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第35話 オオカミJrの世界選抜

世界中から龍永のようにかつて父がワールドカップに出場した選手やバロンドールを受賞した選手の息子達を集めています。

「よお!ニホンオオカミJr!」


そう呼びかけたのはノルウェー代表のストライカー、ハーラルトであった。


移籍してきた新生バルセロス。そこはかつてのレジェンド達の息子がずらりと揃っていた。テュラン、ズダン(フランス)、ウェア(リベリア→アメリカ)、クライファーツ、ファン・ボムメル(オランダ)、キエリーザ、マルケディーニ(共にイタリア)、シメオニ、レダンド、(共にアルゼンチン)ラルソン(スウェーデン)、ハジム(ルーマニア)、コンテイソン(ポルトガル)、ヘスキー(イングランド)、ラウドルッペ(デンマーク)、スタルコビッチ(セルビア)、マルティンス(ナイジェリア)。龍永と同じくいずれもサッカー選手を父に持つ選手達である。その中に一人見覚えのある男がいた。師匠であるファン・ペルツ監督の息子、シャティールであった。


メッツ監督は開口一番


「御覧の通りお前らはフットボールのレジェンド達の息子だ。誰々の息子と呼ばれ続け歯がゆく思っている者もいるだろう?だがな、龍永やハーラルトの様に親父を超えられる者もしっかり存在するんだ。ここにいる全員がそれを実現したら、世界中がお前らの親父の名前など出さなくなるだろう。どうだ?俺達で史上最強最高のバルセロスを作らないか?誰が中心とかは決めない。世界の中心は俺達バルセロス全員だ!」


昨季からの残留メンバーはバルセロスのカンテラ出身者であった。メッツ監督は本気で世界中からオオカミJr達を集めた。


この「オオカミJrの世界選抜」とこの年に呼ばれたバルセロスは、翌年から「フットボール地球代表」と呼ばれるようになる。ライバルのリアル・マドレーの「銀河系軍団」に対抗したようなものだ。


そして練習前にメッツ監督から戦術とポジションについて説明され、新規加入の数名はコンバートされた。ここで、天才メッツ直伝のボールテクニックの解説を行いながら、まるでサッカークリニックのような練習が始まった。オオカミJr達は目を丸くしながらも、メッツ直伝のボール裁きを真似したり、互いのプレーを盗み合ったりして楽しんだ。練習は2部練習と各自フィジカルトレーニング。そんな日が毎日続いた。龍永はジムで100kgのバーベルを持ち上げたり背負ったりしてる横で、ハーラルトが120kgのバーベルを持ちながら談笑していた。ハーラルトは


「メッツの考えるフットボールが本当に完成したらマジでフットボールの概念が覆るかもな。」


と話していた。龍永は


「あんた前に張ってるだけだけどな。」


と冗談を飛ばし2人で大笑いしていた。今回補強したのはジュニアだらけであるが、ウィングだらけでもあった。特に昨季から残留のバルセロスの10番ジャマールはその中でも別格であり、新入団選手の自信を奪うような存在だったが、龍永は皆に


「大丈夫。いちいち比べなくても。俺達は与えられた事をやりゃいいんだ。俺もこのチームじゃストライカーにこだわってねー。ディフェンダーの位置からでも点取りにいくさ。コンバートされたからって腐る事ねーぞ。要するにその与えられたポジションの位置から点取りに行きゃいいんだ。」


と励ました。ファン・ペルツの息子シャティールは


「何だ。お前もっと尖った奴だと思ってたけどおもしれー奴だったんだな。」


と感心していた。


メッツ監督のフットボール。それはバルセロスの伝統「ティキタカ」をより意外性を持った代物にする事だった。龍永はこのチームでトラップなら誰にも負けないと自負していたが、そのトラップを指摘されていた。メッツ曰く


「ダイレクトパスと見間違うくらい素早く細かくトラップしてパスするんだ!」


と檄が飛ぶ。龍永は早稲田監督直伝のトラップに更に磨きをかけた。そして、あることに気付く。


(メッツのドリブルって確かタッチが素早く細かくだったような・・・あれをパスに置き換えてみたらどーなるか・・・)


そう気付いた龍永は、練習が終わってからもグラウンドに残った。他の選手も同様だった。監督がいなくなった後、選手達は先ず走らないでトラップパスを練習した。そこから徐々にスピードを上げていき、DFを置いて練習した。既に習得済みの年下、クバルシュやジャマールがコーチングをする。


「そこに更に相手のプレッシングが来るんだぞ!龍永!あんたのチームがやってたプレッシングだ!あんたニッポンやフベントルスでゴール前に監獄作ってたろ?あれの大小をこのパスワークで操るんだ!」


龍永は閃いた。代表やフベントルスでは、ゴール前の狭いエリアに閉じ込めていた。もっと大きな監獄を作ればいいのでは?と。龍永は一旦


「いっぺん俺をボランチに置いてくれ!ちょっと試したい事がある!」


と言ってボランチの位置に移った。そして、素早いトラップパスを小さな三角形で形成しながら、両ウィングが開いている場所まで大きな三角形でトラップパスを敢行してみた。ボランチの位置から大きく右へ開いたジャマールの所へ、そしてジャマールはドリブルせずに大きなトラップパスでセンタリングし、ハーラルトの頭にピシャリと収めてゴールすると、選手達は鳥肌が立ち、


