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第30話 生肉をよこせ!

「アメリカってーのは肉の国だろ。ジューシーな肉がゴロゴロ転がってそうだぜ!」


 準々決勝の相手はホーム、アメリカ戦。日本代表のボルテージは未だゴールに飢えた狼の群れのように貪欲であった。練習後の取材陣の中に、オランダ時代から龍永を追いかけていた沖田絵梨佳がいた。その沖田が龍永に尋ねる。


「あと3点」という今大会の日本代表の選手達が口々に話されるのは、あなたの影響でしょうか?」


と。龍永はあっさり


「日本人の本能だろ。」


と返答する。更に沖田は


「それは出浦選手や個人で3点という意味でしょうか?それともチームで3点という意味でしょうか?」


龍永は


「日本が3点取るって言ってんだ。個人もチームでもねー。日本って国が3点取るんだ。」


と返した。海外暮らしの長い沖田にとって「日本が3点?」という意味がわからなかった。そして日本は、前節の尾崎に続き、益山も怪我で離脱となり、残り試合を16人で戦うという苦しい状況にあった。


 こうして予選、カタール戦同様に場内完全アウェーの中、アメリカ戦のホイッスルが鳴った。尾崎の代わりはコートジボアール戦同様米倉が入った。アメリカボールから、ボランチのレイモスが後方のララスへパスを戻すと、一斉に日本はハイプレスを仕掛けてきた。アメリカは予想通りといわんばかりに、中盤を飛ばした日本陣内の左サイドに大きくロングボールを蹴ったが、そこになんとキーパー堀川が顔を出し、逆サイドへ大きくサイドチェンジ


「こんくらい俺がやる!ガンガン仕掛けろ!」


と檄を飛ばす。右サイドの阿部へ通ったボールは、ワンタッチで左サイドからボックス内に走り込む椎原へセンタリング。椎原はそのままボレーでキーパー、メオラの手をかすめるゴールを奪う。開始僅か6分での出来事であった。


 直後にアメリカが再開するも、龍永と斎藤が鬼プレスを敢行。身長190cm台の大男2人がアメリカ陣内を駆け回る。ボランチの仲村と米倉も加わり相手を削りまくる。この4人には前半の内にイエローカードが出される。龍永は選手生活最初のイエローをもらったが気にしていない。むしろプレスが激しくなる。前半36分、ボランチの仲村が奪うとオーバーラップした左サイドバックの小林へ通る。小林が中へ切り込み背後にいた椎原へパス。ディフェンダーのブロックに反応し、横を走った龍永へパスするも、シュートモーションに入りながら龍永はスルー。龍永の影に隠れるように現れた斎藤が突如巨体をニュッと出し豪快なシュート。2-0とする。ゴール後に斎藤がアメリカイレブンを睨み付け


「あと3点。あと3点。あと3点。」


と徐々に大きく声を出す。それに呼応し日本イレブンがベンチも含めて


「あと3点!あと3点!あと3点!あと3点!あと3点!あと3点!あと3点!」


と連呼する。


 更に前半44分。アメリカのフォワード、ドノバンのドリブルを北爪と米倉が止めると、北爪が側にいた下川へパス。下川が仲村、米倉とワンツーで繋ぎオーバーラップ。アメリカゴール手前中央付近で下がっていた斎藤に横パス。斎藤は右サイドから侵入してきた阿部へライナー性のパスを通すと、ダイレクトで中央に張っていた龍永にパス。龍永はインサイドキックでキーパー、メオラの股を抜くシュート。シュートを決めた龍永は英語で


「Give me your raw meat!(テメーらの生肉をよこせ!)」


と叫ぶ。3-0で前半を折り返す。大ブーイングのアメリカサポーターだったが、日本イレブンは英語で


「Three more points!Three more points!Three more points!(あと3点!あと3点!あと3点!)」


と場内を煽る。


 怪我人が多いので日本は慎重になり、後半はそのままのメンバーで臨む。後半は日本ボールから。日本は早くもアメリカゴール前に相手を閉じ込める。日本必勝のパターンである。龍永や斎藤、両サイドの椎原、阿部がガンガンシュートを撃ち、オーバーラップした下川、北爪が身体を張って相手ゴール前に押し戻す。この試合の最後尾はパスセンスのある仲村が務めている。


 後半9分。右サイド鈴木仁弧がえぐる。タッチライン際でアーリークロスを入れると。そこに待っていたツインタワー、龍永と斎藤がヘッドで合わせようとするも、龍永がスルーし、斎藤が真下へヘッドで落とす。すると、その影に重心を低く落とし潜んでいた椎原がスライディングシュート。これが決まり4-0。椎原はこの試合2点目であった。まるでオランダ時代の龍永のような「隠れ身の術」。椎原が叫ぶ。


「あと3点!あと3点!」


それに呼応し日本代表の選手達が点を決める度に大声で連呼し、吠える。まるでラグビーニュージーランド代表の「ハカ」のような迫力だ。あの世界で威張り散らしてるアメリカが、日本のこの絶叫に畏怖し始めた。ここで日本はメンバーチェンジ。阿部に代えて川渕、龍永に代えて西脇。龍永はこの試合で御役御免。キャプテンマークを下川に渡す。左の椎原がトップ下、右に西脇、左に川渕が入る


