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第22話 決戦!武士VS騎士

 あれから多くのディスカッションを行い、フランス戦へ入った。フォーメーションは3-4-2-1だが、ミーティング通り、1-3-3-3になる。キャプテンのボランチ武藤1人がリベロに入り、3バックの立石、阪倉、池田が前へ、もう一人のボランチ影山がアンカー、トップ下の工藤と水野が中盤へ絞りセンターハーフの位置、普段ウィングバックの越後、三浦の2人がより前のウィングにポジションチェンジする。今日の1トップはなんとセンターバックの鳥海。長身と足下の技術を買われての起用。本来のフォワード内田はまだ怪我が癒えていない。全てが整った。


 国歌斉唱。今日の日本のユニフォームは今大会初の白。スタジアムが揺れる。フランスの10番リアル・マドレー所属のエムペバが鋭い視線を送る。日本の選手たちは静かに呼吸を整える。武藤は最初、ボランチで構える。龍永は前線で獲物を狙う狼の目をしていた。キーパー佐藤は前へ出る準備をし、越後と三浦はすでにウィングの位置に立っている。秋葉はベンチで腕を組み、フランスイレブンを睨みつけていた。


 そしてホイッスルが鳴った。日本の真田丸が、世界最強フランスへ向けて動き出した。序盤から日本が優勢。フランス陣内に見事に押し込んだ。得点王を争うフランスのエムペバまでも下がっていた。龍永はベンチスタート。秋葉と戦況を見つめていた。ミドルレンジや両サイドから弓矢や鉄砲のようなシュートが次々にフランスゴールを襲う。三浦のボウガンに越後のライフルが襲いかかる。フランスディフェンダーが大きく出そうとしても、先発で入った長身の3バック、立石、阪倉、池田がオーバーラップし、フランス陣内でことごとくブロックする。この試合はリレーのように選手交代を行う戦法を撮っているので、スタミナのない選手は特に激しく動き回っていた。そして前半20分、日本の先制ゴールが生まれる。日本は越後のミドルシュートがフランスのゴールバーを叩いた。そのボールを先発の鳥海が高く飛んだジャンピングヘッドでねじ込んだ。まさに真田丸の下からの槍の攻撃から、砦の上に立つ岩石が仕留めた様子だった。フランス陣内に押し込まれる白い波。まるで砦の外に出ようとする敵を、真田丸の兵が槍で押し返すように。龍永は静かに拳を握る。


「これが俺たちの真田丸だ!」


日本の攻撃は多彩だった。1-0。全てが噛み合った先制点だった。この先制点でフランスは完全に押し込まれ、スタジアムは日本の勢いに飲み込まれていた。


 更に日本の攻勢は続いた。前半32分、右サイド越後が馬を駆る武将のようなドリブルからシュートを急襲。相手ゴールキーパー、メニアンが弾く。中央に構えていた水野が左へ散らし、左の三浦がシュート。これも相手ディフェンダー、コンデがブロック。だが、ここからが真田丸の真骨頂だった。そのこぼれ球には実に7人の日本攻撃陣が詰めており、工藤が決めて追加点。2-0でハーフタイムを終える。その7人はまるで「七本槍」のようだったと、試合後のフランス代表は述べていた。2-0でリードした日本は、勢いを緩めるどころか、さらに加速した。日本の真田丸の前に完全に押し潰されていた。龍永は拳を握りしめる。


「このチームは・・・強い!」


隣で秋葉は、静かに頷きながら戦況を見つめていた。彼はまだ知らない。自分の隣に座る若者が、かつて自分の目の前で倒れた英雄の息子であることを。だが運命は、2人を同じピッチに立たせようとしている。だが、これで終わるはずがない。2-0は一番怖い点差だ。これまで幾度も日本代表が覆した形だ。


 後半フランス代表は交代カードを3人使った。後半開始直後、フランスボールでの再開。立ち上がりからフランス攻撃陣が火を吹く。フランスのパスが回り始めた瞬間、スタジアムの空気が変わった。シャンパンサッカーと呼ばれるパス回しから一度もボールに触れず、フランスのエムペバの完璧なコントロールショットで1点返された。


 更に5分後、2-1。日本が前がかりになった瞬間、フランスは迷わず縦に速いパスを入れた。日本攻撃陣が前にかかっていたところを素早いパス回しから交代出場のデュランにもう1点返される。2-2。ここで龍永と秋葉が投入。更にカバーリングと攻撃性を持ったボランチ影山を1列前に出し、トップ下水野と、本来センターバックの真中に交代。3人同時投入。まるで第二陣が戦場に駆け込むように。龍永はピッチに入る前、胸の奥で静かに呟いた。


「あと3点。 それだけだ。」


やり方は変わらない。秋葉は守備重視の立石に代わり、3バック右に入った。時にはサイドバックとして攻撃参加する意図だ。阪倉が中央へずれる。更にボランチには、これまで怪我で出られなかった普段はセンターバックをこなす真中がボランチとして満を持して出場。低身長の秋葉の高さを補うためだ。2-2に追いつかれた。フランスの勢いは凄まじい。だが、日本はブレなかった。


