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第13話 キラーの野望

「俺はキラーだ!目の前の獲物は全部喰ってやる!俺は骨まで食べ尽くす!それが武士の情けだ!文句のある奴はかかってこい!」


 龍永が2月のVSアジャックス戦後に口にした言葉である。


 日本代表監督、保坂は悩んでいた。ここに来てこの怪我人の多さは何だ?呪われてるのか?またワールドカップに潰されてしまうのか?


 保坂監督は前回大会、ジャイアントキリングを成し遂げた。ワールドカップが終わってからも勝ち星を重ね上げ、今では「監督キラー」「欧州キラー」と呼ばれ、強豪国や各国の名将を次々と粉砕していったのだ。そして、怪我人続出の日本代表メンバーに、遂にこの男に白羽の矢が立った。


「出浦 龍永」


彼と面識のない保坂監督は、前述の発言に懸念を抱いていた。


「彼はチームを乱す反乱分子ではないか?」 


と。このチームの一番の強みはチームワーク、団結力、互いをリスペクトし、高めあい、結束を固めてきた。

だが、JFA欧州支部や、オランダでプレーする選手達に尋ねると、


「全然そんなことないですよ。凄く礼儀正しくて良い奴です。」

 

「サッカーに対して貪欲なだけです。彼のスキャンダルなんて聞いたこともない。」


「本気で優勝狙うなら絶対に代表に呼ぶべきです。恐らくもうあんなストライカー出てきませんよ。」


「彼は若いだけです。一度代表に入れてから教育すればいいだけだと思いますよ。」


「まだ若いのに謙虚な男です。点を取るだけじゃない、献身性もあり、順応性も高いです。」


「こないだ一緒にご飯食べましたけど、めっちゃ性格良くて人懐っこいです。」


「あの発言はただのマイクパフォーマンスです。試合終わったら敵チームと普通に握手したり話したりしてる普通の若者です。自分の若いときと比べたら全然いい。」


 保坂監督は決断した。今度の英国遠征で招集してみよう。ただし、今回はラストチャンスだ。ダメなら次回のワールドカップに持ち越しにしよう。彼はまだ若い。


 所属先のフェレンフェンは、龍永の活躍で快進撃を続けていた。ファイアノールト相手に7-0。PFV相手に6-1。ついこないだ行われたアジャックス相手に6-0。アジャックス戦後、所属していた日本代表メンバーは、ファイアノールト組、ナイマーレン組と合流し、龍永のために食事会を開いたという。上記のコメントのほとんどが、彼らの発言だ。


 決戦の地、イギリス。1戦目をスコットランド、2戦目は、サッカーの聖地、ウェンブリーでイングランドと対戦する。試合1週間前に代表メンバーが発表された。

怪我でキャプテンの武藤、大ベテランの秋葉、エース工藤、切り札水野、最後尾の阪倉、鳥海、真中等、予選を戦った多くの選手が試合に出れない。そんななか、龍永が初選出。彼の得点力や前線からの守備、何より、今現在もっとも気持ちがこもっているプレーを買っての選出だった。


 初めての代表。まだ候補段階だが龍永は嬉しかった。


「絶対結果を残してやる!俺はワールドカップに行くんだ!」


と意気揚々としていた。アムステルダムの空港で待っていたのは、内田、小玉の両エース、センターバックで台頭している野々村、そして、龍永と同じく初選出の岡野、彼の兄は既に代表入りし、あのブラジルを破った立役者でもある。


「来たな!このやろー。待ってたぞ。でもお前にポジション渡す気はねーからな。」


と内田は話す。


「俺はお前をハナからライバルだと思ってるからな。容赦しねーぞ。」


と小玉は言う。


「ポジションはわかんねーけど、俺も初選出だ。これから長い付き合いになりそうだな。」


と岡野とも話した。


 そして、1人の女性サッカージャーナリストも随行する。彼女は沖田絵梨花。まだ若手の駆け出しだが、主に欧州5大リーグの北半分の担当を取材する日本のいくつものサッカー雑誌に記事を出す敏腕記者。彼女は日本人だが、日本で生活したのはほとんど無い帰国子女である。代表選手及び、龍永のいるオランダや、ベルギー、ドイツ、イングランドやスコットランドで戦う選手達とは顔見知りである。彼女は最近台頭してきた龍永に興味があった。普段は真面目で礼儀正しく、ぶっきらぼうだが、ピッチに入ると性格が豹変し、飢えた獣のように変貌してしまう彼の二面性な性格が気になってしょうがなかった。


