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第47話 ティキタカの始祖

ベストメンバーが戻ったバルセロスがトータルフットボールに挑みます

 チャンピオンズリーグ決勝トーナメント1回戦アジャックス戦。代表戦の怪我から全員復帰し、いよいよ本格的に再始動というこの試合。監督のオスカー・ガルシアはこのバルセロスのカンテラ出身。更に現メンバーはおろか、オランダで活動していた龍永やメッツ監督の事まで知り尽くしている。そして、バルセロス得意のティキタカは、まさにアジャックス発祥の産物である。


 メッツ監督は練習からいつにも増してプレー精度とアジリティを徹底的にしごく。


「ハーラルト!それじゃ直ぐ敵に囲まれるぞ!」


「テュラン!シメオニ!もっとスイッチを速くしろ!出し抜けないぞ!」


「ズダン!判断が遅い!もっと瞬時に周り見ろ!」


「龍永!何だそのシュートは!カウンター食らうぞ!」


「ジャマール!また1人でやってる!もっと周り活かせ!」


「ヘスキー!クバルシュ!相手はお前らのミスを狙ってるんだぞ!」


「キエリーザ!マルケディーニ!そんなんじゃまた予選負けるぞ!」


皆普段通りのプレーだが、誰に対しても厳しい。それ程チャンピオンズリーグ決勝トーナメントは過酷なのである。


「最近の監督相当厳しいな。」


「相手はこっちの戦術の元祖だからな。」


「とにかく言われたとおりにやろう。」


そんな厳しいメッツ監督に誰一人文句も言わず練習をこなした。皆メッツ監督が置いていった「王様の玉座」に座りたいからである。内心メッツ監督も現バルセロスメンバー達の親父代わりでもある。世界中のオオカミJr達にそこに辿り着いてほしいのであった。


 そして迎えたアジャックス戦。フルメンバーを携えアウェーに乗り込んだ。龍永にとってはワールドカップ前以来のオランダでの試合。アジャックスのトータルフットボールVSバルセロスのティキタカのガチンコ勝負の火蓋が切って落とされた。


 ボールを受け取る龍永。見るとまるで鏡でも見るような陣形。すかさず阪倉とシュタルが襲いかかる。簡単にさばく龍永は後方のオルモスへ渡す。するとそこへサイドバックのガーレイが潰しにかかる。


(ラインを上げながらチェックか・・・なら。)


ズダンまで戻ったボール。すかさず全線の3人ジャマール、ハーラルト、龍永が下がり、オルモスとシメオニが2トップにシフトチェンジ。戻ったハーラルトがズダンと向かい合い、ノールックでオルモスにパス。このボールにシメオニが走るが、ラインを入れ替えたブラウントがマーク。ジャマールが


「こっちだ!」


と中央へ切れ込む。シメオニからボールを受けたジャマールはダブルタッチで更に左へ、右と入れ替わっていた龍永が目線でスペースを示す。ジャマールがボールを出すと僅かにオフサイド。龍永は


(相変わらずシビアだなあ。)


と直ぐに切り替える。速いリスタートから今度はアジャックスの攻撃。両サイドブラウントとバーストがいち早くオーバーラップ。だが、バルセロスのレダンド、ヘスキー、クバルシュ、ファン・ボムメルはラインをしっかり保って応戦。ボールを奪い返す。両者譲らぬままスコアレスドローで前半を終える。


メッツ監督が何か言いたげだが、バルセロスイレブンの眼はギラギラ輝いていた。そして、獲物を狙うオオカミJrのように飢えた眼に変わっていた。


「・・・俺達にとっての一番超えたい壁が今目の前にある!」


彼らは皆、偉大なる父がいる。龍永もその一人だ。そして、バルセロスというチームにとってアジャックスは「戦術の親」なのである。かつてオランダの英雄クラッフが、このアジャックスからバルセロスに輸入したのが現在のティキタカである。キャプテンのオルモスが


「監督。あんたの考える新しいティキタカ、後半俺達が見せてきますよ!」


ロッカールームで選手同士確認しあった。スタメンもベンチメンバーも誰一人黙っている者はいなかった。試合をしながら感じていること、外から見て感じていること、後半この時間帯で誰と誰を入れるのか、それまでにやっておくことは何か。鏡を向き合った相手を練習でどう崩してきたか。皆冷静に分析し、たった15分のハーフタイムで全てまとまった。そんな選手達をメッツ監督はニヤリと笑って見ているだけだった。メッツ監督が最後


「よーやく玉座を奪う気になったみてーじゃねーか。よし!お前らのやりたいようにやってみろ!責任は俺が持つ。今は俺がお前らの親父。いや、最強の親父だからな!」


メッツ監督がメンバーを完全に信頼した言葉で送り出す。そんな世界のオオカミJr達も


「はい!」


と声を揃える。


 後半アジャックスボールから。攻撃陣は


「キックオフ直後に前線の3人とセンターハーフ2人。5人一気にハイプレスをかけろ。その瞬間ズダンと俺達4人が思い切りラインを上げる。中盤を潰した5-0-5、いや、5-5のフォーメーションになるんだ。サイドと中盤を一気に前後で潰す。ボール取ったら陣形を戻そう。」


