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第25話 母さん・・・

「俺は!ニホンオオカミJrだ!」


龍永がそう叫んだ時、ワールドカップを観戦している世界中がどよめいた。


「ニホンオオカミ?!」

「あのワールドカップであの世に逝ったあいつの事か?」

「今まで何で隠していたんだ?」

「出浦ってのは偽名か?」

「彼に息子がいたのか?」


ピッチサイドにいた者は沈黙していた。そして誰もが息を呑んだ。


 それは16年前、ワールドカップのピッチで命を落とした日本のキーパー・大神敬助のユニフォーム だった。彼は大会前、「OHKAMI」の表記を「OOKAMI」に代えて臨んだ試合で命を落とした。


 スタンドで観戦していた母はその黒いユニフォームを見た瞬間胸が締めつけられた。自室のタンスにしまってあった筈のあのユニフォームが消えていた理由。それを持ち出したのが誰なのか。全てが繋がった。母は震える声で呟いた。


「・・・あの子・・・持って行ったのね・・・」


実際にそのユニフォームを託したのは静香だったが、涙が頬を伝い落ちた。母はただ、胸に手を当てて泣いた。龍永は、父のユニフォームを身にまとい、ピッチに立っていた。その姿はまるで父、大神敬助が再びワールドカップのピッチに立っているかのようだった。全てを背負い、龍永は世界の頂点に立った。


 優勝セレモニーが始まった。まず勝利者インタビュー。キャプテン武藤、エース、工藤、ベテラン秋葉、キーパー佐藤、そして龍永の番に回ってきた。気づけば代表ファーストタッチでゴール、その試合でハットトリック、オランダ、ブラジル、メキシコ、そしてアルゼンチン戦でハットトリックを達成し、更に17ゴールの得点王、ワールドカップ1試合通算ゴール数を伸ばした記録ずくめのヒーローのインタビューに日本中が注目した。ピッチ中央に設置された特設ステージ。照明が眩しく、世界中のカメラが一斉に向けられる。そして遂にリポーターが名前を呼んだ。


「出浦龍永選手、こちらへお願いします!」


スタジアムが揺れた。そして沈黙した。ハットトリックを決めた時の発言と、今、龍永が持っているユニフォームの謎を。龍永は、この大会で前代未聞の記録を叩き出した。世界が、日本が、そしてスタンドの母と姉が、龍永の言葉を待っていた。青い代表ユニフォームを脱ぎ、父の黒い「21番 OOKAMI」を着たまま。その姿は、まるで2つの時代を繋ぐ者のようだった。16年前に命を落とした父、70余年ワールドカップに挑み続けた日本代表、そして今日、世界の頂点に立った息子。全てがこの瞬間に重なっていた。マイクを握った龍永は、少しだけ息を吸い、ゆっくりと口を開いた。


インタビュー「優勝おめでとうございます。」


龍永「ありがとうございます。」


インタビュー「大会を通じて得点王、4度のハットトリックなど、記録ずくめのご活躍でした。心境は?」


龍永「今回はチームの皆さん、サポーターの皆さん、スタッフの皆さんに随分助けていただきました。本当に最高のチームの一員になれたからこその結果だと思います。それにまだまだ足りない部分も見つかったので、これからもっと頑張りたいと思います。」


リポ-ターは次の質問で、世界の空気を一変させた。会場が静まり返った。インタビューは確信を突いた。


「そのユニフォームはどこで手に入れたのでしょうか?」


龍永はゆっくりと口を開いた。龍永は自信を持ってはっきりと答えた。


「このユニフォームは、16年前に僕の父がワールドカップで着用していた物です。このユニフォームを絶対に決勝の舞台に持って行こうと決心し、サッカーを始めました。こんなに早く達成できるなんて夢にも思いませんでした。あの日の悲しみは一切ありません。」


その声は震えていない。むしろ、静かで、強くて、深かった。スタジアムの空気が変わった。歓声が止まり、世界中が聞く姿勢になった。謙虚で、誠実で、チームを立てる。日本中が


