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第23話 バトル・オブ・プリズン

「ワールドカップが俺達日本の目の前にある。」 


そんな時、日本の巻コーチが龍永に尋ねる。


「龍永、お前って真田幸村の子孫なのか?」


「てゆーか真田の家来の子孫だったと・・・素破っていう忍者だって爺ちゃんから聞いてました。」


保坂監督が話す。


「もう1回やってみるか?真田丸。」


「どういうことですか?」


「守備では全員でブロック作って守る。攻撃はそのブロックごとゴール前に押し寄せる。アルゼンチンのゴールまで到達したら、そこから先、アルゼンチンをゴール前に閉じ込めるんだ。絶対にアルゼンチンゴール前からボールを出すな。シュートを撃って撃って撃ちまくるんだ。クリアボールもフランス戦の龍永や武藤のように身体でブロックしてアルゼンチンゴール前に押し戻して、こぼれ球も撃ちまくるんだ。ゴール決まるまで相手をゴール前で缶詰にするくらいにな。」


ベテラン、秋葉が鼓舞する。


「シュートは鉄砲、ミドルは大砲、ヘディングシュートは弓矢や投石、そして1人1人が爆弾だと思ってやろう。」


 保坂監督がフランス戦を見て新たに再構築した真田丸。とんでもない話だが、チーム全員が何故かわくわくしていた。ディフェンディングチャンピオン相手にそれをやろうというのだ。これまでやってきたことをもっと大胆にやろうとしていた。もう決勝まで来たんだ。それくらいの奇策がなければと、次々とその話に乗った。細かな戦術の話し合いが持たれた。選手やコーチ陣。誰もが意見を出し、役割を確認し合った。日本代表はもう弱いチームではない。あれが出来ない、これが出来ない、世界に追いついてない。そんな言い訳をする人間はこの中に誰1人としていない。この大会で日本は、そして龍永は大きく成長していた。


「勝つために、もう一段階上げる。」


そんな空気が自然と生まれていた。。まずフォーメーションを3-4-2-1に戻そうと決まった。後ろに1人はやはり厳しい。だが、3バックとのポジションチェンジは継続しよう。上がった3バックはそのままアンカーとセンターハーフの役割に、下がったボランチ2人を追い越す形に。攻撃は通用していた。シュートをガンガン撃っていこう。球際で負けない、こぼれ球は絶対譲らない、ゴール前では迷わずゴールを狙っていこう。不格好な形でいい。ゴールさえ決まれば。あとは覚悟の問題だ。つまらないミスだけはしないようにしよう。11人だけで勝たない。交代もベンチも総力を上げて闘うから思い切ってやろう。あと1試合で終わるんだ。全員全力を出していこう。個々では小物でも、団結力はこっちが上だっていうことを世界に知らしめようじゃないかと。選手、監督、コーチ陣、トレーナー、分析班、医療班、スタッフ、

そして日本サポーター。全員が勝つための覚悟を共有し、日本代表に関わる全ての者の意思が合致した。日本の攻撃は世界トップレベルに通用する。だからこそ、監督は言った。


「シュートをガンガン撃っていこう。」


「不格好でいい。ゴールさえ決まればいい。」


美しさはいらない。勝つための攻撃をするだけだ。アルゼンチンはフィジカルが強い。ラフプレーも多い。だからこそ、球際の勝負がすべてを決める。これは技術の勝負ではない。闘志の勝負だ。そして最後に、誰が言うでもなく、自然と全員の心が同じ方向を向いた。


 決勝戦前のロッカールーム。普通なら緊張や不安が漂うはずだ。だが、この日の日本代表は違った。手が震える者はいない、目が泳ぐ者もいない、声が小さくなる者もいない。そして、全員が同じ方向を向いていた。


「個々では小物でも、団結力は世界一だ。それを証明するだけだ。」


その瞬間、日本代表はひとつの生命体になった。決勝戦のスタメンが発表された。龍永はスタメンで抜擢。試合前、選手達はうずうずしていた。不安や緊張ではなく、


「早くボールを蹴らせろ。」

「早く戦わせろ。」

「早く走らせろ。」


という闘争本能が全員に芽生えていた。名前が読み上げられた瞬間、ロッカールームの空気が一変した。


「出浦龍永」


その一言で、選手たちの背筋がピンと伸びた。龍永は静かに頷いた。だがその鋭い眼光は、すでに戦場を見据えていた。龍永は石森コーチと横山監督が買ってくれたスパイクの紐を結びながら、心の奥で静かに呟いた。


「あと1試合。 3点取ってここで終わらせる。」


 遂に決勝の舞台に日本が立った。いつも以上に染み渡る「君が代」だが、全員が試合に集中していた。キックオフのホイッスルが鳴る前、龍永はアルゼンチンイレブンを睨みつけ、呟く。


