第36話 Doble Revolver カタルーニャのガンマン達
ワールドカップアジア予選を初めて戦った龍永。その後に行われたチャンピオンズリーグの試合でバルセロスでどう戦うのか・・・
チャンピオンズリーグ初戦ワンチェスター・シティ戦。この試合は王様メッツ監督と、彼を育てた名将グアルディオル監督との師弟対決であり、現在バルセロスに移籍してきたハーラルトの古巣との対決でもあり、エル・クラシコ同様緊迫したカードである。
実はメッツ監督の戦術は、この恩師グアルディオルの戦術をモデルにし、メッツ流にアレンジしているものであった。偽サイドバックはレダンドやクライファーツ、或いはウィングのジャマールや龍永が行っており、偽9番は前所属のハーラルトがこなしている。ポジショナルプレーに至っては、グアルディオル監督よりも大胆に流動していた。だが、この試合前はバルセロスにとって痛手があった。CBのクバルシュが負傷。更にもう一人のCBヘスキーが前節のリーグ戦、マズルカ戦で1発レッドカードで退場。チャンピオンズリーグも含めて3試合出場停止を言い渡された。
戦術上ボランチで核のズダンはいじれない。一人は昨季からの残留組、本来右サイドバックのエンリケ・ガルシアが務めるが、もう一人のCBをどうするか。ここで名乗り出たのが本来左サイド全般ならどこでもこなせるオランダのファン・ボムメルであった。彼はこのバルセロスに入団してからは、イタリアリーグ往年のエースキラー、旧ユーゴ代表ミハイロビッツを意識し、自ら志願したのだ。彼もまた、左サイドの選手だったが、それに影響してCBをやりたいと申し出ていた。確かに恵まれた体格とウィング仕込みのスピードがある。メッツ監督は練習で試すと、ヘスキーのようなボール奪取能力に加え、ビルドアップが出来る事に気付いた。何日か試し、更に次節のラコルーニョ戦で機能していたのを確認し、エンリケ・ガルシアと組ませようと結論付いた。
そして、チャンピオンズリーグ初戦のメンバー
1番GKスタンコビッチ(セルビア)23番DFファン・ボムメル(オランダ)2番エンリケ・ガルシア(スペイン)右SB19番レダンド(アルゼンチン)左SB12番クライファーツ(オランダ)4番DHズダン(フランス)8番CHペドリーニョ(スペイン)6番ガビン(スペイン)SW10番ジャマール(スペイン)11番オルモス(スペイン)9番CFハーラルト(ノルウェー)
控え13番GKホアン・ガルシア(スペイン)3番バルデス(スペイン)16番フェルマン(スペイン)29番マルケディーニ(イタリア)14番シメオニ(アルゼンチン)26番MFファン・ペルツ(オランダ)15番テュラン(フランス)24番コンテイソン(ポルトガル)25番ハジム(ルーマニア)21番FW出浦(日本)20番キエリーザ(イタリア)
この試合、龍永はベンチスタート。先のワールドカップ予選の疲労を取るため、しばらく途中出場からの起用と言い渡されていた。同じくベンチに下がったテュランと共に隠し球として投入ということであった。
相手のワンチェスター・シティも各国代表がずらりと並ぶ。キーパーのドナルマ(イタリア)、CBに龍永の宿敵グバルディオラ(クロアチア)、ボランチにロドル(スペイン)、攻撃にシェイク(フランス)、ドッグ(ベルギー)、ハーラルトが抜けたCFにはブラジルのサビオが入る。
試合前、メッツ監督からある指示があった。
「マンマークにつくな。釣られるぞ。」
それはバルセロスイレブンが十分わかっていた。自分達とほとんど同じ戦術だからである。練習でDF陣は特に身に染みていた。かといってゴール前にブロックは作らない。人に付くよりスペースを潰そうと確認しあっていた。キャプテン、オルモスが
「練習通り、全員ボランチになったつもりで相手の使いたいスペースを潰すんだ。基本はゾーンでやるぞ。ボール奪ったら逆サイド意識しよう。向こうさんはとっくにこっちのやり方理解してるぞ。裏の裏をかくんだ。ドリブルで行ける奴らはそのまま仕掛けても構わねーからな。」