「この子は本物だ」


と確信した。そして龍永は続けた。


「けど、僕の母はあの時間から止まったままなんです。もし、この試合を母が観ていてくれたのなら、真っ先に感謝の言葉を伝えたいのは母なんです。今の今までずっと苦しんできたのですから。」


その言葉を聞いた瞬間、母は胸に手を当てて崩れ落ちそうになった。止まっていた時間が、龍永の言葉で一気に動き出した。母は涙を流しながら呟いた。


「・・・龍永、ありがとう・・・」


姉は母の肩を抱きしめ、泣きながら微笑んでいた。龍永の言葉は、ただのヒーローインタビューではなかった。父の死で心を閉ざした大好きな母へのメッセージである。全てが一本の線で繋がった。世界中の視聴者は悟った。


「この少年は、父の魂を背負い、母の時間を動かすために戦ってきたのだ」


そのインタビューの最中、スタジアムのモニターに母と姉が観客席にいるのを発見し、映し出した。その瞬間、龍永はモニターに向かって笑顔で手を振った。龍永はモニターを見つけた瞬間、少年のような笑顔になった。そして、マイクを持ったまま、大きく手を振った。


「母ちゃん!姉ちゃん!優勝したぞー!」


2人は嬉し泣きしながら手を振った。2人の笑顔を確認すると、家族の笑顔を確認した龍永は、再びマイクに向き直り、力強く言った。


「次はワールドカップ連覇、それと父が金メダルを取った五輪優勝、そしてバロンドールを取れるような選手を目指して頑張ります!応援ありがとうございました!これからもよろしくお願いします!」


とインタビューを締めくくった。これからの日本代表を背負った宣言だった。この瞬間、世界中のメディアは確信した。日本に新しい伝説が誕生した。その伝説の名は


「出浦龍永」


 日本サポーターの中に、60歳を超えた熱狂的なジェッツサポーターがこのアメリカの地にきていた。彼は30年間ジェッツと日本代表を応援してきた人物である。そんな彼が拡声器を使い、大声で泣きながら歌った。


「共にー、歩もー!このとーきーをー!決してー!忘れぬ、おーもーいー!熱きー!血潮をー!持ちたーたかえー、オーオーオー!出浦ー!龍永ー!」


ジェッツの代表的な応援歌、「アメイジング・グレイス」である。それが日本サポーター全員が呼応し派生したスタジアム全体に響き渡る。


「共にー、歩もー!このとーきーをー!決してー!忘れぬ、おーもーいー!熱きー!血潮をー!持ちたーたかえー、オーオーオー!出浦ー!龍永ー!」


太鼓のリズムに合わせ、日本サポーターが次々と跳ねる。


「共にー、歩もー!このとーきーをー!決してー!忘れぬ、おーもーいー!熱きー!血潮をー!持ちたーたかえー、オーオーオー!出浦ー!龍永ー!」

「共にー、歩もー!このとーきーをー!決してー!忘れぬ、おーもーいー!熱きー!血潮をー!持ちたーたかえー、オーオーオー!出浦ー!龍永ー!」

「共にー、歩もー!このとーきーをー!決してー!忘れぬ、おーもーいー!熱きー!血潮をー!持ちたーたかえー、オーオーオー!出浦ー!龍永ー!」


鳴りやまぬチャント、歌いながら涙する拡声器を持った長年のジェッツサポーター。日本サポーターが肩を組み、手を取り合い、この「アメイジング・グレイス」を泣きながら合唱する。今まさに誕生した待望の日本人ストライカーに賛辞を送る魂の歌がアメリカのスタジアムに響き渡った。ジェッツと日本代表の元守護神、大神敬助とその息子龍永、そして、日本代表を称える為にいつまでも歌った。


