第41話 開眼!新大神ゾーン
龍永が遂に殻を破ります
国王杯決勝。相手は工藤の抜けたリアル・ソシエド。この試合には五輪で共に戦った日本のDF北爪が所属している。今回は龍永のマンマークに付くよう指示されていた。
前回、チャンピオンズリーグ第三戦、パリ・サンジェルミ戦で自分のプレーを見直すことになった龍永にとってはこの試合はその真価を問われる試合となる。龍永は試合前
(大神ゾーンのことは頭の隅に置いといて、今まで通りのプレーをしよう。)
と思いながら試合に臨む。
試合はバルセロスボールで試合開始。立ち上がりから十八番のティキタカでパスを回していくが、龍永には北爪が常にマークしていた。北爪は先のワールドカップ予選でメンバー入りを逃し、この試合でアピールする算段だった。序盤から龍永に対して激しく当たる北爪だが、龍永達バルセロスイレブンのパス回しに翻弄される。
前半19分、バルセロスは右サイド、ジャマールの切り崩しからグラウンダーのセンタリング。これをハーラルトが合わせるが、北爪がブロック。その弾いたボールをオドリオソルが拾いソシエドのカウンター。一気に中央のオラルサバスにボールが渡るも、クバルシュとヘスキーが挟み込んでボールを奪取。すると、主審の笛が吹かれ、両者にイエローカードが提示される。
ソシエドのフリーキック。キッカーはウェズリー。壁の中には長身の龍永も混ざり、前線はハーラルトとジャマールのみ残る。ウェズリーは直接ではなく、壁の横を走るゲドスにパス。壁の中にいた龍永がゴール前でゲドスと対峙する。ゲドスはワンタッチで壁の裏にいたオラルサバスにパスするも、キーパー、スタルコビッチが飛び出しすかさずパントキック。前線にいたハーラルトが一旦上がってきた龍永にパスを落とす。龍永はこの時センターライン付近でボールを受け取ったが
(俺が溜めちゃ行けねーんだ。自分ごと前に突っ込まねーと!)
と思い、そのままドリブルで運んでいく。すると、バルセロスイレブンがもの凄い勢いでラインを上げていく。龍永から今日右サイドバックを務めるコンテイソンにパス。そこからティキタカが始まる。コンテイソンからガビル、ガビルから逆サイドにオーバーラップしたバルデス、そして、フォローに走った龍永を経由しハーラルトに小気味よいワンタッチパスが出され、ハーラルトがシュート。左隅を狙ったシュートはバーに大きく弾かれ再びソシエドボールにされる。ここで龍永にスイッチが入る。
(ここで奪う!)
ゴール前でキープし、パスをしようとしたツァーリに龍永が猛然と襲いかかり、北爪へのパスをカット。すかさず北爪が立ちはだかるが、龍永は逆サイドに張っていたエリア外の右サイドバック、コンテイソンに大きく振る。コンテイソンはその後ろのスペースに走り込むヘスキーを発見し、ダイレクトでペナルティーエリア前へセンタリング。このボールをヘスキーが豪快に決め先制点を上げる。ソシエドイレブンは
「ゴール前から逃げた後にまた戻しただと?」
と驚く。龍永はゴールから逃げたのではなく、ゴール前から自ら起点となり、大きな三角形を形成していた。龍永は
(ここまではいつものプレー。問題はここからどう前に進むかだ。)
満足している顔ではない龍永。1-0のまま前半が終了する。
ハーフタイムのロッカールーム。皆が話している間、龍永は口を開かず1人で何かを考えている様だ。メッツ監督が龍永の肩に手を当て
「いつものお前に戻ったみてーだな。だが、まだ大神ゾーンにこだわっているのか?」
と尋ねられる。龍永はチームメイトに
「大神ゾーンは俺がボールを持っている時じゃ上手く発動しないんだ。俺が相手からボールを奪った時に鮮明に見えるんだけど・・・」
と初めて仲間に吐露する。前半の龍永が見せたハイプレスはそういう事かと一同話していると、ハーラルトが
「それはお前だけがボールを奪った時なのか?」
と、続けてキャプテンのオルモスが
「要するに高い位置でボールを奪えばいいんじゃねーのか?」
と提案する。龍永は
「サイドとかラインを背負った時もやりやすいんだけど、中央だとあんま上手くいかねーんだよ。」
と相談すると、ボランチのズダンが
「だったら俺らのディフェンスラインをラインだと思えばいいんじゃねーのか?ウチのディフェンスラインは丁度横並びだぞ。繋ぐのは俺がやるからやってみろよ。」
と提案すると龍永はハッとした
「・・・そうか。その手があった!」
と何かに閃いた様子。メッツ監督が
「後半、ハーラルトは必要に応じて開くか、中央にスペースを作ってくれ。今日の龍永にみんな協力してやってくれねーか?もし龍永が大神ゾーンを開眼出来たらお前ら全員にもその可能性があるはずだと思うんだ。」
一同
「言うまでもないっすよ。龍永。もっと俺らを頼れよ。お前の1人で背負い込むクセはお前の悪いところだぞ。後半は後ろの奴らを信じてやってみろ。」
と賛同する。後半は龍永のフォロー役に左サイドバックにシャティールを投入。必要に応じて龍永の代わりに左ウィングへ入り空いたスペースで仕掛ける。中盤にも守備に定評のあるボランチのベルナルドを置き、ラインを強固にする。ズダンにはパサーとして上がって貰うためである。
後半ソシエドボールでキックオフ。猛然とハイプレスにかかる龍永、ハーラルト、ジャマール、オルモス。これを交わす北爪がサイドを走るゲドスにロングフィード。受け取るゲドスにシャティールが付く。一対一の状況からゲドスがフォローに入ったドリエンテスに預けるも、代わって入ったベルナルドがカット。その瞬間、龍永に大神ゾーンの感覚が脳裏を走る。
(そうか!俺が奪わなくてもいいんだ。仲間がボール奪った時から大神ゾーンなんだな。)
と思い中央のスペースに走る。空いた左サイドにオルモスが走り、ベルナルド、ズダンを経由してボールが渡る。オルモスは中央へ身体を傾け突破すると見せかけ、追い越したシャティールにパス。シャティールはすかさずゴール前へグラウンダーの早いセンタリングを入れる。ハーラルトがDFを釣って空いたスペースに龍永が走る。
(このボール、入る!)
