第4話 財宝を手に入れろ
準々決勝の相手は、因縁の相手韓国。延長までスコアレスで終え、PK戦に突入。そこで敬助はチームメイトに声をかけた。
「誰か1点決めろ。韓国のシュート5本は全部俺が止めてやる。こうみてもPK戦は大好きなんだ。それと始める前に徹底的に相手をじらせ。急いで蹴ろうとしないでこっちの流れで蹴りやすい間を作るんだ。先攻後攻は任せる。外しても構わないから気にすんなよ。今日のヒーローは俺が貰ったからな。」
この時、ジェッツ市葉の監督であるハキムがチームが負けているときのミーティングで言ったことを敬助は思い出していた。ハーフタイムにて、
「焦るな。お前らがロッカーから出なければ試合は始まらないから。」
先攻は韓国、一人目はキャプテン柳。横塚マリンズ所属のオーバーエイジ。ホイッスルは吹かれた。シュートは最も難しいゴール左隅。敬助は蹴るまでボールと身体をきっちり見ていた。完璧に止めた。
日本の一人目は相澤。キックの精度は折り紙付き。右サイドに冷静に決める。
韓国二人目はJリーグ京極所属の朴。シュートは逆を突くが、敬助が足を伸ばし掻き出す。
日本の二人目は交代で入った山口。ゴール左隅へ豪快に決まる。
後がない韓国の3人目は、スペインリーグ所属のドリブラー李。シュートはゴール右隅を狙ったが、ゴールバーを叩く。敬助はわずかにシュートに触っていた。
これが決まれば準決勝。キッカーはエース佐久間。キーパーど真ん中に蹴り込み、キャッチされるが、相手キーパーはゴールライン外におり、ラインを割っていた。
そして試合終了。日本は196×年以来の準決勝へ駒を進めた。
試合後にチームメイトは満面の笑みで駆けつけた。
「次こそ3点取れよ。」
敬助は笑いながら言った。あと2試合勝てば金メダル。緊張しないで普段通りやろう。むしろ緊張してんのは、次の相手、アルゼンチンの方ではないかと思っていた。
連戦の疲れ、中2,3日は身体に応える。次の日の昼、リカバリーを終わらせると、全員敬助の部屋に集まっていた。予選リーグのアルゼンチンの試合全てを観ていた。3試合、ディフェンス組、中盤組、フォワード組に分かれて回しながら観ていた。イタリア同様タレント揃い。過度に「凄い」という言葉は誰も口に出さないように、
「どうやったら点を取れるか、相手を封じられるか」
をコーチ陣も交えて分析した。相手も日本と同じ3-5-2。堅固な3バック、司令塔タイプのボランチ、スピード、テクニックは五分五分だが、一発のシュート力がある両サイド、フォワードは上背はないがスピードとテクニックで勝負するタイプ。同じフォーメーションでも大分違っていた。
「まずはボランチを潰そう。」
「両サイドは守備に難がある。そこを狙おう。」
「フォワード2人は俺に任せろ。それより両サイドや中盤からのミドルや飛び出しが厄介だな。」
「マークの受け渡しに細心の注意を払おう。」
「ゴールを狙うときは冷静に丁寧に行こう。ラインの裏のスペースを上手く使おう。」
メンバー同士延々と話し合った。更に、
「アルゼンチンは今日の韓国よりプレーが荒いぞ。怪我やファールに気をつけよう。恐らく次は死闘になる。」
総力戦になることはみんな覚悟していた。
運命のアルゼンチン戦。ベンチに「10番」を背負った小柄な少年が座っていた。後に世界の至宝と呼ばれるメッツである。両サイドハーフは互いにマッチアップ。ボランチが上がってきたら、対面のボランチが潰す。または3バックが潰す。フォワードの飛び出しには、廣山のオフサイドトラップを織り交ぜながら止める。必要とあらばキーパーの敬助が上がって潰す。今日の試合のキーはボールを奪ってからの動き、上がった両サイドのスペースにフォワードが上手く流れ、タメを作り、またはサイドチェンジで揺さぶりをかけ、後方からオーバーラップする味方へパスを送る。
