第50話 テムズ川と玉座に架かる橋
代表戦を終えた龍永が、父の心の声を聞き、更にレベルアップします
「龍永。こないだの日本の5点目のプレー良かったじゃねーか!ゴール前で3人連続股抜きかよ?」
「ああ、アレは工藤さんの真似で・・・」
チャンピオンズリーグ準々決勝チェルサー戦を前に、再び代表ウィークでバルセロスから多くの選手を出し、今回は怪我人もなく全員戻って来た。キャプテンのオルモスが
「なあ、次の試合で練習中の新しいティキタカ試さねーか?」
ジャマールも
「ああ、アレか!遊びでやってたつもりだったけどな。」
ここでメッツ監督が入り
「だったら今日からタッチの練習中心で行くぞ。パスやコースはもう慣れただろ?重要なのはどうトラップするか、だからな。」
この日からバルセロスは今までのティキタカを更に上に行く練習を始める。このスペインにコーチ研修で来ている佐久間が練習を見て
「ん?なんだ今のトラップ?・・・龍永の奴も何かぎこちないな?」
と思いながら見学しており、練習後に龍永を食事に誘った佐久間が尋ねると
「へへへ・・・新しい戦術の基礎練です。まあ、企業秘密なモンで教えられませんけど・・・詳しくは次のチャンピオンズリーグ準々決勝までには完成させると思います。あ、そーだ。あの試合アウェーでした。チケットあるのでよろしかったら来ていただけませんか?」
と満面の笑みで誘う。興味を持った佐久間が
「それ、3枚くれない?こっちにいる羽生と奥山も誘いたい。」
とお願いすると、龍永は
「ええ、構いませんよ。口では教えられない分それくらいしたいので。明日でもいいっすか?」
と言って別れた。
そして1週間が経った。今日はアウェーのチェルサー戦。スターティングメンバーは
1番GKスタンコビッチ(セルビア)27番DFヘスキー(イングランド)5番クバルシュ(スペイン)12番クライファーツ(オランダ)3番バルデス(スペイン)4番DHズダン(フランス)15番CHテュラン(フランス)11番オルモス(スペイン)SW10番ジャマール(スペイン)21番出浦(日本)9番CFハーラルト(ノルウェー)
控え13番GKホアン・ガルシア(スペイン)29番DFマルケディーニ(イタリア)26番ファン・ペルツ(オランダ)8番MFペドリーニョ(スペイン)6番ガビン(スペイン)14番シメオニ(アルゼンチン)24番コンテイソン(ポルトガル)7番ラルソン(スウェーデン)28番ラウドルッペ(デンマーク)16番FWフェルマン(スペイン)20番キエリーザ(イタリア)
今日は右サイドバックを務めていたレダンドが累積警告で出場停止。代わって左のクライファーツが右に入り、左にバルデスが入る。
試合はチェルサーボールからキックオフ。クバルシュが立ち上がりから
「全力で上がれ!中盤を潰せ!」
と指示を飛ばす。若きCBが最初から強気で仕掛ける。トップ下のパルマーからボランチのカイエドにパスを送った瞬間、CBのヘスキーがカット。ヘスキーはこの間ようやくイングランド代表に選出されたばかりでテンションが上がっている。そのヘスキーがカットしたボールが直接ボランチのズダンへ渡る。アイコンタクトで
(行くぞ!)
とバルセロスイレブンに合図すると、素早いティキタカが発動する。ズダンから右に大きく開いたガビン、中央へ引いたジャマールと繋いでゴール前に鋭角なパス。走り込んだハーラルトにはコンウェルが付くも、強引にシュート。派手にゴールポストを叩いたボールは再びジャマールの元へ転がっていくが、逆サイドのテュランへ流す。ダイレクトでゴール前に転がしたボールを龍永がシュート。これもゴールポストに嫌われゴールキックとなる。
敵将のマズルカ監督は
(ティキタカか・・・それならとっくに慣れてるよ。)
と思いながら
(エンツォ、コンウィル、チャロビー!)
