第39話 緑のハイランダー
龍永が敬助の大神ゾーンを身につけ始めた試合となります
チャンピオンズリーグ第2戦セルチェック戦が始まるが、エースのハーラルトはこの試合も欠場が決まり、龍永が引き続きCFを務める事になった。セルチェックには日本人選手が4人在籍している。五輪で共に戦ったウィングの益山、長身右サイドバックの栗原ヘンリー、FWの小森、長くスペインの下部リーグに所属していた村井がいる。龍永にとっては特別な思いもなく、むしろ新しく考えた大神ゾーンの相手であった。
バルセロスボールで試合が始まる。開始と同時にバルセロスイレブンがセルチェックを見て
(ちっ!引いてやがる。)
と思いながら後方でパスを回すも、出鼻をくじかれた。FWの小森がカットし、ワンタッチでウィングの益山へパスが通る。GKスタルコビッチが飛び出すが、ループシュートで開始早々1失点を食らう。ベンチでメッツ監督が
「お前ら!何やってんだ!集中しろ!これはチャンピオンズリーグだぞ!」
その時バルセロスイレブンがハッとした。龍永も完全に舐めていた。相手は自分のトラップパスを習得した連中が4人もいたのだ。龍永の特徴も代表の練習で十分解っていた。これでこの試合の龍永の課題ははっきりした。
「分析された相手をどう崩すか」
切り替えて再びバルセロスボールで試合再開。今度はボランチのズダンに一旦預けて龍永が再びボールを貰うと、既に両ウィングのジャマールとシメオニが中央へ走っており、両サイドバックのレダンドとクライファーツも上がっていた。龍永は両サイドバックを囮にダイレクトで中央のジャマールへロングパスを送る。トラップしたジャマールが3人交わすが、キーパーに阻まれコーナーキックとなる。
キッカーはオルモス。龍永は本来ファーサイドにいることが多いが今回はCFとしてゴール前に構える。相手DFが龍永の邪魔をし、その中に長身の栗原ヘンリーもいる。オルモスが狙ったのはニアサイド、シメオニに預けてリターンを受けたオルモスがその位置からティキタカを発動させる。オルモスからオーバーラップしたクバルシュ、逆サイドのジャマールを経由し、中にいた龍永がダイレクトで落とし、オーバーラップした出場停止明けのヘスキーがシュート。これが決まり前半15分同点とする。
前半は相手キーパー、シュマイカーの好セーブに遭い、1-1の同点で終了する。だが、相手のセルチェックはここからが恐ろしかった。
後半開始早々から突然戦い方を変え、積極的にボールを奪いに来た。まるで海外デビュー時の龍永のような形相でボールに食らいつくセルチェックイレブン。緑のハイランダーが次々と襲いかかってくる。益山がふと
「あと3点」
と龍永に聞こえるように言い放った。その益山のゴールで1-2と追加点を許してしまう。キャプテンのオルモスが
「飲まれるな!次行くぞ。龍永。アレやってみろ。」
と話す。アレとはもちろん新大神ゾーンである。
バルセロスボールで試合再開。再び緑のハイランダー達が
「あと3点!」
と吠えながら向かってくる。だが、CBのヘスキーがカットし前線へダイレクトで送る。ヘスキーが
「何言ってんだ?オメーら。俺達があと3点取るんだよ!」
と吠え返した。最後尾のヘスキーから発動したティキタカはインサイドキックで小気味よく繋がり、左サイドのシメオニが切ってドリブルで仕掛ける。長身の栗原ヘンリーが寄せるが、シメオニの切り込みは囮であり、ペナルティーエリア前で構えていた龍永へ渡る。ここで龍永の頭の中にいくつもの選択肢が生まれた。本来ならそのままシュートかポストで流すのが龍永だったが、龍永が選んだのはキックフェイントを入れたスルー。真横に上がってきたガビルがシュート。2-2の同点に追いつく。龍永がボールを拾い
「おい、早くしろ。3点目を決められねーだろ?」
と聞こえるように話す。ここはセルチェックのホームグラスゴー。世界有数の荒っぽさを持つセルチェック背ポーターは大激怒。
