第46話 火炎を吐く飛龍 後編
古巣フベントルス戦の後半です。
怪我から復帰した龍永。同じく予選で負傷したジャマールと調整でボール回しをしていた数日前。ジャマールが後ろ脚でインサイドキックを蹴るのを見る。
「おお!それいい!」
と龍永は気に入った様子。ジャマールは
「カンテラでよくやってるよ。お前の出浦手裏剣と同じ要領だよ。」
とアドバイスをもらう。だが、龍永の出浦手裏剣は長い脚と足裏で行う物であり、少し勝手が違う。ジャマールに教えてもらい、この試合までにほぼ後ろ脚でのインサイドキックが蹴れるようになり、この試合で試すという事である。
「俺とジャマール、2人で6点取る!」
後半はバルセロスボールでキックオフ。いつもは後方に戻すがいきなりジャマールが仕掛ける。いつもとは逆の左サイドへ流れていくジャマール。抜群のキープ力でフベントルスのロバテッリ、前田、ミノッティ3人を相手に引きつけ、リスクを負って上がってきたズダンへ横パス。ティキタカがスタートすると思いきや、ズダンが強烈なロングシュート。フベントルスDF陣は
「こいつ我を見失っている。」
と思っていたのも束の間、このシュートはバーへ当たり、大きくエリア外中央へ弾き出される。このボールをオーバーラップしたヘスキーがゴール前へ戻す。
「火炎地獄返しだ!」
と叫ぶと、キックオフから試合に消えていた龍永が突如現れ、ボールを拾おうとするが、田中がマークに付いたその時だった。龍永が後ろ脚でインサイドキックを横に蹴り、キエリーザへパス。ブロックに行ったブレーメルを嘲笑うかのように再び龍永に返すも、キックフェイントを入れた龍永がスルー。これをジャマールが決めて1点返す。すかさずボールを拾うジャマール。
「あと3点」
とスペインのエースがフベントルスイレブンを睨む。
フベントルスボールで試合再開。ゆっくりとボールを回し、右サイドのボカへ渡すと再びゴール前へなだれ込むフベントルスイレブン。ここでクバルシュがディフェンスラインを整える。アイコンタクトで
(こことここに誘え!)
と鋭い眼力でヘスキー、レダンド、バルデスを見る。今度はファーのレダンドの方へ3人入っている。だがじっと我慢して耐える4人。右サイドレダンドとヘスキーの間にボールが入った瞬間、キーパーのスタルコビッチが
(ここだ!)
と言わんばかりに飛び出しキャッチ。すぐさまロングボールを右サイドのジャマールに送る。オーバーラップしたフベントルス陣内はがら空き。もの凄い勢いで戻ってくる田中とブレーメルを難なく交わしたジャマールがなんと最後の1人ガッディーニを出浦手裏剣で交わしながらクロスしてゴール前に入った龍永へパス。構えるシュチェスニーと龍永の間での駆け引き。ここで龍永がシュチェスニーの足下に視線を置く。シュチェスニーがそれを察知し飛び出した瞬間、龍永が
(あっ!入る!)
と利き足ではない右脚でシュート一閃。ボールはシュチェスニーの顔面を横切りフベントスゴールに突き刺さる。龍永は
(あれ?今の感覚・・・)
リハビリ中に中山や日高、林と話した
「相手DF陣との心理的な間合いを詰める」
という感覚が今のプレーで見えてきたように感じた。今は股を狙おうとして上に撃った。足技ではなく、別の方法でフェイントをかまし、偶然ゴールに繋がった。龍永は
(もう一度試しにやってやろう。今度はDF相手だ。)
と頭に入れ、ボールを拾いに行く。
点差は1点。再びフベントルスボールで試合再開。フベントルスは戦術を代えてきた。右サイドバックにトルコ代表のチェリキを投入し、これまでの多角度からの扇型ではなく、ブロック型のワイバーンに切り替えてきた。4バックにしたことでより分散した攻撃になる。つまり、右サイド4人が攻めれば左サイド4人が引き、4人の固まりが分散してゴールに入っていく。更にCFとトップ下が加わることでDFの邪魔をするという戦法で、スペースの使い方を変えてきたフベントルスに罠にするスペースを潰され、再び1点返される。
バルセロス側も中盤にフェルマンとベテラン、ラウドルッペを投入。更に左サイドにテュランを入れ、龍永をCFに置き、左にテュランが入る。
未だ2点ビハインドの後半も30分を経過していた。バルセロスイレブンが静かに燃える。キックオフ直後、全体的に上がっていたフベントルスイレブンを前に龍永がセンターサークル内からシュートを撃とうとする。慌てるフベントルスイレブン。龍永が
(効いてる!)