 直後の後半11分。アメリカの右サイド、ジョーンズの突破を小林が止める。すかさず代わって入った川渕に縦パス。中央に上がった米倉に渡し、椎原とポジションチェンジした斎藤がダイレクトで後ろの仲村へ戻す。米倉は右の西脇を見ながら左を猛突進してくる川渕にノールックキラーパス。その間椎原は相手ディフェンダーをブロックし、シュートコースを開ける。走り込んだ川渕がゴール左隅にパスのようなシュートを突き刺す。5-0。完全アウェーの中、場内は日本の波状攻撃に全く手も足も出ず、更にエースの龍永を下げた状況でのゴールにスタジアムが沈黙した。


 後半20分。日本の選手交代。斎藤に代わり右サイドの篠原が投入される。前線に西脇、トップ下に椎原。右に篠原が入る。日本のツインタワー2人が引っ込んだ。と思ったのも束の間。アメリカは完全に油断していた。日本は龍永や斎藤だけのチームではないとまざまざと見せつけられた。


 アメリカはボールキープするもなかなか日本ゴール前に仕掛けられない。日本がブロックを敷き始めた。これこそが日本の狙いだった。下川、北爪、米倉、仲村が日本ゴール前をがっちり固める。アメリカのフォワード、マクブライドがヘッドでゴール下に叩き付けると、キーパー堀川がファインセーブ。こぼれ球をクロバスが詰めるが、ゴール内にまで下がった米倉が間一髪のブロック。このボールをキャプテンを引き継いだ下川がダイレクトで前線へ大きく蹴り出す。この形は先のワールドカップで見せた日本の戦術「真田丸」だった。砦から放たれた大砲のようなパスを椎原が前を向きながら正確なトラップ。代わって入った右サイドの篠原へ送る。篠原が中へ切れ込みシュート。キーパー、メオラが弾くが、その頃には仲村を除く全員がアメリカゴール前を囲っていた。こぼれ球を出そうとしたララスに川渕が脚でブロック。またもや掻き出そうとしたポープに今度は篠原がブロック。全くアメリカゴール前から出られない日本の敷いた監獄。これを現地で見ていた代表キャプテン、武藤が


「ワールドカップの俺達以上かもしれねー。・・・」


と呟く。そして後半40分。実に20分近くアメリカゴール前で混戦を繰り広げていた日本が止めを刺す。オニュウのクリアミスを西脇が拾い、豪快にゴールに突き刺す。6-0。アメリカサポーターは帰り支度を始める。そして試合終了。予選のカタール同様完全アウェーの中大差で勝利。金メダルまであと2つとなった。だが、この試合で今度はディフェンダー、北爪が負傷。またもや戦力が減ってしまった。


 日本は勝ち続けている。だが、本大会に来て怪我人が続出。尾崎、益山、そして北爪。まさに満身創痍での準決勝。相手はドイツ。彼らは日本に対し特に敵意剥き出しにしているチームだ。キャプテン龍永はチームを鼓舞する。


「俺の親父は死んでもゴールを守って戦った!今度は俺達の番だ!誰が怪我してようが魂は1つだ!まだ生きているからその分残された俺達が3点取る!日本の為に絶対金メダル取るぞ!」


 準決勝ドイツ戦。怪我をした北爪に代わり、龍永の先輩染谷が入る。この試合、龍永はベンチスタート。アメリカ戦で右膝を痛めていたが、大事を取ってのことだった。斎藤の1トップにトップ下は阿部、右に篠原が初先発を果たす。この日のドイツはマンマーク。斎藤にマテウス、阿部にブッフバルト、両サイドにブレーメとロイターが付く。両ボランチとセンターバックの上がりにバラックをケアに置き、万全のシフトを敷く。


 序盤からドイツのマンマークが効いた。篠原、椎原が封じられ、阿部にはブッフバルトが密着マーク。前線の斎藤にボールが繋がらない。前掛かりになった30分。右サイド、メラーの突破を許した日本は、ドイツのフォワード、フェラーを染谷が倒しPK。これをフェラーに決められ0-1と先制点を献上。更に直後の34分。下川のクリアミスをキーパー堀川がキャッチすると同時に、相手フォワード、クリンスマンに両腕を蹴られ負傷。クリンスマンにイエローカードが出されるが、堀川が起き上がれない。意識はあるがプレー続行不可能となり、控えの戸島が投入される。ここにきて日本に暗雲が立ちこめられる。ベンチでドイツイレブンを睨む龍永。この時龍永は


「親父と堀川の敵は俺が取る。」


と思っていた。前半を1点ビハインドで折り返す。


 後半も変わらずドイツのマンマークに手を焼く。後半10分にクリンスマンに2点目を決められる。ここで選手交代。椎原に代えて龍永、篠原に代えて川渕が投入される。龍永が吠える。