試合が始まった。オープニングシュートは日本。佐久間が遠い位置からミドルシュート。大きく枠を外れたが、幸先の良いスタートかと思われた。その後はアルゼンチンに再三ボールを握られた。あらゆる方向から来る雨あられのようなシュート。ボランチのマスチェラーナから来るパスを起点に、トップ下のダレサンダーの飛び出しからシュートは高橋ケンペスが止める。右からのロサリオの突破からサイドチェンジしたオーバーエイジのキリ・マルチネスのシュートは町田がブロック。俊足のサビオール、テクニカルなドリブルとシュートが持ち味のテジェスは敬助が再三防ぎ、ロングスローを放つ。連戦の疲れ、ましてや前の試合延長PKまで戦った日本イレブンの足取りは重く、カウンターに前線の3人が取り残され、強固なディフェンスに打開策を見入られないでいた。何も出来なかった前半をスコアレスドローで折り返した。
ロッカールーム、選手は疲弊していた。いつもの活気がない。敬助は言った。
「あと2試合で休めるんだ。疲れてるのはわかるがここで踏ん張ろう。」
「金メダルが目の前に届くところまで来てるんだ。おまえら勝ちたくないのか?」
そんなことは誰でもわかっている。だが、打開策が見つからない。ここでベテラン、奥寺がアイデアを出す。
「フォーメーションを4-4-2にしないか?」
両サイドに厚味を持たし、中をブロック4人で固める。マンマークではなく、2人がかりで止めて速攻を仕掛ける。薬師寺監督は動いた。この試合先発した山口に代えてボランチが本職の菅野を左サイドバックへ、右サイドバックは高橋ケンペスがずれ、守りながらオーバーラップに備える。奥寺は中央から左サイドへ、フォワードは戦況を見て代えていく。
後半が始まった。相変わらずの防戦一方だが、両サイドの守備は効いていた。2人がかりでボールを奪い、奪ったら逆サイドへ大きくサイドチェンジ。ボランチには林と相澤が睨みをきかせる。
後半5分、フォワードのテジェスがオフサイドラインから戻り、オーバーヘッド。サビオールが抜け出すと、敬助が飛び出しキャッチする。すると、アルゼンチンベンチが動く。10番を背負った少年が右サイドの切り札として投入される。相手は4-3-3にフォーメーションを変えてきた。日本がボールを奪えばマシンガンのようにタックルを浴びせられ、長い手足で関節技のようにクラッチされる。
後半16分、ここで右サイドの松原、さらに18分にフォワードの佐久間が負傷交代。猪狩、高橋達が送り込まれ、交代カードを使い切ってしまう。アルゼンチン選手にイエローカードが次々と出される。敬助から檄が飛んだ。
「まだ行ける!やり方に間違ってない。不格好でいいから点取ろう!」
アルゼンチンの10番は小柄ながら誰も止められない。不慣れなポジションの菅野も付いていくのがやっとで、奥寺が攻撃そっちのけでカバーしていたが、思わずファール。
後半39分アルゼンチンの直接フリーキック。蹴るのはアルゼンチンの10番メッツ。直接狙ってくるだろうとゴール前で小競り合いが始まった。が、敬助が味方ディフェンス陣をボランチ林を残して壁に4枚入れ、残りの5人にはカウンターに備え前線に張らせていた。林には万一直接来ない場合の他のアルゼンチン選手のケアに当てた。
「直接シュートと中の対応は任せろ。それより取ったら速攻で投げるぞ。」
敬助は勝負を賭けた。
「守れー!防げー!止めろー!敬助ー!守れー!防げー!止めろー!敬助ー!」
後半ずっと鳴り止まない敬助のチャント「GWD」。味方陣内左からボールが蹴られた。右隅に向かってくる鋭くドライブのかかったシュート。敬助は身体ごと覆い被さるようにして止めた。相手フォワードにリンチを食らうような蹴りを何発も浴びせられながらも即座に起き、猛ダッシュでペナルティエリアギリギリで、敬助にしては珍しい大きなパントキック。蹴った直後、敬助が
「全力で走れ!ゴールに詰めろ!」
と吠える。ボールはペナルティエリア外まで上がっていた相手ゴールキーパーの手前で大きくバウンド、キーパーの頭上を越えるが、勢いが加速したボールがアルゼンチンの無人のゴール前で転々と転がる。そこに走り込んでいたのは、5人の内の1人、相澤と、猪狩、高橋達、前沢であった。相澤がインサイドで丁寧に決め、ようやく先制。まだ喜ぶのは早い。まだ1点差だ。イレブンは即座に戻り、アルゼンチンの攻撃を待った。
