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第36話 ベルナベルに集う王位継承者達

この話から、リーグ戦とW杯予選を並行して書いています

 スペインリーグ開幕戦。カードは何と初戦からエル・クラシコ。最大のライバルリアル・マドレーとのアウェーで対決。


この試合には日本から先頃就任した太田新監督、保坂前監督、Jリーグの名将谷津川監督現強化部長、龍永の恩師早稲田監督、JFA恒松会長、巻、前沢、羽生コーチ、JFA ユーロに赴任した新村、OBの秋葉と武藤、鷲田、本街と日本サッカーを支えている名伯楽がずらりと視察しにここサンティエゴ・ベルナベルに来ていた。傍らには何故か母の京香も観に来ていた。


ウォーミングアップから彼らは龍永のプレーの変化に気がつく。一同


「メッツが鍛えるとこうなるのか・・・」


と食い入るような目で見ていた。早稲田が


「あのアウトサイドキックの鬼みたいな龍永が何て正確で綺麗なインサイドキックを蹴っているんだ?」


太田監督も


「そうですね。五輪の時もアウトサイドや足裏のタッチが多かったのに、たった数ヶ月でこれほど成長するとは・・・」


と驚嘆していた。日本代表歴代のパサー巻や新村、本街も同様だった。更に現役引退したばかりの武藤が


「それだけじゃないっすよ。あいつまた身体のサイズ大きくなってます。特に首と背筋。あれはゴール前でちょっとやそっとじゃ倒れませんよ。」


と見立てている。そこにアップが終わった龍永が一同に近づいてきて


「観ててください。サッカーの概念覆る事になりますから。」


と楽しげに話してロッカールームに戻っていった。


「あいつ、いや、あいつらどんなプレーするんだろ?」


と一同内心ドキドキしていた。何せ未だに日本人でエル・クラシコを経験した選手はいないのだから無理もないだろう。そして監督はあのワールドカップ決勝で龍永のシャツを引っ張り退場したサッカーの王様メッツが率いている。ひょっとしたら何かあると思いながら選手は入場してきた。


1番GKスタンコビッチ(セルビア)27番DFヘスキー(イングランド)5番クバルシュ(スペイン)右SB19番レダンド(アルゼンチン)左SB 12番クライファーツ(オランダ)4番DHズダン(フランス)15番CHテュラン(フランス)6番ガビン(スペイン)SW10番ジャマール(スペイン)21番出浦(日本)9番CFハーラルト(ノルウェー)


控え13番GKホアン・ガルシア(スペイン)3番バルデス(スペイン)16番フェルマン(スペイン)29番マルケディーニ(イタリア)14番シメオニ(アルゼンチン)26番MFファン・ペルツ(オランダ)8番ペドリーニョ(スペイン)24番コンテイソン(ポルトガル)7番ラルソン(スウェーデン)33番FWウェア(アメリカ)20番キエリーザ(イタリア)


観客はどよめいた


「どーいうことだ?何人かポジション全然違うぞ?メッツは何考えてるんだ?」


と。長身の龍永も左ウィングに位置している。だが、この混乱もキックオフから数分後に賞賛に変わる。


 完全アウェー。リアル・マドレーのサポーター達が殺気を帯びてバルセロスイレブンに圧力をかける。京香は


「こないだ来た時よりブーイングが凄すぎる・・・あの子大丈夫かしら?」


と心配になるが、傍らにいた羽生が


「大丈夫っすよ。俺達皆で支えるって約束したじゃないっすか。」


秋葉や武藤も


「お母さん。あいつ笑ってますよ。」


「ワールドカップの時は終始尖って難しい顔してたあいつが今はあんなにニヤニヤ楽しそうにしてますよ。」


京香の不安を他所にバルセロスボールから試合が始まった。そして早くもバルセロス伝統の「ティキタカ」が走る。だが、これまでの「ティキタカ」とは明らかに違うことを日本から来た首脳陣が気付き始めた。一見速いダイレクトパスに見えるが一人一人が素早く細かくしっかりトラップしている。早稲田が


「トラップしてからパス?いや、トラップそのものがパス?」


と見えてしまうほど細かいタッチ。谷津川が


「このタッチ、メッツのドリブルのタッチと似てないか?ウチの工藤や三浦のドリブルを更に細かくしてるような・・・」


小さなトライアングルをいくつも形成し、ボランチ起用のズダンにボールが戻る。相手ベンチには憎き父がいる。


(おい!親父!よーく見てろよ!これが俺達ワールドオオカミの軍団新生バルセロスだ!)