とサインを送る。
ゴールキックは近くのリアル・マドレーから冬のマーケットで移籍したククレーザへ送られる。すると、ククレーザは同じ左サイドのネットンへ速い縦パス。サイドを移したクライファーツが付くが、ラインを押し上げていたバルセロスの背後のスペースに大きくサイドチェンジのパス。中央のスペースへ来ると思っていたクバルシュとヘスキーが
「やべー!」
と思いながら戻るが、右サイドのエステベンが追いつきそのままゴール前へ切れ込む。キーパーと1対1になったところでパス。これをジョアンに決められ先制されてしまう。カウンターを食らった選手達は下を向くが
「まだ始まったばかりだぞ!取り替えせばいいんだ!」
とオルモスが檄を飛ばす。だが、チェルサーはCB2人とボランチ2人にブロックを形成する。そしてまだ浮き足立っている前半12分。今度はボランチの位置から大胆に飛び出したカイエドが直接ゴール前へボールを運ぶ
「あいつ・・・岡野さんかよ!」
と驚いている間に2点目を決められる。大歓声のチェルサーサポーター。前半はキーパーのスタルコビッチの好セーブもあり、0-2で終える。
ロッカールームで
「クバルシュ!ヘスキー!らしくねーぞ!最初の強気はどーした?アグレッシブに行かねーと勝てねーぞ!」
とハーラルトが苛立つ。この試合最初のシュート以外ボールに触れていない為、叱り飛ばすが、龍永が
「まあ、いいじゃねーか。これから3点取りゃいいんだからよ。それより監督。後半立ち上がりからアレやっていいんですよね?」
メッツ監督は
「ああ。前半は俺のミスだった。最初からアレやればよかったな。温存させてしまってスマン。」
と謝罪する。ジャマールが
「もう解禁って事でいいんですよね?監督。カバーは俺とリュウエイで何とかしますよ。だよな?」
龍永が
「ジャマールの言うとおり俺らがカバーしますからやりましょうよ。テュラン、オルモス。パス回すからな!」
2人共
「誰にモノ言ってんだ?小僧共!オメーらこそバテるなよ!」
と笑いながら話す。
一方スタンドでは佐久間、羽生、奥山の3人の日本人コーチ達が
「龍永の奴、企業秘密とか言っといて・・・全然見せ場ねーな。」
「あのティキタカに何かバリエーション増やしたのか?」
「あのブロック崩すのは容易じゃねーぞ?」
と話し込んでいた。
後半が始まる。バルセロスイレブンはまるで何かから解き放たれたような晴れやかな表情で現れる。だが全員、両眼が鋭く尖っている。羽生が
「後半、何かやりそーだぞ。」
と察知していた。ボールは中盤へ下がった龍永に渡ると
(いくぞ!)
と目配せをしてショートパスを送る龍永だったが・・・
奥山が
「ん?いつもと違って広く使わねーのか?」
練習を見学していた佐久間が
「龍永のトラップパスの蹴り方だよ。いつもと違うんだ。あのキックの意味は・・・?」
そして素早いティキタカが始まる。奥山が
「いつもと代わらねーじゃねーか?」
と思って観ていたが、何故か前半は封じていたチェルサーイレブンがそのパスに対応仕切れていない。羽生が
「あっ!あのパス回し・・・いつもだと転がす所を僅かに浮かせてやがる。あの浮かせたボールをダイレクトで繋いでんのか?往年のブラジルみてーじゃねーか?」
バルセロスイレブンは全員地面にボールが付かないボールをダイレクトで回している。地面すれすれの浮き球ボールをインサイドキックでピッチにボールを置かずにトントンと繋ぎ、ゴール前まで行ってしまった。佐久間が
「・・・嘘だろ?龍永がパスした後から一度もボールが地面に付いてねーぞ?しかも地面すれすれの位置でパスしてやがる・・・どーいうテクしてんだよあいつら・・・」
ただでさえ素早いティキタカが、地面にボールに付くことなくゴール前へ到達。ボールを置かないためパスコースがわかっていてもキックが読めない。このボールをハーラルトが豪快に決め1点返す。このゴールの裏ではジャマールと龍永が中盤に下がって動き回り、いくつものパスコースを作っていた。佐久間が
「あのドリブル大好き人間のジャマールが繋ぎに回っている。ウィングにテュランとオルモスが可変してるってだけじゃねー。サイドバックのクライファーツとバルデズもポケットを狙ってきていた。こりゃもう逆転は時間の問題じゃねーか?」