そして後半ロスタイム、アルゼンチンの10番メッツを菅野、奥寺、廣山、林の4人がかりで潰す。奪ったボールを奥寺が右サイドへ大きく展開。俊足の猪狩が鋭角に切り込む。相手ディフェンダーにユニフォームを引っ張られ、日本のフリーキック。蹴るのは司令塔奥寺と相澤が並んでいる。角度がないが直接狙える。一方後ろで誰にもバレないように敬助と高橋ケンペスが話し込んでいた。それを察知したキャプテン林がキッカー2人にダッシュで報告する。
そしてホイッスルが吹かれた。合わせたのは、猛ダッシュで大外からオーバーラップしてきた高橋ケンペス。しかし高橋ケンペスの狙いはシュートではなく、ペナルティエリア外にオーバーラップしてきたもう1人へのポストプレー。そこに走り込んでいたのはなんと、キーパーの敬助だった。敬助のキャノン砲のようなミドルシュートがアルゼンチンゴールを急襲。マークなどいるはずもなく、そのシュートはアルゼンチンゴール左隅にズバッと決まった。前代未聞。かつて五輪でキーパーが流れの中でシュートを決めたことがあっただろうか?敬助と高橋ケンペスは、
「やってやったぜこの野郎!」
と互いに健闘を称え合っていた。日本サポーターから敬助へ「GDW」のチャントがいつまでも鳴り続いた。その後ファールや交代もあり、ロスタイム5分と長い時間を耐え抜き試合終了。アルゼンチン相手に壮絶な戦いを制し、遂に決勝まで上り詰めた。因みに敬助はこれまでの5試合、PKも含めて未だに無失点である。
ロッカールームで高橋ケンペスは手応えを感じていた。オーバーラップのタイミング、オフ・ザ・ボールの動き、連動性、全てが完璧にこなせたと実感したのだ。他の選手には散々いじられた。直接ゴールを狙うことも、他のフォワードへ繋ぐことも可能だったが、覚悟を持って自らもオーバーラップすると話した敬助にパスを落とした。2人の信頼関係から結び付いたゴールだった。敬助は
「俺はもうオーバーラップしねーからな。決勝のゴールはお前らが決めてくれよ。あれだって苦肉の策だったんだからな。」
とチームを締めた。メダル圏内確定にもかかわらず、チームは浮かれることなくスタジアムをあとにした。本当の修羅場は次の試合だ。絶対勝つ!チーム全員が断固たる覚悟を胸にした。
ここまでの連戦でエースの佐久間、右サイドの松原、猪狩、左サイドの櫛野が負傷。更に、メッツとのマッチアップで菅野も肘鉄を食らい、顔面骨折と実に5名の負傷者が出た。佐久間と猪狩は軽傷だが、残りの3名は次は出られない。実質13人で決勝を迎えることとなった。
翌日、ミーティングを行った。決勝の相手は期待の新星、クリスチャン・ロドリゴ擁するポルトガル。フォーメーションに多少の変更があった。キーパーと3バック、ボランチに変更なし、負傷者が出た両サイド、右はボランチや司令塔をこなす羽生、左は前節に引き続き山口、トップ下に奥寺、2トップは前沢と、長身フォワード、こちらも期待の若手平田が抜擢された。交代出来るのは高橋達、軽傷の佐久間、猪狩のみ。万が一のために、敬助をキーパーから外して攻撃に置き、控えキーパーの川上を入れる可能性もあることをオプションに加えた。決まり事としては、相手は1トップ。相手の長身フォワード、アルメイデのマークに町田、トップ下のディアーナのマークに相澤、この2人のカバーに林、両翼のクリスチャン・ロドリゴとボア・モンテに羽生と山口が付く。両サイドバック、ボジグワとリベリオのケアには高橋ケンペスと廣山。ボックス内に突破させないこと、外からシュートを撃たせないことを取り決めした。ディフェンダーもドイツリーグのメオラがいて強固。ここに身体を当てるのが長身の平田に役割を与えられた。機は熟した。
「あと1試合で金メダルという財宝にありつける。しかも18個も。勝って金メダルをたらふく喰ってやろう。」
日本の狼たちは疲労より、腹を空かせ飢えた獣の眼光に変わっていった。




