第29話 3点に飢えた狼の群れ
フベントルスに戻り、龍永の戦いは続く。今シーズン未だ負けなしのフベントルス。龍永が五輪予選で離れている間にもイタリアリーグ、チャンピオンズリーグ共に負けていない。ロッシ、インザーギ、スキラッチ、トレゼゲ、ビアリ、ラバネッリが龍永のいない間に得点を積み重ねていた。そして、チャンピオンズリーグ決勝こそバルセロスにリベンジされ優勝を逃すも、イタリアリーグではぶっちぎりの優勝。しかも、無敗優勝を果たしたのであった。龍永は五輪予選でチームを離れていたこともあったが、得点ランク3位タイと堂々の結果だった。月間MVPに4度も受賞する暴れっぷりであった。
シーズン後、パサディナ五輪出場メンバーが発表された。
GK 1ピサロ堀川(名古矢)、12戸島(堺)、
DF 2染谷(河崎)、3北爪、4下川、5鈴木仁弧、16小林
MF 6米倉(備前)、7尾崎(河崎)、8益山(摂津)、10阿部(AS京浜)、13川渕(茅ヶ崎)、14篠原、15仲村(広永)
FW 9斎藤、11椎原、18西脇、そしてキャプテン17出浦。五輪は登録メンバーが18名の為、龍永は馴染みの21番から17番に変更された。何故17番を選んだのか。それは、実は日本代表にとって17番は縁起の良い番号。ポジションに関係なく、17番を背負う選手は何故か大活躍するのだ。
初戦はコロンビア戦である。日本と同じハイプレスを使用。トップ下のバルデラマは阿部のような選手、中盤のリンコンも仲村に似ている。フォワードのアスプリージャは椎原のような選手。そしてキーパーのイギータは、まるで龍永の父、敬助にそっくりなプレースタイルを持つ。この日は予選とスタメンはほぼ変わらず。怪我で出場辞退した吉田に代わり、仲村が初スタメンを飾る。この仲村の起用には意図があった。トップ下を務める龍永とのポジションチェンジにオプションを加えたかった。龍永は前線の斎藤とポジションチェンジする事が何度かあったが、攻撃の得意な仲村もオプションに加え、必要に応じて龍永がボランチを務める大胆策を取った。
遂に試合が始まった。序盤からコロンビアがハイプレスを仕掛けてくる。日本は自陣に釘付けにされながらも序盤の猛攻に耐える時間帯が15分くらい続いた。ゴール前、バルデラマの個人技から下川と北爪が難なく抜かれたが、サイドバックの鈴木仁弧がタックルし、PKの判定が下る。鈴木仁弧にイエローカードが出される。だがキーパー堀川が
「取ったら行くぞ!」
と吠える。蹴るのはアスプリージャ。堀川がじっくり睨み、次のプレーへ移行する構えを取っていた。アスプリージャのシュートは堀川がファインセーブし、こぼれ球を直ぐさま拾う。すかさずパントキックしたボールはフィールド中央にいた龍永に渡る。相手ディフェンダー及び相手キーパーは前へ上がってきている。そして、ペナルティエリア前まで戻る相手キーパー、イギータの顔面横に目がけてロングシュート。これが決まり日本は先制する。すると、日本イレブン及びベンチから例の呪文がぶつぶつ呟かれる
「あと3点」と。
再びコロンビアが猛攻を仕掛ける。バルデラマのパスから俊足のアスプリージャへパスが通る。今度はキーパー堀川が前線へダイレクトでロングフィード。受け取ったのはまたもや龍永。この時日本イレブンは、龍永を次々と追い越しコロンビアゴール前に押し寄せる。この戦術は、父、敬助の「大神ゾーン」をもじり、「出浦ゾーン」と呼ばれる。最後尾に龍永を残し、次々とオーバーラップを敢行。龍永のさじ加減一つでどこからでも点を取る。この「出浦ゾーン」の中に入り込んだ味方選手は、必ず点を取るチャンスが大幅に増える。まるで、相手ゴール前にある肉を獲ったモンが勝ちといういわば「人参作戦」である。
龍永はそのまま中央でドリブルを仕掛け、相手ディフェンダーが寄せてきたところで手前に上がっていた仲村へパス。仲村がワンタッチで左サイドを走っていたサイドバック、小林に針の穴を通すようなスルーパス。小林のシュートは相手ディフェンダー、エスコバルがブロック。こぼれ球に反応したのは逆サイドから絞って侵入していた阿部であった。阿部のシュートはキーパー、イギータがファインセーブするも、最早コロンビアゴール前は「出浦ゾーン」という監獄に閉じ込められる。クリアもままならず、オーバーラップした北爪がシュート、再び弾かれたボールを左の椎原、クリアするコロンビアのボールを下川が頭でブロックし、最後にエース、斎藤がそのまま下川からのヘディングパスを鋭角に右から左へ首を振り、技ありのヘッドで2-0とする。ゴールを決めた斎藤が
