第40話 ベルサイユの監獄
龍永が自分を見失った後、再起します。
前試合セルチェック戦の反省を踏まえたバルセロスイレブンは、チャンピオンズリーグ第3戦パリ・サンジェルミ戦に臨む。この試合からCFのハーラルトが復帰。龍永は再び左ウィングにポジションを戻した。
試合前にメッツ監督から
「セルチェック戦のような試合展開ならこのチャンピオンズリーグで通用しないからな!俺達のサッカーはあくまでティキタカ。それも過去の物を凌駕するパス回しだ!それを忘れるな!」
といって選手を送り出した。
パリボールでキックオフ。セルチェックとは違い攻撃的なシャンパンサッカー。中盤のビティーニョ、ドゥア、ネビルから前線のデンベロ、バルコリ、クヴァルツァーにボールが配球される。だが、今日のバルセロスDF陣は守備が固かった。ヘスキー、クバルシュ、左に入ったファン・ボムメルがことごとく弾き返すが、パリイレブンはバルセロスペナルティーエリアからボールを出さないようボランチのビティーニョやオーバーラップしてきたマルキーニョやベラードがブロックしてエリア内へ戻す。これはワールドカップ準決勝対フランス戦を彷彿とさせる戦術であった。龍永は
(監獄サッカーかよ?なら受けてたつぞ?)
と考えながら、バルセロスDF陣に
「サイドに散らせ!中央は壁に阻まれるぞ!」
と指示を飛ばす。クバルシュやヘスキーはタッチライン際へボールを捌き出す。
一進一退のまま迎えた前半22分、左サイドバックに入ったファン・ボムメルからそのまま左のオルモス、龍永と経由して中央のハーラルトへグラウンダーのダイレクトパス。ハーラルトのシュートはハシミのスライディングでブロックされるが、こぼれ球をガビルがシュート。先制に成功する。このゴールを見て龍永は
(そうだ。俺が溜めなくてもそのままシュートすりゃ良かったんだ。)
と目が覚めた様子。このまま前半が終了する。
ハーフタイムのロッカールームで選手同士で話し合った。テュランが
「あいつら日本の真田丸使ってくるぞ。無理に中央で繋ごうとしたら龍永の言うとおり餌食になる。」
まだ若手のクバルシュも
「まるでベルサイユの監獄に閉じ込められた気分だった。鍵を見つけるにはサイドしかねーのか?」
ここでメッツ監督が
「ボランチのズダンは状況に応じて下がってDFラインに入れ。オルモスとガビルで繋ぐんだ。サイドバックのレダンドとファン・ボムメルは状況に応じて中に入れ。サイドはジャマール、龍永で何とかしろ。お前らなら1人でも出来るだろ?」
ジャマールは即座に首を縦に振るが、龍永は
(そうか。俺を試そうってんだな。やってやるよ。)
と遅れて頷いた。何か考えている様だった。
後半はバルセロスボールからキックオフ。ボールはガビルに預け、ここからティキタカがスタート。オーバーラップしたレダンド、ガビルに戻し、逆サイドの龍永にパスが来る。龍永は一旦止め、ドリブルを仕掛ける。セルチェック戦同様いくつもの選択肢が見えた。対面のハシミ、戻ってきたビティーニョを交わすとキーパー、シュバリアを睨み付け強引にシュートに持って行く。ボールはシュバリアの手を吹き飛ばしゴールに突き刺さる。以前の感覚が戻っていた。龍永は
(そーなんだよ。サイドでライン背負ってるから出来るんだよ。中央にいるとき使うにはまだ早いんだよな。)
とあまり手応えを感じておらず、いつも通り
「あと3点」
と呟きながら、パリDF陣を睨んでいた。メッツ監督は無表情のまま龍永を見ている。まだ試されているようだ。パリはその一言で息を吹き返す。
後半パリは再びバルセロスゴール前にボールを押し込んでいく。抜け出したデンベロのボールをキーパー、スタルコビッチが飛び出しセービングすると、今度はクヴァルツァーが押し込もうとする。ゴールライン付近でクバルシュが何とかスライディングで搔きだし、ヘスキーがキープした瞬間、バルコリが奪い、そのままシュート。これを今度はズダンがブロック。下がっていたガビルがキープした時龍永かしら
「サイドに大きく出せ!」
と指示が飛ぶ。ペナルティエリア横にいたレダンドから大きく逆サイドの龍永へロングパスが送られる。急いで戻るパリイレブンだったが、このパスを途中でオルモスがヘディングで右に張っていたジャマールへ方向転換。そのジャマールからダイレクトでハーラルトを飛び越し龍永へ高いセンタリングが来た。このボールをマルキーニョと競る龍永だったが、龍永はマルキーニョから消えるように走り去りいなくなって、龍永と入れ替わる形でハーラルトが突如現れヘディングシュート。これが豪快に突き刺さりバルセロスが追加点を奪う。龍永とハーラルトが喜んでいると、メッツ監督が
(それだよ。龍永。お前のサッカー思い出したか?)
