第35話 アジアに構えるディフェンディングチャンピオン
前回龍永が不参加だったワールドカップアジア予選の話になります
「龍永。お前顔つき明るくなったなあ。いい顔してるよ。」
羽生コーチは今回招集した龍永を見て話していた。
ワールドカップ2次予選。相手は初戦のインド戦、2戦目のモンゴル戦、3戦目の北朝鮮戦をホーム&アウェー方式で戦う。前回優勝の日本と言えど、予選から戦わなくてはならない。
太田監督は、代表引退したベテラン、武藤、水野、五十嵐、立石、影山、森崎の穴を埋めるべく、前回大会で落選した選手、太田監督が率いたベルサイユ、パサディナ両五輪から選手を補充した。また、ワールドカップ優勝メンバーの年齢も考慮して若返りを図ろうと招集した。新キャプテンには越後や阪倉が選ばれるだろうと予想されていたが、敢えてベルサイユ五輪世代の工藤と佐藤が交代で務めることになった。基本は工藤だが、交代で下がったときは佐藤が務めるよう任命した。
新キャプテンの工藤が最初のミーティングで話す
「相手が何処だろーが絶対手を抜くな!アジア予選は何処が相手でも完膚なきまで叩き潰すぞ!」
この発言は決して相手を舐めている訳ではなく、王者になったからこそこのような姿勢が大事だということを工藤は伝えた。相手は絶対ゴール前でブロックを作り、守りを固めてくるだろう。龍永達五輪組不在のアジア杯でもそれでやられた。気を引き締めていこうという事だ。
検見川の練習場でキャプテン工藤、ベテランになった越後、阪倉のでかい声が響くが、それ以上に龍永や椎原、下川、斎藤、阿部の五輪組がでかい声を張り上げ練習に臨む。工藤が
(そうそう!こういう若手を待ってたんだよ。)
と内心喜ぶ。この5人で龍永がバルセロスで身につけた正確なインサイドキックでのロンドをこなしていく。視察で来ていたアンダー世代担当の風間も混ざり、龍永のトラップパスを実演してみる。たった5日の練習で彼ら新生日本代表は、このトラップパスでのロンドに磨きをかけていた。
そして、相手のブロック崩しのディスカッションが熱を帯びて繰り広げられた。4日目にJ1リーグ2チームと練習試合をこなし、最終5日目に仕上げた。この新生日本代表はこのブロック崩しをどう破るか・・・
このアジア2次予選の初戦は若手主体で臨み、ベテラン達がジョーカーとなり、適度に途中出場する事が太田監督から発表された。今回もサイドバックに人材が少なく、3バックで行くらしいが、FW は2トップで臨むという。3-5-2のフォーメーションだ。工藤の世代を中心に先発メンバーを編成していく。
そしてホームで迎えた初戦のインド戦。スターティングメンバーは
1番GK佐藤、DF16番 下川、22番田中、25番結城、 ボランチ6番岡野海、8番前田、右に2番杉山、左に13番中西、トップ下11番工藤、2トップは9番椎原と21番龍永が起用された。
ホイッスルが吹かれるやいなや、工藤がインド陣内の空いたスペースへ中央からドリブル突破。漫画のようなプレーだが工藤はマジである。インドディフェンス陣3人が囲むもそれでも渡さない。十分引き付け後方の前田にパス。すると前田が大きく前線へフィード。このボールを椎原がインサイドキックでダイレクトシュート。ゴール右隅に綺麗に突き刺さる。練習で身につけたトラップパスが早くも生きた。前半3分先制点を上げる。
太田監督の意図は、五輪やバルセロスで魅せたあの攻撃である。実はパスに定評のある前田が起点となり、一旦キープ力のある工藤や中西にディフェンスを集中させ、前田経由で前線の5人にパスを送る作戦である。この作戦により、中西、龍永、工藤、そしてまた龍永と加点し前半を5-0で終える。
後半は龍永、椎原、工藤を開始から悠々と下げ、FW 斎藤、内田、トップ下に桑原を投入。その3人が次々とゴールを決め、更にサイドに三浦、越後のベテランが止めを刺す。終わってみれば10-0の大勝であった。
続いてアウェーのモンゴル戦。そのモンゴル代表監督には、龍永に馴染みの日本人が率いていた。河崎U15監督だった横山監督が、JFA 指導者育成プログラムでモンゴル代表監督に就任していた。横山も龍永の活躍に感化され、高みを目指して就任したそうだ。この日はインド戦から先発全員が入れ替わる。
23番GK西久保、DF 27番木口、4番阪倉、3番池田、ボランチに17番田嶋、15番青木、右に24番阿部、左に28番小林、トップ下に岡野航、2トップに20番斎藤、18番内田の布陣で臨む。
モンゴルはインドよりプレスが早いが、日本はインド戦と全く変わらない質で点を奪っていく。この試合は阿部や岡野航が溜め、青木を起点に阿部、内田、斎藤とゴールを奪い前半を3点リードする。だが、河崎や龍永のプレーを熟知している横山だからこそこの点差で済んでいた。ハーフタイムに
「くそ!まだ3点かよ!」
と日本イレブンは納得していないが、越後と阪倉を中心にまとめていく。後半開始からトップ下に桑原、DF に下川、2トップの1角に工藤を投入。あくまで若手主体で行く。すると、工藤が魅せる。右サイドに流れ、阿部とのコンビで崩していく。左に大きく流れた内田がくさびに入り、空いた真ん中のスペースにボランチ田嶋が飛び込みシュート。キーパーは一歩も動けず追加点を決めると、続けざまに背後から阪倉、青木とオーバーラップし、2点追加。後半30分から龍永と越後を投入。