「まだ足りねー!あと3点だ!」
と雄叫びを上げる。ここで前半が終了する。
後半は日本ボールから。日本は立ち上がりから猛攻を仕掛ける。両サイド阿部や椎原が仕掛けるが、コロンビアディフェンダーに再三止められる。だが、取られても3人がかりで奪い返す。日本の狼たちが南米のクーガーを仕留めるのは時間の問題だった。
龍永が後方に下がりボールをもらうと、前線の斎藤とボランチの仲村がポジションチェンジ。ボランチ仲村が最前列に入った。右サイド鈴木仁弧のセンタリングをコロンビアのペナルティエリアライン上にいた斎藤がゴール前に落とす。敵味方入り乱れての攻防を制したのは、ポジションチェンジし走り込んだ仲村であった。コロンビアディフェンダー陣が脚を伸ばした隙間をかいくぐり、ゴールに身体ごと飛び込んだ。3-0。だが、更に日本イレブンは声を荒げた。
「あと3点!あと3点!あと3点!」
この飢えた狼の群れが発する咆哮に、コロンビアの黒豹達は
「何て野郎共だ!舐めやがって!」
と火を付けた。
ここで両陣営選手交代。阿部に代えて西脇、尾崎に代えて米倉、鈴木仁弧に代えて益山。ポジションチェンジが行われる。3-4-3になる。ボランチ仲村が右サイド、龍永がボランチで米倉と組む。右ウィングに西脇。ストライカーが4人全員ピッチに立った。
すると、交代直後の後半21分。日本のスローインから西脇が魅せた。右で受けた仲村のパスを右ボックス付近を走る西脇にパスが渡ろうとしたその時、西脇には1人のセンターバックが付いていた。西脇はそのパスを受けず、相手ディフェンダーと並走していたその瞬間、西脇の大きく伸ばした右脚を軸に大きく身体を反転、そのボックス内に流れそうになったパスをそのまま左脚でシュート。ディフェンダーのブラインドになったキーパーは全く反応出来ず、ボールはゴール右隅に蹴り込まれた。4-0。このゴールはワールドカップ初戦、オランダ戦で龍永が決めたゴールと全く同じである。
この後もコロンビアが次々と日本ゴールを襲うが、キーパー堀川と下川、北爪、小林、下がった米倉が粘って止める。日本ゴール前でボールを奪った下川が左の益山へ大きくパス。ワンタッチしたボールはボランチに下がった龍永へ、その後逆サイドの西脇へサイドチェンジ。このボールを仲村へ戻しセンタリング。すると、コロンビアゴール前で斎藤と、上がってきた龍永が身体を張り相手ディフェンダーの邪魔をする。斎藤がヘッドで外から走り込んだ龍永に折り返し、龍永は身構えているキーパー、イギータを確認すると、自らの前を走る椎原へ落とす。その椎原が手前に落とした龍永のヘディングパスをそのまま豪快にボレー。このスーパーゴールが決まり5-0とした。その後、10分程コロンビアの攻撃を受けるがタイムアップ。初戦を大差で下した日本。だが選手達は
「まだ点取り足りねー!」
「3点取れなかった!」
と負けたコロンビア以上に悔しがる。彼らは常にハットトリックを狙っている。それは登録メンバー18人全員である。飢えた狼の群れが時を経て更に貪欲にパワーアップしていたチームへと変貌を遂げていた。勝利者インタビューでは、龍永を含め
「ハットトリック出来なかったので悔しいです。」
と口々に答えた。日本の視聴者は
「こいつら馬鹿じゃねーのか?」
と思っていたが、彼らは本気だ。この大会は金メダルという獲物を獲るための狩りである。と全員が認識していた。
次戦の相手はコートジボアール。圧倒的な身体能力と強靱なバネ、個々の力は歴然であったが、キャプテン龍永が発言する。
「そのバネを90分の間で錆び付かせりゃいい。」
相手は3トップ。破壊力抜群のセンターフォワード、ドログバの左右にカルー、バガヨコのスピードあるウィングが構えている。ボランチにはトゥーレ兄弟が並ぶ。
アフリカ最強と謳われたコートジボアールとの一戦が始まる。日本のスタメンは初戦と変わらず。圧倒的な個の力で次々と日本の選手を吹き飛ばすコートジボアール。前半16分にはボランチ尾崎が靱帯を痛め交代。米倉が投入される。その米倉から
「俺がアンカーやるから、龍永と仲村でセンターハーフやれってよ。」
と太田監督の指示を伝える。前半19分。右サイド、カルーの突破からコートジボアールのエース、ドログバに決められ0-1とされる。ここで日本の狼達が、アフリカ象を睨み付け、
「テメーらの象牙へし折ってやる!」
と怒りを露わにする。
