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第14話 恩師との約束

この話からワールドカップ本戦になります。

「これは俺とあんたとの因縁じゃねー。日本とオランダとの真剣勝負だ。俺達日本は必ず勝つ!そして俺は絶対世界一のストライカーになってやる!」


 日本代表に何とか選ばれ、日本を発った龍永が、恩師ファン・ペルツと交わした約束である。この約束を絶対に果たすと意気込み代表に合流した。今の龍永にはサッカーのこと、代表のこと、そして、8試合全部勝つことしか頭にない。龍永は練習で主にBチームのセンターフォワードとトップ下、左右サイドのウィングバックに入っていた。190cmの長身のわりに足が速く、フィジカルも強い。保坂監督は龍永を長身ウィングバックで起用することも考えていた。だが、下がった際のディフェンス面に課題があった。その際に周囲からは


「奪われたらとにかく囲め!」


「寄せが甘い!」


「縦斬られんな!間合いを保て!」


「タックルすんならやれ!中途半端で終わらすな!」


「奪ったら直ぐパスしろ!味方を見つけるのが遅い!」


と次々と要求されていく。


「こんなに課題があるんだ。」


と龍永は思い悩む。アメリカに着き、キャンプインした初日の事である。その日の夜、共に代表に選ばれた、河崎時代の先輩でもある田中に相談した。


「俺ってほんとに代表レベルなのかな?」


龍永は少しくじけていた。すると、田中はあっさり答える。


「お前、フェレンフェンじゃ前線で守備してたろ?あれでいいんだよ。ポジション変わったからってやることは変わらねーよ。特にあの強引に身体を入れるプレー。あれをやってほしいんじゃないのか?」


龍永は1つ道が開けたように感じた。そして、ディフェンダーの田中に今更ながらコツを教わった。


 翌日の練習が始まる。まずはセンターフォワード。これは出来る。次にトップ下。1列後ろだが、オランダでチームが引いてたときのプレーを想像する。出来た。

そして問題のウィングバック。中央ではないため視野が違う。ひとまずドリブルを仕掛けてみる。獲られたが倒れていない。そこで獲られた相手目がけて強引に身体を入れてみた。そして奪った。すると後藤コーチに


「それだ!それでいいんだ!もし届かなかったとしても、それが出来てれば周りが獲る。それが俺達のサッカーだ。もっと自分と周りを信じてプレーしろ!」


と指導を受けた。そして、このチームのエース、工藤から


「俺も最初はそうだったよ。攻撃ばっかやって守備をサボっていた。それを見透かされて前回ハーフタイムしか試合に出られなかった。でも、それに気付いてからようやくフルタイムで出られるようになった。お前は飲み込みが早いから、この大会で一皮剥けるんじゃねーか?頑張れよ。」


と声がかかる。龍永はその言葉がぐっと身に染みた。


 練習後、チームの大ベテラン、5大会連続出場の秋葉と話をしていた。


「終わったら一緒に飯食おう。俺のテーブルに来いよ。」


と。秋葉は初めてのワールドカップ後イタリアへ渡り、強豪インターミラナで活躍したサイドバック。龍永のような若手を補佐する役割を担っていた。秋葉は龍永に今回のワールドカップへの想いを話す。


「はっきりいって今回俺は試合に出られないだろう。精度も落ちてるしお前の方が上手い。だけどな、ワールドカップで優勝したいって気持ちは同じだ。いいか?ワールドカップっていうのは技術の高い選手を集めたり、どんなに緻密な戦術を持ってしてもそれだけじゃ勝てない。一番重要なのは、外部の人間からも見て取れる団結力なんだ。ワールドカップで優勝した国はほぼそれを大会前から持っている。それは俺達選手や監督、コーチだけじゃない。日本代表に関わる者全て、今も日本や海外で戦ってる選手やOB、スタッフやサポーター、俺達を育ててくれた人達、いや、俺達弱小国は、日本列島全てが一つにまとまったときにこそ優勝するものだと俺は思っている。その為に俺が呼ばれた。だからな龍永、先発だろうがベンチだろうが試合が始まったらピッチにいなくてもしっかり戦うんだぞ。お前はちゃんとオランダで成果を残してきたんだから。日本のために走れ、ベンチにいても戦況をしっかり見ていつでも出られるように頭を使いながら準備しとけ。このチームにエゴイストはいらない。ファミリーなんだからな。」