ワンCボールでキックオフ。ワンCは早くからグアルディオル直伝のポゼッションサッカーを展開。まるで鏡でも見ているかのようなワンCイレブンの動き。だが、バルセロスイレブンはことごとくスペースを消しており、ワンCはバックパスで様子を伺う。かと言ってバルセロス側も引いて守っている訳ではない。じわじわとワンCイレブンを後退させている。しかし、それが仇となった。
前半20分、ワンCはじわじわと上がっていくバルセロスのディフェンスラインの背後を突くような縦パスをゴール前に通す。下がりながら守るエンリケ・ガルシアとファン・ボムメル。その2人の間にCFのサビオがバックヘッドで更に背後のスペースへ流す。GKスタルコビッチは出られない。そのバックヘッドをウィングのドッグに拾われ先制点を献上してしまう。
更に前半26分、ボランチのロドルが同じように今度はファン・ボムメルと左サイド、クライファーツの間に縦パス。ここに走り込んだのはヘスキーの兄、ジョーダン・ヘスキー。エンリケ・ガルシアのフォローも間に合わず、0-2と点差が開く。だが、ここで龍永がベンチから檄を飛ばす。
「前半はこの点差で耐え凌げ!後は俺達が何とかする!」
そう。龍永の最も得意な点差である。「あと3点」が取りやすい点差だ。バルセロスは一旦ゴール前でブロックを作り、前半を0-2で終える。
ロッカールームに引き上げるバルセロスイレブンだったが、焦りはなかった。何故ならメッツ監督はこの前半をじっくり「観察」していたからである。そして交代として、左サイドバックにバルデス、そして左ウィングに連戦で疲れのあるガビンに替え龍永を投入。オルモスはセンターハーフにずれる。実はこの試合のキーマンはキャプテンを務めるオルモスであった。決して龍永より劣るウィングではないオルモスだが、前半は中盤に置くより前でスタミナを温存させつつ、戦況を前線から観察させていた。ベンチではなく、ピッチ内で観察させる事により、後半の流れを呼び戻す効果に賭けていた。ベンチには3点取れる龍永がいるのだから。オルモスのミッションは
「後半、龍永やジャマール、ハーラルトに繋ぐパスを送る事」
である。
そして後半2人同時投入のバルセロスに対し、ワンCもジョーダン・ヘスキーとオレイリーを下げ、攻撃的なセメント(ガーナ)とラインダースを投入。一気に3点目を取ろうとしていた。
後半立ち上がり、代わって入ったラインダースの縦パスをフォーダンが決めて0-3にされてしまうが、オルモスが
「大丈夫だ!まだまだ行ける!すぐ1点返すからボール持ってこい!」
と活を入れる。その間にボランチのズダンが
「エンリケ!ルベンス!攻撃に移ったら2人同時に俺より前に出ろ!」
と指示を出す。
そんな中プレー再開。一旦ズダンに戻すハーラルト。その時ズダンに
「一斉に上がれ!」
と指示が飛ぶ。左サイドバックのバルデスに預け、ドリブルしながら1つのパスコールを見つける。バルデスが左センターライン手前から右サイドのコーナー付近のスペースを突こうとするジャマールにインサイドキックでロングパス。通常ならこのようなグラウンダーのパスなどカットされるのだが、ここで身体を張ったのが前へ出たエンリケ・ガルシアとファン・ボムメル、そしてオルモスだった。3人一斉に相手のカットするのを身体を張って邪魔をした。この早いグラウンダーのパスがジャマールへ届くと思いきや、ジャマールはいない。受け取ったのは右サイドバックのレダンドだった。レダンドがコーナーフラッグ付近で追いつきダイレクトでゴール前へ再びグラウンダーの早いパス。このボールをハーラルトが決めて1点を返す。左センターラインから右コーナーフラッグ、そしてゴール前への大三角形の綺麗なパスだった。
ワンCのキックオフ。ズダンの指示により前に出たエンリケ・ガルシアとファン・ボムメル。前半は後退しながらプレーしていた2人が前に出て生き生きとしだす。この光景に龍永は
(メッツ監督さんよお、まさか「アレ」をこの試合でやろーってのか?)
