第27話 カルチョ・デッレ・ベルヴェ 猛獣たちのサッカー
この話から最終章へ進みます
202✕年イタリアリーグ、フベントルス。ここに、歴戦の猛者達が集結した。背番号順に追っていく。
1番GKゾフ(イタリア)、2番DFシレア(イタリア)、3番DFカブリーニ
(イタリア)、4番DFコーラー(ドイツ)、5番DFセザール(ブラジル)、6番MFソウザ(ポルトガル)、7番MFデシャン(フランス)、8番MF熊谷(日本)、9番FWロッシ(イタリア)、10番MFバッジオ(イタリア)、11番FWインザーギ(イタリア)、12番GKペルッツィ(イタリア)、13番DFユリアーノ(イタリア)、14番MFネドベド(チェコ)、15番MFオリセ-(ナイジェリア)、16番MFディ・リービオ(イタリア)、17番FWトレゼゲ(フランス)、18番FWスキラッチ(イタリア)、19番FWビアリ(イタリア)、20番FWラバネッリ(イタリア)、21番FW出浦(日本)、22番GKシュチェスニー(ポーランド)、23番DFトリチェッリ(イタリア)、24番MFマルキージオ(イタリア)、25番MF秋山(日本)、26番MFダービッツ(オランダ)、27番DFフォルトゥナート(イタリア)、28番DF田中(日本)、29番DFピエルコウッド(イタリア)、30番MFタッキナルディ(イタリア)そして監督は名将、トラパットーニ(イタリア)。このメンバーで今シーズン戦うことになる。
龍永を含め、このチームはまるで猛者と言うより猛獣だ。練習からしてワールドカップものである。世界中から集められたゼブラカラーの猛獣達。鉄格子の模様のようなユニフォームからしてそうなのだろう。試合が始まれば、勝利するまでその監獄から逃れられない。そんな形相で龍永達日本人5選手は戦っている。
キーパーはまさにライオン揃いといったところか。センターバックは象のように強靱で長い鼻のような脚と、でかい耳のような守備範囲で守っている。サイドバックは猛牛のようにサイドをゴリゴリ突進し、ボランチは犀のような鋭い角を尖らせてぶちかます。両ウィングは鳥のように飛び回り、トップ下は水を得た魚のごとく動き回る。
そしてこのチームの前線に君臨するのは、「ニホンオオカミJr」こと出浦龍永。龍永が前線に入ると、このチームは「ワイバーン」というフォーメーションになる。日本代表コーチの巻が現役時代「Mボックス」という変則的なフォーメーションで勝ち続けてきたが、ユベントルスは、龍永を頂点に置くことで、「ワイバーン」というフォーメーションで勝ち続けている。
この「ワイバーン」というフォーメーションを考えたのは、名将トラパットーニではない。チーム1人1人が話し合い、キャプテンのバッジオがまとめ、監督が落とし込んだものだ。このフォーメーションは、先のワールドカップ決勝の日本代表が編み出した真田丸に陣形が似ている。あのカルチョをこのチームで出来ないかと皆で話し合っていたのだ。
「日本代表が出来て俺達に出来ない訳がない!」
と誰かが発言し、
「やってみよう。」
ということになった。その代償が猛獣の集まりとなった原因である。「ニホンオオカミJr」の牙に噛み付かれ、伝染したようなチーム状態。今季の補強でボランチが多く獲得したのはその為である。日本の武藤、影山、森崎のようなプレーが出来る選手を次々と獲得した。このチームでのセンターバック要員は全員攻撃のための選手である。ソウザ、デシャン、熊谷、オリセー、ダービッツがリレー方式でシーズンを回していき、この全員が怪我で離脱しても、ネドベド、ディ・リービオ、マルキージオ、秋山、ピエルコウッドがボランチとして最終ラインに入る。ウィングにはカブリーニ、トリチェッリ、フォルトゥナ-トのサイドバックタイプと、本来ストライカータイプのインザーギ、トレゼゲ、スキラッチ、ラバネッリ等が翼を開閉し、敵ゴール前に「閉じ込める」という戦法を確立した。そこに龍永という飛龍の炎が止めを刺すということだ。相手は自陣に閉じ込められ、龍永やロッシ、バッジオやビアリが放つ「牢屋の中の火炎地獄」に燃やされ、灰となって負けていく。そのような戦いでフベントルスは開幕からなんと13連勝。龍永が五輪予選でチームを離脱するまで勝ち続けた。キーパーゾフが飛龍の尻尾となり守備範囲を広げ、積極的にラインを押し上げた。インザーギやトレゼゲののスピードや、カブリーニやトリチェッリのパワーが翼を自在に操り、センターバックとボランチが強靱な胴体として突進してくる。フォワード陣の炎のようなシュートで相手陣内を焼き払う。対戦相手は対策にかなり参っていた。この13連勝も昇格した弱小チームから勝ち星を得たにではない。
開幕戦VS ASミラン4-0
第2節VS ラディオ5-0
第3節VS ナポリタン4-1
第4節VS サンプドリアン3-0