と安堵の表情を浮かべる。
ここでメンバー交代。怪我明けのハーラルトが下がり、龍永がCFに入る。自分のプレーに返った龍永をもう一度中央で試すつもりだ。
再びパリの監獄サッカーが続き1点返される。だが、バルセロスはお構い無しに得意のティキタカで再びパリゴール前までボールを運ぶ。右サイドのジャマールが中へ切れ込みシュートするも、マルキーニョがブロック。そのボールを繋ごうとするマルキーニョに龍永がハイプレスをかけ、強引に奪った。ここで再び龍永の脳裏にいくつもの選択肢が閃いた。龍永は、奪い返そうとするマルキーニョの脇付近を狙ってシュート。キーパー、シュバリアがパンチングで弾くも、代わって入ったフェルマン・ロペスがダイビングヘッドで詰める。だが、このシュートをベラードがライン際でクリア。そのボールをボランチのズダンがダイレクトで再びパリゴール前へ転がすが、ボールが長く追い付けない。マルキーニョがトラップしたと同時に再び龍永が襲いかかる。マルキーニョからサイドのハシミへのパスを龍永がカット。そこで再び龍永の脳裏に変化が起きる。龍永は時間をかけずにオーバーラップしたヘスキーに気付き斜めにパス。豪快なシュートがパリゴールに突き刺さった。龍永はしばらく茫然としていた。
(そうか。俺がボールを持ってる時じゃない。相手からボールを奪った所がスタートなんだ。今までもそうだったじゃねーか。だからメッツ監督は俺をこの位置に戻したんだ。)
どうやら手応えを感じた龍永にメッツ監督は
「それだ!それでいいんだ!今のはナイスプレーだったぞ龍永!」
と笑顔で親指を立てた。
残り時間は後10分もない。それに気付いた龍永は、パリのリスタートから果敢にハイプレスを仕掛けていく。パリのディフェンスラインが崩れていく中、遂にパリがパワープレーを敢行。中盤を飛ばしロングボールをバルセロスゴール前へ放り込む。そして、サイドバックまでゴール前まで詰めより、狭いゾーンからボールもバルセロスDF陣も閉じ込める。相手はまさに「あと3点」奪いに来る覚悟でシュートを撃ちまくり、キーパー、スタルコビッチを中心によく耐える。
アディショナルタイムを入れて残り10分。パリのコーナーキックから、ファーサイドのデンベロがボレーシュート。これをレダンドが身体を張ってダイビング。こぼれたボールを交代出場のマルケディーニが拾う。その時センターサークル内にいた龍永が
「こっちよこせ!」
とでかい声を張り上げる。マルケディーニはすかさず龍永へロングパス。ディフェンスラインを上げていたパリイレブンは必死に下がるが、龍永はこの高いボールをダイレクトで左に流す。そこにはオーバーラップしたファン・ボムメルが走り込み、龍永はゴール前へ快速を飛ばす。ファン・ボムメルが大きなトラップパスを龍永へリターン。オフサイドはない。マルキーニョとベラードが龍永のシャツを掴みながり仰け反らせると、龍永は相手キーパーの前に力のないインサイドキックを出す。難なくキャッチしようとしたキーパー、シュバリアだったが、そのボールはペナルティエリア手前で勢いが止まる。龍永は、味方が後ろから追い越して来るのがわかっていたから力のないボールを出したのだった。このボールをキーパーのすんでで拾ったフェルマン・ロペスがシュート。これが突き刺さった直後にタイムアップ。4-1でバルセロスがチャンピオンズリーグ三連勝を飾った。
試合後に龍永は確かな手応えを感じていた。ロッカールームに引き上げ、龍永はメッツ監督から
「俺達のティキタカもお前の大神ゾーンも、仲間がいるから出来るんだ。そう思わねーか?さっきの点はお前が仲間の上がりを信じたから生まれたんだろ?」
「お前の大神ゾーンは、まずお前の今までやってきたプレーをきちんとやった先にあると思うぞ。それは忘れるなよ。」
「今までを決して振り返るな。常に前を見るんだ。それは龍永だけじゃなく全員同じだ。今の自分を、今のチームプレーを持って、それにプラスして強くなるんだ。その為にお前らを集めた。次の国王杯でそれを証明してみろ。」
と締めくくった。
帰りのバスの中、龍永は頭の中で大神ゾーンを再構築していた。自分がボールを持った時ではなく、自分や仲間がボールを奪った時にスタートするプレーを脳裏に思い描いていた。
父の大神ゾーンは自らの自信から生まれるものですが、龍永の大神ゾーンはそれだけでは足りないという話です。キーパーとフィールドプレーヤーは勝手が違うからです。