と左脚を一閃。北爪が脚を投げ出しブロックするが追いつかない。そのままネットを揺らし2-0とする。龍永は
(何なんだ?今の感覚。サイドに張ってた時と同じやりやすさじゃねーか!)
このゴール、一見龍永のいつものシュートに見えるが、この時のバルセロスの陣形が絶妙だった。シャティールがボールを奪い、ベルナルドに繋いだ時、ベルナルドが左サイドバックの位置におり、強固で綺麗なラインディフェンスを形成していた。クバルシュやヘスキー、コンテイソンと共に強固なディフェンスラインがそのまま龍永の背負っていた背後のラインとなり、後ろの心配が完全に無くなっていた。龍永達はそのラインと一緒に前へ押し上げるだけだった。その為にティキタカがことごとく推進力を増し、龍永にスペースをいくつも作っていた。オフ・ザ・ボールにパスに加わらなかった逆サイドのコンテイソンやジャマールがポジションチェンジをして逆サイドを攪乱していた。ズダンはそれを確認しオルモスとシャティールがいる左サイドを選択した。全ては龍永やハーラルトに「大神ゾーン」を作り出すため。龍永がボールを持った瞬間も選択肢はいくつもあった。だが龍永は迷わずシュートを撃った。
「弾かれても後ろの誰かが追い越してプッシュするだろう。」
と。龍永の大神ゾーンは、父、敬助のとは明らかに違うが、1つだけ共通点があった
「チームメイトを信頼すること」
である。それに気付いた龍永はこの試合、ハットトリックを決める。
後半23分、ジャマールの切り込みから中央の龍永へパス。このボールを龍永はハーラルトへ流す。キーパーが飛び出し交錯するも、それを拾ったガビルが再び龍永へパス。この時龍永にはどうシュートを撃つか、どのコースに蹴るかはっきり解っており、そこに簡単にボールを放り込むだけで良かった。
更に後半30分。龍永が落としたボールを交代出場のシメオニがシュート。北爪がヘッドでクリアするが、ここにも代わって入ったキエリーザがヘッドで龍永に戻す。この時も龍永は手に取るようにゴールへの道筋が解っており、簡単にインサイドキックで流し込みハットトリックを決める。ここで龍永はメンバーチェンジ。メッツ監督から
「今度は外から観察してみろ。」
という配慮だった。その後、ハーラルトと龍永と代わったフェルマンも決め6-0。終盤にオラルサバスに1点返されるが、ここで試合終了。バルセロスは圧倒的な力で国王杯を手にする。龍永にとってスペインでの初タイトルであると同時に、
「新大神ゾーン」
開眼した日となった。
試合後のロッカールームでハーラルトやフェルマンが
「すげーよ!あれ!ほんとにただボール蹴るだけでゴール入っちゃったよ!いちいちコース選ぶ必要もないくらいシュート撃てたよ。」
「監督!この新大神ゾーン、このチームに是非浸透させたい!」
龍永よりレベルの高いハーラルトやジャマール、フェルマンですら感激していた。メッツ監督は
「そうだな。だがその為には安定した強固なディフェンスラインの練習とハイプレス、今日ジャマール達が見せたオフ・ザ・ボールの動きをもっと成熟させるんだ。特に中盤。ハイプレスとディフェンスラインの安定性で全体が間延びする可能性があるからな。中盤の3人は特に走って貰うことになるぞ。」
と中盤の運動量について課題を述べた。今日の試合の影の殊勲はゴールを決めた龍永達ではなく、強固なラインを保ったDF陣でもなく、繋ぎに走ったズダンやガビル、オルモス達3人の走りが効いていた結果でもあった。
新大神ゾーンを開眼し、確かな手応えを感じた龍永はこの後、ワールドカップ最終予選、アウェーのサウジアラビア戦と中国戦に臨むのであった。
今回は「開眼」しただけで、「完成」はしていません。龍永が成長するにつれて完成していきます