 飛行機でスコットランドに到着。U20で共に戦った阿部も選出されていた。本大会を欠場した龍永は、


「すまなかった。」


と謝るが、阿部はもう代表モードに気持ちを切り替えていた。


「ワールドカップだぞ!俺達も狙える位置にいるんだよな。」


と興奮しながら話す。同ポジションの斎藤や椎原も同様だった。


「いつかこのメンツでワールドカップ出ような!」


 初めて監督、コーチ陣にこの4人で挨拶に行った。すると監督は、


「君達のプレーはきちんと確認したからな。ここに来た以上は全力でやってもらわないと困る。俺達の目標はただ1つ、ワールドカップ優勝だけだ。その為に今回君達を呼んだ。頼む。日本代表の為に力を貸してほしい。」


 自分が聞こうとしていた事を監督に言われてしまった。監督は始めから俺達を先輩達同様に見てくれている。思わず4人同時に「はい」と返してしまうくらい言葉が身に染みた。


 保坂監督。「ドーハの悲劇」を味わい、前回大会で「ドーハの歓喜」に変えてしまった日本が誇る名将。巻コーチ、日本初のワールドカップ出場時の「10番」イタリアリーグ経験者。後藤コーチ、同じくワールドカップ初出場時のメンバー。前沢コーチ、羽生コーチ、かつて父、敬助と共に五輪で金メダルを取ったメンバー。スタッフがこんなに充実している代表チームが今まであっただろうか?龍永はわくわくしていた。


 代表選手が続々と現地入りした。この中に、かつて河崎に所属していたドリブラー三浦と、ボランチ田嶋の姿を見た龍永。まだ中学生の頃、トップチームで大活躍していた選手と代表チームで再会出来たのが嬉しかった。一瞬童心に返るが、今は自分もオランダでやれる事はやってきた。龍永は真っ直ぐ三浦に近寄り、


「先輩、お久し振りです。」


と挨拶した。きっと覚えてないんだろうなと思ったが、


「お前、随分でかくなったなあ。」


と返される。


「身長はあの時と代わってませんよ?」


と話す。すると


「違う違う、背じゃない、身体だよ。相当鍛えたろ?」


と言われた。オランダに来て、ファン・ペルツ監督から散々しごかれた龍永は、「100kgのバーベルを背負っていると思え!」という指導から、フィジカルトレーナーと強度の高い筋力トレーニングを散々こなしていた。日本に居た頃とは遥かに比べ物にならないほどだ。三浦ほどの選手がそこまで見ててくれたのかと龍永は思った。先輩方全員に頭を下げ、挨拶する。保坂監督は


「礼儀正しいって言うのは本当だな。あとはプレーを確認するだけだ。」


と胸を撫で下ろした。


 練習が始まる。コーチ陣から細かい戦術を説明され、実行する。新人の龍永達には、基本から叩きこまれた。龍永は、


「へえ、オフ・ザ・ボールってこんな事も出来るんだ。すげーな。練習だけでめちゃめちゃ勉強になる。戦術理解ってこんなに大事なんだな。」


と熱心に励んだ。オランダでも代表でも、世界に出るということがどれほど大事なものか、もし日本に留まっていたら、ここまで広く考えられなかったろう。たった数日の練習で龍永は大きく成長しているのを実感した。保坂監督のサッカーを肌で感じて惚れ込んでしまったのだ。練習後もコーチや先輩達に自ら聞きに行き、話出しだら止まらなくなる程に。

 

 そして迎えたスコットランド戦。龍永はベンチに居た。完全アウェイの中、「君が代」が流れる。初めての日本代表。U20の時とは比べ物にならない興奮。前半は若手主体のメンバーだったが、龍永は入れなかった。スコアレスドローで迎えた後半は、主力選手が次々と投入されていく。後半39分に五十嵐がゴールすると、そのまま試合終了。結局龍永の出番はなかった。


