながら練習に励んだ。出場停止が解けたキーパーの佐藤と左サイドの中西も合流した。


 そしてウズベキスタン戦当日、スターティングメンバーを見たウズベキスタン側は困惑する。


GK佐藤、DF右から阪倉、下川、池田、岡野海、ボランチに前田、田嶋、右サイド越後、左サイド三浦、トップ下に出浦、1トップ工藤


ベンチにGK西久保、戸島、DF杉山、北爪、田中、小林、MF青木、岡野航、阿部、中西、桑原、結城、FW椎原、斎藤、内田


「工藤が一番前?出浦と入れ替わるのか?」


「三浦はジョーカーじゃないのか?勝負に出てきたな。」


「ボランチ2枚か。それに出場停止明けの佐藤が先発。点取りにくくなるぞ。」


この試合工藤がCFの位置に入っており、龍永がトップ下で起用される。また、全試合の4-3-3から4-5-1にフォーメーションを代えていた。だが、試合が始まると状況は一変する。


 ウズベキスタンボールからキックオフ。日本代表のようにゆっくりとパスを回すウズベキスタンイレブン。いつもよりハイプレスの来ない日本代表。決して引いて守っている訳ではない。それでもボールはウズベキスタンのディフェンス陣で回すこと15分、全く隙の見せない日本はパスの出所を確実に狙っているように見え、出し所が無くなっていた。ウズベキスタンのボランチ、ゼインリフが縦にFWのポポフへフィードを送ると日本のスイッチがようやく入った。DFの下川、岡野海、田嶋、三浦の4人が即座に取り囲み、岡野海がカットしたボールを直接前田が拾うと、右サイドの越後へパスを送る。だが、そこに越後の姿が無い。右サイドバックの阪倉もオーバーラップしていない。そこにいたのはCFの工藤だった。本来の右サイドである工藤がドリブルでぐんぐん進むと、フォローに入っていた龍永にパス。龍永はダイレクトでゴール前へ転がすと、そこに走っていたのは三浦。だが三浦はキックフェイントで更に左へパス。そこにいたのは越後であった。渾身のシュートがウズベキスタンゴールに突き刺さった。


「何で右サイドの越後が真逆の左にいるんだ?」


とウズベキスタン側は困惑。リプレーでは、日本がボールを奪った瞬間に工藤が右に流れ、越後が猛ダッシュで横に走っていた。だが、この越後のダッシュを気付かせないよう龍永が相手の視線を右サイドの工藤に動きで引きつけていた。言葉にするのが非常に難しいこのプレー。龍永がどうやってウズベキスタンDF陣の視線を右サイドに釘付けにしたのかは


「ストライカーの圧力」


であった。龍永は前試合でハットトリック。更に先のチャンピオンズリーグ準決勝でもハットトリックを決めている。いつ決めてもおかしくない選手が見えやすい場所にいるという事が越後のダッシュを気付かせなかったのであった。ホームのウズベキスタンはある意味


「出浦にしてやられた。」


と思う。そして試合再開。また日本はハイプレスに来ない。今度はサイドからじっくり仕掛けていくが、右サイドバックの阪倉が対応。大きくサイドチェンジすると、左サイドに張っていたのは龍永であった。


「今度は三浦が消えた。右サイドに移ったのか?」


と思っていたウズベキスタン側だったが、その三浦がCFの位置に入っていた。龍永はバルセロス仕込みの横に長いトラップパスをダイレクトで送ると、三浦がズバッと決めて2点目を取る。


「前の4人がポジションチェンジしてるのか?」


「この時CFの工藤はどこにいたんだ?」


と再びリプレーを見ると、工藤は右サイド、越後がトップ下に構えていた。この作戦は、日本がボールを奪った瞬間に、先ず工藤が片方のサイドに流れ、後ろの3人の内誰かが空いたCFの位置に入る。そして空いたスペースを残り2人のどちらかが埋めるというリスクの高い戦法だったが、太田監督が


「この4人なら出来る。」


と練習で試した結果であった。この4人は練習中に一切言葉を交わすことが許されず、代わりにサインのようなボディランゲージを多様していた。特にトップ下を務める龍永のボディランゲージが相手を困惑させていたのだ。そして前半終了間際、今度は工藤が左へ流れ、CFの位置に越後が入り、龍永が右サイド、三浦がトップ下へ移り、右サイドからの龍永の強烈なシュートを弾いたDFに当たったボールを三浦が拾い、左サイドに流れた工藤が決めて3点目をゲット。早くも3点取り終了する。ウズベキスタン側は


「あのフォーメーション自体がダミーだ!」


「完全に騙された!」


とロッカールームで話していたが、メンバー交代なしで後半が始まると、トップ下の龍永がいきなり左サイドへ展開。三浦は前半とは打って変わって張っており、得意のドリブルで左サイドから仕掛けていく。3人交わした三浦が直接シュートするが、キーパーがファインセーブ。すると、CFの位置で待ち構えていた工藤がどフリーでヘディングシュート。4点目が決まる。


