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第24話 降臨!ニホンオオカミJr!

 アルゼンチンはここで交代カードを3枚切る。ゲバラ、ラウタ-ノ、アルバレシオスを投入し、攻撃陣を厚くしてきた。両ウィングのコレアス、ゴミス、そしてディフェンダーのロメオを下げる。アルゼンチンもスクランブル体制になった。


 そして今度はアルゼンチンが猛攻を仕掛ける。だが、日本ゴール前の「真田丸」は頑丈である。キーパー佐藤のファインセーブ、集中したディフェンダー陣。鳥海が、池田が、立石がブロック。今度はキーパー佐藤が直接大砲のように繰り出されるカウンターを放ち、前線で蜘蛛の糸のようなパス回し、三浦が、工藤が、影山が、五十嵐が、中西がスピードもテンポも良く回す。そしてもはや巨大な青い重戦車のように一体化された真田丸にアルゼンチンは押し戻される。時間は刻々と経過していた。


 そして、後半40分、奇跡は生まれた。アルゼンチンは前掛かりになっていた。この猛攻をキーパー佐藤がファインセーブ。日本ゴール前で池田がフィールド中央の影山に渡し、影山が首を振りセンターサークル内から即座にダイレクトキラーパス。マーカーが2人、デパールとマクアリストがつきながらも前に張っていた龍永に1本のパスが通る。相手陣内中央でパスを貰い、両腕で相手を押さえながら脱兎のごとくドリブルする。左には三浦がフォローに走る。相手ペナルティエリア左手前で大きくストライドしシュート体勢に入る。左右から、デバールとマクアリストが挟み込み、更に後ろから伝説の10番メッツが龍永のユニフォームを引っ張る。デパールとマクアリスト、左右の2人がタックルした瞬間、龍永は長い右足を大きなストライドで前へ踏み込み、3人のディフェンダーをものともせずに強烈な超低空無回転シュートを放つ。


「斬!!!!!」


「ガッ!ビュン!」


「ズバン!ガゴッ!・・・」


「バサッ!トーン。・・・」


まるで、巨大な日本刀で空間を斬られるような残像を持ったこのシュートは、ボックス内で足を出したパルデスの爪先を吹き飛ばし、ダイブしたキーパー、マルチネリの両腕をぶち破り、ボールはアルゼンチンゴール左隅に勢いよく突き刺さった。沈黙するスタジアム。龍永が少年時代、アフリカの地で父の手元から転々と転がるようにネットから静かに落ちるボール、龍永の足元に転がる3人、アルゼンチンゴール前でうずくまる2人、メッツは龍永に尋ねる。


「・・・お前、いったい何者なんだ?」


龍永は3人の選手にドスを利かせた声で睨み、静かに言い放つ。


「・・・俺は、ニホンオオカミJrだ!」


そして、日本サポーターの待つ場所へ走り去る。彼らの前で、今度は怒鳴るように大声で絶叫する。


「俺は!ニホンオオカミJrだ!」


龍永の背中が破かれたユニフォームの下には何やら黒いシャツらしきものが顔を出す。龍永と同じ背番号「21」。日本サポーターや、ピッチサイドにいたメディア、カメラマン、そして顛末を知らされずにいた日本代表のチームメイト、コーチ陣、スタッフの誰もがどよめいた。


「えっ?」

「何っ?」

「まさか?」

「マジで?」

「嘘だろ?」

[本当なのか?」

「名字違うぞ?」

「お前、ガミさんの息子だったのか?」

「何で隠してたんだ?」

「夢でも見ているのか?」

「何て運命なんだ?」

「奇跡だ!」


誰も知らなかった真実が、今、世界の前で明かされた。龍永のユニフォームは、アルゼンチンの絶対的10番メッツに破かれていたユニフォーム、その下から黒いユニフォーム「21番」が見え隠れしていた。父、大神敬助が最後に着ていた、あの血のユニフォーム。世界は悟った。


「ニホンオオカミの息子が、父の魂を背負って戦っている」

 