後半アディショナルタイムにその龍永が池田からのロングフィードに合わせ、相手DF2人を競りながらヘディングシュート。8-0で勝利を収める。試合後横山監督に
「お前はもう別格だよ。メッツばりにな。」
と励まされた。
次はアウェーの北朝鮮だが、入国拒否の判断がされ、中立地マレーシアでの試合となった。阿部や下川から聞かされてたが、相手選手は試合前のタッチで拳を振り下ろし、水分補給の際にボトルを奪ってこれまた拳で殴ろうとするらしい。この日龍永はスタメンだったが、噂通り拳を振り下ろし、龍永の手を殴ろうとした。龍永は軽くその拳を握り、レフェリーにアピールしたが聞き入れない。
(そうか。ならオメーら全員2度とピッチに入られなくしてやんよ。)
と考えていた。試合前の円陣で阪倉が
「あいつら必ずファール関係なく削ってくるだろう。だが、そんなもんに負けんな!これまで通り点を取りまくるぞ!」
と発言したが、キャプテン工藤が
「いや、奴らにボール触らせませんよ。」
と言い放ち、更に龍永は
「いやいや、身体にも触れさせないようにしましょうよ。今こそトラップパスのティキタカ試すチャンスじゃないっすか?サンドバッグに丁度いい。」
と真顔で話す。日本イレブンが同意した。
先発は1番GK戸島、DF に下川、阪倉、田中、ボランチに岡野兄弟、右に越後、左に三浦、トップ下に青木、2トップは工藤と龍永が務める。龍永は
(さっきパンチしたの2番の奴だったな。)
と振り返る。
北朝鮮ボールからキックオフ。早々にキーパーに戻す北朝鮮に俊足の龍永が猛然と襲いかかる。ペナルティエリアを飛び出していた北朝鮮のキーパーは慌て、龍永にボールをあっさりとられ先制点献上。開始まだ12秒でのゴールだった。
再び北朝鮮ボールからキックオフ。龍永を恐れた北朝鮮はサイドに出すが、今度は越後がカット。そして新生日本のティキタカが発動。素早く細かいタッチのパスワーク。北朝鮮イレブンは振り回され、日本選手の脚やシャツを引っ張ろうとするも、それすら触れられない。何もかも振り回され、三浦、越後、青木、工藤、阪倉、岡野航と立て続けにゴールを決められる。ファールをしようもそれすら出来ない。レフェリーも身体に触れていない以上笛を吹けない。
そして前半アディショナルタイム。ティキタカが龍永のところで止まる。目の前にブロックを作った北朝鮮DF 。その中に、試合前に龍永に拳を振り下ろした2番の選手を発見。龍永はその2番の選手の右足を狙いシュート。その2番の選手は足を吹っ飛ばされ。まるごと砕かれ、ボールはゴールバーに直撃。だが、龍永自らプッシュし前半だけで8-0と、前代未聞の記録を叩き出す。
後半は相手のラフプレーを見越して交代は慎重にという事で代えずに臨む。龍永は
(まだやり代えしていいんだよな?)
とニヤリと笑っていた。
後半は日本ボールから。前半より更に速いティキタカ。最早ラグビー選手のように両手で掴みかかろうとする北朝鮮イレブン。それでもダイレクトでパスを繋ぎ身体ごと簡単にいなす日本イレブン。
ゴール前で龍永が流れを止める。相手DF の位置を確認し、龍永は開発中のフェイントをかます。先ず1人目のDF を右足裏で後方にボールを滑らせ、DF が釣られた隙に大きく前方へ抉る様にスライドし回転する。そこに待ち構えていた2人のDFを今度は右足裏で大きく後方にスライドしながら回転する。
「連続出浦手裏剣」
飛び出したGK の股間に綺麗なインサイドキックでゴール。後半開始6分でスーパーゴール炸裂。そしてハットトリック。早々に9-0。北朝鮮は成すすべなく天を仰ぐ。
その後、三浦、工藤、越後が加点し、龍永と後半20分に4人同時交代。斎藤、椎原、阿部、桑原が出る。北朝鮮がほっとしたのも束の間、交代出場した斎藤と椎原も点を決める。止めは桑原のゴールでフィニッシュ。何と15-0で2次予選の1位通過をほぼ確実とする。顔面蒼白で完膚なきまで叩き潰された北朝鮮イレブン。試合後のインタビューで
「次は倍取りますよ。向こうのミサイルは精度悪いっすから。」
と睨み飛ばした。そして
「悪い事する奴は必ず自分に帰ってくるもんなんすよね。世の常です。」
と更に鋭く睨み付けた。試合前に龍永に拳を振り下ろした2番の選手は右足が砕かれ、その後2度とピッチに上がれなくなったそうだ。
ロッカールームでは
「まだまだ精度が甘いな。最終予選じゃもっと固めて来るぞ。フィードも多様してバルセロスみてーな大きなトライアングルも織り交ぜないと。」
と皆引き締めていた。だが太田監督が
「おい、まだ折り返しだぞ。気抜くと怪我するからな。俺達はディフェンディングチャンピオンなんだ。あくまで完膚なきまで叩き潰すんだ。」
と場を締めた。
これから各選手は欧州に戻る。龍永もまたチャンピオンズリーグを控えている。一切手を抜かない大切さを胸に秘め、選手達は帰路に着いた。
時代は忘れましたが、過去にイラン代表がワールドカップ予選で17-0で勝ったのを思い出し、書いてみました