「工藤は囮じゃなかったのか?」


「まんまCFに残ってたじゃねーか!」


だが龍永が


「当たりめーじゃん。今日のCFは工藤さんなんだからよ。」


と更に困惑するような発言をしたため、ウズベキスタンを率いるカルネバーレ監督が


「マンマークに頼るな!ゾーンでやれ!」


と指示を送る。すると、太田監督以下日本イレブン全員が


「ニヤッ!」


と不気味な笑みを浮かべる。この時、サマルカンドが曇り空に覆われる。


ウズベキスタンボールで試合再開。ホームのウズベキスタンは前へ出るしかない。ここに来てようやくハイプレスをかける日本イレブン。日本代表のプランは、前半は徹底的に相手を狂わせる戦術を取っており、ここからが本当の日本のサッカーが始まる。ボランチの田嶋が奪い、右サイドの越後へパス。ドリブルで進む越後がオーバーラップした阪倉を囮に中央へパス。トップ下で待ち構える龍永がゴール前で受けると、3人ものDFが龍永に襲いかかるが、大きくシュートモーションに入った龍永がダイレクトで3人の股を抜くグラウンダーの早いシュートがまるでスルーパスのようにゴールに吸い込まれていった。4-0となった所で龍永、工藤、越後、三浦が同時交代。そして龍永が


「アレ見せて下さい。」


と交代で入る内田、中西、桑原、阿部に告げる。アレとは?


 まだ戦意の失っていないウズベキスタンがプレーを再開すると、日本のハイプレスにディフェンスラインまで一気に押し上がっていく。CBの下川がボールを奪うと、日本のラインが2枚になっている。田嶋がDFラインに、前田が前のラインに入る。このプレーは先のチャンピオンズリーグ決勝トーナメント1回戦、バルセロスVSアジャックス戦でバルセロスがやっていたフォーメーション。オフェンスとディフェンスがそれぞれ2枚のラインを形成し、中盤を潰す戦術である。横並びになった右から阿部、桑原、前田、内田、中西が下川を起点にラインごと押し上がり、同時にDFラインも後方から5人でラインを保ちつつオーバーラップ。これにより押し潰され、両サイドが開いてしまったウズベキスタンは中央のスペースを突かれ、下川から桑原、内田と短いパスをダイレクトで繋がれ、抜け出した内田が豪快にシュート。キーパーの手を弾き飛ばし5-0。ベンチで龍永が


「下川!まだ判断が遅いぞ!もっと簡単にやれ!」


と檄を飛ばす。下川が


(あいつに出来んなら俺にも出来る。)


という思考で頭がいっぱいだった。阿部や最後の交代枠で入った小林も


(あいつばっかいいカッコさせてたまっかよ。)


(俺達だって五輪で優勝したんだ。出来ねー訳ねーじゃん。)


と思いながらピッチに立っていた。今度は交代で入った小林がカット。


(左サイドは俺の庭場なんだよ!穴だって言われて黙ってられるかよ!)


とコンバート組の岡野海や青木を意識しドリブルでオーバーラップ。日本陣内にはキーパー佐藤しかいない。10人がかりで押し寄せてくる日本にウズベキスタンがゾーンで囲もうとすると、小林が大きくサイドチェンジ。右サイドに開いた阿部がダイレクトでゴール前へ中央へセンタリング。押し寄せられたウズベキスタンはオフサイドが取れず、走り込んで来たCBの池田がシュート。左のポストを叩くが、中西がプッシュ。6点目を決める。その後もこの独特なプレスを最後まで維持した日本が完全にボールを支配。追加点こそ奪えなかったがこのままアウェーで勝利。勝ち点3を獲得し、ようやくグループ首位に躍り出た。


 試合後太田監督は


「前半はとにかく相手にウチのサッカーをさせたくなかった。先発の4人が上手く機能してくれた。後半立ち上がりはいつもの日本。更に高みを目指すために途中から出浦をベンチに置いて、出浦がチャンピオンズリーグで見せたフォーメーションをやってみせた。誰が出ても質の高いプレーが出来るって事を証明出来たと思います。」


と振り返る。龍永も試合後に


「思った以上に全員レベルアップしていて、練習期間も短い中で、まさかバルセロスの戦術をこのチームで出来ると思いませんでした。日本はもっともっと強くなります。この勢いを止めずにこの先全勝してワールドカップに行きたいと思います。」


と熱の籠もった言葉で締めた。だが、ロッカールームでは全員


「完成形にはまだ遠い。龍永の言っている新大神ゾーンに入る形が作れていない。実際に龍永。お前がこの試合であっ入る!って思ったシュートの感覚があったか?」


「まだラインの設定が甘い。それは攻守両面で言える。次は中国だぞ。ファールお構いなしにぜってー削りに来るぞ。」


ここで龍永が


「それならこっちは・・・」


と秘策を考えてきたようだ。対中国戦でこれから魅せる龍永の作戦とは?ホームに帰るチャーター機の中でチームミーティングが行われていた。


 


 





ウズベキスタンはシルクロードの分岐点なので、この予選で2連戦としました

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