「テメーら全員俺達がぶっ潰す!」


全ての舞台は整った。アメリカの晴れ渡る空の下、決勝のホイッスルが吹かれた序盤からアルゼンチンの強烈な当たりが展開される。日本は防戦一方だった。しかし、日本ゴール前には強力な「真田丸」という砦が待ち構えていた。まるで戦国時代の城郭のように、一歩進むごとに新しい壁が現れる。これが「真田丸」。日本は 3-4-2-1 の砦 を完全に発動させた。守備時には本来の3バックと2ボランチ、両ウィングが下がって対処した。時折そのゴール前の砦から放たれる速攻という名の大砲を合図にアルゼンチンは振り回された。アルゼンチンはファールでしか止められない。止めればその位置から「真田丸」は前進を続ける。日本は休む間もなく徐々に前に出た。


 日本は削られ、怪我人が続出。前半12分にディフェンダーの阪倉、20分に右サイドの越後、22分にトップ下の水野が交代を余儀なくされる。アルゼンチンのデパール、モンテール、ロメオにイエローカードが出される。まるで


「技術より先に心を折る」


ことを狙っているような当たり。前半で3人も交代させられるというラフな戦い。代わりにディフェンダーの鳥海、左右両サイドに五十嵐、中西が入る。 


 そして前半33分、アルゼンチンゴール前での「真田丸」が発動。日本のシュートの嵐がアルゼンチンゴール前を襲いかかった。右から左から、上から下からシュートの嵐。大きくクリアすることなど出来ず、ただただブロックし、相手キーパー、マルチネリは振り回され続けた。視界も奪われ、どこから撃たれるのか分からない。まさに砲撃戦。アルゼンチンゴール前はまるで、水色と白のストライプの監獄に完全に閉じ込められた形相だ。


 そして前半39分、左サイドの三浦から右ボックス外に待ち構えていた龍永がボールを受けると、目の前にいたアルゼンチンのディフェンダー2人がブロックする右サイドへ大きく右脚を伸ばし、ボールを右足裏で大きく後方へ引き、左脚を軸に鋭く回転する。反転した瞬間にゴール右隅にシュート。敵味方誰一人動けず日本が先制した。ボールは一直線にアルゼンチンゴールへ吸い込まれた。ピッチサイドにいたカメラマンが思わず


「出浦手裏剣だ・・・!」


と龍永の鋭く大きなターンに名付けてしまう程切れ味のある反転だった。



 日本先制。スタジアムが揺れた。その瞬間、母と姉はスタンドで涙を流した。龍永は知らない。だが、彼の一撃は確かに家族の物語を前へ進めた。そして、日本代表の魂が燃え上がった。


 前半終了。交代はなし。上手くいってるので今後の戦況を観てから代えるという事。前半は相手のファールが多いから、これから怪我人が出ることを考慮しての判断だった。また、相手の左右の揺さぶりは効いているから継続していこう。守備は集中を切らさずにくれぐれもミスのないように。と確認された。アルゼンチンの荒々しい当たり、フィジカルの圧力、10番メッツの存在感。それらすべてを受け止めながら、日本は真田丸で耐え、そして龍永の一撃で先制した。だが、まだ何も終わっていない。監督は迷わなかった。アルゼンチンは対応しきれていない。だからこそ、真田丸は前進し続けるべきだ。怪我で負傷交代した阪倉が活を入れる。


「守備は集中を切らすな。 ミスだけは絶対にするな。」


アルゼンチンは一瞬の隙を突く。一つのミスが命取りになる。選手たちは頷いた。


「まだ走れる」

「まだ戦える」

「まだ倒れない」

「まだ終わらせない」

「あと45分で世界の頂点だ。」

「全員で勝ち切る。」


その空気は、まるで戦国時代の軍議のように張り詰めていた。


 後半は日本ボールから。アルゼンチンは交代カードを2枚代えてきた。中盤2人を代えてきたアルゼンチン。アクーナ、パラシオンに代えてマクアリスト、モレイラを投入。だが、日本は一気に畳みかけに行った。前半次々とファールを貰い、両ウィング、トップ下を怪我で交代せざるを得なかった。だが、「真田丸」の前進は続いた。アルゼンチンゴール前に敵を釘付けにした。


 アルゼンチンディフェンダーは必死にブロックし続けた後半17分、トップ下で唯一生き残っていた日本のエース工藤が突如トラップ、相手ゴール前を右から左へドリブルを開始。それと同時に龍永は逆方向に消えるようにスライドし、移動していた。工藤がドリブルから強烈なシュート。しかし相手ゴールキーパー、マルチネリがファインセーブ。アルゼンチンディフェンダー、モンテールが大きくクリアするボールに龍永がカウンターシュートで弾き返し豪快にゴール。その際、別の相手ディフェンダー、フォイツは龍永を抱えて押さえようとしたがするりと抜けられたと試合後にコメントした。「空蝉の術」であろうか?龍永のスーパーゴールが炸裂。


「相手のクリアボールをシュートで打ち返す奴なんて今までいたか?」


スタンドがどよめき出す。龍永の動きは、ただのフィジカルでは説明できない。体幹、バランス、重心移動、パワー、スピード、圧倒的な反射神経とゴールへの嗅覚、そして執念。それらすべてが融合した瞬間だった。日本、2-0。だが、龍永はいつものように呟く。


「あと3点」


と。もはや忍者が相手を葬る念仏のように不気味な言葉をアルゼンチンイレブンに唱える。


この試合のみ3部作となります。

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