 その後、退場したアルゼンチンの10番、メッツが出入り口で呼んでいた。


「ユニフォームを交換してくれ。」


との事。龍永は間違って父のユニフォームを脱ごうとした。しかしメッツは


「違うよ。お前のだよ。優勝おめでとう。」


21世紀のサッカーの神様が、若干21歳の若造を男として認めた光景に、場内は拍手を送った。そしてメッツは、龍永の右腕を持ち、上に掲げた。勝利したボクサーが対戦相手の健闘を称えるかのように。龍永は、そのメッツに破かれたユニフォームを彼に渡した。優勝セレモニーが続く。キャプテンに大統領からワールドカップが手渡された。キャプテン武藤は雄叫びを上げて大きく掲げた。スタジアムが揺れ、日本中が歓喜に包まれた。そして一人ずつ、ワールドカップに合掌した後、手に取った。龍永は一番最後だった。皆と同じように合掌した後、ワールドカップの下部分をを父のユニフォームで覆う様に掲げた。まるで、


「親父、一緒に世界の頂点に立とう。」


そう語りかけるように。勝利とゴールに飢え、いつも疲れている険しい表情の若者からようやく笑みがこぼれた。出浦龍永、若干21歳最高の夏だった。だが、彼の物語はこれからも続く。


 セレモニー後、代表チームはいつも通りロッカールームを片付け、颯爽と去って行った。選手達は疲労を取るためにこの日は休んだ。皆興奮して寝付けなかった。気が付くと、選手も監督もコーチ陣も、全員がロビーに集まっていた。


「あの・・・みんなに話したいことがあるんですけど・・・・」


今大会、いくらゴールを決めても喜ばずニコリとも笑わない龍永。ゴールを決めた後いつも難しい顔で遠い空を見上げていた龍永が、初めて自分の事を自ら話す。誰も聞けなかった、誰にも話せなかった事。それを、今、世界の前で問われた。龍永は一瞬だけ目を伏せた。その仕草は、父を思い出した少年のようであり、世界を背負う男のようでもあった。


 何故父の「大神」ではなく「出浦」を名乗っているのか。それは母にもう一度笑顔に戻って欲しいからだと。父は尊敬しているけど、生前「お母さんを泣かせるな」と散々言っていた人物が一番苦しめている事からの葛藤なのだと。そして、死んだ父より、目の前で残された母と姉が何より大事なのだと。チームメイトや監督、コーチ陣は静かに聞いていた。龍永が自分の事を話すのは、これが初めてだった。サッカーを始めた時から現在に至るまで、誰にも話さずサッカーだけを黙々とやっていた龍永。初めて自分の気持ちを吐露出来る仲間達が今ここに全員集まっている。最後に龍永は泣き出しそうになる。龍永の話が終わると、


「つらかったな。」

「マジで良く頑張ったな。」

「みずくせーよ。お前。」

「良く話してくれたな。」

「ありがとな!龍永!」


保坂監督、代表コーチとして帯同していた前沢、ベテランの秋葉、キャプテン武藤、エース工藤が次々と話した。代表コーチを務めた羽生が涙をこらえながら話す。


「あの時、子供だったお前1人に、こんなに重たい物を背負わせてしまった。俺達みんなで背負わなきゃ行けない物を、お前は誰にも言わず文句も言わずにずっと1人で背負ってきたんだな。決勝の3点目のゴール、お前の父さんを思い出したよ。アクロポリス五輪準決勝アルゼンチン戦、キーパーの位置からオーバーラップしたお前の父さんのゴールを。そしてお前のあのシュートは確実に父さんを超えた証拠だよ。」


彼らも龍永と感情を共有し、涙した。そしてみんなで龍永に拍手を送った。すると、龍永は大泣きしてしまった。龍永は思った。


「ワールドカップや得点王より、こっちの方が嬉しいや・・・・。」


明日メディアに訪ねられたら、何もかもきちんと話そうと決めた。そしてキャプテン、武藤が大きな身体の龍永を抱きしめ、話す。


「龍永、これからはちゃんと頼ってくれよ。俺達はファミリーなんだからよ。お前はもう日本代表っていうファミリーの一員だからな。ゆくゆくは未来のキャプテンはお前だからな。確かに指名したぞ。」


龍永の涙が止まっていった。

 