ズダンは大きく左ウィングで起用されてる龍永に相手コーナー付近にロングフィードを送る。オフサイドはない。だがボールは足下でトラップするには高すぎる。そのボールをコーナーフラッグ付近で龍永が大きくヘディングでゴール前ファーサイドへ送る。エースのハーラルトを飛び越えて、オーバーラップしたセンターバックのヘスキーがダイレクトボレー。相手キーパークルトフは完全に逆を突かれ先制点を奪った。


それを見た日本の首脳陣一同が一斉に立ち上がる。喜びもあるが、


「今のは何だったんだ?龍永の奴あんな遠くからヘディングで折り返しただと?」


「しかもあのハーラルトが囮か?」


保坂が


「・・・多分最初の小さなトライアングルそのものが囮だったんだ・・・段々というかじわじわというか、途中で大きなトライアングルを形成していたというのか?」


開始まだ4分での先制ゴールであった。リアル・マドレーのサポーター達が大ブーイング。だが、バルセロスイレブンは


「やったぜ!この野郎!」


龍永がヘスキーに


「な!言った通りだろ!やっぱオメーはそっからの方が決まるんだよ!」


そしてズダンはベンチにいる父を睨み


(これが俺達バルセロスのフットボールだ!)


と言わんばかりに立ち尽くしていた。


その後もバルセロスの変則的なポジションチェンジに戸惑うリアル・マドレー。小さなトライアングルをいくつも形成し、素早いティキタカを敢行しながら、ウィングのジャマールとセンターハーフのテュランが入れ替わり、ウィングの龍永と左サイドバックのクライファーツが入れ替わる。その龍永も今度は右サイドへ大きくポジションチェンジし、空いたスペースに右サイドバックのレダンドが走り込む。リアル・マドレーのDFミリタンやククレーザ、中盤のチュアマニやバルベルドが


(何で左サイドに両サイドバックがいるんだ?マークに付けねー・・・)


(あの怪童ジャマールが下がっただと?じゃあ右サイドは?)


と思っている間に本来のウィングにポジションを移したテュランがそのまま持ち込みシュート。前半16分2点目が決まる。


だが、リアル・マドレーも黙ってはいない。エムペバ、デリンガム、ビニシウソンの攻撃陣が牙を剥くが、ヘスキーやクバルシュにことごとく止められる。ディフェンスに目覚めたヘスキーは難なくボールを奪い、再びズダンからティキタカ発動。センターハーフに下がったジャマールが一旦流れを切り、龍永のいる左サイドへドリブルしていく。龍永はスペースを空け、ジャマールとワンツーを敢行。左に空いたスペースをジャマールに預け、グラウンダーのセンタリングが龍永に来る。このボールを龍永がキーパー、クルトフの手前にチョンと置くと後ろに軽くバックスピンし、そのボールをストライカーのハーラルトが決めて3点目を奪う。龍永は既に2アシストを決めた。龍永が笑いながら


「おい、こんだけお膳立てしてんだから俺にも取らせろよな!3点取らせろ!」


といつもの「あと3点」は抜け切れていないようだ。あの銀河系軍団が前半だけでここまでコケにされ、バルセロスイレブンの眼中にないようだ。


「こんのヤロー!舐めやがって!ここは俺達の本拠地ベルナベルだぞ!」


とリアル・マドレーイレブンは完全にカチンときていた。


だが、その勢いは止まらない。エムペバも、デリンガムも、ビニシウソンもクバルシュ、ヘスキー、レダンド、クライファーツが侵入を許さない。ズダンやガビルも参加して潰す。後ろがかりになったバルセロスの中盤に下がってきたのは左ウィングの龍永だった。ボランチの位置でボールを受け取り、大胆に大きなトライアングルを3つ形成。この形に太田は