「やり方は変えない。」


監督のその一言で、選手たちの目が再び武士のそれに戻った。これにより、日本は 攻撃も守備も面で戦う真田丸 第2形態 に進化した。フランスの勢いを受け止め、そのまま跳ね返す準備が整った。すべてが揃った。ここから日本は、「あと3点」を奪いに行く。


 日本のキックオフで再開。直後に一気にラインが上がり、ショートパスでフランス陣内へ急襲。前半の戦いと同じく何度もフランスゴールを襲う。シュートはことごとく弾かれるも、交代で入ったボランチ起用の真中が見事に回収。更に日本は後半20分に再び2人交代カードをきる。左右のウィング中西と五十嵐を投入。


 そして後半24分遂にフランスゴールをこじ開ける。右サイドを突破した五十嵐が突破を図るが止められる。しかしすかさずオーバーラップした秋葉、カバーに入った真中、取られた五十嵐の3人で奪い返し、秋葉がそのままシュート。ボールはフランスゴールキーパー、メニアンが触り、逆サイドのポストに当たる。高く上がったボールをオーバーラップしたリベロを務める武藤がヘディングシュート。これも相手ディフェンダーシャリバンが身体を投げ出し、ヘッドでクリアするが、そこに待ち構えていた龍永がジャンピングヘッドでブロック。そのままゴールに吸い込まれる。その滞空時間はまるで忍者のムササビの術のような軽やかなジャンプヘッドだった。3-2。再び突き放す。この龍永のゴールにスタジアムが息を呑む。


 スタジアムが爆発する。だがフランスも黙っていない。パスサッカーにフィジカルをものにいわせた強引な突破。今度は真田丸を自陣に敷いた日本を襲う。後半40分、遂にフランスに同点弾を決められてしまう。左ペナルティエリア外からデンベロに渾身のシュートを放たれるが、日本のゴールキーパー佐藤がビッグセーブ。更に詰めていたフォワード、コロムアーニのシュートも見事にブロックし続けるが、阪倉がペナルティエリアで倒しPKを献上。イエローカードを貰う。これを決められ同点にされる。3-3。フランスがついに追いつく。エムペバがボールをセンターサークルに置く。龍永はセンターサークルで静かに息を整える。秋葉は歯を食いしばり、キャプテン武藤は拳を握り、真中は前を睨む。そして龍永は心の中で呟く。


「あと3点。 まだ終わっていない。」


 そしてロスタイムは8分。交代や今のPKで大分長く取られた。一進一退の攻防が続く。日本が奇襲をかけ、フランスがはね返す。


 そして残り1分、フランスのコーナーキック。ここで、かつて8年前のワールドカップで日本代表が味わった惨劇を、今度は相手こそ違えど日本が再現することになる。フランスのコーナーキック。キッカーはデンベロ。直接日本ゴール前に上がったクロスを日本キーパー佐藤がキャッチ。するとすかさずオーバースロー。ペナルティエリア外で受け取ったのはリベロを務めていた武藤。間髪入れずに縦パス。そこには龍永を含めた日本攻撃陣7人がとてつもない勢いでフランスゴールに襲いかかった。まるで七枚の投げられた手裏剣のごとく。フランスディフェンス陣は何とか3人程追いつき、その中の一人ウパムカネは龍永にボールと関係ないところに豪快にタックルに行ったが、龍永は微動だにせず走り続け、ウパムカネは吹っ飛ばされた。右サイド五十嵐からフランスゴール前までたどり着き、龍永にショートパス。相手ディフェンダー、シャリバンとパガールが2人追いついたが、龍永はがら空きの左サイドにノールックでヒールパス。詰めていた中西が決めてゴール。10秒後にホイッスルが鳴り、試合は決着。4-3という激闘。龍永はフランスの10番エムペバと並ぶ14得点タイの得点王を維持した


 リプレー映像が映し出される。フランスのコーナーキック。スタジアムが息を呑む。クロスが直接ゴール前へ。キーパー佐藤が完璧にキャッチ。次の瞬間、迷いなく オーバースロー。まるで伝説のキーパー、大神敬助の魂が乗り移ったかのような、鋭く、速く、正確なスローだった。ペナルティエリア外で受けた武藤は、間髪入れずに縦パス。その先には、龍永を含む日本攻撃陣7人。五十嵐、工藤、秋葉、影山、中西、三浦。まるで賤ヶ岳の七本槍が再び突撃するかのように、とてつもない勢いでフランスゴールへ襲いかかった。フランスディフェンダーは3人がかりで追いつく。そのうちの1人ウパムカネは、龍永に対して ボールと関係ない豪快なタックル を仕掛けた。だが、龍永は微動だにしなかった。逆にDFの方が吹っ飛ばされた。龍永はオランダで必死にフィジカルトレーニングをした結果が結び付いた。観客がどよめく。