龍永は秋葉に尋ねた。それは今までの経験なのかと。すると、


「ある選手からの受け売りだ。もうこの世にはいないけどね。」


龍永は咄嗟に感じたが、「はい!」とだけ返した。まだ誰にも言っちゃいけない。俺の本当の正体を。確かにこのチームは家族みたいだ。よく兄弟喧嘩をするもすぐ仲直りしてしまう本当の家族だ。だから言えない。もし言うとするのなら、この大会で優勝したときだ。この時日本代表の選手や監督、コーチ陣やスタッフ、メディア、サポーターは龍永の本当の正体を誰も知らない。知っているのは、地元、河崎の一部の関係者、そして、ファン・ペルツ監督だけである。


 その夜、龍永は子供の頃を思っていた。毎日1人でジャブラニを蹴っていたあの日、友達が誘ってくれたこと、今履いているスパイクを石森コーチと横山監督が買ってくれた事、オランダでのファン・ペルツ監督の厳しい指導。そして、故郷にいるまだ自分のサッカーを観てくれない母。


 こうして、オランダ戦を迎えた。先発メンバーに龍永の名前は入っていないが、ベンチには入っている。ロッカールームでは最後の戦術確認を行い、監督や選手から檄が飛んだ。特にベテランの秋葉が力強く声を張り上げていた。誰よりも明るく。晴れた空に乾いた風、少し固めの芝、アメリカ南部のスタジアムで、試合開始のホイッスルが今、吹かれた。


 立ち上がりからオランダのトータルフットボールが炸裂する。前半開始から日本の両サイドを巧みに使われる。日本のフォーメーションは3-4-2-1.3バックとウィングバックの空いたスペースをことごとく狙われ、日本のウィングバックは守備に追われる。


 そして前半20分、日本の右サイドをオランダの左ウィング、デポイに深くえぐられる。ボックス内まで侵入されるが、日本の3バック、阪倉、立石、池田がゴール前を固める。ボランチの影山、キャプテンの武藤も戻っているが、逆サイドへアーリークロス、このボールを左サイドでフリーで待ち構えていたヨンクがダイレクトシュート。武藤の足先に当たるが、威力はそのままに、これをキーパー佐藤が何とか触るが、詰めていたガクポルに決められてしまう。


 1点ビハインドのまま前半終了間際、3バックの一角、池田がボックス内でファール。PKを与えてしまう。これをサイモンズに決められ、0-2でハーフタイムを終える。だが、龍永はこの時思っていた。「あと3点」。と。


 ロッカールームに戻り、修正が入る。ここで交代枠2人を使用。先ほどファールを犯した池田に代えて結城、トップ下水野に代えて左サイドの中西が起用された。トップ下には左サイドを務めていた三浦がずれる。後方からのビルドアップと前線への押し上げの速さを確認。そして、失点シーンの横への揺さぶりに、ボックス外側のケアと片サイド封じとしての結城の起用。右サイドのヘルプに左トップ下からずれた工藤が右トップ下からの守備に出された。


 後半が始まる。相変わらずサイド攻撃は厳しい。ベンチでは


「1点でも取れればひっくり返せる。」


と誰かがつぶやく。スコアが動かないまま迎えた後半20分、日本のカウンターがようやく訪れる。左サイド三浦のドリブル突破から中央で張っていた内田へマイナスのパス。これを大きく枠外に外すが、直後に内田がうずくまった。オランダのセンターバック、ファン・ダイケンに足首を削られていた。レフェリーは続行。日本は再びオランダの猛攻を受ける。内田は立ち上がれない。ここで、龍永が呼ばれた。