第5節VS パルム4-2
第6節VS ジェノヴァン6-1
第7節VS アトランタ5-2
第8節VS ACローマ3-1
第9節VS フィレンターナ3-0
第10節VS インテルス3-2
第11節VS パレルモン6-0
第12節VS カリアーニ4-2
そして第13節VS トリーニョのトリーニョダービー5-0
と、なんと13戦全て最低3点取って勝っている。「あと3点。」が口癖の龍永にチーム全体が伝染し、敵チームはその牙で噛み付かれ、3点以上という大火災で完膚なきまで焼き尽くされた。くすぶっていたイタリアリーグに龍永の炎が火を付けたのだ。
更にチャンピオンズリーグでも
開幕戦VS リアル・マドレー4-3
第2節VS アーセノル5-0 鳥海が在籍
第3節VS マルセーヌ6-3
第4節VS セルチェック5-1 本田が在籍
第5節VS バイエリン4-2 池田が在籍
第6節VS アジャックス5-2 阪倉が在籍
最早滅茶苦茶である。あの伝統ある世界選抜のようなチーム相手に3点以上取って勝利を経ている。
次はイタリアリーグ戦VS ウッディーゼ戦、チャンピオンズリーグバルセロス戦が控えている。因みに龍永は、ハットトリックこそないものの、19試合連続ゴール中である。この後控える五輪予選でその記録がストップしてしまうとは・・・
この頃の龍永は、自ら点を取るより、周りに点を取らせるプレーが目立つ。これは、先の五輪を見据えてのプレーとも見て取れる。更に言えば、龍永はチームメイトを信用する用にもなってきた。本来ガチガチのセンターバック、コーラー、セザール、ユリアーノ、ピエルコウッド、そして日本の田中まで得点を決めているのだ。龍永やバッジオが前線でボールを溜めている間にオーバーラップしてのゴールが多い。今季、このチームで得点していない選手は13節とチャンピオンズリーグ6節を含めると、なんとキーパーの3人だけである。この「ワイバーン」という新たなフォーメーションに列強のチームは辛酸を嘗めた。
イタリアリーグ第14節ウッディーゼ戦を5-0で叩きのめしたフベントルス。今回はチャンピオンズリーグ第7節バルセロス戦の試合のことである。フベントルスは今季、交代枠5人をフルに使っている。この日の龍永はベンチスタートだった。特に珍しくもない。このチームはしっかりターンオーバーが出来るチームだ。誰が欠けても問題はないが、この日の試合には龍永に深く関わる人物が2名姿を表す。
1人目は、龍永の母、京香。ある日、龍永と連絡を取った京香。龍永の試合が観たいと自ら言いだした。それならと、年末年始なら時間が取れるだろうと、龍永は母に初めてチケットを送った。ただし、龍永に取ってのアウェー、スペインのバルセロス戦である。良かったら母の友達もと、団体でチケットを送っていた。男の人もいなければ危ないからとSPまで用意するくらい観客席は殺伐としている。今はワールドカップじゃない。日本サポーターはいないだろう。だからこそ母を気遣い用意した。母から頼んできたのは初めてだが、ここの所日程上アウェーゲームが続いているため、それならこの試合と決めた。相手はアルゼンチンより上かもしれない。そんな相手を倒す成長した俺を観てほしいと思っていた。京香は龍永にプレゼントされたフベントルスのグッズを身にまとい、フベントルスサポーターの中に紛れていた。
そして、もう1人とは、バルセロスのベンチに座っていた。ワールドカップ決勝で、龍永のユニフォームを破り退場になったあのメッツである。が、メッツはユニフォーム姿ではない。スーツを着ている。メッツはあの決勝を最期に引退し、何と今季からバルセロスの監督に就任していた。メッツは試合前、龍永に
「何だお前、今日はベンチかよ。つまんねーな。」
と龍永と話していた。あの試合から龍永とメッツは友達になっていたが、敢えて2人は戦いの続きがしたいと別のチームで相対する事になったのだ。対戦を楽しみにしていたメッツは残念がるが、龍永はこの試合の後、次の五輪予選の為にチームを離れる事が決まっていた。
試合が始まった。早くもボルテージがあがるここ、「ガンプ・ノウ」。あまりの盛り上がりに京香は困惑していた。
「龍永はいつもこんな中で試合しているの?」と。
Jリーグとは比べ物にならない。ましてやここは敵地。周りのほとんどはバルセロスサポーターである。立ち上がり前半5分。バルセロスの攻撃。左サイドストイチコフのパスに反応したのはロマーリオ。だが、フベントルスキーパー、ゾフに阻まれる。頭を抱えるロマーリオを他所に、ゾフが大きなバントキック。左サイドのトレゼゲが受けるとすぐさまトップ下のバッジオに繋ぐ。フベントルスの必勝パターンが始まる。中盤を追い越しオーバーラップしたコーラーがシュート。先制点が決まる。
