第44話 欧州の関ケ原
日本代表と共に、クラブでも苦戦を強いられます
チャンピオンズリーグも佳境に差し掛かる。だが、ワールドカップ予選で負傷して帰って来た龍永。ただそれは、龍永だけではなかった。ハーラルト、テュラン、シメオニ、オルモス、ガビン、ジャマール、クライファーツ、クバルシュと主力が相次いで抜けてしまった。龍永は膝蹴りを食らってヘルニアを患い、更に右脚アキレス腱を負傷し全治3ヶ月を言い渡された。日本で手術をして、リハビリの経過を見てチームに合流する予定である。ようやく新大神ゾーンを極めようとしていた龍永にとって痛恨の離脱だった。
病院でリハビリに取り組む龍永に、3人の男が龍永を訪ねてくる。先の中国戦で龍永達日本代表を叱り飛ばした中山、父、敬助の盟友日高、林であった。束の間の休息にかつての父の盟友達がやって来て龍永を激励する。中山が
「こないだはすまなかったな。」
と謝罪するが、龍永が
「何言ってんすか?おかげで目が覚めましたよ。」
と特に気にしておらず、明るく返す。五輪時代のキャプテンだった林が
「お前が羨ましいよ。今やあの名門バルセロスの中心選手だもんな。」
と感心する。日高も
「産まれたばかりのころ、抱っこしてたお前がこんなに強くなってるんだからな。」
と感慨に浸っていた。それより龍永が3人に聞きたいことがあった。
「あの、そのバルセロスで今取り組んでる事があって、俺の中では「新大神ゾーン」って呼んでるんですけど、よろしかったら父の大神ゾーンの特徴とか間合いとかスタイルとか細かく聞きたいんですけど?」
3人は敬助の「大神ゾーン」を知り尽くしている。龍永は
「俺の親父ってゴールライン背負ってやってるのはわかってて、あれって180°の視界じゃないですか?俺もタッチラインとかサイドだったら出来るんです。でも、中央にポジション取ったときにまだ改善の余地がありまして・・・今は味方のディフェンスラインを背負って代用してるんですけど、どうしても360°の視界を持った「新大神ゾーン」を完成させたいんです。」
代表経験はあっても海外経験のない3人は
(こいつどんだけスゲーレベルで考えてるんだ?)
と驚きつつ、龍永のベッド横にあるモニターで龍永のプレーを一緒に観て、龍永が解説しながら3人に相談する。しばらく黙り込んでしまう3人だったが、
「・・・よーするに、敬助のキャッチやセービングをお前はタッチやゴールに置き換えてるって事なんだよな?」
「敬助は間合いを大事にしてたからな。それを攻撃となると・・・」
「確かにこれ観るとサイドのお前は無双だな。もう工藤も三浦も超えてると思う。だが、代表じゃお前がCFだから・・・とすると・・・」
3人が分析を始める。龍永が
「1度メッツ監督に後方の上がりを待って溜めてたらお前の持ち味が消えてるぞって怒られまして、ただ、前に張るとスペースと間合いが消えてしまって・・・それで悩んでるんです。周りに点取らせることは出来ても、自分のゴール数が伸び悩んじゃって・・・」
現役時代DFだった中山や日高が
「ようするに間合いなんだよな。お前がキーパー引き摺る事は出来ねーのか?動きじゃなくてDF陣の心理的な間合いを詰めるとか。」
その言葉に龍永が引っかかった
「・・・心理的な間合い・・・そういえばウチのハーラルトやフェルマンが「シュートコース探さなくてもただ蹴るだけで入った」って言ってたのはそれなのかな?」
すると林が
「純粋なストライカーは嗅覚持ってるからな。いるだけで怖いFWっているじゃん?俺達の世代だったら竹原さんとか、佐久間とかさ。渡せば入るみたいなFWはそういう間合いを持ってると思うよ。」
中山も
「確かに。シュートに来る怖さみたいな奴な。俺がワールドカップで対峙したバティストとか。あの厳ついFWがループで撃ってきたのはびっくりしたわ。」
龍永は
「俺にはまだまだ怖さが足りないって事か・・・」
と考え出すが、日高が
「お前は十分怖さを持ってるよ。問題なのは自信だよ。お前ワールドカップで得点王だぞ?自信持てよ。お前の自信のなさが返って自分を殺したり、考えすぎてチャンス逃したりしてねーか?お前の言う360°の視界ってーのは俺達にも達しない領域だからな。ただそれはFWのお前が後ろを見渡せって事ではないと思う。」