「あと3点だ!まだまだやれんぞ!」


この言葉に呼応し日本イレブンとベンチ、そして日本サポーターが


「あと3点!あと3点!あと3点!あと3点!あと3点!あと3点!あと3点!」


と連呼する。そしてここからが本当の日本の戦いが始まる。残りはあと35分あまり。十分な時間がある。


 日本のリスタートから龍永が単身ドリブルで中央突破。ブッフバルトが競り合うが、怒りに燃えた龍永は弾き飛ばす。右膝の怪我をもろともせず、腕を使ってブッフバルトを引き剥がす。左を走る川渕へパス。斎藤が流れて川渕のフォローに入りつつ、マテウスをゴール前から引っ張り出す。マテウスを押さえ込みながら川渕へ道を作る斎藤。川渕が中へ切れ込みシュートするも、キーパー、イルグナーの指をかすめ左ポストへ跳ね返る。そのボールに反応したのは龍永。ブッフバルト、バラック、ベルトホルトの3人に押さえ込まれながら渾身のシュート。中にいたロイターの爪先を弾きゴール。このゴールはワールドカップ決勝、アルゼンチン戦のゴールを彷彿とさせるゴールである。まだスコアは1-2。龍永はボールを拾いドイツ語で


「Leute!Jet zt wind Wurstchen gejagd!(テメーら!今からウィンナー狩りだ!」


と言い放ち、日本語で


「あと3点だ!ぜってー止まんなオメ-ら!」


と檄を飛ばす。ここで日本イレブンは


「あと3点!あと3点!あと3点!あと3点!あと3点!あと3点!あと3点!」


とドイツイレブンを睨み付け連呼する。日本サポーターまでもが


「あと3点!あと3点!あと3点!あと3点!あと3点!あと3点!あと3点!」


と、何かに取り憑かれたように後押しする。


 ドイツボールで再開。細心の注意を払い、ドイツはボールを回す。徐々に前に出てくるドイツ陣営。すると、斎藤のマークに付いていたマテウスがオーバーラップ。前に出てきた。ブレーメからパスを受け取ったマテウスが龍永と対峙する。キャプテン同士の激しい鍔迫り合い。パスを出すことも出来ずにマテウスはキープを続ける。


そこに割って入ってきたのがマークを外された斎藤。龍永と挟み込みボールを奪うと、すかさずもの凄い勢いでオーバーラップをしてきた鈴木仁弧にパス。猛ダッシュでラインを上げる日本イレブン。右ボックス内で仲村がパスを受け、左サイドを駆け上がる左サイドバック、小林にライナー性のロングパス。キープは出来なかったがゴール前にボールを残す。ここに走り込んでいた川渕が、キーパー、イルグナーが突っ込む寸前にシュート。ゴールラインにいたディフェンダー、ザマ-の脚も届かずゴールに吸い込まれる。2-2の同点に追いつく。日本サポーターの


「あと3点!あと3点!あと3点!あと3点!あと3点!あと3点!あと3点!」


コールが止まらない。龍永が


「あと3点飽きたわ。あと6点取んぞ!」


とドイツディフェンダー陣を睨み付ける。


 後半も残り僅かとなった。後半49分ドイツのフリーキック。キッカーはメラーとリトバルスキーが並ぶ。リトバルスキーは日本生まれだがドイツ代表を選んだ選手だ。そのリトバルスキーが鋭くドライブがかかったフリーキックを蹴る。このシュートにキーパー戸島が僅かに触れるがゴールは日本ゴールに吸い込まれようとしていたが、下川がダイレクトでクリア。まだインプレーのままボールは龍永に渡る。ドイツはラストプレーと思い全員が上がっていたが、日本は前に斎藤と阿部が残っていた。すかさず前方の斎藤へパス。斎藤は阿部が逆の左サイドへ走っているのを確認しダイレクトパス。そのまま阿部がドリブルで突進。キーパー、イルグナーが立ちはだかるも、阿部はイルグナーの左脇を狙ってシュート。ボールは左のゴールポストの内側に当たり、そのままゴールに吸い込まれていった。日本刀で3回斬り落とされたかのような電光石火のカウンターにドイツは撃沈。3-2の大逆転勝利で決勝へ進出。金メダルまであと1勝となった。


 がっくりと膝を落とすドイツイレブン。それでも喜ばない日本陣営。まるでワールドカップの龍永が乗り移ったかのような鮮血を浴び、クールで血に飢えた壬生狼と呼ばれたダンダラの侍達がそこに立っていた。肉汁たっぷりのポークフランクフルトを大量に頬張りながら。

 

 沖田は龍永の発した意味がようやくわかった。日本人という民族が団結しなければ優勝出来ないということを。龍永はチームメイトやサポーター、日本国民にそのアイデンティティを植え付けていたのだと。この試合は、大和民族とゲルマン民族の激しい民族争いだったことを。まるで元寇を退けた鎌倉武士団対聖地を取り戻すドイツ十字軍のどちらも譲れない激しいベストバウトを魅せられた。


タイトルがエグいですが、このチームは全員ストライカーな気持ちで書いています。

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