「これって、五輪決勝で後半に俺達がやった形じゃねーか?」


前線にはハーラルト、テュラン、ジャマール、ガビンが走り込んでいる。五輪決勝の後半で斎藤、椎原、西脇、阿部とストライカーを並べた布陣とほぼ同じ形だった。しかもまだ前半残り数分の時間帯である。あの時の日本代表はとっておきの策だったが、大胆にも強豪リアル・マドレーとの開幕戦、前半終了間際でこのフォーメーションを使用した。龍永はボランチの位置から左に流れたテュランへロングフィードするが、そのボールを右サイドから中央へ走り込んだジャマールが、リアルのボランチ、バルベルトの寸前でコースを変える。ダイレクトに見えるが実は2タッチしている。この縦へ流れたボールをハーラルトがシュート。だがクルトフに阻まれ大きく右に弾かれる。ジャマールが下がってがら空きになった右サイドから龍永が後ろから凄く長い距離を走り強烈なシュート。これが豪快に突き刺さりバルセロスが前半だけで4点目を奪う。そして龍永のバルセロス初ゴールであった。


前半終了した後の両チームの顔は対照的だった。まだ点を取り足りなくゴールに飢えたように感じるバルセロスイレブン。全く攻撃が機能せずに苛立つリアル・マドレーイレブン。


そして後半戦が始まる。リアル・マドレーは攻撃にロドリゲスを投入。バルセロスもテュランに代わりFWのキエリーザ、レダンドに代わり中盤が本職のマルケディーニを投入。このイタリア人コンビはジュニアでありながらもう一つの不満を持っていた。


「自分達の世代でワールドカップに出れていない。」


というもう一つのジレンマがあった。龍永はセンターハーフに下がり、左ウィングはキエリーザ。マルケディーニはそのまま右サイドバックに入る。そして後半開始早々この2人が魅せる。ロドリゲスの突破を阻んだマルケディーニがそのままオーバーラップ。ガビル、ジャマールとトライアングルを形成し、ペナルティエリア外中央へセンタリング。ここに釣られたリアル・マドレーのDFミリタンとセンターフォワード、ハーラルトが競ってこぼれ球になる。このボールを後ろで拾った龍永がインサイドキックのトラップパスで2人の横にゴールに向かって大きく転がすと走り込んだキエリーザが飛び出したクルトフを交わして股抜きシュート。後半開始7分で5点目を決める。


マルケディーニ、龍永、キエリーザの見事な大きなトライアングルが決まった。練習から徹底的に鍛えた素早く細かいトラップパス。龍永が磨き上げた正確なインサイドキック。リアル・マドレーはうなだれ、日本の首脳陣は感嘆した。


「この最高の戦術を持ったチームの中に確かに龍永が・・・ニホンオオカミJrがいる・・・あいつ、点取るだけじゃなくこのチームの起点にもなってやがる・・・」


その後もジャマール、そのジャマールと交代で入ったシャティールがゴールを決め7-0とし、龍永は後半30分にペドリーニョと交代。初戦のエル・クラシコを大差で勝利した。ベンチで頭を抱える父を見て、この試合のMVPを獲ったズダンは


「どうだ!やっとあんたに勝ったぞこの野郎!」


としてやったりの表情。試合後のインタビューで龍永は


「今シーズン終わる頃には俺達は誰かのジュニアとか言われなくなりますよ。こいつらは世界中から集まってきたオオカミ達なんでね。それに俺らを率いているのはついこないだまで玉座に座ってた監督なんで負ける気しないんですよ。俺達バルセロスはバロンドールっていう玉座を奪う王位継承サバイバルに乗ってるんで。それは今日戦ったリアル・マドレーの選手や他の強豪達も同じでしょう。それに今日の試合はまだまだ精度が甘かった。もっと練習しないと玉座に座れないんで頑張ります!」


と締めくくった。日本の首脳陣一同は


(あれだけの連係を魅せてまだ精度が足りないって?ここからまだ進化するのか?)


と脱帽していた。


帰りの道中、バルセロスを乗せたバスがリアル・マドレーのサポーター達に囲まれて2時間程帰れなかった。バスの中ではそんなことを気にしている者は一人もおらず、メッツ監督を囲み次の試合の話題で持ちきりだった。龍永もスマホで京香と連絡していた。


「勝ったよ。母ちゃん。後で奥さんと3人で飯行こうぜ!」


と明るく話していた。


この後、リーグ戦を3試合こなし、ワールドカップ2次予選とチャンピオンズリーグ初戦、ワンチェスター・シティ戦を控えている。この試合はメッツ監督を育てた名将グアルディオル監督との師弟対決でもある。







いくらバルサが強くてもこの点差はあり得ませんが、ジュニア達の飢えを書きたくてこういう展開になりました。


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