「準備しろ。内田と交代だ。」


1度水を飲み、気分を落ち着かせる。右サイド、五十嵐も交代準備にかかる。2人でコーチに説明を受けピッチに入る前、龍永は五十嵐に注文をしていた。


「出会い頭にパスを下さい。1点決めれます。」と。


 日本のキーパー佐藤が、内田を気遣いオランダの右サイドゴール近くのタッチラインに大きくクリアする。そして右サイド、越後に代わり五十嵐、怪我をした内田の代わり龍永が入った。放送席では


「出浦は代表初出場。今回の日本代表最年少です。果たしてその実力を発揮できるのでしょうか?」


と淡々と実況する。日本は、いや、世界はこの時誰も知らない。この青年の正体を、この若造の真の恐ろしさを。そして、それはこの後数秒でオランダは味わされる。


 右サイドボックス横から日本のスローイン。五十嵐から右ボックス付近を走る龍永にパスが渡ろうとしたその時、龍永には1人のセンターバックが付いていた。龍永はそのパスを受けず、相手ディフェンダーと並走していたその瞬間、龍永の大きく伸ばした右脚を軸に大きく身体を反転、そのボックス内に流れそうになったパスをそのまま左脚でシュート。ディフェンダーのブラインドになったキーパーは全く反応出来ず、ボールはゴール右隅に蹴り込まれた。1-2。この間なんと8秒。龍永はたった8秒で代表初ゴールを決め、チームメイトは喜ぶが、龍永はニコリともせずボールをセンターサークルに置く。その場にいた選手が龍永のつぶやきに気付く。


「あと3点。あと3点・・・・」


そう。まだ日本は負けている。喜んでいる暇はない。そのことを若干21歳のルーキーが一番良くわかっているとは。


 そしてオランダボールで試合再開。オランダは、ボランチに軽くバックパスを入れる。が、そこに現れた龍永がこのバックパスを鋭い勢いで長い脚でかっさらう。目の前にいたボランチ、ヨンクが付くが、龍永は鮮やかなクライフターンで交わし、左サイドを走る三浦へパス。虚を突かれたオランダディフェンダー陣は、この日本の必殺武器を止められず、中へ侵入を許す。中で待つ龍永にオランダの巨漢ディフェンダー、ファン・ダイケンが背後から付く。三浦はトップ下の中西へパスし、中西得意のミドルシュートが炸裂。しかし、オランダのキーパーが弾く。その時だった。ファンダイケンは明らかに龍永を背後から両腕で押さえていた。が、龍永は腰を大きく落とし、ファン・ダイケンの抱えるようなマークをスルッとすり抜けて、中西のシュートのこぼれ球をダイビングヘッド。後半23分日本は試合を振り出しに戻した。


「たった3分で同点?しかも相手フォワードは代表デビューのガキだぞ!」


オランダイレブンは動揺していた。彼らはほとんどオランダ国外でプレーしているから龍永のことは知らない。だが、オランダベンチは龍永を特に警戒していた。


「奴はウチのリーグで得点ランク2位だぞ!怪我させたのは1位の選手だ!お前ら舐めてんのか?そいつに2人付け!そいつはゴール前で消えるぞ!絶対目を離すな!」


それでも龍永は無言で喜びもせず、自らボールを拾いセンターサークルへ戻す。


「あと3点。あと3点。・・・」


とつぶやきながら。


 ここで日本は最後の交代カードを切る。センターバックの中央立石に代わり、より攻撃的な鳥海を出す。今季怪我だらけの鳥海にとっては満を持しての登場。阪倉が中央に入り、右サイドの攻守を鳥海を起点に、左サイドの攻守の起点をを結城に当てた。オランダベンチも動く。攻撃の選手、ベルダイン、ランゲージ、マーレムと3人同時に交代。