「こいつら生かして返すな!」
とセルチェックイレブンを煽る。龍永は
(そうだ。これがチャンピオンズリーグだ。)
と肝に命じた。
残り30分でバルセロスはメンバー交代。テュラン、キエリーザ、シャティールが入る。シャティールが
「どーした?龍永。今日は元気ねーな。」
と発破をかけると
「これからやるんだよ。シャティール。俺がボール持ったらテュランと一緒に俺を追い抜け。」
と話す。セルチェックのスローインからのボールを左のクライファーツが奪取。村井が奪いに来るが、ボランチのズダンとのワンツーで交わし低い位置からCFの龍永にフィードを送る。その龍永の真横をテュランとシャティールが龍永を追い抜きペナルティーエリアへ侵入すると同時に龍永がダイレクトシュート。キーパー、シュマイカーが弾くが、走り込んでいたシャティールが詰め、3-2の逆転に成功する。
ここで再びメンバーチェンジ。フェルマン・ロペスが入り、交代したシメオニの所にテュランが入る。今度は代わって入ったばかりのフェルマン・ロペスがテュランとのワンツーでゴール前へ切り込む。栗原と村井がタックルに来るがお構いなしにシュート。ブロックされたボールは龍永の後ろを通過しようとするが、龍永の後ろへ伸ばしたヒールトラップで強引にマイボールにすると、飛び出したキーパーと1対1の状況になる。パスをする余裕のない龍永はループシュートを放ったと同時にキーパーの頭上をジャンプで越える。そのままボールはセルチェックゴールに突き刺さる。倒れた龍永を心配してメッツ監督は龍永をベンチへ下げた。
ベンチに引き上げた龍永にメッツ監督が
「おい。お前最近積極性が薄れてきてるぞ!いつものアグレッシブさは何処に行った?今日のお前はCFだったんだぞ!お前がボランチみてーな動きしてどーすんだ!」
と雷を落とされた。確かにそうだった。最近の龍永は強引に自らゴールを奪うのではなく、味方にゴールを取らせるプレーが目立っていた。龍永の思い描く新大神ゾーンは父、敬助のそれとは明らかに違う。敬助の大神ゾーンはGKの為ゴールを背にした180°の動きだが、フィールドプレーヤーの龍永にとっては360°の動きであり、意識し過ぎると今日のようなボランチやトップ下のプレーに変わってしまっていたのである。メッツ監督が怒るのも無理はないだろう。龍永は久しぶりに自分のプレーに反省した。
(これがもしワールドカップ決勝だったら・・・)
と思いながら、ピッチに残された仲間のプレーを観ながらじっくり考えていた。
(新大神ゾーンに捕らわれすぎていたのかもしれねー。それ以上に自分の特徴を活かさないとダメなんだ。次はハーラルトも戻ってくる。このままじゃ行けねーんだ!)
と気を引き締めていた。
試合はこの後追加点を奪い5-2で勝利。ホームのセルチェックサポーターは暴徒と化していた。バルセロスイレブンはさっさと引き上げて行った。龍永は
(ウチのサポーターも似たよーなもんだからなあ。今日みたいなプレーやってたら確実に敵に回すだろーな。)
と思いながら帰って行った。
ロッカールームでメッツ監督はキレていた。勝敗の問題ではなく、内容の問題だった。今日の試合は相手が引いていたこともあり、得意のティキタカが全くといっていいほど出来ていなかった。龍永だけでなく全員にキレていた。
この後休む間もなく次戦のパリ・サンジェルミ戦、リーグ戦と国王杯、そして、龍永にとって初めてのワールドカップアジア最終予選が控えている。龍永にとって新大神ゾーンの完成を前に根底から自分のサッカーを考え直させる一戦となった。
龍永が初めてメッツ監督に怒られます。監督は父を超える選手になってほしいと思っているわけではなく、父の存在を忘れさせる選手になってほしいとジュニア達を補強し、先頭に立っていた龍永だからこそ怒っていたわけです。大物ルーキーもつまずくことがあると思い書いてみました。