チェルサーボールで試合再開。クバルシュが前半同様にラインを上げる。チェルサーが今日狙っているのはその高いラインディフェンスの裏なのだが、今度はサイドバックのクライファーツとバルデスが中へ絞り、ウィングを封じようとするが、スピードに長けている両ウィング、エステベンとネットンには通じないことは前半で解っていた。そこでクバルシュがファインプレーを魅せる。ラインを上げたが意識は両サイドのカバーへいっていた。左サイドのネットンがスペースを突くが、この広大なスペースこそがクバルシュの罠だった。素早く反転し、狙いすましたタックルをかます。そのボールをジャマールが浅い位置で拾い、大きくサイドチェンジ。左サイド深くに走り込んでいた龍永が左足でペナルティエリア前に向かって豪快なボレーシュート。佐久間、羽生、奥山が
「馬鹿!何やってんだ?あいつ!あんなとこから何処に撃ってんだ?」
と思ったのも束の間、その強烈に速いボールをペナルティエリア内に侵入してきたオルモスが丁寧に且つソフトに軽い浮き球でトラップパス。このボールをハーラルトが決めて同点に追いつく。龍永とオルモスが
「ナイスパス!リュウエイ!もっと強くてもよかったぞ!」
と話してる2人を観て
「ええ?!あれ狙ってたのか?・・・オルモスのあのトラップ・・・そうか!これの練習だったのか?!龍永の奴、何か変なタッチで練習してたと思ったら・・・」
「・・・スゲーな。こいつら。開いた口が塞がらん。」
「・・・もう身体中痺れまくってるよ、俺。」
佐久間、羽生、奥山が固まる。
ここで選手交代。マルケディーニ、ガビン、シメオニが投入される。怪我明けのズダンが下がり、右サイドバックにマルケディーニ、ボランチにガビン、ウィングにシメオニが入る。龍永は中盤に下がる。
そしてチェルサーはFWのデラッツとガウチョを投入。双方攻撃を厚くする。すると、代わって入ったデラッツがバルセロスの高いディフェンスラインを突く。再び読みの深いカバーリングでクバルシュがカット。往年のリベロを彷彿とさせるカバーリングから戻ってきたガビンへパス。すると、ガビンは真横のマルケディーニへ例による低空の浮き球を送ると、今度はマルケディーニが浅い位置から中央のハーラルトが走るスペースに向かってシュート性の強烈なダイレクトパス。まるでハーラルトにぶつけるかの如く激しいパスを龍永が途中でカットしながらソフトに浮き球で右サイドのオルモスに送る。
「あれ?龍永もあのトラップパス出来んのか?」
と思っている間にオルモスが深い位置から右足で後方から上がってくるジャマールにダイレクトパス。このパスをジャマールが加速をつけてボレーシュート。キーパーが僅かに触りポストを叩くが、ハーラルトが押し込んで逆転。またもガビンから一度も地面にボールを付かずにパスを回したバルセロスイレブン。更に長短でシュート性の激しいパスからソフトなタッチのパスを織り交ぜた芸術的なティキタカに、アウェーサポーターは唖然とする。まるでテムズ川に架かる多くの橋のように美しいアーチを築くような浮き球のパスにただただ酔いしれていた。
そして試合終了。龍永は後半ロスタイムに交代しノーゴールに終わったが、満面の笑みを浮かべてハットトリックを決めたハーラルトと肩を組んでいる。
試合後に佐久間、羽生、奥山と遅めの夕食を摂った龍永は3人に質問攻めされたが
「今日のプレーはほんの最近考えついたんすよ。ウズベキスタン戦後です。最初は練習前に俺らが遊びでやってたのを監督が落とし込んでくれて・・・」
と話すが
「あれを遊びで出来るオメーらがスゲーよ。あのトラップは今日のプレーの基本形だったのか?」
と佐久間が質問すると龍永が
「あれはあれで難しいんですよ。俺も昨日よーやくモノにしたんすよ。」
とそれまでの苦労を語る。
世界中のオオカミJr達が、元王様に率いられ着々と玉座のある頂点に上り詰めていく。今日魅せた浮き球のパスワークはまるで玉座へと繋がる架け橋のように欧州を折檻し始めた。
今回はグラウンダーのパスを捨てたわけではなく、低空の浮き球でどれだけ繋げるかをコンセプトにしました