「おおっ!」


と拍手を送った。皆が


「そういう事だったのか!」


と手応えを感じていた。


そして次は、龍永が日本代表でやっているポジションチェンジの練習も行った。まるでピッチ上の選手達が元々どこのポジションかもやってる方も混乱する程入れ替わった。ウィングだったテュランがボランチに、またハーフだったマルケディーニがサイドに、センターバックだったクバルシュが最前列にと、あやとりのように選手が入れ替わっていった。このチームにポジションにこだわる選手が段々いなくなっていった。1人1人がどのポジションにいても高い質と意識を持ち、新生バルセロスは練習の中で全員急激にレベルアップしていった。練習が終わってからも選手達はもっぱらサッカーの話しかしなくなっていった。食事をしながらも激論を交わす選手達にメッツ監督は楽しそうに観察していた。龍永は


(この感じ、日本が優勝したときと全く同じじゃん。)


と嬉しそうに微笑んでいた。


だが、メッツ監督のコンバートに納得のいかない選手達も数名いた。特にイングランドから来たヘスキーは生粋のストライカーだったが、フィジカルを買われてセンターバックまで下がってしまった。ほぼふてくされてたヘスキーだったが、チームの皆で支えた。ヘスキーは恵まれた体格と決定機にはずすプレーが仇で代表に呼ばれていない。だが、ディフェンダーにコンバートされると、不思議とボールをかっさらってしまう。エースのジャマールやハーラルトすら止めてしまうのだが、ヘスキーは


「こんなん何度も止めたってつまんねーよ。俺はゴールが決めてーんだよ!」


と不満に思っているが、龍永が


「その位置からオーバーラップしてゴール決めりゃいいだろ。フォローは俺らがするからよ。前で張ってるよりそのガタイで後ろから飛び出す方が脅威だと思うぞ。」


と説得する。それを皆が受け入れ、ヘスキーの為にオーバーラップの練習を何度も行った。するとヘスキーが目覚めた。


「ほんとだ・・・こっちの方がゴール決めやすいじゃねーか!その為に俺ももっとティキタカ覚えてレギュラー取らねーと!」


と手応えを感じていた。


また、今季の新加入選手はウィングだらけだったが、適正に合わせサイドバックやセンターハーフへのコンバートが多かった。この2つのポジションは、メッツ監督の戦術によりウィングを勤める選手と頻繁にポジションチェンジを敢行するからである。不動のエース、ジャマールでさえその要求を飲んで新加入選手と切磋琢磨していた。カンテラ出身のガビルやペドリーニョが率先して指導を行う。


 交代枠の増えた現代サッカーにおいて絶対的なレギュラーはほぼいない。ここにいる全員が一丸となり、メッツ監督の考える新しいティキタカを完成させることがチームのリーグ優勝、チャンピオンズリーグ優勝に繋がり、その先にバロンドールがある。我らが監督が置いていった王位継承者の椅子はこのチームに確実にいるだろう。他所のチームの奴らになんか絶対渡さないと新生バルセロスのメンバー全員が思っていた。この中でバロンドールに選ばれた選手がいたとしても、次のバロンドールも、その次のバロンドールもこのバルセロスの中で選ばれ続け独占してやろうとも思っていた。


 そして開幕戦のカードが決まった。初戦の相手は何とまさかのエル・クラシコ。アウェーでのリアル・マドレーであった。


 このカードに一人執念を燃やす選手がいた。そのリアル・マドレーの監督を父に持つズダンである。ズダンは既にこのチームのボランチやセンターバックとしてレギュラーを獲りつつあった。彼は長兄で、弟3人は皆リアル・マドレーのカンテラ出身であった。ズダンは弟達と違い、偉大なる父に反骨精神を持ち、一人リアル・マドレーのカンテラへ入らなかった。未だに遺恨が残っていた。また、それはシメオニも同じく父がアトレティック・マドレーの監督であった。他にもクライファーツ、キエリーザ、マルケディーニ、ウェア、そしてシャティールも同じだった。彼らは


「親父なんかにぜってー負けねー!」


というレジェンド達の息子という檻から飛び出したオオカミJr達の集まりでもあった。龍永には彼らの気持ちが痛いほど解っていた。龍永は練習後に皆にそっと告げる。


「・・・そうだよな。俺も「ニホンオオカミJr」って事、ずっと周りに隠してたからな。俺も何だかんだ言って親父とそういうとこ向き合ってなかったんだよな・・・何かにあらがってなきゃしょーがねーって事痛いほど解るよ。でもよ、いちいち親父と比べてたらつまんなくねーか?俺もお前らも親父さんと違うポジションだろ?メッツ監督はそれも見越してお前ら呼んでコンバートしたんだと思う。だからさ、今メッツ監督に与えられたポジションで天下取ればバロンドール取れるし、親父さん見返せんじゃねーかな?その為にも開幕戦のリアル・マドレー戦はぜってー勝とうぜ!」


この龍永の言葉にチームは奮起した。皆口々に


「ぜってー勝ってやんぞ!それも大差でな!」


チームのボルテージは一気に高まった。


そして運命の開幕戦が刻一刻と迫っていた。






2026年大会に歴代のワールドカップに出場した選手の息子達が多く出場したのでこの構想に至り、息子達のチームに選んでみました。ポジションがかなり偏っていたので大勢コンバートしています。各親子間の設定は架空です。

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