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第17話 刀を抜いた浅葱色の浪士達

 新撰組。幕末の動乱期、浅葱色のダンダラ羽織を着用し、不逞浪士を成敗する壬生の狼。この試合はそんな壬生浪士が、ブラジルという優勝を掲げたカナリア色の志士達ををぶった斬っていくという展開になる。日本の青いユニフォームは、元は水色、浅葱色とも見て取れる。次の相手はブラジル。そして、決勝トーナメント一回戦という鬼門だ。そしてブラジルには今回が最後のワールドカップというエース、ネイダールがいる。この試合の日本代表は、まるで池田屋での死闘を制した新撰組のようだった。

 

 日本代表は攻守の司令塔、影山を怪我で失った。今後2試合は間に合わない。中盤の底からの司令塔が不在の中、代わりに前試合でキャプテンを務めた森崎が入る。彼もまた、予選で司令塔を担ってきたが、予選途中で怪我でリタイア、本大会に何とか間に合った男である。同じく怪我のディフェンダー、立石に代わり、龍永の先輩田中が起用される。


 皆で分析を進めた。ブラジルのディフェンダーはかなりスキがあった。特にハイプレスやキーパーとディフェンダー陣の連係は親善試合からあまり改善されていない。日本は一度ホームで勝っていた。互いにベストメンバーではなかったが。一方ブラジルは予選で苦戦し大改革を行っていた。初の外国人監督、アントロッティ率いるブラジル代表。サッカー王国である以上もう負けは許されない。実際にグループステージで痛恨の負けを喫しており後がない。いつも以上に厳しい戦いが始まろうとしている。練習は確認のように流れていった。強度と共にスピードが要求される。


 決勝トーナメント1回戦ブラジル戦。この試合から龍永は先発で起用され始めた。スタメンは2戦目、チュニジア戦から、負傷離脱した影山と立石に代わり、森崎と田中が入る。


「最前線の壁になれ!」


「最前線の司令塔になれ!」


「クレバーになれ!」


これまでの助言が効いていたのか、龍永は序盤からハイプレスをかける。ブラジルはロングパスでカウンターを仕掛ける。あのブラジルが日本にカウンターでしかチャンスを作れないでいる。日本の両サイドがブラジルのウィングに蹂躙されていく。前半16分そのカウンターからネイダールに先制されたが焦りはなかった。


 試合再開。再びハイプレスを仕掛けた。獣のような形相で、更に賢さも加えた龍永のハイプレス。徐々にブラジルのロングパスが乱れていくが、前半終了間際に相手ボランチ、カセミールが日本のロングフィードを途中でカット。ショートカウンターからボールが届き、左脚でシュート。しかし、日本ディフェンダーは粘る。すると、ブラジルは前掛かりになり攻めてきた。リサルリソンに左サイドを突破され、ネイダールに追加点を許す。あのブラジルのエースに決められた。2点差になったままハーフタイムを迎えた。いつも日本が仕掛けていた得意のパターンを、逆にブラジルにしてやられた。0-2。このビハインドを機に、日本の侍達が一斉に鞘から抜刀し始めた。

 


 ハーフタイム、ロッカールームは落ち着いていた。誰も声を荒げることなく、冷静に振り返った。ハイプレスは効いているが、つまらないミスを無くそう。そして後半は、より前で仕掛けよう。ブラジルは必ずボールをこぼす筈だ。高い位置で囲んで奪って速攻に切り替える。ベンチメンバーはいつでも準備するようにと一足早くピッチに戻り、アップを開始した。

 

 後半キックオフ直後、日本は落ち着いてショートパスでつなぐ。一旦ポゼッションをやり直す。とにかく繋ぎにつないで相手の隙をうかがった。だが、ディフェンダーのパスミスを狙われた。シュートは日本のキーパー佐藤のファインセーブで凌ぎ、ディフェンダー池田のロングフィードが右サイドへ展開。カウンターに右サイドの越後がドリブルでぐんぐん進む。龍永も相手ディフェンダーから逃げながら逆サイド方向へ横にスライドするように走りスペースを作る。右サイドに流れた工藤からクロスが入る。龍永は左サイドから猛ダッシュし、キーパーの間へ走り込む。その時、相手キーパーと一対一になったが、キーパーのブラインドになるよう身体を一瞬落とし、自らスルーして逆方向へシフト。ルーズになったボールに追いつき、左足インサイドキックで無人のゴールに突き刺しゴール。そのプレーは、1970年ににサッカーの王様ぺぺが行ったフェイントとまったく同じ行為。彼はノーゴールだったが、龍永は決めてみせた。後半8分。ワールドカップのベストゴールを龍永が決めた。しかし、まだ1点ビハインドだけなので喜んでいる場合ではない。

 

 ここで日本は交代3人同時に投入。いずれも攻撃的な選手、両サイドの五十嵐、中西、オーバーラップが持ち味のディフェンダー鳥海。この3人はベンチで話をしていた。龍永に付いている相手ディフェンダーを利用しようということだった。龍永はその話に乗り、マーカーをゴール前から引きずりだすようフリーランを敢行した。まるで水面を走る忍者のように。案の定相手ディフェンダーは龍永の動きに釣られた。しかも2,3人。ゴール前に大きなスペースが出来、真ん中がポッカリ空いた所をボランチ森崎がシュート。ブラジルディフェンダーマルキーニョの足をかすめゴールが決まった。後半27分ここでようやく同点に追いつく。

 