「次こそ出てやる!」

 

 イングランド入りし、練習に気合いを入れていた矢先、龍永は左足首を捻挫してしまった。そのまま病院へ直行。全治3週間と診断された。今後の勉強になるからと、チームは帯同を要請し、龍永も承諾したが、悔しさを隠せなかった。


 イングランド戦、龍永は同じくベンチ外の岡野航とスタンド観戦していた。すると、2人の男が側へやってくる。怪我で代表から外れていたキャプテン武藤と水野である。「一緒に観よう。」と声をかけられた。試合が始まった。日本は防戦一方だったが前半23分、日本がカウンターを仕掛ける。ボールはセンターフォワード内田のポストプレーから、今日トップ下の三浦へ、そして左サイドの中西へパス、ドリブルで切り込んだ中西はゴール前の三浦にへ折り返し、シュート。これが決まり1-0とした。龍永は震えた。そして、悔しくてたまらなかった。それを横で見ていた武藤が


「悔しいか?」


と尋ねる。


「あ、いえ、その・・・」


龍永は隠した。このチームの輪を乱したくないばかりに。すると、靱帯を損傷して離脱中の水野が


「俺だって悔しいよ。でも諦めねー。だからお前も諦めんなよ。」


と励ましてくれた。武藤が、


「年齢的に俺達だって次が最後かもしれない。お前のようないい若手が伸びてきてるからな。それでも俺は諦めねーぞ。だから顔を上げろ!この試合を最後まできちんと観るんだ。お前は俺達より軽傷だからな。オランダに戻って結果を残してこい。3ヶ月後に待ってるからな。」


と激励してくれた。後半イングランドがパワープレーを敢行するが、日本の固い守備と粘りでスコアは動かず、そのまま日本の勝利となる。試合終了後、保坂監督から


「今回は残念だったけど、まだチャンスはある。しっかりリハビリして準備するんだ。あと3ヶ月あるから焦るなよ。」


と言葉を貰うと、三浦からも


「ワールドカップ本戦で待ってるからな。頑張れよ。」


と声をかけられた。


 オランダに戻ってリハビリ、その間チームは勝ち星を落とす。左足首の捻挫も順調に回復。


 そして3週間後、龍永はピッチに戻ってきた。そして得点を量産した。残り3節、龍永は3試合連続ハットトリックをお見舞いした。そのうち1つは何とダブルハットトリック。4点、6点、5点。飢えた獣のごとくピッチを駆け回った龍永。だが、龍永は納得していなかった。得点ランク2位にまで上り詰めたものの、あと1点で得点王の内田に届かなかった。


「くそ!あと1点足りなかった!」


「恐らく今回は入らないだろうな・・・」


と諦めかけていた。


 シーズン終了から1週間後、日本代表の最終メンバーが発表される。保坂監督は背番号順に読み上げる。龍永はオランダでフィジカルトレーニングをしながら聞いていた。


「無理だろうな・・・」


と思いつつ気になっていた。


1番GK佐藤パルム、2番DF杉山ブルーメン、3番DF立石セント・トライドン、4番DF阪倉アジャックス、5番DF秋葉(京浜)、6番MF武藤リバプレト、7番MF三浦ブライアン、8番FW水野マナコ、9番FW本田セルチェック、10番MF越後フレンクフルト、11番MF工藤ソシエド、12番GK大岩(広嶋)、13番MF中西ランツ、14番MF五十嵐ジェンク、15番MF影山クリストパロス、16番DF鳥海アジャックス、17番MF森崎スポルティボ、18番FW内田ファイアノールト、19番DF真中フォッフェンハイム、20番DF野々ファイアノールト、21番FW出浦フェレンフェン、22番DF田中ボルチア、23番GK西久保セント・トライドン、24番MF岡野海マインツェ、25番DF結城コペンハーデン、26番DF池田バイエリン。この26名です。