そして3人共
「お前は俺達の夢なんだからな。ワールドカップも五輪も獲ったんだから、次はバロンドール目指せよ。何でも協力すっからよ。」
と言って去って行った。
そしてリハビリもほぼ終わり、スペインに発つ前日に淀川のメディカルチェックを受け、京香と姉の静香と家族の一時を過ごす。そこで龍永が初めて父の事を尋ねる。
「なあ、母ちゃん。俺の父ちゃんってどんなんだった?」
すると京香は
「負けず嫌いで自信たっぷりの頼れる男だったよ。龍永ももうお父さんに似てるじゃない?」
静香も
「そうそう。負けてても「大丈夫。俺に任せろ」みたいな所ね。」
龍永は
「そうか。そうだよな。俺にボールが来れば点決めてやるって自信は俺にはあるからな。それなんだなきっと!」
と明るい笑顔で日本をあとにした。
スペインに1ヶ月半振りに帰り、リハビリをしながら復帰を待った。チームは主力の3分の1を負傷で欠き、ここのところリーグ戦は連敗。3位まで落ちてしまっていた。ホームでのリアル・マドレー戦は0-0のスコアレスドローに持ち込み持ちこたえていたが、メッツ監督の進退問題にまで響いていた。龍永の他にハーラルト、テュラン、シメオニ、オルモス、ガビン、ジャマール、クライファーツ、クバルシュと攻守のキーマンとなる者達が抜け、満身創痍なのは日本代表と同じだった。チャンピオンズリーグでも黒星を献上。ワンCとセルチェックに引き分け、龍永の古巣フベントルスに0-5の大敗と崖っぷちに追い込まれた。龍永はこの古巣フベントルス戦へ向けて調整を始めている。最早今季のチャンピオンズリーグは
「欧州の関ヶ原」
とも言うべき荒れに荒れていた。この冬のマーケットで多くのチームが選手を入れ替え始め、誰が味方になり、誰が敵になるといった状況下でバルセロスは1人も移籍せず、補強も行わなかった。
まだ負傷者の癒えないバルセロスはパリ・サンジェルミ戦に臨む。
1番GKスタンコビッチ(セルビア)27番DFヘスキー(イングランド)23番ファン・ボムメル(オランダ)19番レダンド(アルゼンチン)3番バルデス(スペイン)4番DHズダン(フランス)8番CHペドリーニョ(スペイン)26番ファン・ペルツ(オランダ)SW7番ラルソン(スウェーデン)33番ウェア(アメリカ)20番CFキエリーザ(イタリア)
控え13番GKホアン・ガルシア(スペイン)2番DFエンリケ・ガルシア(スペイン)22番ベルナルド(スペイン)17番カサルド(スペイン)18番ジェラルド(スペイン)16番MFフェルマン(スペイン)29番マルケディーニ(イタリア)24番コンテイソン(ポルトガル)25番ハジム(ルーマニア)28番ラウドルッペ(デンマーク)30番FWマルティンス(ナイジェリア)
登録メンバーギリギリの満身創痍のバルセロス。パリ・サンジェルミには冬のマーケットで移籍してきた日本代表の守護神、佐藤が立ちはだかる。龍永は試合前日にサイドのウェア、ラルソン、コンテイソン、ラウドルッペに
「ペナルティーエリア付近斜め45°から狙っていけ。特に右サイドから決められる。」
とアドバイスを出していたが、結果は後半アディショナルタイムに何とか1点を取り、1-1の引き分けに持ち込む。バルセロスイレブンはすっかり自信を失ってしまい、別のチームと成り下がっていた。
リーグ戦も黒星を喫し、5位まで順位を落としてしまう。そんな状況下でチャンピオンズリーグの山場であるフベントルスとの一戦を控える中、龍永を含めた数名が怪我から復帰する。クバルシュ、テュラン、ガビル、オルモスが完全復帰、龍永、シメオニ、ジャマールはハーフタイムからの出場可能になる。ハーラルトとクライファーツ、シメオニはもう1ヶ月かかるが、何とか戦線復帰した選手を加え、フベントルス戦を迎えることになる。
誰が主力とはこのチームにはありませんが、前回の日本代表を観て、何人も怪我人がいると狂った歯車は修正するのが難しいと思い知らされました