 その頃、アルゼンチンサイドがレフェリーに詰め寄った。


「あいつのファールだ!」


レフェリーはVARの判定。その間、アルゼンチンのバルデスとキーパーのマルチネリも治療の為ピッチから出される。


 しばらくして判定が出た。アルゼンチンのマクアリスト、デパールにイエローカード、デパールは、前半にもイエローを出されているため続けてレッドカードを提示され退場。そして、ユニフォームを引っ張ったメッツは一発レッドカードで退場。世界中が


「フットボールの王様を忍者が力尽くで玉座から引きずり下ろした!」


と騒ぎ出す。更に、パルデスは出場不能。アルゼンチンは交代枠をさっき全て使った為、残り時間8人でプレーすることになる。キーパーのマルチネリも負傷したが、無理をして出場。両手が腫れ上がっているのは誰が見ても明らかだった。アルゼンチンの選手達が猛抗議する。すると、エース工藤がアルゼンチン陣営にドスの利いたスペイン語で睨めつけながらいい放つ。


「おい、オメーら、武士の情けだ。介錯して止め刺してやる。さっさとボール置け。こっちは鞘から刀抜いてオメーらぶった斬りてーんだよ。俺達のニホンオオカミが腹すかせて待ってんだろ。覚悟しろテメーら!」


 龍永が向かった先は日本サポーターの前。そして、胸を張り、腹の底から叫んだ。世界は悟った。


「これは日本の物語だ・・・」


そして、龍永の叫びは、父の魂を継ぐ者としての宣言だった。シュートはパルデスの爪先に僅かに当たっていたが、公式に龍永のゴールとなった。スコアは3-0。相手は8人。日本ベンチは交代を用意した。ディフェンダー立石とボランチ影山を下げ、トップ下とフォワードをチェンジ。保坂監督は


「龍永は下げない!おい!ニホンオオカミJr!得点王決めてこい!」


と指示を出した。影山を下げて杉山、そして、ディフェンダーの立石に代わり、初戦で怪我をしたエース、内田が奇跡の復活。龍永と2トップを組む。退場したメッツは、ワールドカップが置かれた場所を切なそうに横切る。先程のVAR判定と治療でロスタイムはなんと12分。まだ12分あるのか?もう12分しかないのか?アルゼンチン陣営は大パニック。その12分をたった8人で戦わなくてはならない。龍永は、


「まだ12分ある!完膚なきまで叩きのめすぞ!」


と檄を飛ばす。直後に、ジェッツサポーター数人が、敬助のチャント「GWD」を歌い出す。


「走れー!奪えー!決めろー!龍永!走れ-!奪えー!決めろー!龍永!」

(因みに敬助のチャントは「守れー!防げー!止めろー!敬助ー!」)


龍永のこのチャントが試合終了まで鳴り響いた。人数の少ないアルゼンチンは、日本の猛攻の前に防戦一方だった。そのままアルゼンチンゴール前から誰1人出ることは出来ずに、最後まで日本のシュートを浴び、受けることしか出来なかった。


 残り1分、日本左サイド三浦のシュート。ボールは相手ディフェンダーフォイツの脚に当たりクリアされるが、右サイドの五十嵐が奪い取りセンタリング。またもや2人に付かれた龍永がゴール前で打点の高いヘディングで内田に折り返す。そのヘディングパスを決勝で見事に復活した内田がヘディングでゴール。ダメ押しの4点目を決める。彼らはもう、前に出る力を失っていた。


 そしてタイムアップ。日本代表ワールドカップ初優勝!ワールドカップに挑み続けた日本代表が、70余年にも渡り戦い続けた歴史に大きなピリオドが打たれた。レッドカードを受け、ベンチにすら入れないアルゼンチンの10番メッツは、出入り口に立ったままゆっくりと後にした。その足取りは重く、その背中は切なかった。彼は、ワールドカップトロフィーが置かれた台の横を通り過ぎ、遠くで見つめていた。触れることも、見つめることもできない。ただ、届かなかった夢を横切るだけ。その姿は、世界中のサッカーファンの胸に深く刻まれた。