 その後も日本はショートパスをつなぐ。ボールはキーパー佐藤まで戻されたが、そこでスイッチが入った。ブラジルはディフェンスラインを上げており、スペースががら空きだった。後半33分池田のフィードから左サイドの中西が切り崩し、キーパーを引きずったところでマイナスにパスが来た。ディフェンダーが3人ブロックに来たが、龍永はその3人のディフェンダーからするりと抜けて、身体ごとゴールに飛び込み、ダイビングヘッドで3点目を決める。まるで、「空蝉の術」ような龍永のマーク外しにブラジルディフェンダー陣は驚く。キーパーは地を這うような蝮に化けた龍永に屈した。


 そしてブラジル陣営も攻撃的な選手を入れる。両サイドのバトルが一進一退の攻防を見せる。つまり、両方ともサイドを封じられてしまっている。そこでボランチ森崎が動いた。中央をショートパスでつなぐ。龍永もその中にいる。相手が奪いに行ったところで左サイドに流れた龍永にボールが来た。ドリブルで2人交わして中央へパス。このボールをトップ下工藤が右隅にシュートするもゴール右に弾かれた。だが、そのボールにゴール前に残っていた龍永が冷静に反応しトラップしてシュート。ゴールが決まり、4点目。ブラジルはオフサイドを申告するが聞き入れられず、試合は続行。実は龍永はこの時、ブラジルのディフェンダーの背後に隠れていた。フェレンフェンでファイアノールト戦で見せた「隠れ身の術」である。龍永得意の忍者殺法のオンパレード。龍永は今大会2度目のハットトリック。だが、依然として龍永に笑顔はない。


 そこからは完全に日本のペースだった。後半37分右サイドから交代で入った五十嵐が超加速ドリブルからのシュートを狙う。更に後半39分左サイド三浦からのドリブルからオーバーラップした池田が頭で合わせる。後半42分ディフェンダーのの武藤がミドルシュート。こぼれ球をここまで詰めていたボランチ武藤がシュートもバーに弾かれる。そのこぼれ球を工藤がトラップし、ディフェンダーの股を抜きシュート。ブラジル相手に怒濤の波状攻撃。日本の侍達が刃を鞘から抜刀し、次々に振り下ろす。


 そして後半ロスタイム、工藤がゴール前で相手キーパーを得意のダブルタッチで交わし5点目。ロスタイムは8分あったが、ブラジルの猛攻を耐える。鳥海が身体を投げ出し、阪倉がブロックする。佐藤がコーナーに逃げ、それを池田がヘディングでボックス外へ弾き返す。こぼれ球をビニシウソンがミドルを狙うも武藤がブロック。こぼれ球をギマラエスがシュート。森崎が顔面でブロック。更にそれを拾ったラフィーニョがスルーパス。ネイダールがゴール前に抜け出すが、キーパー佐藤が勇気ある飛び出しでキャッチ。


 ここで試合終了。王国ブラジルに勝った。終わってみれば圧勝だった。美声で歌うカナリアの喉笛を、11匹の狼が雄叫びを上げ刃を振り、掻き切って行ったというところか。11匹の壬生狼が、次々とブラジルに斬りかかるかのような怒濤の大逆転劇。サッカー王国ブラジルが、ワールドカップという維新を目指す侍の抜刀隊に崩れ落ちた。5-2。後半の怒濤の攻撃による大逆転勝利。龍永はオランダ戦に続くハットトリックを決めた。


試合終了と同時に龍永が吠える。


「まだだ!4年前に戻っただけだ!気を抜くな!あと4試合絶対勝つぞ!」


すると、武藤が小声で話す。


「おい、龍永。その台詞はキャプテンの俺に言わせろよ。」


そして、龍永の頭をくしゃっと掴んで


「次の試合、絶対勝つぞ。頼むぞ。日本のエース。」


あの厳しいキャプテンからエースと呼ばれた龍永。口元が一瞬ニコッと笑った。

ベスト16。4年前に並んだ。しかも次戦の相手は前回負けたクロアチアだった。


 一方、日本では相変わらず母は動かない。ワールドカップという自身のトラウマと葛藤していた。林や相澤、五輪のメンバーで何とか渡航許可の準備は進んでいる。JFAも動き、彼らにもボディガードとして緊急にチケットが配られ、後はアメリカへ発つだけなのだが・・・・


 オランダでは奥寺、遅れて新村、岩本が来訪し、ファン・ペルツ監督に龍永の想いを聞いて話し合っていた。ファン・ペルツ監督は話す。


「あいつの覚悟は本物だ。この大会できっと飛躍を遂げるだろう。だが、あいつは何か別の問題を背負い込んでいる気がしてならなかったのだが、当事者の自分の口からは何も言えずにいた。あいつが出浦を名乗る意味、獣のように相手に襲いかかる必死の形相、どんなに厳しく指導しても、あいつは根を上げず、文句の1つも言わない。それはワールドカップを獲りたいからなのか?世界一のストライカーになりたいからなのか?どうしても私には別の理由があるような気がしてならない。」


 16年前のワールドカップ、相手キーパーと交錯した当事者ファン・ペルツ監督。もちろん彼のせいで命を落とした訳ではないことを世界中が知っている。ファン・ペルツもまた、引退してから苦しんでいた。そのことは奥寺達も十分理解している。ファン・ペルツが龍永にしてあげられたことはこれまで全部やってきた。だが、戦いが続くほどに眼光を光らせ牙を剥き出しにしていく教え子と、日本で未だ16年前の悲しみから抜け出せない龍永の母。一体これから2人はどう進んで行くのだろうか?


4年前、PK戦の末に敗北を喫した因縁の相手、クロアチア戦が刻一刻と迫っ


ここから先の対戦相手は推測で書いています。

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