と思う。その答えが次の2点目に繋がる。両サイドバック、レダンドとバルデスが気付かないように中に絞り出す。後ろに下がったズダンがCBにいる。エンリケ・ガルシアとファン・ボムメルが押し上げるような感じでペドリーニョとオルモスがサイドに開く。右に開いたペドリーニョから今度は左ウィングの龍永へグラウンダーの早いパスが通る。先程のパスと同じ形でエンリケ・ガルシアとファン・ボムメル、更にジャマールとオルモスが相手のカットをバレないように妨害し、パスが通った。だが今度は中に切れ込んでいた龍永が直接ワントラップしてシュート。ボールは相手キーパー、ドナルマが反応し弾かれるが、このボールをファン・ボムメルが拾い、何と相手ペナルティーエリア前でティキタカ発動。今度は小さく細かい三角形がワンCゴール前にいくつも形成され、ワンタッチで翻弄されていく。今度はジャマールが決め1点差へと詰め寄る。ボールを拾いに行った龍永はニコニコしながら
「あと3点」
と呟きながらボールを置く。龍永が思った「アレ」とは、ワールドカップ決勝、当時メッツがいたアルゼンチン相手に見せた「真田丸」である。ズダンがあの時の武藤の役割をしたのだが、今回は違う。2枚のDFが「壁」ではなく、「堀」を形成した。エンリケ・ガルシアとファン・ボムメルが落ちたら出られない「行き止まり」を作ったのだ。
更に後半20分、バルセロスは更に2枚同時投入。ペドリーニョとエンリケ・ガルシアに代わり、シメオニとハジムを投入。レダンドが中央に入り、シメオニは右センターハーフ、ハジムは右サイドバックに入る。すると流れがバルセロスに傾き出す。この2人は「ドリブル大好き人間」である。ジャマールを含めたドリブル好きを右サイドに固めた。バルデスが左からディフェンスラインを操り、オフサイドを取る。そして、右サイド3人だけのティキタカが始まる。トリッキーな3人に翻弄され、ワンCは段々右サイドに集まってくる。当然左の龍永や中央のハーラルトのケアは怠っていないのだが・・・
後半36分。その右サイドで貯めに貯めた3人の中の1人、ハジムが突然グラウンダーのセンタリング。ハーラルトにはマークが2人付いているが、お構いなしにシュートと思いきや、相手DFにブロックされそうになり、後方のファン・ボムメルに落とすとワンタッチでゴール前に走り込んだ龍永にパス。ここにクロアチアのCBグバルディオラが付いているが、これまたワンタッチでオルモスにパス。再び小さな三角形を作られたワンCはオルモスのシュートに反応出来ず同点となる。またもオーバーラップしたファン・ボムメルの「堀」にしてやられた。日本代表の身体を張った「壁」のブロックより、下の「落とし穴」を使われたグアルディオル監督も頭を抱える。
その後は一進一退のままタイムアップかと思いきや、一人龍永は満足していない。アディショナルタイムは4分。ここでハーラルトに代えてテュランを投入。龍永はバルセロスに来て初めてCFを任された。メッツ監督が
「お前なら1分ありゃ3点決められるだろ?」
とワンCイレブンとグアルディオル監督を挑発する。だが、メッツ監督と龍永はマジである。バルデスのロングスローを龍永が受ける。オルモスがワンタッチで大きくリターンをゴール前へ送ると龍永がペナルティエリア外から加速をつけてシュート。相手キーパードナルマは1歩も動けず逆転。残りは3分30秒。
ワンCのキックオフ直後、相手ボランチのロドルから強引にボールを奪った龍永。もの凄いスピードで上がってきたファンボムメルと交代で入ったテュランが繋いであっという間にゴール前に届いた龍永。DF3人、グバルディオル、フラノフ、ディアスが襲いかかるが、この局面で後方から上がってきたズダンに下げ、3人のDFの間を消えるように去って行く龍永にグラウンダーのパス。これを決めて5-3。残り時間は後2分10秒。
我を失ったワンCイレブンはこの極東の忍者にまたもや翻弄される。ジャマール、ハジム、シメオニのトリオが再び右サイドで遊び出す。今度はジャマールが流れを止めシュート。長身のグバルディオルがヘッドで上へクリアするが、そのまた上で龍永が待ち構えていた。このクリアボールを首を捻って逆サイドのゴールに叩き落とす。なんと龍永はCFに位置して僅か3分でハットトリックを決めてしまった。
そして試合終了。何と後半6点、龍永はアディショナルタイムにハットトリックと6-3で勝利を収めた。メッツ監督の元へ一直線に走る龍永。
「監督!日本の戦術パクリましたよね?もっと早く言ってもらえればアドバイスしたのに!」
と笑いながら抱きつく龍永。メッツ監督は
「お前ら日本との戦いで思い知らされたんだよ。武士道ってやつにな!敵を欺くには先ず味方から。だろ?」
この戦術を密かに支持されていたのはズダンとオルモスだけだった。ズダンは
「正直今でも心臓バクバクしてるよ!お前ら日本のキャプテンってタフだったんだな。」
オルモスも
「ほんとぶっつけ本番で監督からやれって言われてよ。DFに慣れてないルベンスやハジムのフォローでくたくただよ。」
龍永が
「俺達日本代表も大会中の1週間くらいでやったんすよ。ちゃんと練習すれば全然使えますよ!」
と満足げだった。ファン・ボムメルやハジムも
「もっと練習して精度上げねーと。俺らディフェンスまだまだだったからな。」
と反省する。
そんなバルセロスイレブンに名将グアルディオル監督が歩み寄る。
「ライオネル。これがお前の集めたオオカミフットボールなんだな。Doble Revolver (カタルーニャのガンマン達)にきっちり6発してやられたよ。」
2人の監督は固い握手とハグをして師弟対決は締めくくられた。まさにリボルバーの弾丸が6発撃ち込まれた激戦だった。だが、バルセロスも3発お見舞いされている。DF陣は特に「もっと練習しないと!」と気が引き締まった戦いであった。
前チーム、フベントルスでは細かく書き切れず、五輪優先で1試合しか書けなかったので、じっくり書いてみました。今後もワールドカップ予選、リーグ戦とバルセロスのティキタカのように三角形で書いてみます。




