表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
17/32

第16話 野生への覚醒 オーロラが消えて行く・・・

 メキシコからアメリカに戻った日本代表。クールダウン後、龍永と数名の選手が保坂監督に呼ばれる。


「出浦、次の試合先発だ。準備しておけ。」 


グループリーグ第3戦、スウェーデン戦前日、保坂監督に告げられた。この試合は選手を休ませる為に、メンバーを大幅に入れ替えるという策だ。これまでも日本代表にあった戦法である。フォーメーションは変えず、選手だけを入れ替えるそうだ。ここで、途中出場の多かった五十嵐、中西、そして龍永の先発が決まった。他も7人初先発で起用するという思い切った作戦だ。


 龍永は特に気にしていなかった。先発で出るか、後半から出るかの違いだけ。自分は後半途中で代えられるだろうと思い、いつも通りのメンタルを保っていた。ここ2戦で怪我人は3人、ディフェンダーの立石、中盤の影山、フォワードの内田。未出場がキーパーを含めて6人、上記の3人以外の途中出場者は3人。恐らくフィールドプレーヤーは全員出るだろうと思って練習に臨んだ。


 試合前日、スウェーデン戦のメンバーが発表された。キーパーは代わらず佐藤、ディフェンダーは右から野々村、田中、池田、ダブルボランチに岡野、森崎、右に杉山、左に秋葉、トップ下に五十嵐、中西、そして、1トップに龍永。河崎時代の先輩、田中やベテラン、秋葉も名を連ねた。この試合でのキャプテンは森崎が務める。


 「相手はグループリーグをかけた大一番だ。必ず死に物狂いで攻撃して来るだろう。だが、それには絶対飲まれるな!逆に俺達が奴らの牙を折る覚悟で行こう。日本はまだまだ他所に舐められてるからな。攻撃あるのみだぞ!」


と、ベテラン秋葉が締めた。


 その日の夜、龍永は負傷したボランチ、影山と、河崎組の立石、森崎、三浦と食事を摂っていた。その食事の席で影山が龍永に話す。


「お前まだ弱点多すぎるぞ。」


すると、森崎も続く。


「相変わらずお前のプレーは点と線でやってるよな。」


龍永はまだわかっていない。立石は、


「お前、まだまだ周りが見えてないんだよ。後ろから見てて解るよ。お前、前か横か近くの選手しか見えてないだろ?」


三浦からも


「オランダ戦のときもだよ。3点目の時、お前わざわざ説明しに来たろ?お前が周りを見てきちんとしたポジション取りしてれば、いちいち言わなくてもセンタリング上げれるんだよ。」


そして影山が


「もっと賢くやれ。クレバーになれ。点と線だけじゃダメだ。面でやれ。フィールド全体見渡せるようになれ。出来なきゃ決勝トーナメント進んでも勝てないぞ。」


そう言って一同席を立った。


 食卓に1人残った龍永。これまでの試合やオランダでの試合を振り返っていた。確かに自分は今まで勢い任せで何でもやってきた。はっきり言って今までのは個の力を高める為にやってきた事だ、そして、ファン・ペルツ監督の言葉がよぎった。


「最前線の司令塔になれ!」


味方を活かすポストプレーの他に何かを加えるのか?もっと下がればいいのか?声を出せばいいのか?走りを工夫するのか?いろいろ考える内に食卓で寝てしまっていた。悲観的に捉えてはいない。それがあればもっと出来る筈だと考えていた。


 朝が来た。当然ながら答えは出ていない。だが、まだ時間はある。龍永はその日の練習後、1人で部屋に閉じ籠もり、先のオランダ戦、チュニジア戦の試合を見直していた。そこのリプレーを観ながら初めて気付く。


「日本の流動性を自分が止めてしまっている。」


「自分のスペース作りに気を取られて、味方のスペースを消してしまっている。」


「自分はゴール欲しさにがむしゃらになってただけだ。それじゃダメだ。この日本の流れにきちんと絡まないと。」


「特に後方からのフィードに全く気付いていない。スルーパスやセンタリングには対応出来ていても、後ろからのロングパスや味方のミドルシュートに反応出来てない。オーバーラップするディフェンダーの邪魔までしている。」