 え?と龍永は思った。監督は確かに


「21番出浦」


と言っていた。そして取材陣からもサプライズとしてどよめきが広がった。


「彼の活躍は拝見させていただいてますが、彼は先の英国遠征で怪我をして不出場では?チームにフィットしているのでしょうか?」


保坂監督は答える。


「実力は周知の通りです。連係も練習だけですが確認しています。その後の彼の結果もご存じでしょう?ウィンターブレーク期間中に移籍し、途中参戦にもかかわらず得点ランク2位、そして残りたった3試合で彼は15点も取っているんです。もちろん招集前も得点を量産し、チームのために尽くしてきた。私が遠征で知りたかったのは技術や戦術理解度よりもメンタリティです。周りに気を配り、練習でも全力を尽くし、短期間でも伸びようとする彼の可能性にかけてみました。そして、彼のファイティングスピリットはこのワールドカップで必ず必要になると思い、選出しました。」


 龍永は奮えていた。


「監督はきちんと俺を観ててくれたんだ・・・よし!監督の為にも日本のためにも、そして母さんのためにも絶対ワールドカップで優勝してやる!」


龍永は固く誓った。今大会はディフェンダーが多めに選ばれていた。怪我人が特に続出していたからだ。それでも貴重な攻撃陣に新人で未知数の龍永が選出されているのだから周囲は驚きだろう。


 その頃、仕事でオランダに滞在していた沖田が龍永を訪ねてきた。


「出浦君、選ばれたね。おめでとう。」


と言ったが、龍永には聞こえていない。既に気持ちがワールドカップモードに入っていた龍永には、外野の言葉は一切入らなかった。


「あ、どうも。」


と声をかけて練習グラウンドに走って戻っていった。


 翌日、フェレンフェンの選手やスタッフ、そしてファン・ペルツ監督が龍永を激励してくれた。初戦の相手はオランダだが、フェレンフェンからは1人も選出されず、龍永だけがワールドカップに行く。複雑な思いと裏腹に、フェレンフェン代表として龍永を応援したかったのだ。


「お前のおかげでこのチームは強くなれた。今度は俺達がお前を応援するよ。オランダ以外全部勝てよ!」


と激励される。そしてファン・ペルツ監督も


「お前に教えることは全部教えたつもりだ。ワールドカップでしっかり結果残してこい!」


と背中をバン!と叩かれ後押ししてくれた。彼らの闘魂注入をもらい、JFAのチャーター機で1度日本へ向かう。日本で壮行試合を行い、アメリカへ旅立っていった。


 久しぶりの日本。母さんはこのこと知っているかな?LINEが全く帰ってこない。姉や日本の仲間達からはいっぱい来たのにな・・・今年の2月、龍永の担当医師である淀川と結婚した姉にLINEを送ると、


「一応知ってるよ。いつもと同じみたい。」


と。やっぱり観に来てくれないのかとがっかりしていた。帰国直後、龍永の担当医である淀川と結婚し、新婚生活を送る姉夫婦と食事に出かけた。ここで姉に家族用のチケットを渡す。そこで、


「もし決勝トーナメントに進んだら、母さん連れて一緒に観に来て欲しい。こんなこと姉ちゃんにしか頼めないし、大会が始まったら家族とも連絡出来なくなるんだ。頼むよ。」


と姉に伝えた。すると、


「わかった。とにかくやってみる。それより龍永、代表で試合に出てないでしょ?頑張ってレギュラー獲りなさいよ。」


と励まされた。そして義兄になった淀川が龍永にマッサージを行う。


「君、相当鍛えたな。身体が一回り大きくなってる。特に背筋。随分酷使してきたな。ほら、ベッドに横になりなよ。怪我した左足首も一応診るから。大会までに疲労を取ってやるよ。」


淀川のマッサージを受けながら、龍永は話す。


「今更ながら、姉を幸せにしてあげて下さい・・・。」


束の間の休日が過ぎていった。


 迎えた壮行試合。龍永は再びベンチスタート。そして出番のないままタイムアップ。それでも龍永は諦めていない。


「絶対本番で出てやる!そして絶対得点して日本を勝たせるんだ!」


と言う想いを胸に、アメリカへ飛び立っていった。


選出メンバーは決定したメンツではなく、個人的なベストメンバーを選出しました。

これまで登場した登場人物の名前はジェフ千葉に新卒で加入した選手と、実在の選手を掛け合わせています。

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