この作戦は左サイド、ファン・ボムメルのアイデア。厄介なのはウチと同じ中盤3人。動ける範囲を挟み込んで万力のように潰そうという事である。龍永、オルモス、ハーラルト、シメオニ、ジャマールが横並びでボールを戻したアジャックスに一気に襲いかかる。バルセロスDF陣も5人横並びでかなり上がっておりパスコースがない。アジャックスの中盤は開きとなってしまい、動きどころがなくなった、FWも縦に走ればオフサイドである。中盤のクランセンがボールを持つが、ここでズダン、龍永、オルモス、ファン・ボムメル、クバルシュと一気に5人に囲まれる。クバルシュが奪うとバルセロスがあっという間に元のポジションへ戻る。アジャックス監督のオスカー・ガルシアが


「なんて凄まじいプレスと攻撃の切り替えの早さだ?」


メッツ監督仕込みのティキタカが始まる。1人1人がいつもより早くインサイドキックのトラップパスを繋ぎ、流れるような美しいティキタカが炸裂する。普段ボールを持ちすぎるジャマールや、ゴールしか頭に無いハーラルトまで簡単に綺麗に繋ぐ。右サイドに流れた龍永が低くて速いセンタリングを上げた先は、左サイドバックのファン・ボムメル。このボールを丁寧に流し込み先制点を奪う。メッツ監督が


「まだ1点だ!当然取るんだろ?」


「当たり前っすよ!3点取るぞ!」


バルセロスイレブンに久しぶりに活気が戻った。


 アジャックスボールで試合再開。再びラインを2枚に減らすバルセロス。まだ混乱するアジャックスがファールを犯す。ここまで攻守の要だったズダンが負傷交代。だが、ベンチは慌てずマルケディーニを投入。


「大丈夫!俺が入ったからどんどん仕掛けろ!」


父、祖父共にASミラン一筋のこの男が今味方にいる。マルケディーニはオオカミJr達の中で超えなければいけない壁が2つも存在するが、今のバルセロスにいれば十分可能だと胸を張ってピッチに入る。


 フリーキックはフィールド中央。早くもライン2枚で行く強気のバルセロス。ここでマルケディーニは中央へシュート。アジャックスには理解不能。


(こんなとこからゴール決まるわけねーだろ?)


と思ったこのシュートは、ハーラルトに目がけたパス。わざとシュートコースを作っておいたハーラルトがそのスペースに入り、左サイドの龍永へヘッドで大きく流す。大きく膨らんだままコーナーポスト付近へ流れるパスを、龍永がダイレクトで早いインサイドキックでゴール前へ折り返す。ここに走り込んだのはコンバートに不満を持っていたDFのヘスキー。豪快に流し込みバルセロス2点目。ここで負傷明けのハーラルト、ジャマール、シメオニが交代。龍永がCF、代わって入ったキエリーザ、テュラン、ラウドルッペが入る。特にラウドルッペはベテランでこの負傷者揃いのチームを落ち着かせていた存在だ。マルケディーニを1列上げ、ボランチに入る。


 この2枚ラインシステムはゾーンディフェンスがかけやすい。簡単に数的有利を作れる効果的なアイデアであった。だが、このラインも攻撃になればたちまち元の4-3-3に戻ってしまうのだからとんでもない。ハーフタイムで先発だったガビンが


「攻撃は監督のいうとおりアジリティが全てだ。ボール獲ったら相手を出し抜くくらい素早くだぞ!駆け引きとの勝負だ。前線のお前らのセンスを信じてるからな!」


このガビンの「駆け引き」の言葉に龍永は反応していた。


(そう。駆け引き。相手DFとの駆け引き。それと、新大神ゾーンの駆け引き・・・)


さっきマルケディーニがハーラルトに撃ったボールがまさにそれだった。ここで、龍永がスーパープレーを繰り出す。再び早いリスタート。龍永がボールを背に走り出す。今度はラウドルッペが中央へグラウンダーで早いパスを龍永の背後目がけて放つ。ライナー性のボール。しかし、龍永はそのパスに早く反応したのか後ろに反れようとしている。マークに付いた阪倉とシュタルが龍永の前に立ちはだかった瞬間。龍永は左後ろ脚でインサイドキックを2人の左に流れるようにポーンと大きく出す。そして2人の右をすり抜け、そのボールを拾い利き足ではない右足でシュート。


(よし!見えた!)


《ガゴッ!トーン》


何とゴールが上向きに傾く威力のスーパーゴールが決まり、バルセロスが3点目。ここで龍永も交代。後をフェルマンに託しベンチへ下がる。メッツ監督が


「交代したからって終わりじゃねーぞ。きちんと外からも観るんだ。」


と龍永に水を差しだし微笑んでいる。龍永はアイシングしながら残りのプレーを一挙手一投足で観察する。あのワールドカップのように。今度はキエリーザが決め4点目。更に終了間際にマルケディーニからのパスをラウドルッペが今季初ゴール。5-0で完勝。試合後オスカー・ガルシア監督がメッツ監督に


「・・・ほんと脱帽したよ。あれはお前の考えた戦術か?」


メッツ監督は


「半分あいつらの考えです。ほんと孝行息子達なんでね。」


と誇らしげに語る。


 そしていよいよチャンピオンズリーグ準々決勝に駒を進めたバルセロス。龍永にはこの後ワールドカップ最終予選ホームでの2連戦インドネシア戦とウズベキスタン戦が待っていた。

チャンピオンズリーグは本来ホーム&アウェー方式ですが、長くなるので片方だけ書いています

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