 次の日、優勝パーティーと記者会見を行った。華やかな会場。世界中のメディア。フラッシュの嵐。だが、龍永は落ち着いていた。むしろ、覚悟を決めた人間の顔をしていた。そこで龍永は全てをゆっくりと語り始めた。その声は静かで、一言一言が重かった。。16年前にワールドカップで父を失ってからの事から現在に至るまで。


「16年前、僕は目の前で父をワールドカップで失いました。あの日から、僕の家族の時間は止まったままでした。母はずっと苦しんでいました。姉も、僕を支えながら必死に生きていました。だから僕は、父の大神ではなく、母の姓、出浦を名乗っています。父は尊敬しています。でも、生前「お母さんを泣かせるな」と言っていた父が、一番母を苦しめている。その葛藤がずっとありました。だから、僕は決めたんです。死んだ父より、目の前で生きている残された母と姉を守るって。僕がゴールを決めることで、母が喜んでくれると思って、サッカー始めた子供の時から今日まで突っ走って来ました。僕にとって一番大事なのは、残された家族なんです。」


会場は静まり返った。誰も息をするのを忘れたようだった。龍永は続けた。


「父のユニフォームを持ってきたのは、父を超えたいからじゃありません。母の時間を動かしたかったからです。母がもう一度笑えるように。姉が胸を張って生きられるように。そのために、僕はサッカーを続けてきました。それと、父がイタリアでプレーしていたとき、父は負傷して戦線離脱していました。そんな時、父は僕とサッカーをして遊んでくれました。父は子供の僕に気を遣うようゴールを決められていましたが、この大会で対戦したチームの中で、当時の父ほどの威圧感を持つ選手は誰もいませんでした。父の守るゴールは何より大きく、遠かった。得点王を決められたのは、そんな父のおかげかもしれません。ちょっと過去に逸れてしまって申し訳ありません。」


 その言葉は、優勝の喜びよりも、得点王の栄光よりも、はるかに重く、深く、温かかった。メディアは沈黙した。誰も軽い質問を投げることができなかった。世界中の視聴者は悟った。龍永は、父の影を追ったのではない。母と姉の未来を取り戻すために父の亡霊と戦ったのだ。そしてその戦いは、ワールドカップ優勝という形で結実した。


 記者会見の後、その場にいたメディアは盛大な拍手を送った。個人を中傷するメディアでさえも彼を応援する覚悟を決めたのだ。もう下手な事は書けない、伝えられない。21歳の若者に世間は動かされた。


 龍永が語り終えた瞬間、会場は一瞬の静寂に包まれた。だが次の瞬間、盛大な拍手が巻き起こった。スポーツ紙、全国ネットのテレビ局、海外メディア、サッカージャーナリスト、そして普段は辛辣な週刊誌記者まで。全員が立ち上がり、龍永に拍手を送った。これは優勝したからではない。彼の言葉が、彼の生き方が、彼の覚悟が、人の心を動かしたからだ。普段なら、スター選手のスキャンダルを探し、少しのミスを大きく取り上げ、視聴率や売上のために煽るメディアもいる。だが、この日ばかりは違った。彼らは悟った。


「この青年は、傷つけていい存在ではない」


父の死、 母の苦しみ、姉の支え、自分の葛藤、そして世界の頂点に立つまでの道のり。それを真正面から語った21歳の若者に、誰も軽い言葉を投げられなかった。

ある記者は涙を拭きながら呟いた。


「こんな子を傷つける記事なんて、もう書けない。」


別の記者は仲間に言った。


「俺たちも覚悟を決める時だ。この子の未来を守る記事を書こう。」


メディアが敵ではなく、味方になった瞬間だった。龍永は、得点王だから尊敬されたのではない。ハットトリックを連発したから愛されたのでもない。自分の痛みを隠さず、家族を守るために戦ってきた姿が、人々の心を動かした。SNSは称賛で溢れ、海外メディアは「新しい英雄」と報じ、日本中の家庭で涙が流れ、子どもたちは彼に憧れ、大人たちは彼に勇気をもらった。21歳の若者が、国を、社会を、そして人の心を動かした。龍永は、最後にこう言って締めくくった。