と思いシュートを止めパスを送る。ようやく本来のプレーを取り戻したバルセロスがティキタカを始める。龍永、ラウドルッペ、テュラン、龍永、ズダン、ジャマール、フェルマンと流れるようなトラップパスに前半飛ばしていたフベントルスイレブンは追いつけない。センターハーフに入っていたフェルマンが左サイドでテュランとスイッチしたラウドルッペに大きくパス。ダイレクトでテュランにリターンするとそれを逆サイドのジャマールへ流す。中に入ったジャマールがスペースを空けた龍永に流すとそのままシュート。再び1点差に詰め寄る。
(・・・そう簡単にあの場面は来ねーな。)
と思いながら、残り5分となる。
フベントルスはこのまま行けば勝てるとボールキープを始める。だが、今のバルセロスにとっては格好の餌食であった。激しいハイプレスが襲いかかり、フェルマンがカット。すかさずズダンへ渡すと丁寧にラウドルッペに渡す。龍永が逆サイドのジャマールの位置まで開き、空いたスペースをジャマールがくさびに入り、CFになる。そのままジャマールが中央から切り込もうとするがブロックされて入れず、テュランに繋ぎダイレクトで右サイドに移った龍永にグラウンダーの速いパス。このパスにオーバーラップしたレダンドが割って入りコースを代える。このボールをブレーメルと上手く入れ替わったジャマールが強引にシュート。キーパーに弾かれコーナーキックとなる。
恐らくこれがラストプレー。ゴール前が混戦になり、一カ所に固まる。蹴るのはジャマール。右腕を大きく上げ、助走を長くしたボールはペナルティエリア前方に走り込んだクバルシュにショートパス。ゴール前の混戦から大きくペナルティエリアファーサイドに逃げた龍永へダイレクトで横パス。混戦したゴール前。DFもキーパーもよく見える。この時龍永はゴールまでの道筋がハッと見えた。そして迷わず左脚を振り抜く。このシュートは混戦の隙間をズバッと斬り裂き、軽くワンバウンドしてゴールに突き刺さった。メッツ監督が思わず
「それだ!」
とガッツポーズをする。古巣相手でのハットトリック達成であった。
まだアディショナルタイムが1分30秒残っていた。両チームとも勝ち点が欲しい。フベントルスがプレー再開すると、バルセロスがハイプレスを仕掛ける。パワープレーに転じたフベントルスだったが、スタルコビッチが飛び出し、大きくパンチング
「あと1分あるぞ!」
と叫ぶスタルコビッチにレフェリーがワンプレーを認めた。バルセロスの高速カウンター発動。弾いたボールをフェルマンがヘッドで左サイドのラウドルッペにパス。すかさずダイレクトで中に切り込んだジャマールが右に流す。ジャマールとポジションチェンジした龍永がダイレクトで中央に戻すとジャマールが簡単にインサイドキックでキーパーの逆を突きゴールへ鮮やかに流し込む。後半終了間際の逆転ゴールにガンプ・ノーは爆発。そして試合が終わった。5-4の壮絶な撃ち合いを制し、ようやくフベントルスから勝ちを奪い喜ぶバルセロスイレブン。龍永を含め5人も選手を流出したフベントルスはがっくりとうなだれる。
試合後メッツ監督が
「前半は完全にやられた。ウチに5人も移籍したというのにワイバーンは脅威であり、今尚進化していた。後半ウチのジャマールや出浦がいなかったら確実に負け試合だった。ここにきてベテランのラウドルッペがようやく機能していた。彼が試合を落ち着かせていなかったら同点で終わっていただろう。」
とコメントした。
そして龍永が
「本当に紙一重だった。サッカーが常に進化しているのは相手も同じだった。自分が所属していた時以上のモノを出してきた。」
と古巣を称える。そして、今日は右サイドのジャマールとスイッチするプレーが多かった事を聞かれると
「いつもとは違う景色で感覚掴みたかっただけです。」
感覚?とピッチサイドで尋ねられる。
「はい、新大神ゾーンの感覚です。まだ完成していないんで何とも言えませんが・・・」
この時誰もが?と思っていたが、龍永の父、敬助と対戦したことのあるメッツ監督やクリスチャン・ロドリゴ等はハッとした。アレを攻撃でやるのかと。もし完成したらオオカミにゴールごと食われかねないと古いフットボーラーは考え始めたのである。
一話にまとめたかったのですが、古巣相手ということで2つに分けました。因みにフベントルスの選手は現実に戻しています。