だがその直後、今度は右サイドラウドルップからボランチのシャビがロングシュート。すかさず1点を返す。さらに前半32分、グアルディオラから前線のロマーリオへバスが届く。ロマーリオはゾフの目の前で溜めると、オーバーラップしたセンターバック、クーマンが加速をつけてペナルティエリア内へ侵入。フォワード、スアレスと繋いでクーマンの強烈なシュートでフベントルスは逆転された。1-2。前半はこのスコアで終了するが、メッツはここからがフベントルスの本領発揮だ!気を抜くな!と檄を飛ばしていた。先のワールドカップでの龍永がこれから出てくる筈だと、あの「あと3点」男が黙っていないと思っていた。
そして後半、背番号21が現れる。出浦龍永。後半から登場。メッツとバルセロスイレブンを鋭い眼光で睨み付けている。メッツが
「出てきたな、ニホンオオカミJr!続きやろーぜ!」
とニヤリと笑う。その中で、フベントルスサポーターの中から声援が飛んで来る。
「龍永ー!」
と。龍永は1発で母だとわかった。龍永はフベントルスサポーターに指を3本立てる。ハットトリックを狙っている訳ではない。今季、この龍永の3本指のパフォーマンスは、フベントルスサポーター達にとって有名だった。「3点取る」というサインである。実際に龍永が出場し、そのサインをすると、負け試合でも大逆転し、勝ち星を取る事が多かった。母のいるフベントルスサポーターの前で、龍永は勝利宣言のような事を約束したのだ。
後半が始まる。立ち上がり1分、前線の龍永に早くもパスが通る。バルセロスディフェンダー陣3人に囲まれた龍永だが、まるでトルネードのようにボールを取り囲み、ポジションチェンジで最後尾にいる筈のダービッツに横パス。右サイドのビアリ、中央のバッジオから、今度はセンターバックの田中がオーバーラップし、シュート。田中のゴールが決まり同点に追いつく。遂にワイバーンが火を吹いた。
続けざまに後半16分、再び龍永にボールが渡る。トラップ際相手ディフェンダー、プジョールが激しくタックルをかますが動じない。交代で入ったフォワード、スキラッチにスルーパス。その時点でバルセロスゴール前は混戦。何と最終ラインは最前線を務めていた龍永であった。後はキーパー以外全員上がっていた。フベントルスの監獄に閉じ込められたバルセロス。バルセロスのクリアもオーバーラップしたフベントルスディフェンダー陣がブロックしてしまう。混戦の中から左サイドのトレゼゲが押し込みフベントルス逆転。バルセロスベンチのメッツ監督は
「してやられた!」
という表情だった。
更に後半27分、今度は交代出場の日本のトップ下、秋山にボールが渡る。龍永にはマークが付く。秋山は龍永の1つ前のU20ワールドカップのキャプテン。トップ下やボランチ、サイドバックまでこなすユーティリティプレーヤーだ。その秋山が試合を落ちつかせる。一旦スローテンポでパスを回していくフベントルス。今度はじわじわと上がりながらゾーンを狭め、段々とバルセロス陣内に閉じ込めていったその時、再びダービッツがゴール前へ走りスイッチが入った。フベントルスの選手が次々とバルセロスゴール前を急襲。
(龍永は何処だ?また最後尾か?)
と思ったその瞬間、龍永は右サイドビアリとポジションチェンジ。バルセロスディフェンダー、プジョールは完全にゴール前から閉め出された。龍永は秋山、ボランチのソウザと繋ぎ、遂にゴール前へ侵入。左脚で豪快なシュートが炸裂。4-2。フベントルスサポーターは大絶叫。その頃京香は大喜び。こんなにサッカーではしゃいだのはいつ以来だろう?京香は16年前から完全に戻ってきた。ゴール後、龍永は母に向かってまた指を3本立てた。
「母ちゃーん!」
と日本語で叫び拳を突き上げる龍永。そんな息子に大手を降る京香。日本語で
「あの子!あたしの息子なんです!」
と思わず日本語で周囲に話す京香。通じてる筈はないのだが、フベントルスサポーターには2人がわかっていた。前へ前へとフベントルスサポーターに促される京香。遂に最前列で龍永とタッチを交わした。
試合はそのまま終了。4-2。フベントルスの大逆転勝利。龍永はリーグ戦ウッディーネ戦でもゴールを決めているため、19試合連続ゴールを果たした。試合後、龍永はフベントルスサポーターの前に来て、イタリア語で話す。
「この女性は俺の母ちゃんなんだ。」
と、誇らしげに語った。そして京香に、
「母ちゃん。これから一緒に日本へ帰ろう。五輪予選があるんだ。観に来てくれるよな?」
と言ってロッカールームに引き上げた。ここはアウェー。長居は禁物だ。
次の日、2人は揃って日本に帰国した。機内で龍永は、
「親父が金メダル取ったの俺観てねーんだよな。次の五輪で自分で取るよ。だからまた来てくれよな。」
と笑いながら母に語ったと言う。
龍永の移籍先のモデルは80~00年代のユベントスです。昨今はセリエAが目立たないので書いてみました。