「次は、絶対五輪の金メダルを取ります!」


と言いきった。


 そして優勝パーティー。それぞれの家族が参加した。そこで、実に3年ぶりに家族と再会した母子。しかし、サッカー選手になってからは中学の卒業以来、息子を直視していなかった。知らない間に息子は父と同じくらいの背丈、体つきになり、一瞬夫が生き返ったかのように思ってしまった。あれから3年、龍永の身長は3cm伸びていた。姉は母の手を握り、優しく微笑んだ。


「いつもの龍永だよ。お母さんが作ったハンバーグとオムライスが大好きな龍永だよ。」


と語りかけた。その言葉は、母の心の鍵をそっと開けた。華やかな会場。選手たちの家族が集まり、笑い声と音楽が響く。だが、その片隅で3年ぶりの母子の再会があった。龍永は無言で母を抱きしめた。龍永は何も言わなかった。ただ、ゆっくりと母に歩み寄り、その小さな身体を両腕で包み込んだ。母はその瞬間、堰を切ったように泣き崩れた。16年間の苦しみ、再び息子を失う恐怖と悲しみ息子の試合を直視出来なかった後悔、そして今日の誇り。すべてがこみ上げ涙になって溢れた。龍永は母を抱きしめながら思った。母は息子の腕の中で号泣した。改めて龍永は思った。


(母ちゃんの身体ってこんなに小さかったんだっけ?)


母も思った。


(知らない間にお父さんより大きな男になって。)


この抱擁は、ただの再会ではない。16年前に止まった家族の時間、母の心、姉の想い、龍永の決意。その全てが、この瞬間に溶け合い、ようやく前へ進み始めた。ワールドカップ優勝よりも、得点王よりも、ハットトリックよりも、この抱擁こそが、龍永が本当に欲しかった勝利だった。


龍永は母にささやく。


「何も言わなくていいよお母さん。今まで心配かけててごめんなさい。」


「母さん、俺、ワールドカップ獲ったよ。父ちゃんが、日本がずっと夢見ていたワールドカップを俺達が獲ったんだ。ワールドカップは悲しみや憎しみじゃない。喜びや幸せなんだ。だからもうあの時から戻ってきてくれよ。もう終わったんだよ。」


羽生と前沢両コーチ、ベテランの秋葉が前に出る。


「龍永、俺達にも謝らせてくれ。」


「あの試合、俺達は呆然と立ち尽くす事しか出来なかった。ガミさんが命をかけてまで守ったゴールを守れなかった。俺達は、自分達だけ前に進み、お前の家族を置き去りにしてしまった。この大会までずっと・・・でも子供だったお前はたった1人でそれを全部背負ってこの大会まで戦ていたんだな。お前はほんと強いよ。でも、これだけは言わせてくれ。龍永、これからは俺達も一緒に背負っていくからな!」


 そして、16年前の当時、ワールドカップに出場していた秋葉とコーチに入っていた羽生や前沢、京香と共に現地入りした旧代表選手達が、2人に深々と一礼した。それは謝罪でもあり感謝の一礼だった。ありがとうもごめんなさいもない、この世界的ストライカーを生み育ててきたのは紛れもなく母だったのだから。母は涙を拭き、震える声で、しかしはっきりと語った。


「これからも息子をよろしくお願いします。これからは息子の全試合を応援します。私は夫のサポーター第1号でした。そんな私が息子を今まで応援していなかったことは悔やんでも悔やみきれません。息子が苦しいときにはどうか私と一緒に支えて下さい。お願いします。」


とお辞儀を返した。


この瞬間、龍永の物語は新しい章に入った。


 ワールドカップ優勝は、ただのスポーツの結果ではない。家族の時間を取り戻すための戦いの終着点であり、そして新しい始まりだった。


3部作の完結となります。

この話で「アメイジング・グレイス」をサポーターが合唱しますが、この曲はジェフ千葉が入場する際のチャントを採用させてもらいました。

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