すると、ディフェンダー担当の後藤コーチが通りかかる。何回も見直しているのを見かねた後藤は、龍永の話を聞く。


「・・・まあ、わかったよ。ところで龍永、君たち河崎出身の選手は皆、トラップや足下の技術に優れているな。何でそこまでこだわると思う?」


「・・・それは、より正確にプレーする為とか・・・?」


「それだけじゃないと思うなー。」


「ほら、この試合で三浦や立石がトラップした瞬間どこ向いてるか見てみなよ。」


龍永は初めて気付いた。顔を上げて周り全体を見ている。後藤は龍永に話す。


「次の試合に君と一緒に出る森崎なんかはそういうの一番上手いよ。練習しながら彼から盗むといいよ。」


そういえば、河崎ではベンチかスタンド観戦ばっかだったなあ。パスワークばっか観てて、肝心なとこ見逃してた。勿体なかったなあ。明日からやってみよう。と再び試合を別の視点で見直した。


 次の日の練習。龍永は自分の課題を整理し臨んだ。今まで初戦、2戦目に指導されたことに付け加え、1つ目は、トラップした瞬間顔を上げ、フィールド全体を瞬時に見渡し、敵味方全員の位置を把握すること。2つ目は、オフ・ザ・ボールの質を上げ、自分にも味方にも適切なスペースを作ること。3つ目は、ゴール前でのポジション取り、自分も味方もゴール出来る場所に構えること。これらをきちんとすれば、おのずとパスは回って誰からも、そして自分でも点を取れる。スウェーデン戦まで幾度も幾度もチャレンジした。先輩達からは誰も何も言ってこない。だが、彼らの目は龍永を見守っているかのようだった。


 練習終盤のミニゲーム、前を向いて走っていた龍永にキーパー佐藤からロングフィードが届いた。龍永はトラップした瞬間「あっ・・!」と思った。まるでフィールド全体に蜘蛛の巣が張り巡らされたかのような感覚。フィールド全体が見渡せる。その直後、ミニゲームは終わった。あとは試合当日に試すだけだ。当たって砕けろだ。と龍永は思い試合に臨む。


 スウェーデン戦。相手はこの試合の結果如何で通過が決まる。その眼光はまるでバイキングのようにかつてないほど執念に燃えていた。だが日本も負けていない。絶対勝って終わらせるという勝利の執着心があった。


「残り全部勝つ!」


そういう思いを全員が持って挑んだ。


 試合が始まった。龍永には厳しいマークが1人マンマークで付かれた。出会い頭、相手ディフェンダーリンデルフソンが龍永に激しいタックルを浴びせた。確かに痛いが怪我はしていない。そのディフェンダーに龍永は睨みつけ、真顔で言い放った。


「何だそりゃ?お前カルシウムちゃんと摂ってんのか?」


と相手を挑発した。相変わらずのマンマーク。練習通り動き回りポストプレーとオフ・ザ・ボールに専念した。右サイドの杉山とポジションチェンジ。ドリブルにも自信があったので一人交わして逆サイドの秋葉に振ると、再び中盤からリターンされたパスを一旦トラップしてからトップ下の五十嵐にクロス。ヘディングしたボールを中西が詰めてゴール。日本が先制した。


だが直後、相手のグレケス、アイザック、エランギの連係でゴールを決められ逆転されてしまう。


 後半は2人交代でスタート。両サイド、杉山と秋葉に代わり、越後と水野。龍永は代表に入ってから後半を迎えるのは初めてだ。相手はマーカーを一人増やしてきた。


(俺に2人?上等だよ。)


と意気込んでいた。何故なら周りには頼もしい仲間がいるからだ。フィールド全体を見てきちんと繋ごう。龍永は影山の言葉を思い出した。


「面でやれ。クレバーになれ。」


リンデルフソンとスターレフェルトにタックルされる前に両サイドに散らし、またはトップ下に落とした。


「フィールド全体がよく見える。」


2列目の越後や水野の強烈なシュートが相手ゴールに襲いかかる。すると次第にディフェンスラインの裏にスペースが出来はじめた。すかさずそれを利用し、トップ下、越後に落とした後、龍永は広大なスペースに走り込んでキーパーと一対一。ギリギリまで引きつけてマルセイユルーレットで交わす。ゴールに流し込んだ。後半10分勝ち越しに成功する。


 試合再開直後、相手のファールからディフェンダー野々村が怪我で交代した。そこでシステムが変更された。デュエルタイプのボランチ武藤が追加され、センターバックに入る。さらにトップ下とフォワードが少し低い位置に構え、0トップの布陣。相手のスペースをとことんつく作戦に出た。左サイドに三浦を投入、より攻撃的な布陣を揃えた。


 交代して10分後試合が動いた。後半21分、ボランチ2人とトップ下で奪ったボールを左サイドへ展開。龍永は逆サイドに走り相手ディフェンダーを釣った。三浦が左サイドでシュート体勢に入ったために、自分は相手ディフェンダーを動けないようにした。そのまま三浦のシュートは相手ゴール左隅に決まって3点目。