「あいつ何者だ?あの巨漢ウパムカネを吹っ飛ばすとは・・・」


五十嵐が右サイド深くまで運び、龍永へショートパス。フランスディフェンダー、シャリバンとパガールの2人が挟みに来る。だが龍永は、一瞬で状況を読み切った。龍永は背後を見ずに、がら空きの左サイドへノールック ヒールパス。その動きはまるで忍者のように静かで、しかし鋭かった。交代で入った中西がそのボールを完璧に叩き込む。4-3。白い日の丸を掲げたスタジアムが爆発する。フランスはキックオフするが、攻撃を組み立てる時間はなかった。

 

 歴史的試合。試合後、フランスのキーパー、メニアンが震えるような声でコメントした。


「まるで自分の真後ろに置いてあるゴールという名の生肉を、日本の狼たちが一斉に奪いに来るような感覚だった。」


と。龍永に吹っ飛ばされたウパムカネは


「触れるようなら竜巻に当たったかのようだ。」


また、フランスの名将デサントも


「まるで神風だ。あちこちから零戦のような攻撃が次から次へと襲ってきた。日本刀や手裏剣、火縄銃のような攻撃が雨あられのように降ってきた。こちらも勇敢な重騎兵で応戦したが、それでも及ばなかった。」


とコメントした。名将がここまで言うのは異例だ。この試合はただのサッカーではなかった。まさに「武士VS騎士」の壮絶な撃ち合いだった。4-3。まさに激闘だった。これが騎士の底力かと、次にやってもこれくらいのバトルになるな。今大会1番のベストバウトにふさわしい試合だった。このフランスとの試合はまさに武士 VS 騎士。刀と槍と手裏剣が、盾と槍と馬にぶつかり合うような、壮絶な撃ち合いだった。そして勝ったのは、歴史を背負った日本だった。日本は勝ち抜けした。次の相手、つまり決勝戦は、これから行われるアルゼンチンVSスペインの勝者だ。


 試合後、選手達は疲弊していた。ロッカールームの掃除を済ませると、試合があったスタジアムからほど近い場所でもう1つの試合、アルゼンチンVSスペインを観戦した。クールダウンを終えた選手達は、その試合を見て分析した。また、今日行った「真田丸」の戦術には、まだ改善の余治があり、それは全員が感じていたが手応えもあった。そこでこの試合を観ながら突き詰めて、落とし込もうという事だ


 日本は勝ち抜けした。次の相手、つまり決勝戦は、これから行われるアルゼンチンVSスペインの勝者だ。アルゼンチン vs スペインの試合が始まろうとしていた。だが、ただ観戦するためではない。選手たちは椅子に座ると同時に、もう戦闘モードに戻っていた。全員が分析者になっていた。そ


 結果は2-1でアルゼンチンの勝利。アルゼンチンは4-3-3のフォーメーション。センターフォワードはバロンドールを何度も受賞した大ベテランの10番メッツだが、年齢的に衰えがあり、加えて高さがない。だが、カリスマ性で他の選手達が躍動している。そして、相手のキーパーはフランスほど脅威ではない。だが油断は禁物だ。アルゼンチンはフィジカルが強く、ラフプレーが多い。4年前の準々決勝アルゼンチンVSオランダ戦を思い出せば解るだろう。次の試合は確実にサッカーという「バトル」になるだろう。技術云々の問題ではない。もはや闘志の問題になるだろう。キャンプ地に戻り再び話し合った。一瞬の隙も許されない。今日行った真田丸は完璧ではなかった。選手たちはそれを痛いほど理解していた。だが同時に、手応えも確かにあった。


「この戦術は、もっと強くなる。」


「今日の真田丸は未完成だ。」


「決勝で完成させよう。」


そんな空気が自然と生まれていた。そして、今日の自分達の戦いを思い返しながら、真田丸をさらに進化させるための議論が始まった。疲れているはずなのに、誰も帰ろうとしない。フランス戦は終わった。だが、日本代表の戦いは終わっていない。むしろここからが本番。日本は決勝へ向かう。


 その頃、母、京香と姉、静香は元日本代表メンバーと共に機内にいた。出航前、母はタンスに閉まってあった亡き夫のワールドカップで着用していたユニフォームを探した。だが見つからない。もう一つ、五輪優勝時に着ていた背番号1のユニフォームは見つかった。それを手に取り思い出した。あの時の夫のうれしそうな顔、幼い娘に金メダルをかけて喜んでいた顔、その時腹の中にいた息子、そして何より、初めて夫にサインを貰った若き日の想い出がフラッシュバックされた。背番号1のユニフォームを持ち、娘に言った。


「行こう。父さんがあの舞台で待ってる気がする。」


と。2人は日本を発った。息子が闘っているワールドカップの舞台へ。現地に着いた頃、日本代表は準決勝で勝った知らせを受けた。残るは決勝。今までサッカーで息子の晴れ姿をまったく観ていなかった母は誓った。


「息子を全力で応援しよう。喉が枯れるまで。」


同行した日高や佐久間、奥寺らはそれを見て、ようやく自分達も前へ進めると胸を撫で下ろした。


「皆一緒にワールドカップに行こう。龍永とガミさんがピッチで待ってる。」と


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