 後半も残り22分。双方勝負に出た。ここから両方の攻撃が単調になってくる。ロングボールが増えては互いのセンターバックに弾き返されるというのが続いた。龍永は工藤、三浦とハイプレスを仕掛けるも、簡単にいなされ大きく蹴られてしまっていた。これまで中盤で身体を張り、デュエルを制していたキャプテン、武藤がファールされ、うずくまる。彼は倒れて時間を稼いでいた。その間、龍永が攻撃陣と話す、


「俺、ゴール前から消えていいっすか?」


工藤、三浦、中西、五十嵐は、


「何それ?」


と疑問を呈す。龍永から、


「ボックス内は固められてる。裏をかいて外から狙いたい。その時シュートは必ずこぼれます。俺がオランダで散々経験しました。俺のシュートは絶対大きくこぼれるかブロックされる。そのこぼれ球を狙ってほしい。」


という意見である。そして五十嵐、三浦から


「やってみよう。俺とイガさんがクロスを送る。龍永が撃ったシュートに工藤と中西で止めを刺そう。」

 

 武藤が立ち上がり、プレー続行。日本ボールの味方陣内からのフリーキック。後半43分、日本はじっくりボールを回す。武藤から影山へ、影山から工藤へ、工藤から五十嵐へ、そしてまた工藤へ、影山へ下げ、中西経由で三浦がドリブル。武藤とワンツーで崩し、センタリング。工藤と中西が中で身体を張る。そのセンタリングは右ボックスエリア外の龍永へ送られる。龍永はそのセンタリングを左脚でボレーシュート。勢いのあるシュートにオランダのキーパーは一歩も動けずゴールに吸い込まれていった。オランダディフェンダーは言う。


「このシュート。うちの名ストライカー、ファン・バストンじゃねーか・・・」


何と、龍永は味方をも騙していた。このゴールで日本は逆転。そして龍永は、代表初試合、それもワールドカップ初戦でハットトリックを達成した。オランダボールで再開。武藤が倒れた分ロスタイムは長く取られたが、オランダの猛攻を耐え凌ぎタイムアップ。日本はまたしてもジャイアントキリング達成。強豪オランダを破り、今大会初勝利を挙げる。


 そして試合後のインタビューが行われた。だが、龍永は浮かない顔をしている。


「まだ1試合しか終わっていませんので。」


とニコリともしない。龍永の笑顔を見せるには、もっと先があることを理解していた。そして、


「今日のゴールは好き勝手やってただけです。先輩達、チームメイトに申し訳なかった。」


と反省の弁を述べ、去って行った。ロッカールームに戻ると、実際にそうだった。


「まさかあそこで俺らをダシに使うなんてな。でもハットトリック決めたんだから素直に喜べよ。お前ピッチにいるとほんと可愛くねーよな。」


一瞬笑いが起きるのも束の間、キャプテン、武藤が龍永に向かってくる。


「試合中のあのプレスはなんだ?練習でも散々言ってきたろ?もっと厳しくいけ!お前のプレスはまだまだ甘い!もっと仕掛けろ!」


「ほんと今日は先輩達に感謝するんだな!」


と雷が落とされた。秋葉がフォローするが、龍永は


「ほんとその通りです。皆さん、ご迷惑おかけしました。」


と頭を下げた。自分が一番良くわかっていた。だから笑えなかった。このチームはワールドカップで優勝するために集められた精鋭なのだから。そして、秋葉が練習後龍永に言った言葉が深く突き刺さっていたのだ。


「もっとやらないと!俺にはまだまだ覚悟が足りねー。フェレンフェンで決めたはずじゃねーか!」


いろいろと考えさせられた初戦だった。恩師、ファン・ペルツ監督との約束。オランダには勝ったが、まだ世界一のストライカーへの道はまだ遠い。次戦はメキシコでの試合。高地での戦いになる。


この第二章の主役である龍永のモデルは大きく3人存在しますが、他に10人程の外国人選手も組み合わせています。

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