前半20分。アンカーの米倉がキープ。龍永、左サイドの椎原へパス。すると、椎原の外側を追い越した小林と、左センターハーフの仲村がトライアングルパスで崩す。中央を猛烈な勢いで突っ込んでくる龍永へグラウンダーのパスを送り、シュート体勢に入るが、相手ディフェンダー、ゾコラとドモロー-がブロックに入ったのが見え、右サイドから走り込んできた阿部へパス。阿部がキーパーと一対一の局面でクライフターンを敢行。完全に抜き去りゴールに流し込む。たった2分で同点とする。
「あと3点」
と呟く阿部、そして日本イレブン。まだこの時のコートジボアールは鷹をくくっていた。
前半29分、日本ゴール前にドログバ、バガヨコ、ヤピヤポが一気に押し寄せてくる。2本の牙と1本の長い鼻を持つ巨大な象が突進してくるようなこの攻撃に下川、北爪、米倉がことごとくブロック。最後はゴール右を狙ったドログバの無回転シュートを堀川がビッグセーブ。こぼれ球を鈴木仁弧が搔きだし、センターハーフの仲村が拾う。前を見た仲村は、コートジボアールが戻りきっていることを確認し、ドリブルで運ぶ。上がってきた米倉へパス。すると、センターハーフの龍永が右サイドを疾走している。阿部が龍永のポジションと入れ替わっていた。その阿部を経由して右サイドの龍永に繋ぐ。龍永にしては珍しいサイドのドリブル突破。龍永が2人抜くと、ボックス内へ侵入した阿部へパス。そのパスを前線で身体を張っていた斎藤へ縦パス。相手ディフェンダーを背負いながら斎藤が豪快なシュート。2-1と逆転させる。
更に前半45分、今度は前線の斎藤とポジションチェンジした龍永が前に出る。斎藤はボールキープしながら味方ディフェンダー陣がオーバーラップしていくのを確認しつつ、その内の1人、北爪へスルーパス。北爪は同じくオーバーラップした下川とのワンツーで崩しシュート。ゴールバーを激しく叩いたが、そこにいた龍永がバイシクルシュート。これが決まり3-1と突き放し前半を終える。
後半から選手交代。阿部に代わり篠原、左サイドバック小林に代わり両ウィングが出来る川渕が入る。龍永を右サイドに張らせ、3-4-3のシステムで臨む。後半は一進一退の攻防が続く。斎藤のヘッドがバーを叩き、カルーのシュートが枠外に逸れる。椎原の飛び出しはゾコラに阻まれ、ドログバのバナナシュートがポストに当たる。
後半24分、日本は勝負に出る。鈴木仁弧に代わり、センターバックに龍永の先輩染谷、斎藤、椎原に代えて西脇と益山。3-5-2にシステム変更、龍永と西脇の2トップに変更される。
迎えた後半31分。代わって入った染谷がバガヨコのドリブル突破を防ぐ。イージーなボールをボランチ米倉が回収し、前方へフィード。トップ下へずれた川渕が左サイドに入った益山へ送る。益山がドリブルでボックス内に侵入すると、ゾコラに止められ、ゾコラが近くにいたダダ・トゥ-レにパスを出そうとした瞬間、仲村がスライディングでパスカット。こぼれ球を益山が再び拾い逆サイドの篠原へ振る。篠原は右ボックス内でワンタッチし、中央を走る川渕へ横パス。この時、フォワードの龍永、西脇が相手ディフェンダーを身体を張って邪魔をしていた。どフリーの川渕がキーパーを引きつけループシュート。ポロ・トゥ-レがヘッドでクリアするも、ボールはトゥ-レごとゴールネットに入る。これで4-1。川渕が
「あと3点、あと3点」
と、どんどん大きな声を出し、コートジボアールの選手を睨み付ける。
試合も残り僅か。後半ロスタイム48分。仲村がボールキープ。今度は川渕と右サイド、篠原がポジションチェンジ。更に、龍永と西脇が両サイドに流れ、空いたスペースに益山が走り込む。篠原に繋ぎ最前列の益山へパス。ディフェンダーが寄せてきたので益山はボックス内でディフェンダーを背負いながら真横を走り抜ける篠原へ楔のパス。これを篠原が持ち込み地面に叩き付けるようなシュート。これが決まり5-1。日本の決勝トーナメント進出が決まった。だが、誰一人喜びもせず、口々に
「あと3点取れた筈だ!」
と全員声を荒げるのであった。この予選リーグの戦い。龍永は自らも点を取るだけでなく、ポジションチェンジを繰り返し、味方にゴールを取らせるプレーが目立つ。また、龍永を含めた全員が頻繁にポジションチェンジを繰り返し、相手を混乱させた。今大会の日本は相手にとってもっともやりにくい相手となっていた。
五輪編ですが、対戦相手は想像で決めました。
このメンバーも個人的に選んだメンツです。