4-0。日本ワールドカップ初優勝!主審の笛が鳴った瞬間、スタジアムが揺れた。実況が吠える。


「日本代表!ワールドカップ初優勝!」


70余年。長かった。苦しかった。何度も夢は砕かれた。


「ドーハの悲劇」

「ジョホールバルの歓喜」

「初のワールドカップ全敗」

「地元でのワールドカップ」

「黄金世代の惨敗」

「アフリカ大陸での守護神の死」

「何も出来なかったブラジルでの敗退」

「ロストフの14秒」

「クロアチア戦のPK敗退」

「何度も何度も届かなかった世界の壁」


その全てに今日、終止符が打たれた。70余年挑み続けた歴史に、ついに大きなピリオドが打たれた。全てがが重なり、日本は世界の頂点に立った。まずはアルゼンチン陣営が最後の3点目を振り返り、


「日本刀で切り裂かれた感じ。」


とコメントした。龍永が放ったシュートは低い弾道だったが、アルゼンチンサイドから観たら、


「一筋の日本刀が空間を切り裂いた残像に見えた」


という試合後、アルゼンチンの選手達は3点目のシーンについて口々に語った。その言葉は、敗者の悔しさではなく、圧倒的な何かを目撃した者の敬意に満ちていた。あるディフェンダーはこう言った。


「低い弾道のシュートだったはずなのに、俺たちの目には空間を切り裂く一筋の風に見えた。」


別の選手はこう続けた。


「日本刀で斬られたような感覚だった。ボールが通った瞬間、そこだけ空気が割れたように感じた。」


ゴールキーパー、マルチネリは指を痛めながらも、その瞬間をこう語った。


「あれはシュートじゃない。斬撃だ。触れたら指が斬られると思った。」


彼らは誰も、「無回転シュート」とか「強烈なボレー」とか、技術的な言葉を使わなかった。彼らが見たのは技術を超えた何か。アルゼンチンがそう語ったことで、世界は理解した。龍永のゴールは、ただの3点目ではない。日本が70余年かけて積み上げた歴史の結晶。そしてニホンオオカミの血が放った必殺の一撃。


 そして試合終了のホイッスルの後、日本ベンチが駆け回った。そして龍永は、ユニフォームを一枚脱いだ。下には黒いユニフォーム、背番号21、番号の上には「OOKAMI」の文字があった。16年前にワールドカップで命を落とした伝説のキーパー「大神敬助」のユニフォームだ。スタンドで観戦していた母はこの時自室に閉まっていたユニフォームがないことを理解した。息子が持って行ったのだと。

 

 スタジアムがどよめいた。世界中のメディア、カメラマン、日本サポーター、日本代表のコーチ陣、そして世界中の視聴者。誰もが息を呑んだ。それは16年前、ワールドカップのピッチで命を落とした伝説のキーパー・大神敬助のユニフォーム だった。そこにいた全ての日本人が騒然とした。


「・・・・龍永、何でお前がそのユニフォームを持っているんだ?」


龍永ははっきり答える。


「さっきのゴールで言ったじゃないですか。俺はニホンオオカミJrだってね。」


龍永はゴールを決めても喜ぶことはなく、いつもブツブツ「あと3点」と呟いていた。そこでコーチに入っていた羽生、前沢両コーチが思い出した。


「あ!あれってガミさんの口癖だ!」


アクロポリス五輪世代、オーバーエイジで入った大神敬助の言葉。


「3点取る」


という遺伝子が龍永にこっそり宿り、この日本代表を優勝に導いてくれたのだと。羽生と前沢は号泣しながら龍永に抱きつく。


「お前のおかげで優勝出来た・・・大神龍永、いや、今は出浦龍永!お前がこれから日本のエースストライカーだ!ずっとずっと日本代表が待ち望んでいたエースストライカーがやっとこの日本代表が持ったんだ!ありがとう、ありがとうな、龍永!」


龍永はようやく喜びを爆発させ、大声で答える。


「俺はガキの頃、サッカー始めた頃からワールドカップで優勝する事しか考えてなかったっすよ。ぶっちゃけそれ以外何も考えてなかったっす。それに、大会中に先輩やコーチが俺を鍛えてくれたじゃないっすか?皆で喜びましょうよ!」


龍永は21歳の可愛い若造に戻っていた。


日本代表 ワールドカップ初優勝。

そして日本のエースストライカー出浦龍永 ワールドカップ得点王

17得点は歴代最多及び、通算ゴール数も更新した。

更に、大会8試合中4試合ハットトリックは前代未聞の記録となった。


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