 その後、後半29分、コーナーキックからオーバーラップした田中がヘッドで4点目。残り10分のところで工藤と交代させられた。時間が経過していく度にオーロラが消えて行く・・・その後、交代で入った工藤がスペースを突いた動きでシュートも枠を外れ試合終了。4-1。日本の完勝。グループステージを堂々首位で通過した。


 試合後、龍永は手応えを感じていた。この試合、得点は1点だけだったが、今まで後ろから先輩達に必死に食らいついて行っていた自分が、ようやくチームメイトと横に並んでいるような感覚だった。森崎、三浦がそれぞれ龍永の肩に無言でポンと手を置く。龍永はようやくチームの一員として認められたと感じた。


 一方、他会場の結果が出た。次戦の相手はまさかのサッカー王国ブラジルだった

まだチームにようやく溶け込んだと感じていた龍永は、試合後のインタビューで無表情で1つだけコメントする。


「僕のご先祖様は、真田家に仕えた忍者だそうです。」


これからもっと強敵と当たる。笑顔など見せる余裕等ない。このコメントは、次戦ブラジル戦へ向けた、自身とブラジルへプレッシャーを与える意図で発した。


「お前らいつでも仕留めてみせる。」


という鋭い眼光と共に。


 今大会通算6ゴール。だが未だ笑顔を見せないストライカー。静かなヒットマン、笑わない男、日本の冷徹なスナイパー、任務を遂行する沈黙の忍者、メディアは龍永にこのようなネーミングを勝手に付けていた。龍永をよく知る者達は皆怒っていた。人の気も知らず、少年時代から彼がとてつもなく重たい物を背負ってプレーしていることも知らずに。その中で特にキレていたのは、オランダのファン・ペルツ監督。


「あいつが笑わないだと?冷徹だと?お前らにあいつの気持ちがわかってたまるか!勝手に俺の教え子を茶化すな!お前らのくだらない記事であいつを傷つけるのは絶対に俺が許さん!」


監督は涙を浮かべてメディアを怒鳴りつけた。


 そして日本でも、数名の人物が龍永の存在に気付き始める。元日本代表の日高、奥寺、新村、佐久間、川上。ジェッツでのチームメイト中山と相澤。ブラジルに帰国した高橋ケンペス等である。その中で動いたのは日高と中山。中山は、久しぶりにある人物と連絡を取る。元韓国代表ストライカー申である。中山は、


「あの日本のフォワード見覚えないか?」


申は


「さあ?」


と気付いていない。中山は


「ほら、敬助が俺達の名前に一文字くれって言ってたあの子覚えてないか?」


申はピンときた。


「え?もしかして?でも名字違うよな?」


「確かあいつの嫁さんの名字出浦だった気がする。」


「・・・そういうことか。何かあいつ相当追い詰めた顔してプレーしてると思ってたが・・・俺達に何かしてあげられること出来ないかな?」


そんなやりとりをしていた。


 一方日高は、龍永の実家の様子を見に行っていた。龍永の自宅前にメディアがごった返していた。家は不在で、メディアは彼の親族との接触を図ろうとしている。その時、龍永の姉、静香が家に入れないでいた。日高はそんな静香を見つけ、近くの喫茶店に誘った。そして静香は、龍永の想いを日高に吐露する。日高は決意し、日本に残っている旧代表選手や元チームメイトに連絡を取り、別の飲食店を借りて静香を連れて話し合った。その中には、市葉から横塚に移籍した中山の姿もある。中山の推理がここではっきりした。静香や夫の淀川も交えみんなで話し合い、決めた。


「龍永の母を引きずってでもアメリカに連れて行く。」


一同解散し、各々が動いた。ビザの発行、出国手続き、チケットはあるので旅費をそれぞれカンパした。間に合うのは恐らく早くて10日後。日本代表が決勝トーナメントの最中。だが、みんなが信じていた。


「日本代表は勝ち続ける。絶対に間に合わせる。」

 

 翌日、五輪時代のキャプテン林を中心に手続きに動いた。奥寺はオランダに飛び、ファン・ペルツと接触し、話し合う。高橋ケンペスは日本に戻り、メディアから龍永の家族を守る。そして中山は久しぶりに韓国から来日した申と会っていた。2人はその足で龍永の母、京香に会い説得が始まった。日高と竹原も合流した。静香や淀川も交えて連日説得したが応じない。そんな日々の中、日本代表は決勝トーナメントへ向かう


この話の終盤から龍永の家族と、敬助と共に戦った旧代表選手達の動向を並走して書いています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